急な余所者感
今は朝の報告会。生徒は各々の教室に集まり、出欠を確認される。
2年3組。大介らが在籍するクラスでも、報告会が行われていた。
「お前ら全員揃ってんなぁ?」
担任であるモモツグが、教室を見渡す。この会で、先生の性格が分かる。ひとりひとり出欠をとる者、ひと声でなんとなく確認して終わる者。
「そんな良い子のお前らに朗報です。」
いつもは出欠確認だけで終わるこの報告会とは名ばかりの集まりで、今日は珍しく“報告“があるらしい。
「今年もアレ、やるって。」
その言葉に大介は首を傾げた。隣の席のマルコに顔を向ける。
「なんだよアレって。なぁ?」
当然他の皆も同じ気持ちだろうと、問いかけたのだが。結果は違っていた。
「「「ウオォォォォォーーーーーー!!!!!」」」
突然、クラスの生徒が、皆興奮気味に立ち上がり、歓声をあげる。隣のクラスからも、その隣からも、学校全体でほぼ同時に同じような奇声が聞こえてくる。
「なんだよ! 結局やるんじゃねーか!」
歓喜の渦にひとり取り残されてしまった大介。
「なんだよ、なんだよアレって!」
悲痛な叫びはクラスの歓声にかき消されてしまう。
「あーいや、ちょっと前に“生徒狩り“ってのがあってな。中止した方がいいんじゃないかって話になったらしいんだよ。」
「でも、年に一度の一大イベントだからな、そうそうやめれないんだろ。」
辛うじて聞こえていたらしいマルコとレイジが親切に答えてくれたが、肝心のアレの内容が分からない。既に分かってる前提で話されても、困る。
「ちょっと静かにしろお前ら! …本題はこっからだ。」
教室内が、ピタリと静かになる。クラス全員が「本題?」と、不思議そうな顔でモモツグを見た。
「その選抜選手に、ダイスケが選ばれた!」
「「「え!?」」」
「え!? なに!!!」
「「「スゲェェェェーーーーーーー!!!!!」」」
「な、なんだよ! アレってぇええええーーー!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「エルス、トレガ?」
「そ、この国内の高等部でいちばん強いヤツを決める大会。全国高等部魔法選手権大会、通称“エルストレガ“。」
大介の世話役がすっかり板につき、陰で“お父さん“と、クラスのみんなからいじられ始めていたマルコが今日も大介にアレコレと教えてやっている。
【エルストレガ】
キンリン王国内の学校の高等部生徒で争われる魔法の祭典。
各校2名ずつが代表として出場するトーナメント式の勝ち上がり戦。東・西・南・北の4つのグループに別れて地区予選を行い、勝ち上がった上位8名が本戦へ進むことができる。
「そこで結果を残せば、魔導騎士団入団がグッと近づく。そうでなくても、出ただけでスターだ。そんで、お前はそれに選ばれた! 」
「へぇー、じゃあそのエルストレガには、強いのも出てくるってこと?」
あのバーモントとの戦いの昂揚は、大介に大きな刺激を与えていた。今まで考えたことがなかった、強者と戦いたいという思いが、本人も気づかないほどほんの少しだけ芽生えていた。
「当然、各校の選りすぐりの精鋭が集まる。なんだ、興味湧いたか?」
「ん? いやなんとなく。」
「そうか。いい事だな。」
(((お父さん!!!)))
ふたりの話を盗み聞きしていたクラスの全員が心の中で叫ぶ。
「でもいいのかなぁ。新参者の俺なんかで。」
「いいに決まってんだろ。あのバーモントと互角に戦ったんだぞ? まぁ、生徒相手に本気は出さなかっただろうけどさ。それでもスゲーよ、当然の抜擢だ。だから心配すんな!」
「マルコ君の言う通りだよ。2年で選抜なんて中々無いんだよ? どうせなら、心配するより喜ぼうよ!」
割って入って来たのは、3組のルーム長アマナツ。お母さん登場である。そんなアマナツの登場で、さっきまで笑顔だったマルコも、
「ア、アマナツさん! ご機嫌麗しゅうございます!」
突然緊張しだした。
「そうだな。少し楽しみになってきた。」