第7話
サラに私は心から同情したが、マリー姐さんに既に私は釘を刺されてしまっている。
下手に私が金を出したのが、マリー姐さんにばれると、私がどんな仕打ちを受けるか。
私は、サラに出せる金は無い、と断るしかなかった。
サラは、逆上の余り、私を
「色情狂、サキュバス」
と散々罵った上で、私の下を去って行った。
幾ら何でもサラは怯えすぎだと、サラが私の下を去った時は思っていたのだが。
実際、その翌日から、サラとその子ども2人の姿は、私の目に入る範囲からは消えた。
私が小耳に挟んだ噂話だと、サラは絶望の余り、高利貸しの勧めに乗って、北アフリカに行き、子ども2人はユニオン・コルスの息のかかった孤児院に入ったとのことだ。
サラはともかく、子ども2人の将来がどうなるか、私は想像したくも無かった。
そうこうしている内に、彼が来る約束の日時が来た。
幾ら何でも、又、来るはずがない、いや、来てほしくない、と私は思っていたが、彼は何ともないかのように私の下へきて、同様にお金を出した。
私を陰で見張っていたらしいユニオン・コルスの若い衆が気を緩める気配がした。
彼を私は、いつものベッドへと誘った。
熱い情事を済ませ、お互いに気だるげな気配を漂わせる中、彼が尋ねてきた。
「何かあったようだね。話してもらえないかい」
私自身、腹に溜めていたこともあり、彼にサラについて、私の知る限りのことを話した。
私の話を聞き終えた後、彼は暫く考えた末に言った。
「皆、グルだったようだな」
「えっ」
私は驚いた。
「恐らく、その高利貸しとマリー姐さんは、完全につながっている筈だ。下手をすると、医者もつながっているかもしれない」
「そんな。マリー姐さんは、基本的にいい人」
彼は、私の言葉を身振りで遮って言った。
「表向きはね。でも、日本のヤクザも同じさ。仮面の表向きは、いい人の振りをするが、裏ではね」
そんなはずはない、と私は言いたかった。
でも、彼の言葉で、いろいろと私の頭の中の霧が晴れてくる。
「大体、君はともかく、街娼になるのは、家族の事とか、借金の事とか、いうのは定番だ。街娼のバックと金貸しと医者がグルになれば、街娼から幾らでも稼げる。それに、街娼が皆に好かれる職業かい。君自身、生活の品を買ったりするのに、マリー姐さんを頼っているのではないかい」
彼は私に追い討ちを掛けた。
私自身、思い当たる節があった。
私が物を買ったりするのは、大抵、マリー姐さんが紹介してくれた店だ。
なぜなら、街娼が出入りするのを、そんな客には来てほしくない、と大抵の店は嫌うからだ、と私は聞いており、実際、何の気なしに私が入った店から、私は半ば追い出されたことがある。
だが、勝手に街娼の出入りを認めたら、ユニオン・コルスが妨害を仕掛けてくることがあるから、と考えると更に納得がいく。
マリー姐さんの紹介してくれた店から買い物等をすることで、マリー姐さん、ユニオン・コルスの掌の上で、私達、街娼は更に搾取されることになる。
私が背筋が凍る思いをしていると、彼は言った。
「ともかく早く逃げることだ。僕も後1月ほどしか来られないからね」
「えっ」
私が絶句すると、彼は辛そうに言った。
「また、最前線に行くことになった。今度は生きて還れないだろう」
「そんな」
私はそれ以上、声が出なかった。
また、愛する人を私は失うのか。
「君にできる限りのお金を渡していくことにする。だから、それで、何とか逃げてくれ」
彼は本当に辛そうだった。
「そして、もし、子どもが出来ていたら、それを僕の形見として育ててくれ」
感情が渦巻く余り、声が出せない私は、ひたすら肯くことで彼に答えた。
「すまない。傍にいれなくて」
彼は私を抱きしめた。
主人公と彼の運命が急転回しました。
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