拳聖の実力
(しかし、シールドをあれほどまでに使いこなす少年がいるのか……?)
【防御魔法 / シールド】は、魔力を具現化しただけという、至ってシンプルな魔法。扱いやすく覚えやすい。それ故に、初級魔法として魔法学でまず真っ先に覚える魔法であり、魔法学のない初等部・中等部以下の子供でも扱える者も多い魔法でもある。
しかし、簡単だからこそ上達しようとすれば際限がなく、誰もが扱えるからこそその有用性に気付く者は少ない。
(あれほど薄く頑丈で、変幻自在なシールドは見たことない。あのダイスケという少年は、いったい何者なんだ…)
キエルは、バーモントが大介を警戒する理由が分かった気がした。あの少年は得体が知れない。
一方で、得体の知れない少年大介は、
「大介さんのシールドを割るとはー、やるなー!」
「お前が偉そうにすんな。」
割れたシールドを復元しながら、守護天使の言葉を軽くあしらっていた。
「どーですかー? バーモントさんはー。」
「んー、上に注意を向けさせて下から攻撃。マルコより、パワーも頭も上だな。あとは俺より強いかどうか。」
大介にとっての強さの基準はマルコだけ。少なくとも学生レベル以上ではあるようだが、まだ自分の強さの立ち位置ははっきりしない。
両手をパーに開き、そのまま地面に押し当てる。
「この機会をくれたマルコに感謝だな。…【サポート魔法 / 高速移動領域】。」
手を置いた地面に、直径1メートルほどの白い魔法陣が現れる。
「白い魔法陣、サポート魔法か。………珍しいモノを使う。」
バーモントの呟きと同時に、闘技場の地面が“白“に覆われていった。砂の色だった場所が真っ白く塗られていく。
「なんだこりゃ?」
それはまるで滑らないスケートリンクのようである。
【サポート魔法 / 高速移動領域】
一定範囲内での使用者の移動速度を極限まで高める 移動速度の調節可能
「頭もパワーもある。なら、スピードで勝負しよう。相手の得意で戦う必要はねぇよな。」
大介の姿が消えた。
瞬間、バーモントの右側に現れる。バーモント自身はまだ元々大介のいた方を向いたままの状態だ。
(この白の範囲内は、俺の場所だ。)
後頭部めがけて蹴りを入れる。
しかし、バーモントまるで分かっていたかのように、その蹴りを首を左へ傾けてかわす。
ブンッッッ!!!!
蹴りによって凄まじい風が起きる。
「な!?」
大介がまた消える。
今度はバーモントの頭上。空中からかかと落としを見舞う。
しかし、やはりさっきと同様にかわされる。
次は左、下、右、また左、上、…。
どれも大介の動きを捉えているようには見えない。それにも関わらず、大介の攻撃はことごとく空を切る。
(くそ! どうなってる!)
大介は、バーモントの背後に回った。気づいている様子はない。
(後ろに目はついてないだろ!)
渾身の一撃をバーモントの背中に見舞ってやろうとしたそのとき、
突如、大介の横に鉄拳が現れた。
バキッッッッッッ!!!!!
シールドが割られる。
鉄拳を全身でモロに受け、またもや大きくぶっ飛ばされてしまう。
「速けりゃ勝てると思ったか?」
地面に転がる大介を見ながら、不敵な笑みを浮かべた。
「ギャー! 大丈夫ですかー! 大介さんー!」
守護天使が心配そうに声をかける。
「ハァ、ハァ、ハァ…。俺の動きが見えてるようには見えなかった。最後のは完全に背後を取った。なのに、まるで“知ってたかのように“対処しやがった。つまり…“感覚強化“が使えるのか…」
【強化魔法 / 感覚強化】
勘を極限まで鋭くする
言い終わると、大介はどこか楽しそうに、嬉しそうにニヤリと笑った。
バーモントと大介、同じ理由で笑う両者の目が合った。
「感覚強化を使える奴は達人、だったよな?」
「はいー! その通りですー!」
それは5000年ほど前にさかのぼる。