表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話

 サラに私は心から同情したが、マリー姐さんに既に私は釘を刺されてしまっている。

 下手に私が金を出したのが、マリー姐さんにばれると、私がどんな仕打ちを受けるか。

 私は、サラに出せる金は無い、と断るしかなかった。

 サラは、逆上の余り、私を

「色情狂、サキュバス」

 と散々罵った上で、私の下を去って行った。


 幾ら何でもサラは怯えすぎだと、サラが私の下を去った時は思っていたのだが。

 実際、その翌日から、サラとその子ども2人の姿は、私の目に入る範囲からは消えた。

 私が小耳に挟んだ噂話だと、サラは絶望の余り、高利貸しの勧めに乗って、北アフリカに行き、子ども2人はユニオン・コルスの息のかかった孤児院に入ったとのことだ。

 サラはともかく、子ども2人の将来がどうなるか、私は想像したくも無かった。


 そうこうしている内に、彼が来る約束の日時が来た。

 幾ら何でも、又、来るはずがない、いや、来てほしくない、と私は思っていたが、彼は何ともないかのように私の下へきて、同様にお金を出した。

 私を陰で見張っていたらしいユニオン・コルスの若い衆が気を緩める気配がした。

 彼を私は、いつものベッドへと誘った。


 熱い情事を済ませ、お互いに気だるげな気配を漂わせる中、彼が尋ねてきた。

「何かあったようだね。話してもらえないかい」

 私自身、腹に溜めていたこともあり、彼にサラについて、私の知る限りのことを話した。

 私の話を聞き終えた後、彼は暫く考えた末に言った。

「皆、グルだったようだな」

「えっ」

 私は驚いた。


「恐らく、その高利貸しとマリー姐さんは、完全につながっている筈だ。下手をすると、医者もつながっているかもしれない」

「そんな。マリー姐さんは、基本的にいい人」

 彼は、私の言葉を身振りで遮って言った。

「表向きはね。でも、日本のヤクザも同じさ。仮面の表向きは、いい人の振りをするが、裏ではね」

 そんなはずはない、と私は言いたかった。

 でも、彼の言葉で、いろいろと私の頭の中の霧が晴れてくる。


「大体、君はともかく、街娼になるのは、家族の事とか、借金の事とか、いうのは定番だ。街娼のバックと金貸しと医者がグルになれば、街娼から幾らでも稼げる。それに、街娼が皆に好かれる職業かい。君自身、生活の品を買ったりするのに、マリー姐さんを頼っているのではないかい」

 彼は私に追い討ちを掛けた。

 私自身、思い当たる節があった。


 私が物を買ったりするのは、大抵、マリー姐さんが紹介してくれた店だ。

 なぜなら、街娼が出入りするのを、そんな客には来てほしくない、と大抵の店は嫌うからだ、と私は聞いており、実際、何の気なしに私が入った店から、私は半ば追い出されたことがある。

 だが、勝手に街娼の出入りを認めたら、ユニオン・コルスが妨害を仕掛けてくることがあるから、と考えると更に納得がいく。

 マリー姐さんの紹介してくれた店から買い物等をすることで、マリー姐さん、ユニオン・コルスの掌の上で、私達、街娼は更に搾取されることになる。


 私が背筋が凍る思いをしていると、彼は言った。

「ともかく早く逃げることだ。僕も後1月ほどしか来られないからね」

「えっ」

 私が絶句すると、彼は辛そうに言った。

「また、最前線に行くことになった。今度は生きて還れないだろう」

「そんな」

 私はそれ以上、声が出なかった。

 また、愛する人を私は失うのか。


「君にできる限りのお金を渡していくことにする。だから、それで、何とか逃げてくれ」

 彼は本当に辛そうだった。

「そして、もし、子どもが出来ていたら、それを僕の形見として育ててくれ」

 感情が渦巻く余り、声が出せない私は、ひたすら肯くことで彼に答えた。

「すまない。傍にいれなくて」

 彼は私を抱きしめた。

主人公と彼の運命が急転回しました。


ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ