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美容姿な美容師
『 私の初恋は5歳の時、強制終了した。 』
シャキッーー・・
心地よい音が断続的に聴こえる。
清潔感のあるガラス張りの窓から射し込む日差しが、銀の刃物を光らせる。
「ホントに彼女いないんですか?」
甘えた可愛らしい声が、耳障りに聞こえる。
半年ほど前から2ヶ月に1度のペースで来店する固定客だ。指名客といってもいい。
都会から喧騒離れたこの田舎に足を運ぶ目的が、美容なのか美容師なのかは、もはや怪しい。
「残念ながら」
「うそー、芸能人みたいにカッコイイのに」
「御冗談を。ただの美容師ですから」
品を損ねない滑らかな話術で男は切り返す。
差し障りのない接客トークのどこまでが本心か、探るのは難しい。