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3、お願いっていうか・・・命令?

サチさんの車は赤いスポーツタイプの、有名な外車のワゴンタイプだった。

咥えタバコで、はすっぱにハンドルを切る様は、やはり俺の想像した過去なのかも・・・と確信に近い気持ちになった。

いや、うまいけれど乱暴な運転も、それを物語っていて。


「サ、サチさんっ・・・俺の親父っ、警察官でっ、鎌倉署の署長だからっ・・・ちょっと交通違反するのはっ・・・。」


どう考えても、スピード30キロは軽く超えていると思う。

そう注意したのだが。


「えー、トモ君の親父さん、警察署長?へーえ・・・トモ君、旭谷って名字だったっけ・・・ふふっ・・・おしっ、相手に不足なしっ!」


サチさんは上機嫌でそういうと、グンッ、とまたスピードを上げた。


か、勘弁してくれ・・・。


後部座席に、ミオと2人ならんで座った俺は、ミオが怖がっているんじゃないかと心配で顔を覗き込んだが。

ミオはニコニコしている。

俺の視線に気がついたのか、サッちゃんの運転上手でしょーとのんきな事を言った。

その意外な反応に俺が驚いていると、運転席でサチさんが噴き出した。


「あはは・・・ね、トモ君。ミオって凄い天然でかわいいでしょっ!?」


ま、まあ・・・確かに天然の様だ。

ゴーイングマイウエイの元ヤンか、可愛い天然か、って聞かれたら・・・そりゃあ後者選ぶし。

俺は、とりあえず頷いておいた。







まさか、サチさんが、親父と知り合いだったなんて・・・。


「本当に、サチかっ!?・・・・10年ぶりくらいか?いやー、よかった、よかった!立派な大人になってたんだなぁ・・・。」


嘘だろ、親父・・・目尻に涙浮かべてるのか?


何故か、サチさんはグランドヒロセ鎌倉の地下に車を入れ、突然18階の中華レストランに行き、個室を頼んだ。

そして、携帯を出し。


「あ、鎌倉署?悪いけど、旭谷署長だして?・・・・・・・ええ?怪しいもんじゃないわよ?私、岸沙千っていうの。名前だけでも、いいから聞いてみてよ。」


いきなり鎌倉署に電話をして、親父を呼び出した。

だけど、その口調ではやっぱり怪しすぎて相手にしてもらえないだろうな、と思ったら。

予想に反して、親父はすぐにやってきた。

驚く俺に。


「私ね、中学、高校と悪くてねぇ・・・旭谷に、追い掛け回されてたのよ。そりゃぁもう、しつこくってねぇ・・・でもね、世話になったのよ・・・高校がどうしても合わなくて高校を中退して、なりたかった美容師になろうと思って東京へ行くことになった時、旭谷がさー・・・ここで壮行会してくれたのよ。」


驚いた・・・親父とサチさんが、そんなに親しかったなんて。


「おー、そういうこともあったなぁ・・・高校だけは出たほうがいいと言ったんだが・・・まあ、鎌倉花園のお嬢様学校だもんなぁ・・・お前にはキツかったよなぁ。親の結婚で、急に下町育ちがお嬢様だもんな・・・。」


聞けば、サチさんの母親とミオの父親は再婚同士で、サチさんが中2でミオが3歳の時に神奈川県の神城町に引っ越してきたそうだ。

ミオの父親はいわゆる高級官僚で、サチさんの母親は赤坂の売れっ子芸者だったそうだ。

サチさんの母親はそれはきれいな人だったが、きっぷがよく。

妻に先立たれたミオの父親とミオを放っておけなかったらしく、芸者をすっぱりと辞めて結婚したらしい。


だけど、思春期真っ盛りのサチさんは環境の変化についていけず、非行に走って・・・。

でも、ミオの父親が好きな道を選べと応援してくれたおかげで、美容師の学校へ行くことになり・・・そして、アメリカまで留学させてくれた。


「結局、あんなに反抗したのに・・・今の私があるのは・・・家族のおかげだ・・・なのに・・・あんなことになるなんて・・・。」


俯いた、サチさんに、親父が怪訝な顔をした。

俺もわけがわからず、サチさんを見た。


何のことかわからない親父と俺に、ミオが淡々と話しだした。


「1年前・・・私が中学3年生の時に、両親が乗っていたタクシーがワンボックスカーと正面衝突して・・・私が病院に駆け付けた時は・・・もう、2人とも心肺停で・・・結局、そのまま・・・・私・・・わけがわからなくなって・・・親戚もいないし・・・そしたら、タクシー会社の人が弁護士とか、色々な人を連れて来て・・・どんどん私に話をしょうとつめよってきて・・そこから少し記憶がなくて・・・気がついたらお姉ちゃんが帰国していて、お父さんの仕事関係の人が後始末をしてくれていて・・・。」


感情のない声で、ミオがそういった。

そこで、ハッ、と気が付いた。



「もしかして、さっき震えていたのは・・・ナンパが怖かったんじゃなくて、あいつらに囲まれたから、こわかったのか?」


ミオは可愛い雰囲気だが、かなり自分の意思ははっきりという。

ナンパされていても、嫌だとはっきり言っていた。


俺の質問に、ミオが困ったようにうなずいた。

呆然とする俺に、親父が顔を歪めて言葉を続けた。


「トラウマ、か・・・。」


親父の言葉にサチさんが頷き、話出した。


「タクシー側の方がワンボックスカーの方より過失が大きかったそうでね。それで、子供相手だから、少しでも補償を少なくさせようって、ショックを受けてるミオに、お構いなしに大の大人が取り囲んで詰め寄ったみたい。だけど、ミオが倒れて。それどこじゃなくなったんだけど。」


サチさんの言葉に、悲しい顔をするミオの手を俺は堪らなくなって、そっと握った。

案の定その手は震えていて。

やっぱり、縋り付くように俺の手を握り返してきた。


そんな俺たちを親父が不思議そうな目で見て、友達なのかと尋ねてきた。

そこで、サチさんが親父に俺達が知り合った経緯をざっと話し、親父に俺がミオを助けてくれたと礼を言った。


途端に親父が笑顔になった。


「そうか、友則が役にたったのか。そりゃあよかった。こいつは、こんな見た目だが、優しい子なんだよ。どうも、周りには誤解されてるんだけどな。」


親父が眉を下げてそういった。

別に、親父が俺のことをわかっていてくれたらそれでいい、そう思う。

なのに。


「本当に、トモ君は優しいです。こんなにやさしい人は、他にいません!」


ミオが可愛いことをいうから――


「あっらー。トモ君、純情少年!?顔まっかー!あはは・・・・強面なのに優しいところは旭谷によく似てるって思ったけどー。純情は似てないわねぇ。」


サチさんに速攻、容赦なく突っ込まれた。


「おいっ、俺のどこが純情じゃねぇっつうんだ?」


親父が、その突っ込みにギロリとサチさんを睨んだ。

この睨みはかなり恐ろしく、凶悪犯もビビる睨みで。

俺も、先日家の手伝いはしなくていいと言われた時、この睨みにビビり、それ以上反論できなかったのだが。


「あれー?息子の前で、歌舞伎町のキャサリンの話していいのー?」


平然と・・・いや、かなりの笑顔で返すサチさんに・・・俺は驚き。

更に。


「あ、いやっ・・・・その話は、せんでいいっ!!忘れろっ!!」


と、何故か焦る親父にもっと驚いた。


「だけど、今日は本当に助かったわ。そうだ、旭谷ー、お礼にあんたの息子のカットしてやったんだけどー、あんたの息子生意気でさー。こんなに格好よくしてやったのにー、髪黒にもどせ、坊主にしろ、って堅物もいいところー。でさ、その理由が、親父が警察官だから迷惑かけちゃいけないって・・・・まったく、どうやったらこんなにいい子に育つんだよって思ったら、旭谷の息子だったなんてねー。ちょっと、旭谷ー、これくらい別にいまどきどってことないでしょー?カットする前のほうがもっさくて、ある意味不気味にみられると思うんだけどー?」



言いたい放題の、サチさん・・・途中ほめられたんだろうが、何かほめられている気がしないし・・・。

微妙な気持ちになっていたら。

ミオがつないでいた俺の手をぎゅうぅぅぅ、と握ってきて。


ん?と、ミオを見ると。


「トモ君、凄く格好よくなったよ?」


何故か赤い顔で俺にそういった。

そんなことを突然言われて、俺も普通でいられるわけもなく。

その上、手をつないでいたことでも急に恥ずかしくなり。

不自然と思われないように、手を離し、店員に取り分けられた、目の前のスープを一気飲みした。


ら・・・。


あまりの熱さに、悶えた。


「ト、トモ君っ!?・・・大丈夫?お水、お水!」


慌てて、ミオが渡してくれた水を飲んでひと心地着くと。

目の前でニヤニヤ笑う親父と、サチさん・・・。


俺、ダセェ・・・。


だけど、落ち込む俺に、サチさんが頭を下げた。


「トモ君を見込んで頼みがある。旭谷にも来てもらったから、きちんとお願いするんだけど。トモ君・・・もし、時間があるのなら・・・うちのミオの友達になって、反対方向だけど・・・下校するときの送りをお願いしたいんだけど・・・・ああ、朝は私が時間があるから車で送ってるけど、帰りは、仕事があるから無理なのよね・・・でも、今日のようなことを聞くとやっぱり心配で。ミオね・・・わかったと思うけど、うちの親の事件で・・・人に囲まれたり、詰め寄られるってことがトラウマになってるのよ。カウンセリングを受けて随分よくなったんだけどね?でも、今日みたいに大勢で取り囲まれるのが一番ダメで・・・もとは、気が強い子なんだけど・・・このとおり、可愛いでしょ?だから大勢でのナンパなんてことになったら、途端に気分が悪くなると思うし。なにより、ミオがトモ君になついてるのよねー?ダメ・・・かしら?」


サチさんのお願いというのは、俺にとっては予想外の事だった。


「・・・・・・。」


驚きすぎて、声が出ない。


「トモ君・・・嫌?」


今度は、ミオが隣から俺の顔を覗きこんで聞いてきた。


「嫌・・・っつうか・・・・。」


「友則、お前どうせ暇なんだから、サチの頼み聞いてやれ。困ったときはお互い様だ。サチ、うちの友則でいいなら使ってくれてかまわんぞ?」


口ごもる俺に、親父がしびれを切らして、サチさんに勝手に返事をした。

サチさんは、ホッとした顔をして、よかったー、と言っているが。


だけど。


「トモ君のおじさん、ダメです。お願いするのはトモ君です。トモ君の気持ちを無視して、おじさんがいいって言ってくださっても、私・・・トモ君がいい、って言ってくれないとお願いできません。」


ミオがそうはっきりと親父に言った。

ナンパされていた時から、ちゃんと自分の意見を言うコだと思っていたが。

こんな強面の親父に対して、きちんと言い返せるなんて・・・スゲーな、と素直に思った。

見た目は、フワッとしていて天然で、可愛いタイプなのに・・・。


親父も、そんなミオに驚いたようで。


「おい、サチ・・・お前妹と血はつながってないよな?・・・・だけど、1本芯がとおって、気が強いの、そっくりだなー。」


ミオとサチさんを交互に見比べて、ゲラゲラと笑った。

サチさんは、うるせぇよ!と言いながらも・・・ミオを見てニコリと笑った。

それは、ミオが可愛くてしょうがないと、いう表情で。

一人っ子の俺からしたら、なんとなくうらやましい気持で、見ていたら。


「ああっ、もう・・・じれったいわねっ。トモ君!ぼーっとしていないではっきりしなさいよっ。どうなの?お願いしてもいいの?それとも、こんな可愛いミオの送りが嫌だって生意気なこというのかっ?ああっ!?」


今度はサチさんがしびれを切らしたように、俺を問い詰めてきた。


結構な迫力で。


俺は内心ビビリながらため息をつくと、チラリとミオを見た。


何故かミオはさっきから俺をずっと見ていたようで、バッチリと目があった。

う・・・・可愛い。

恥ずかしくなって、俯いた。


だけど、そこで手の甲の古い傷が目に入り。

現実に戻った。


俺は、顔を上げてサチさんを見た。

そして。


「俺に、そういう事を頼まない方がいいと思います。」


「は?・・・何それ?質問の答えになってないわよ?」


ギロリとサチさんが俺を睨んだ。


恐ぇぇ。


「いや、だから・・・俺みたいなのといたら、ミオが誤解されるか――「トモ君がいいのっ。トモ君みたいに優しい人、他にいないよっ!?」


ミオが俺の話を遮った。

どうもこの姉妹は人の話を最後まで聞かない傾向があるようだ。

俺は、もう一度ため息をつくと、ミオを見た。


「そうじゃなくて・・・駅で、ミオをナンパしてた奴らが俺を見て言ってた言葉・・・聞いていただろ?あれ、ここら辺の奴らみんなが思ってることだ。俺の外見がこんなんだからな。まあ、俺は昔からだから慣れているけど・・・俺と一緒にいたら、ミオにまで迷惑かかる。だから、俺は無理――「言いたい奴には言わせとけばいいんだよっ。」


今度はサチさんが話を遮った。


「いや、そういうわけに――「なに言ってんだっ。トモ君が、そういう風に思われてたら、かえって都合がいいだろっ?誰もミオに手をださないからな、一番安全だ!」


続けて、話を遮るサチさんに俺の言いたいことが言えない。

だけど、これを言っておかないと、と思い再び口を開くが。


「だ――「あーーーー、もうっ、面倒だからやめたっ。私のお願い聞いてくれなかったら、この定期、灰になるわよー?」


イラッとしたサチさんがそういうと、とんでもない暴挙に出た。


「・・・・・・。」


つまり。

サチさんが俺の定期をケースから出して左手に持ち。

右手で持ったライターを近づけたのだ。


これって、お願いっていうか・・・・・もう、命令だよな・・・・。






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