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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
26/78

レオナルドの天才

 レオナルド魔導学院は、国内でも有数の名門であった。その実は、王国内で3校しか存在しない、魔導の称号を有する学校だ。


 レオナルド魔導学院の卒業生たちも、その多くが魔導師として活躍しており、「卒業さえできれば、あとの人生は出来レース」とまで言われるほどだ。記念受験も含めて、ここを受験する者は数多く存在する。その平均倍率は20倍とも30倍ともいわれている。いわば、エリートの中のエリート校である。


 そんなレオナルド魔導学院の寮棟。その共同スペースは、棟内において唯一男子と女子がともに過ごすことを許された場所であった。


 共同スペースには、長いソファーが壁に沿って置かれている。角には植木鉢が置かれて、またソファーが伸びている。前にはローテーブルが置かれ、大画面のテレビは最新のものが壁に取りつけられていた。冷えた空気が、天井の機械から流れでている。夏も終わりに近づいているというのに。いたって変わらない蒸し暑さも、ここでは無縁であった。


「ツバキ、つぎ相手が決まったぞ。予想がはずれた。毒使いが負けた!」


 男子生徒が大慌てで、入ってきた。彼の表情は、驚きが伝わってくる。


「毒使いじゃないの?」


 ソファーに座っていたツバキも、彼と同じように驚いた表情を見せた。軽くウェーブがかかった黒髪をひるがえし、「それは本当か」と入ってきた男子を見つめた。


 目がばっちりと合った男子生徒は、みるみるうちに頬を赤らめ、ついには目をそらしてしまう。ツバキはそれを“肯定“ととらえ、顎に手をおいた。


 ツバキの周りにいた友人たちに加えて、共同スペースでそれぞれの時間を過ごしていた生徒たちも「なにごとか」と一斉に集まってきた。


「今大会、もっとも警戒すべき男だと思っていたけど……その毒使いを倒したのはだれ?」


 学生の身でありながら毒魔法に精通する男。名前はコタロウといったか。毒魔法は、扱いが極めて難しかった。魔法に関する知識と魔力を練りあげる技術が他の魔法の比ではない。ましてや、開発も比較的進んでいないため、学生が操れる代物ではなかった。だからこそ、毒魔法の難しさを知っている人であれば、だれでもその奇妙さに気がつくというものだ。


「ダイスケっていう2年だ」


「ダイスケ……聞いたことないよねえ?」


 誰に対してでもない。その場に置くようにしてつぶやかれた言葉に、ツバキを含めその場の全員が顔を見合わせる。


「うん。ない」


 誰も聞いたことがなかった。ツバキがその意を代表して発言する。ツバキは、相手の情報は集められるだけ集める人間であった。


 今年が初出場ではあったコタロウに関しても同様。毒魔法を使う生徒であることを知り、開幕なにかしらを仕かけてくる可能性を考えていた。そこから自分のペースでことを運ぶのが彼の戦闘スタイルだと見当をつけていた。彼は基本部屋に篭りきりだという情報を聞き、肉弾戦に持ちこめば十中八九勝てると踏んでいた。


 ダイスケは、そんなツバキでも聞いたことがない相手であった。しかし、毒魔法を使える人は大人でも少ない。そんな毒魔法使いに勝てる学生が無名などあり得るのか。それとも、ツバキの買いかぶりだったのだろうか。


「まあ、誰が相手だろうと、ツバキにかなう敵なんていないだろう! なんたってツバキは、学院始まって以来の天才なんだから!」


 1人が立ちあがった。通夜のような空気が一転、その場の全員が「そうだそうだ」と意見を一致させようと、声に出しあう。事実、ツバキは天才と呼ばれていた。学年の成績は不動の1番であった。その上、伝統あるエルストレガではすでに2年連続優勝を果たし、なおも優勝が期待されていた。


「もう魔導騎士団に入ること決まってるんだし! ぽっと出のやつになんか負けないよ!」


「逆に、勝てるやつ見てみたいくらい」


「たしかに〜」


 盛りあがる共同スペースは、機械でさえ冷やすことができない。ツバキはほどよか膨らんだ涙袋を意識的に上げた。口角もなんとか上昇させ、乾きそうな笑いを必死に喉で潤す。


「そうね……」


 熱気の中にあって、ツバキの心はなぜかぽっかり穴が空いていた。その穴を涼しい風が通りぬけ、ツバキの身体を冷やしていった。

これまで色々とあったのですが、久しぶりにまた書き始めました。

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