免許
成人式より続く
キン、何事もなかったかのように話をすすめる
キン 「では、本題の教団の成人式について考えていきましょう。」
アツシ、ん~っと考えながら
アツシ「っていうか、続編でありながらサブタイトルを代えるのって初めてですね。」
キン、大きく頷き
キン 「まあ、主として考えることが違っているから。ここは、やはり代えとかないとな。」
武田、真顔になり
武田 「いや、ちょっと何を言ってるか、分からないんですが?」
アツシ、また武田を無視して
アツシ「教団の成人式ですか…。」
「通過儀礼の意味を持たせるんですよね?」
キン、アツシの顔を覗きこみ
キン 「どうした?何か、言い澱んでないか?」
アツシ、小首を傾げながら
アツシ「いや、我々の教団は、当然ながら武田さんをトップにしたピラミッド構造になるんですよね?」
キン、アツシを見つめ、しげもそちらを見つめる
キン 「そりゃ、そうだ。武田さんが1番、俺らが2番目って感じだな。」
「そして、一般信者でも修行を頑張れば昇格できるって思わせた方がいいし、ある程度までは行けるようにしておくべきだろうよ。」
しげ、大笑いして
しげ 「3番目の階級まではな。」
「まあ、俺らの階層までは、絶対行けないんだけどね。」
アツシ、斜め上を見つめて考え込む
アツシ「そうすると、昇級のためにはテストっていうか儀式があるわけですよねぇ。」
「常に通過儀礼が存在することになりませんか?」
キン、多少困惑して
キン 「そら確かに…そうなるわな。」
アツシ、さらにツッコんで
アツシ「ということは、成人式もその1つってだけで、特別感がない気がするんですよね。」
キン、腕を組んで考え込む
キン 「なるほどね。」
しばらく、全員が考え込む
その状態で30秒程経ったあと、しげ、ポンッと膝を叩いて
しげ 「こんなのは、どうかな?」
3人の視線が、しげに集まる
しげ、それを確認してから
しげ 「信徒として成人式の通過儀礼を受けた者には、飛び級っていうか、かなり早い昇級をさせてやるのよ。」
アツシ、探り探りという感じで
アツシ「イメージでいうと、士官学校を卒業した人はいきなり幹部からスタート…みたいな?」
しげ、大きく頷き
しげ 「それが一番イメージしやすいよね。それに、これだと昇級狙いで二十歳直前で来る奴も出てくるかもしれんし。」
アツシ、アッと声をあげ
アツシ「それだったら、教団をジュニア部とシニア部に分けるってのはどうですか?」
今度は、3人の視線がアツシに集まる
アツシ、皆を順に見渡して
アツシ「もちろん、駆け込み入信でも飛び級はさせるんですが、ジュニア部に所属してた子は、その長さに応じて更に飛び級ができるようにしたらいいんじゃないかなって思うんです。」
キンとしげ、納得の表情になって
キン 「それは、いいアイディアだな。」
「それだと、教団の成人式に意味を持たせることができるな。」
しげ 「ジュニアからシニアに移行する重要な儀式ってことになるからね。」
3人が盛り上がる中、1人首を横に振る武田
武田 「あのなぁ。」
「階級だの何だのって言うが、あんたら、その名称を決めることできるのか?」
キョトンとした顔になる3人
しばらくの空白ののち
しげ 「えっと、尊師とか大正師とか…」
キン、しげの発言を遮り
キン 「ストーップ!」
「それはダメだ!」
武田、大きくため息を吐いて
武田 「そうしたのを作るセンス、俺らが持ってると思うか?」
武田の問いに、一同腕組みをして考え込む
少しして、キンがハッとなり
キン 「あ!」
「もう、名前じゃなくて1段2段とかでいいじゃないか?」
しげ、ボソッと
しげ 「武田道2段。」
武田、バタッとテーブルに突っ伏してしまう
武田 「道になっとるがな。」
アツシ、パッと目を輝かせて
アツシ「あ、それ意外といいかも。」
武田、突っ伏したまま顔だけを上げ、目をアツシの方に向ける
武田 「どこに、いいと思える要素が?」
アツシ、得意気に
アツシ「昔の武術に倣うんですよ。段位が上がったら『免許皆伝』って、良くないですか?」
キン、ポンッと膝を叩く
キン 「おお!そして、免許を持った人間には、町道場を開くことを許すって感じにすれば、勝手に支部が増えていくんじゃないか? 」
しげとアツシ、それぞれに感嘆の声を上げる
しげ 「それはいいね。」
アツシ「我々は何もしなくていいし、素晴らしい案です!」
キン、大きく頷く
しかし、その後、難しい顔をして
キン 「だがその場合、道場の監視は怠ることはできないんだけどな。」
しげ、斜め上を見つめ
しげ 「まあな~。半年に1回くらい、勉強会という名目で集めて、脅しをかけるくらいはしないとダメかもね~。」
アツシ、2人に同調し
アツシ「とりあえず、我々の言うことは絶対っていう、誓約書を書いてもらうのもいいですね。」
武田、体を起こし、諦めたような表情で3人を眺めて
武田 「言うことを聞いてる間は、甘い汁が吸えるんだって分からせてやれば、そんなに心配しなくてもいいだろ。」
3人、一斉に武田を見て、また感嘆の声を上げる
しげ 「おぉ!」
キン 「流石、偽善者!」
アツシ「やはり、教祖は武田さん以外はあり得ないですね。」
武田、頭を左右に振りながら
武田 「これほど嬉しくない感嘆って、他にあるだろうか…。」
しげ、少し考えを巡らせたあと
しげ 「しかし、いくら甘い汁が吸えてるとしても、その状況に慣れてしまったら、考えが変わるかもしれないし、多少のチェックはやっぱ要るよね?」
キン、上目遣いにしげを見て
キン 「そら、そうだ。」
「人間、欲の皮なんて、いくらでも突っ張っていくもんだからな。」
しげ、キンの言葉に頷いて
しげ 「運転免許でもさ、性格判断のテストってあるじゃない。」
「教団の免許でも、それをやったらどうかな?」
アツシ、肯定的な雰囲気ではあるが
アツシ「会社の査定の時に使うような、かなり細かいやつを利用しないと、意味はないと思いますが。」
キン、アツシをチラ見したあと、しげの方を向いて
キン 「確かに運転免許の簡略なやつでも、割りと当たってるんだが。」
「本格的にやるなら、外部委託のテストでも使わないとダメだろうな。」
アツシも、これには納得して
アツシ「そんなテストなら、反抗的な性格とか炙り出せそうですね。」
そう言ったあと、アツシ、一瞬間を空けて
アツシ「それプラス、教団に従順であっても、激しやすい奴とか、そんなのも早めに排除した方がいいですね。」
「我々は、なるべく静かに信者を獲得したいわけですし、警察沙汰になりそうな奴はNGにしないと。」
武田、テーブルに肘をつき、呆れた調子で
武田 「ほんと、あんたらは悪党の発想をするのな。」
「そのNGの奴って、車の運転に例えるなら、煽り運転をするような奴ってことだろ?」
「はっきり言って、君ら全員NGじゃないのか?」
キン、ほーっと言って武田に目をやる
キン 「武田さんは、自分をよくわかってらっしゃる。」
「あんた、運転荒いもんな~。」
武田、胸を張って
武田 「俺のは違うよ。あれはアピールをして、俺の存在に気づいてもらおうとしてるだけだ。」
3人、同時に
3人 「それが煽りっていうんだよ!」
武田、勢いに圧されて後退る
キン、ふ~っと一息吐いて
キン 「まあ、煽りたくなる気持ちはわかるがな。」
アツシ、苦笑しながら
アツシ「煽る気持ちが湧くか湧かないかじゃなくて、その気持ちを抑えきれるかどうかですもんね。」
武田、独り言を言う感じで
武田 「流れに乗れてる時は、多少遅い車が前に居ても、そんな気にはならないけどな。」
今度は、キンも苦笑して
キン 「そりゃ、煽られる車ってのは、大体は流れに乗れてない、要は通せんぼ走行してるやつだから。」
武田、うんざりした顔で
武田 「で、そういうドライバーは決まって『私は交通ルールを守ってる』『制限速度で走ってるだけだ』って言うんだよ。」
しげ、イタズラっぽい笑顔を浮かべ
しげ 「ほんとは、違う場合もあるんだけどね。」
武田、キョトンとして、しげを見る
武田 「違うって、何が?」
しげ、片目を瞑って
しげ 「交通ルールを守ってるってこと。」
アツシとキン、目を見合せたあと、無言でしげに続きを促す
しげ、それに答える形で
しげ 「結論から言うと、煽られる車も違反してること多いよねってことでさ。」
「ほぼ『追い付かれた車の義務違反』か『通行帯違反』の、どっちかはしてるよね。」
アツシ、少し考え込んで
アツシ「マイナーなルールですが、最近よく目にするようになったような…。」
「通行帯違反って、追い越し車線をずっと走るのはダメってやつでしたっけ?」
しげ、グッドサインを出し
しげ 「そうそう、それ!」
「だから、1番右の車線を煽り煽られながら、ずっと走ってる状態って、違反者同士の醜い交通トラブルと言えるんだわ。」
キン、おいおいとツッコミを入れ
キン 「違反者同士って、お前。」
しげ、あっさりとした口調で
しげ 「ま、程度の問題であって、煽ってる車の方が悪質なのは間違いないんだけどね。」
武田、スマホの画面を見つつ、ブツブツと呟く
武田 「ん~もう1つの方は…。」
「追い付かれた車は、道を譲ってあげないといけないんだな…。」
「あ、けど、あくまで制限速度内での話なんだ。」
しげ、武田の様子を眺めて
しげ 「だから、車線が1つしかない所を、制限速度で走ってる場合は、文句のつけようはないんだよね…法律的には。」
武田、スマホから目を離し、しげを見つめる
武田 「何か、含みのある言い方だな。」
キン、ニヤッとして
キン 「コモンセンスの話をしたいんだろ?」
しげ、キンに話を預けるといった感じの視線を向ける
キン、それを受けて
キン 「コモンセンスなんて言うと、小難しくなるが。」
「要は、常識とか良識ってやつだよな。」
アツシ、小首を傾げ
アツシ「その集団に居る人なら、大体わかる共通認識って感じですよね。」
キン、若干、体を前にせり出して
キン 「そういうこと。」
しげ、キンと同じような体勢になり
しげ 「その感覚がね~、法律とズレるわけよ。」
「っていうか、ズレないと物理的に生活が成り立たないんだけどね。」
キン、声を出さずに、やっぱりなと言ったあと
キン 「それの典型的な例が、小銭を拾った時にどうするかってやつな。」
アツシ、ん?となって
アツシ「小銭…ですか?」
キン、笑いながら
キン 「落し物を拾ったら、ネコババはダメ。警察に届けなきゃってのは、法律で決まってるだろ?」
しげも、楽しそうに割って入る
しげ 「けど、10円くらいを拾った時、警察に行く奴がいると思う?」
アツシ、首を横に振って
アツシ「そんな、アホなことはしませんねぇ。」
キン、笑ったまま、アツシに詰めより
キン 「しかし、それは違法だぞ。」
アツシ、苦笑いになって
アツシ「なるほど。」
「確かに、そうやって拾った人が、みんな届けに行きだしたら、警察はパンクしますね。」
武田、先ほどの話と今の話がつながったという感じになり
武田 「小さい子が、『お巡りさーん、お金拾った~』って言うのは、微笑ましいが。大の大人がそんなことしたら、それは奇異の目で見られるだろうさ。」
「そして、その奇異の目を、俺らはあの運転手達にも向けているわけだ。」
しげ、サラッと告げる
しげ 「あの人達は、所謂『原理主義者』なんだよ。」
しげ以外の3人、マジマジとしげを見る
それから、各々で感想を言い合う
武田 「言い方の問題はあるが、まあ、そういうことかもな。」
アツシ「しかし、今日は、言葉の端々に棘がありますよね。」
キン、しげを見つめ
キン 「何か、あったのか?」
しげ、腕を組み、しばらく考えたあと
しげ 「あったと言えばあったかな~。」
しげ、3人が自分に意識を向けたのを確認して
しげ 「直接、自分に何かをされたわけじゃないんだが。」
「この前ね、車2台すれ違うのがやっとっていう道を走ってたの。そしたら、正面から救急車が来てね。」
3人、顔を見合せる
キン、状況を確認するために、質問をする
キン 「その救急車は、サイレンを鳴らしていたのか?」
しげ、大きく首を上下させて
しげ 「それはもうね。だから当然、こっちは左側に寄って、道を空けたんだけど。」
しげ、ここで一息入れて
しげ 「救急車の前を走ってる車が居てさ。こいつが避けないの。」
武田、目を丸くして
武田 「つまり、救急車を通せんぼしてたのか?!」
しげ、うんざりした様子で
しげ 「そうなんだよ。」
「しかも、それがわざとやってることなら、俺の車、ドラレコもあるし、車のナンバーを控えて通報するけどさ…。」
「そうじゃなさそうなんだわ。」
キン、意味がわからなくなって
キン 「わざとじゃないって、どういうことだよ?」
しげ、ふ~っとため息を吐いて
しげ 「明らかに、ドライバーの奴、パニックになってアタフタしてるのよ。」
キン、まだ理解出来ず
キン 「ただ、少し広いとこを探して寄ればいいだけじゃないか。それが、ムリっていうのか?」
しげ、呆れ顔になり
しげ 「思い付かないんだろうねぇ。」
「ほーんと、能力の無さに殺意が湧いたね。」
武田、同意のジェスチャーをして
武田「確かに、酷い話だな。」
アツシも同様の動きになり
アツシ「車の運転って、状況を見極めることと、それに合わせて動かすってのが重要なわけで。」
「それを含めて『技能』なんだけどな~。」
キン、右手をヒラヒラさせて
キン 「上手く動かせるから余裕も持てて、だからこそ周りが見えるって考え方もあるけどな。」
「ただ、どっちにしても、現実は『技能』が無くてもお情けで…ってことが多々あるもんだ。」
「運転免許ってのはライセンスなんだし、れっきとした国家資格なんだから、そういうのは止めて欲しいとは思う。」
しげ、独り言のように呟く
しげ 「俺もさ、一応免許は『中型』になってるから、4トン車に乗ってもいいんだよね。けど、俺は運転下手だし。技術がないんだから、そんな資格いらーんって思う。」
「本人が出来る範囲で何かを許可するってのが、そもそも免許なんじゃないのかな?」
しげ、意識を正面に戻し、それから言葉をつなげる
しげ 「緊急車両を通せんぼなんて論外だけど、それ以外でもさ、面倒に巻き込まれないためには、さっさと道を空けりゃいいんだよ。」
「腕に覚えがあって、後ろの車と一戦やるつもりなら、何も言わないけど。」
キン、頭を掻いて
キン 「まあな。煽る奴って、結局事故ったり免取免停になったりで、ろくなことにならないんだしな。巻き込まれるだけ、損ではある。」
キン、一瞬、間を空けて
キン 「ね?武田さん!」
武田、不意を突かれた感じで
武田 「え?!何だ?」
キン、手厳しい口調で
キン 「あんた、あと何点ある?」
武田、やっと理解する
その後、ドヤ顔になって
武田 「まだまだ!免停までは2点もあるぞ。」
武田以外の3人、目を見合せる
キン、しげとアツシに向かって
キン 「な?」
アツシ、しげ、同時に
2人 「うん。」
キン、手をテーブルの上で組んで
キン 「しかし、昨今、煽り運転って話題に上がることが多いが。」
「撲滅したけりゃ『やる奴の排除』は当然として、『免許の交付の厳格化』も進めた方がいいんじゃないのかねぇ。」
アツシ、苦笑いで
アツシ「実は、さっき言われてたパニック起こした人はマシな方なんですよね。」
「ほんと~に酷いのになると、後ろに付かれたことにも気づかないんですよね。」
武田、アツシに対して拍手を送り
武田 「確かに!」
「全く周りを見ない奴っているよな!」
アツシ、笑いの度合いを上げて
アツシ「それって、さっき先輩方が言われたように、技能不足から来てるわけですし。」
「もう少し、免許の交付のハードルを高くしてもいい気がしますね。」
キン、斜め上に視線を向け
キン 「教習所での実技試験免除ってのを止めてだ、全員試験所でやることにするのは効果的なんじゃないかな?」
しげ、軽く眉を上げて
しげ 「いいかもね。」
「公安非公認の教習所に行った人、知ってるけど、その人は初心者の時から上手かったよ。」
キン、うんうんと頷いて
キン 「世間の注目もあることだし、我が党の公約には、それも入れることにしよう。」
しげ、キンの前に人差し指を立てる
しげ 「あと『道路交通法全般を見直して、もう少し現状に近づける』ってのも付け加えたい。」
アツシ、ポンッとテーブルを触って
アツシ「原理主義の方たちは、基本ルールを守るんですから。そうなれば、周りから浮くことも少なくなりそうですね。」
武田、珍しく乗り気な感じで
武田 「確かに、そうなるといいよな!」
キン、呆れた調子で武田を見る
キン 「いや、まず最初に排除される側の人間なんですよ…あなた。」
武田、もう1度、胸を張って
武田 「だから、まだ2点あるって!」
キン、静かに
キン 「いや、それは時間の問題でしょうが。」




