表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曰く、其の少年は5000年駆けて街へゆく  作者: 過猶不及
第一部
19/78

ハイリスク・ハイリターン

「イテテ…」


「あれー、大介さんどーしましたー?」


 巨大樹が生い茂る森の中。その木の上。太い枝に乗って、その身を隠していた。


「最近目がイテーんだよ。病気か?」


 目を開けると刺激が走る。しかし、目を開けていないといつ何が襲ってくるか分からない。本当にわずかに片目だけを開けながらあたりの様子を伺っている。


「あー、それは多分“視覚強化“を使い過ぎてるからですねー。」


「視覚強化を使ったら目痛くなんのか?」


 【強化魔法 / 視覚強化】は視力や視野を飛躍的に上げる。遠くにいる敵を、見つかる前に見つけることが自分の命を守るためには必要である。だから、大介は四六時中この視覚強化を発動させていた。


「強化系の魔法は常に自分に魔法をかけてるんですー。言い換えればそれは、常に自分を“攻撃してる“のと一緒なんですよー。普通は使えばほぼほぼ死にますからねー。」


 大介にとって一番恐怖である“死“という単語が、まるでそよ風が吹き抜けるようにサラッと聞こえてきた。この守護天使にはデリカシーが足りていない。


「ははは。ヤバいなー…。何がヤバいって、お前のその態度がヤバい。腹立ってきたわ。」


「普通なら! ですー。でも、大介さんは不死身ですからー。簡単に言えば大介さんには、チョー強力な自己再生能力が備わっているのでー、基本は大丈夫なはずなんですがー……さすがに使い過ぎましたねー。」


「いやどーすんだよ。ただでさえ四六時中命狙われてんのに視覚強化ねーともっとすぐ死ぬぞ。」


 どこかで猛獣の鳴く声が聞こえてくる。目を休ませる暇など大介にはない。いくら木の上にいても、いずれは見つかってしまうだろう。


「強化系は強力ですが、“感覚強化“以外は身体への負担がとても大きいんですよねー。」


「ん? その感覚強化ってのは何だよ。」


 知ってる感じで言われたが、大介には聞き覚えのないものだ。


「あー、感覚強化っていうのはー、その名の通り感覚を強化する魔法ですー。まぁ、精神疲労はありますがー。それでも他の強化魔法よりはずーーーーーーーっとマシですけどー…」


「なんだよ、いいヤツあんじゃんか、もっと早く言えよ。」


 多少のイライラが隠せない大介。


「でもー、感覚強化は他の強化系魔法より段違いに扱いが難しいんですー。扱える人がいるならー、その人は達人だと自信を持って言えるくらいー。」


「そんなのは大したことじゃねーよ。5000年もあるんだ、気長にやるさ。」


「そーですねー! さすがは大介さんー! 達人並みの精神力ですー!!!」


 太鼓持ち守護天使。すかさず、大介のご機嫌をとっていく。


「よーし! じゃあ覚え方を教えろー!!、」


 大介も大概乗りやすいタイプである。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 場面は闘技場に戻る。


「俺の自己再生能力、一旦切れるか?」


「え! なんでですかー!? ダメですそんなのー!!!」


 突然の申し出に、動揺する守護天使。今まで5000年間共に過ごして、一度もそんなお願いをされたことがなかったからだ。


「“ダメ“ってことは、できるんだな? ……、このままじゃ相手はいつまで経っても勝てねーだろ? あの男とはなるべくフェアにやりたい。」


 頑固に主張する大介。その静かな熱意に負け、守護天使はため息をついた。


「分かりましたよぅー! でも危なくなったらすぐに元に戻しちゃいますからねー!」


「ああ、ありがとな。」


 いまだ、大介はバーモントをジッと見つめる。絶対に目線は外さない。そんな意思がバーモントに伝わってくる。


「どうした? ブツブツと。そろそろ再開しようか、少年よ。」


「ああそうだな。【強化魔法 / 感覚強化】、こっから第2ラウンドだ。」


 先ほどまで使っていなかった感覚強化。大介の使う【サポート魔法 / 高速移動領域ヴィルヘルム・フィールド】は使用者の速度を飛躍的に上げるが、その速度についていける身体は提供してくれない。どれだけ速くても、それに対応できるだけの動体視力がなければ何も見ることができないのだ。


 そこで使うのが【強化魔法 / 感覚強化】。目が見えなくても頭にヴィジョンが見えるようになることで、更に高速な動きに対応できるようになる。


 と、大介が消えた。


「がはっ!!!」


 バーモントの腹部に突然走る衝撃。


 下を見るが誰もいない。


「ぶっ!!!」


 今度は顔面に


「ぐあっ!!!」


 背中


 頭


 すかさず反撃にでる。頭上に鉄拳を出現させるが、外れる。


 腕


 鉄拳の発動がことごとく間に合わない。


バーモントの血がわずかながら宙を舞う。


(なんだ!? 全く反応できん! 読みが…)


 そしてまた腹部に、殴られたようなとてつもない衝撃。最初のモノよりも数倍強い。


 メキメキッッッッッッッ!!!!!!!!


(追いつかない!!!)


 ザザザァァァァーーーーーーー


 ふき飛ばされるのを、両足でなんとか踏ん張りながら、10メートルほど後ろへ。


「ハァ…ハァ…ハァ…、やっと本気を見せたか。ダイスケ。」


「ハァ、ハァ…、いやまだまだだ。」


「がははははは!!! こんなにも躍る戦いをできるとは、感動極まる! 今からは、この二番隊隊長、バーモントが参ろう!!!」


「ああ! やろうか!」


 大介は、奮い立っていた。敬語も使わないほどに。なぜこれほど興奮冷めやらぬのか自分でも理解できなかった。戦うしかなかった、だから戦ってきた。しかし今は、戦いたいから戦っている。


「【鉄魔法 / 鉄拳武装ゲネスダスター】」


 バーモントの両腕に鉄が巻きついていく。いくつもの帯状の鉄がグルグルと。


 ガチンッ!!!!!


ただでさえ太い腕が、鋼鉄のコーティングによって何倍にも膨れ上がった。


「【炎魔法 / 加速ブースト】!!!」


キュイーーーーーーーーーーーーン


バーモントの両ひじ、両足からロケットのような炎が吹いた。


「「………」」


 ガキィィィィーーーーーーーンッ!!!!!!!!


 いつの間に、移動したのだろうか。ふたりの拳が闘技場中央でぶつかり合う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ