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FC武田  作者: 松度 幸枝
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奇跡

居酒屋の一角、一同が集まっているところに、しげが手を上げて寄っていく

キンが気付いて、声をかける

キン 「おせーぞー。」

続いて

武田 「オー来た、来た。」

アツシ「あ、お疲れ様でーす。」


しげ、軽く頭を下げながら

しげ 「いやー、すまん、すまん。」


しげ、そう言いながら、椅子に座る

座ったあと、背もたれに身体を預けて、天を仰ぐ

しげ 「いやー今日は負けたなー…。」


キン、多少呆れて

キン 「遅れたの、またそれかよ。」


しげ、正面に視線を戻すが、遠い目をして

しげ 「 gogoランプが、なかなか点いてくれなくてさー…。」


あつし、ポツリと

あつし「ジャ○ラーっすか。」


しげ、あつしを無表情で見ながら

しげ 「そうなんよ。」

   「最初は、ちょっとだけって思ってたんだけどね。」

   「5千円打っても、6千円打って光らない…。」

   「段々と、ムキになってしまって…。」


武田、飲みかけのビールの残りを飲み干して

武田 「まあ、気持ちは分かるが。」


アツシ、武田の飲み物が無くなったことに気付いて

アツシ「あ、武田さん、飲み物は何がいいですか?」


武田、空のジョッキをアツシに渡しながら

武田 「あ、ごめん、アっちゃん。」

   「んじゃ、ハイボールで。」


アツシ、店員を呼び、注文をする

その間に、しげ、今度は武田の方に、視線を移し

しげ 「そんで、『絶対、この台を光らせたる』って思いだしたら、もうアウトだったのよ。」


キン、哀れんだように

キン 「だから、止めろって、毎回言ってるだろが。」

   「で、結局、何回転まで回したわけよ?」


しげ、うすら笑いを浮かべて

しげ 「1900回転。」


キン、武田、アツシ、大声で

3人 「止めろ!」



キン、何事もなかったかのように、話をすすめる

キン 「では、今日も、FC武田の定例会を始めます。」


武田、びっくりして、立ち上がって

武田 「えー、FC武田、正式採用!?」


キン、武田を無視して

キン 「では、本日の議題ですが…。」

   「今回は、『教祖武田さまのポジション』を考えてみたいと思います。」


アツシ、怪訝そうに

アツシ「ポジションですか?」


キン、軽く頷きながら

キン 「はい、ポジションです。」

   「要は、武田さんを、どういう存在として扱うのかってことなんですがね。」


しげ、眉間に皺をよせて

しげ 「えっと…教祖さまを神の化身とするのか…。」

   「それとも、預言者とするのか…。」

   「そんな感じ?」


キン、親指を立てて

キン 「その通り!」


アツシ、納得したように

アツシ「なるほど。」


アツシ、考え込むように

アツシ「しかし、神の化身として扱うなら、奇跡を起こしてもらわないといけませんよね。」


キン、腕組をして

キン 「確かに。」

   「民衆の前で奇跡を起こす…。」

   「そんなパフォーマンスをしてもらうと、わかりやすくていいんだが。」


しげ、アツシ、うんうんと頷く

アツシ「水をワインに変えるとか…。」

しげ 「指先からヴィブーティーを出すとか…。」


武田、テーブルをバンバン叩きながら

武田 「そんな手品できるか!」


しげ、困ったような顔をして

しげ 「えー覚えようよー。」


ここで、注文した飲み物等が届き、店員が来たため、全員口を閉ざす


店員が去ったあと、キン、おもむろに

キン 「では、『教祖さまは、預言者』ということでいきますか。」


アツシ、またうんうんと頷く

武田、片ひじをついて、向こう向きになり

武田 「いやだから、やらんと言っとろうが…。」


しげ、遠慮がちに、挙手をする

それにキンが気付き、発言を促す

しげ 「えっとね…その奇跡について言いたいことがあるんだが…。」


一同、しげに注目する

しげ 「奇跡ってのはさ…超法規的手段なんじゃないかな。」


一同の頭の中に、『超法規的』の言葉が大きく広がる

代表する形で、キンが聞く

キン 「超法規的…か?」


しげ、割と真剣な眼差しで

しげ 「はい、超法規的です。」

   「ハイジャックされたからって、政治犯釈放しちゃうくらい、超法規的。」


一同、上を向いて考え込む

しげ 「この世をね、神さまが創ったとするじゃん。」

   「そうすると、物理の法則とか化学式とかも、創ったのは神さまってことになるよね。」


一同、今度は下を向いて考え込む

しげ 「そうした規則を破る形で、不思議なことが起こるんだから。」

   「これを超法規的と言わずして、何が言いましょう。」


アツシ、小首をかしげて

アツシ「あれ?その方向でいくと、神様は、なるべく奇跡は起こしたくないってことになりますね。」


しげ、満面の笑みを浮かべ、アツシを指差す

しげ 「そうそう。俺が言いたいのは、そこよ!」

   「自分が創った決まり事を、自分で破る訳にはいかんだろ。」


キン、眉間に皺を寄せた顔を、しげに近づけて

キン 「つまり、奇跡は起こらないってことにするのか?」

   「宗教としては、それはまずいだろう。」

しげ、人差し指を立てて、左右に振りながら

しげ 「いや、起こらないとは言わない。起こりにくいってだけよ。」

   「神さま的に、どうしようもない、もうムリーって時だけに起こる感じかな。」


武田、キンと目を合わせ

武田 「神さま的にムリーって、どんな状況よ…。」


しげ、飲み物をグイっと飲んで、喉を潤す

それから、また話を続ける

しげ 「まあ、時代的に色々あるとは思うけど…。」

   「ただ奇跡は簡単には起こせないけど、起こしたいな~って場面は、結構あったと思うんだよね。」

   「実際、奇跡然とした事は、歴史上記録されてるんだし。」


キン、思い当たる節があるといった感じで

キン 「ファティマとか、そんなやつね。」


しげ、キンの方を向いて

しげ 「そうそう、そういうやつ。」

   「神さま的に、奇跡は起こしたいけど、どうしよっかな~って時にどうするか。」

   「多分、そういう時は、偶然ってやつをフル稼働するんじゃないかと、俺は思うんだな。」


一同、よく分からず、疑問符を頭に浮かべながら視線を交わす

キン 「…偶然をフル稼働?」


しげ、楽しそうに説明する

しげ 「よく、超常現象を科学で解明する、みたいなTV番組あるよね。」

   「あれって、解明できて当然なんだよ。」

   「自身で創った法則は破れない。けど不思議は起こしたい。」

「んじゃ、どうするか。何とか理屈を付けて、この世の法則の範囲内で、奇跡っぽい事を起こすしかないじゃん。」


一同、唖然として

一同 「…はあ。」


しげ、前のめりになって

しげ 「この時、偶然に雲が…とか。偶然、光の加減が…とか。」

   「偶然、そこが帯電してて…とか。」

   「とにかく、そうした偶然を重ねに重ねて、何とか奇跡っぽいことを演出してくるわけ。」

   「だから、基本的に、超常現象ってのは科学で解明できるはずなんだよね~。」


一同、腕を組み、何かおかしいと思いながら、考え込む

しげ、フッと冷静になり

しげ 「あ、そうすると『偶然』が、一種の奇跡ってことになるかも…。」


アツシ、これに反応し

アツシ「今までの話を総合すると、こういうことですか?」

   「片思いのあの子に会いたいと、悶絶してる中学生がいます。すると空間をバリバリと引き裂いて、あの子が現れた…なんてことは起こらない。」


武田、汗をぬぐい

武田 「そら、ないわな。」


アツシ、一同を見渡し

アツシ「けれど、絶対会うはずもないようなところで、『偶然』、あの子に出会ってしまう。そういうことはあるわけだ…と?」


しげ、ガッツポーズをして

しげ 「そういうことよ!」

   「いやー、理解してくれて、ありがたい。」


キン、少し納得して

キン 「なるほど、ちょっと分かった気がする。」

   「『偶然』は、一種の奇跡か…。」


しげ、いい事を考えついたらしく、大きく目を開いて

しげ 「そうだ、まずは『偶然』は奇跡の一種だよって、民衆に教え込むんだ。」

「んで、うちには神の化身である武田さんがいるから、入信すれば、そうした奇跡が起こりますよって宣伝すれば良くない?」 


武田、額の汗をぬぐい

武田 「いや、だからそれも、詐欺に近いじゃないか。」


しげ、ニヤリと笑い

しげ 「大丈夫だって。」

「ほっといても、奇跡的な偶然なんか、誰でも経験するんだから。」


武田、引き気味に

武田 「いや…それでも…。」


しげ、得意げに

しげ 「もし、何も起こらなくても、『それは信心が足りないから』って言ってしまえば終わりよ。」


キン、ハンドベルを持って、カランカランと鳴らす

キン 「それ、採用!」


武田、アツシ、しげ、下を向いて

キン以外の3人

   「どっから、それ出したんだよ…。」


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