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曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
20/78

鉄拳が拳聖になった日

 ガキィーーーーン!!!


 ガキィーーーーン!!!


 ガキィーーーーン!!!


 場内に響き渡る硬いもの同士がぶつかり合う音。


 しかし、音は聞こえるが、肝心の“もの“が見えない。


「な、何が起こってるんだ!?」


「なんにも見えない…」


 目の前で繰り広げられる光景に、皆唖然とする。見えてはいないが。ときおり吹く突風と衝撃波が、唯一ふたりの存在を教えてくれる。


 唯一分かるのは、ふたりがとんでもないということだけだ。


「どうしたダイスケー! 動きが鈍いぞ!!!」


 高速で殴りあいながらもふたりは会話していた。


「右ー! 右です大介さんー! あ、と思ったら左ー! 違う右ですー!」


「ちょっと黙ってろ!!!」


 少しでも参加したいらしい守護天使の声は、今は邪魔でしかない。


「そっちこそ! 何発か食らってんだろ!」


 大介の言う通り、バーモントは既に何発も大介の渾身の一撃を食らっていた。互いに【シールド】で全身をコーティングしているのだが、バーモントの方が明らかにそのコーティングが剥がれていた。


 優勢なのは大介だ。


(速さも、読みも、負けている。だが、それでも負けるわけにはいかない。騎士団、いや“私“の誇りにかけて!)


 面白半分で、質問攻めから逃れるために提案した生徒との勝負。この勝負がここまで白熱した戦いに発展するとは思ってもみなかった。




「バーモント。君を二番隊隊長に任命する。」


「よかったなバーモント! 大出世じゃないかー!」


 当時24歳。これまでの実績が認められ、若くしてヒラの隊員から隊長へ、異例の昇格を果たしたあの日から、


「一番隊のベルに続いてお前もか〜。お前たちは同期の鑑だな!」


「ありがとう諸君! だが私はまだまだ強くなるぞ!」


 バーモントは変わっていった。


 魔導騎士団が所有する施設に、誰も使わないトレーニングルームがあった。さまざまな身体の部位を鍛える器具が数多く揃う充実した一室。にも関わらず、騎士団員の誰一人としてその場所を使おうとはしなかった。


 それは、


「魔導師に筋力は必要ない。」


「筋肉は魔法を使えば自然とついてくる。」


という理由で、


自ら身体を鍛えるのは一流の魔導師のすることではない。自然とついた肉体こそが一流である証である。


という風潮が昔からあったからだ。


 そんな中でひとり、トレーニングルームに足しげく通う者がいた。それがバーモントだ。周囲の人はそんな彼を変人扱いした。しかし彼は、ただ自分の戦闘スタイルを磨くことだけに目を向け、周りの目を気にすることはなかった。


 そんな努力が実り、バーモントは隊長に就任した。誰よりも真面目で努力家な彼の出世を祝う者は多かったが、その反面、24歳の若さで隊長になったことを妬む者も多かったのもまた事実だった。


 隊長としての責任、周囲からの重圧・期待・嫉妬。今まで気にすることのなかった“他人の目“が気になるようになっていった。


 隊員から慕われるにはどうすれば良いか…


 どう振る舞えば隊長として認められるのか…


 自分は隊長にふさわしいのだろうか…


 いつしかバーモントは、トレーニングルームに行かなくなっていた。


 そして、その後に彼は、隊長としての功績を讃えられ“拳聖バーモント“と呼ばれるようになる。




ザザザーーーーー


ザザザーーーーー


 大介とバーモントがそれぞれ闘技場の端と端、これまでで一番互いに距離をとった場所に着地した。


 両者とも、身体を包んでいたシールドはボロボロ。血がしたたり落ちている。


((次で決める!!!))


「【鉄魔法 / 大鉄拳テオ・マキア】!」


 出現したのは、闘技場の半分を埋めるほどの巨大な鉄の腕。


「【風魔法 / 風拳武装ポルデラ・ストライク】!」


ゴーーーーーーーーウ


 大介の右腕を風が包んでいく。


「ふん!!!」


「オラッ!!!」


 ふたつの拳が今、衝突する。残り2メートル。


 そのとき、


「はい、終了です。」


 観客席から聞こえてきた声と同時に、ふたりの動きが止まった。


「なんだ!?」


 正確には止まってしまった。それは、自分の身体に異変を感じたからであった。


 大介は驚きながら、自分の右腕を見る。確かにそこには【風魔法】が発動していた。しかし、一瞬。ほんの一瞬だけ自分の魔法が消された気が大介はしたのだ。だから咄嗟に身体の動きを止めてしまった。


「周りを見なさい!」


 怒りながら観客席を飛び降りてきたのは、副隊長のキエルだった。


 闘技場を見渡すと、そこら中が破壊され、所々にガレキの山ができている。もう一度この場所を闘技場として使おうとすれば、かなりの長期間を要することになるだろう。


「あなたたちは、闘技場を粉々にする気ですか!」


 ビクッとして、発動させていた風魔法を消す。バーモントも同様に、巨大な鉄拳をすぐさま消した。


「い、いいところだったんだけどなぁ〜。」


「隊長?」


 背筋も凍るとはこのことかと言わんばかりの突き刺すような目線がバーモント隊長を襲う。


「まったく…。こっちの身にもなってください。あなたたちを一瞬止めるためにどれだけ俺が頑張ったか!」


 魔法を消したのはキエルだったようだ。


「「ご、ごめんなさい。」」


 結果、勝負はキエル預かりとなり、幕を閉じた。



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