楽しんだもん勝ち
「よし、そろそろ私の話を聞くのも飽きたろ? ここはひとつ、身体を動かして気分を変えようじゃないか!」
ある程度質問コーナーが進んだところでバーモントそう大声で言い放った。
「さすがバーモントさん! 俺たちの心配をしてくれるなんて!」
レイジが自分で自分を抱きしめながら、感動の声をあげた。
「答えるのに飽きただけだろ、絶対。」
「誰か、私と戦ってみたいヤツ。いるか?」
さっきと比べ物にならないほど、怒涛の勢いで全員が自分を主張し始めた。マルコも当然手を挙げている。
「こんな機会めったにないぞ!」
しかし、この日を誰よりも待ち望んでいたであろう、レイジはなぜか手を挙げていなかった。
「あれ、どうしたレイジ?」
「ん〜! 戦ってみたいけど、手の届かない存在であってほしいというファン心理!」
本人にしか分からない葛藤があるようだ。
「そう言うダイスケも手挙げてないじゃんか。お前も葛藤してるのか?」
「…いや? 俺は別に魔導騎士団に憧れてるわけじゃないし、だいいち戦闘自体が特別好きじゃねぇから。今回は他のやつらに譲るよ。」
そんな大介の方をマルコが一瞬チラリと見る。そして、何か決心したように大きく息を吸った。
「はいはいはいはい!!!!! コイツ! コイツと戦ってください!!!!!!」
片手で大介を指差し、もう片方をバンザイして、激しく左右に振りながら。ひときわ大きく通る声で呼びかけた。
「お、威勢がいいな! よし! そのコイツとやら、やろうか。」
正面にいたこともあり、すぐに気づかれた。
「よっしゃーー!!!」
「え!? ちょ…、お…俺!?」
状況が飲み込めず唖然としている大介に対し、マルコはまるで自分が選ばれたかのようにはしゃいでいる。
ダイスケの方を向いた。
「ダイスケ。俺はお前が今までどんな人生送ってきたかなんて知らねーけどさ? …こういうのは、楽しんだもん勝ちだ!」
満面の笑みで親指を立てながら。一方の大介は少し驚いた表情だったが、すぐにもとに戻り、笑った。
「そうだな。ありがとう。」
と言って、勢いよく観客席から飛び降りた。
「よっしゃ! 行ってこい!」
拳を突き上げながら見送る。そんなマルコをレイジは隣でじっと見つめていた。
「…良かったのかよお前。こんなチャンスねーぞ。」
男子なら、いや女子だって一度は夢見る職業“魔導騎士団“。そして、マルコもそのひとりであった。幼い頃から何度も妄想した魔導騎士団との一戦。ノリの軽いバーモントだからこそ実現したこの夢の戦い。今まさに、マルコにとっての念願が叶う一歩手前まで来ていたのだ。それは、レイジが手を挙げなかった理由のひとつでもあった。
「…アイツさ、めっちゃ強いんだ。だから前に俺聞いたんだよ、なんでそんなに強いんだって。」
「そしたら?」
「強くなる“しか“なかったんだと。俺たちにとっちゃかったるい学校も、アイツにとったら念願の場所で。…多分ダイスケは、俺たちには想像もつかないような経験をしてきてるんだよ。だから俺は何か少しでも思い出になるようなことをしてやりたいと思ってる。とにかく楽しんでほしいんだよ。」
「…そっか。」
「まあ、単純にダイスケが魔導騎士団にどれだけ通用するのかも知りたいってのもあるしな。」
「ははは、そっちが本音だろ。」
「かもな。」