4、俺、ダサすぎだろ・・・
次の日から。
ミオは高校の友達と鎌倉駅の改札まで一緒に来て、後は駅員から見える改札の場所で俺を待つようになった。
そして、今日で4日目。
「ミオ。」
スマホを障るミオに声をかけると。
「トモくん。」
ぱぁっ、と花が咲いたような笑顔になった。
いや、可愛いけど。
何で、俺なんかにこんな顔できるんだろう。
まあ、先日。
サチさん曰く、『イケてる硬派マッチョ』にイメチェンをしてもらって。
ワックスまで渡され、髪のセットの仕方をしつこく指導され。
髪を切って初めて登校した日からずっと、やたらと注目を浴び、いつもは感じない女子の視線をなんとなく感じて。
一昨日、駅前で会ったノリオ君には。
「トモリン、かっちょぇぇっ!!」
と、大絶賛をされたが、イマイチピンとこない。
だけど。
「ふふっ。トモ君、やっぱり、格好よくなったー。私の友達も格好いいって言ってたよ?」
と、ミオが嬉しそうに俺の手をとり、ギュッと握るから。
ちょっと・・・ほんのちょっとだが、自信が持てた。
「ねぇ、トモ君って、甘いもの好き?この間、クッキーおいしそうに食べたよね?」
ミオが、いきなりそんなことを聞いてきた。
今まで俺は、人見知りで。
人と話すのってタローや商店街の仲のいい人以外・・・特に同年代の、女子なんて話す機会がなくて。
学校でやむを得ず話さないといけない状況の時は、本当に舞い上がってしまっていたが。
故だろう。
ミオとは、普通に話せる。
いや、一々可愛い表情やしぐさなどでドキリとするが、それでも話すことができる。
「甘いもんは、好きだ。ダチ・・・タローっつうんだけど、そいつの家が横須賀の駅前でケーキ屋やってて、よくそこのケーキ食わせてもらうし。この間のクッキーも、ジャスミンティーもすげぇ、旨かった。」
まあ、気の利いた事なんか言えやしないが。
だけど、自分の気持ちを素直に言える。
俺の答えに、ミオはにっこりと笑った。
そして、スマホを俺に見せた。
「私、鎌倉って学校に行くだけで回ったことないんだけど。ここの、和菓子屋さんのあんみつ評判なんでしょ?」
ミオのスマホを覗き込むと。
『みなもと甘味処』のホームページがひらかれていた。
思わず口角が上がるのが自分でもわかった。
「おおっ、友則が?女連れ!?」
店の戸を開けると、店主の水原さんが、目をむいた。
水原さんは、家のマンションの住人だ。
以前、水原さんが腰を痛めた時に、食材搬入を手伝ったことがあり。
甘いものが好きな俺は、よくここへ寄せてもらう。
陽気で気のいい人だ。
こんな俺のことも可愛がってくれる。
三代目で、40歳近いのにまだ独身だ。
昨年亡くなったが、水原さんの親父さんが痴ほう症を患っていて、ずっと店をやりながら面倒を見ていたことも理由としてあるのかもしれない。
注文を取りに来た水原さんに、友達、とぶっきらぼうに言ったが。
水原さんのニヤニヤがとまらず、イラッときて、水を飲んだ。
だけど、いきなりミオが。
「私の片思いで、今は友達ですけど・・・近い将来彼女になりたいと思ってます!」
「ブッーーーーー」
とんでもないことを言いだしたので、俺は、水を勢いよく噴き出した。
結局、いたたまれず、凄い勢いであんみつを食べ。
ミオに外で待ってると言い、俺は、先に店の外に出た。
ミオの言葉を思い返し・・・顔に熱が集中して、頭が混乱して。
俺は思わずしゃがみ込んだ。
俺は・・・からかわれているのか?
いや、ミオは、そんな人をからかうようなヤツじゃない。
だけど、俺なんかそんな風に思われるはずは絶対にないし。
一体、どういうつもりなんだ?
頭の中が、グルグルと混乱している。
その時。
「Are You OK?」
いきなり、英語で話しかけられた。
見上げると、金髪の若い女。
マンションに、小さいころから可愛がってくれるアメリカ人のじいちゃんばあちゃんが住んでいて、俺に英語を教えてくれたので、日常会話にはこまらない。
立ち上がって、英語で答えた。
「大丈夫。気にしてくれて、有難う。」
アメリカ人は大柄な人も多く、日本人ほど俺に違和感を持たないらしく。
昔から、俺は日本人よりアメリカ人の方が初対面でも緊張しないで話せた。
女に礼を言うと、女が俺をじっと見つめた。
「あなたって、イケメンだわ。ねぇ、私、最近父親の仕事で引っ越してきたの。よかったら、ここらへん案内してくれない?」
そういって、いきなりウインクされた。
驚いて固まっていると。
「トモ君っ!!」
ミオが焦ったように、俺の腕にしがみついてきた。
顔を見ると泣きそうだ。
そんな顔をミオにされると、何だか俺まで泣きそうな気持になる。
「連れがいるから、悪いけど案内できない。ああ、派出所がそこにあるから、道がわからなかったら聞くといい。それじゃ。」
俺はそう言うと、ミオの手を引いて歩き出した。
「・・・・ミオ、みたらし食うか?」
無言のまま、海の見える公園まで歩いてきてしまった。
さっきはいたたまれず、あんみつをかきこむように食ったので、なんだか食った気がしなかったし。
みたらしの屋台をみたら、食べたくなった。
首を横に振るミオに、俺が食いたいからちょっと待ってろ、と言ってみたらし10本とラムネ2本を買ってきた。
ラムネを1本ミオに渡す。
ミオが俯いた。
「ラムネ、嫌いか?」
俺の質問に、ミオが首を横に振る。
「今は飲みたくないのか?」
ミオはただ首を横に振る。
「どうした?」
「・・・・・・。」
無言で、首を横に振るミオ。
どうしたらいいかわからなくなって。
「俺なんかと一緒にいるのは、本当は・・・嫌なんだろ?」
つい、いつもの気持ちが口をついて出てしまった。
だけど。
そういった途端、急にミオが顔を上げた。
「そんなこと、絶対思わない!私はっ・・・トモ君ともっと一緒に・・・ずっと一緒にいたいのっ。」
「・・・・・・・。」
「トモ君が・・・好き・・・ずっと前から、好きだったの。」
「・・・え?」
「高校に入学したころ、駅員さんも見て見ぬふりしていた、大荷物もったおばあちゃんの荷物を運んであげていたトモ君を駅で見かけた時から、いいなあって思っていて。で、駅ですれ違ったりする時いつも気になっていて・・・さり気なく、誰かが飲んで置きっぱなしにしたペットボトルとかゴミを片付けたり、顔見知りなのかな、おじいちゃんとかおばあちゃんたちと優しい顔で挨拶したり、急いでいて走ってくる人とかにぶつからないようにさりげなく庇ったり・・・もう、トモ君見るたびにドンドンいいなぁって気持ちが強くなっていって・・・片思いだったの。」
「・・・・・・・。」
「トモ君?何か言ってよ・・・・って、ええええっ、トモ君っ、大変!!鼻血っ。鼻血が出てるっ!!」
生まれて初めてされた告白で、鼻血を出すって・・・。
俺、ダサすぎだろ・・・。