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2、お礼と言われても・・・

心臓は、色々な衝撃であり得ないほどドキドキしていて、脳内はパニックだった。


だけど、しばらくたって。

ふと、気づけば。

震える女子を助け起こそうとした手が、今もって離れず。

というより、離そうとした俺の手をぎゅっと握りしめている女子。


えーと・・・どうすれば、いいんだ?


女子の後ろに広告が書かれた鏡があり。

多分広告を出した会社が、通勤通学の人たちの身だしなみのためにという趣旨で、寄付をしたのだろうが・・・そこには、顔を赤くした俺が映っていて。


ダセェ、と思った。


あ、だけど。

さっきの女子の震えが止まっていることに気が付いて、それで手を離さないのだと察した。

でも、この後どうしたらいいのかわからず、固まっていると。


「あの・・・・。」


おずおずと言った感じで、何故か赤い顔の女子が口を開いた。


ん?

何で、顔が赤いんだ?

ああ、そうか。

人見知りか?

人見知り体質となると・・・他人事ではないな。


俺は、なるべく優しい口調でどうした、と尋ねてみた。


「あの・・・凄く図々しいお願いなんですけど・・・。」


「ああ。」


「湊学園ですよね・・・学校・・・定期通学ですか?」


「そうだけど。」


「あの・・・本当に図々しいんですけど・・・。」


「何?」


「私・・・家が、横須賀なんです・・・それで、さっきのチャラキモ男達・・・逗子とか、横須賀とかで降りるんです・・・だから・・・。」


何となくわかった。

って、チャラキモ男って・・・。


俺は心の中で苦笑しながら、繋いだままの手をぐいと引っ張ると、改札とは反対のホームへ向かった。


「良いよ、送ってやる。俺でいいなら。」


そう言うと、女子の顔がパアッと、明るくなった。

その顔にドキリとして、自分でも驚いた。

いや、実はさっきからドキドキしっぱなしだ。


「あ、あのっ、ほ、本当にいいんですかっ!?」


甘い声にまたまた、ドキリとして、それを悟られたくなくて俺は黙って頷いた。







丁度ホームへ行くと、電車がタイミングよく入ってきたのでそれに乗ったが。

車内はそこそこ込んでいて、座席に座るスペースがなく、奥のおっさんが座っている席の前に2人で並んで立ったが。

なんとなく・・・繋いだままの手に視線が集まっているような気がして、手を外した。

だけどその途端、女子の体がまた震え出した。


「おい、大丈夫か?」


驚いて声をかけ、先ほどまで繋いでいた手に触れると。

何故か、女子の震えは止まった。

そして、縋りつくように女子が俺の手を握りしめた。

仕方がないので、横須賀に行くまで手をつないでいた。




横須賀に着き、改札を出て女子に尋ねた。


「家まで送ってく。どこだ?」


すると、神城町だという。

神城町って、横須賀で一番の高級住宅地だろ。

綾乃ちゃんが住む商店街とは反対側に位置する町だ。

そこは上品で、高級な店が並んでいる。

横須賀というより、そこだけ都会の街という感じだ。

まあ、規模は小さいが。


俺は改めて、女子を見た。

鎌倉花園学園の制服だ・・・ここらへんじゃ、すげぇお嬢様学校だ。

何となく、納得して神城町に向けて歩き出した。


まあ、駅から15分くらいだからな。

だけど、ここら辺は女子にとって地元ってことだよな・・・・俺みたいに人相の悪い男と手なんてつないでいたら、ロクな噂たてられかねないよな・・・。


俺は、そっと手を離した。



だけど、その途端また女子の体が震えて、縋るような眼で俺を見る。


「手、つないでいた方がいいか?・・・だけど、俺みたいなヤツと手をつないでいたら、変な噂たてられるぞ?」


「だいじょうぶっ・・・ですっ・・・お願い、手をつないで下さいっ。」


そう言うと、女子は俺の手にすがりついて来た。

その様子があまりにも、必死で・・・何となくほっとけなくなった。





女子の家は、滅茶苦茶お洒落で高級な感じの美容院だった。

いや、エステか?

さすがに家の前までくると、女子はホッとした顔になった。

よかったと思い、俺はそれじゃと言って、踵をかえそうとしたが。

繋いでいた手を女子が離さず、引っ張った。


「あのっ、よかったら・・・お茶でも飲んで行って下さいっ。」


「いや・・・あの・・・。」


「凄く迷惑なことお願いしてしまって、せめてお茶でもごちそうしないと・・・。」


「気にしなくていいから。」


男に絡まれて怯えていた女子を放置した方が、気になって絶対後悔しただろうから。

結局こうやって無事家に送り届けた事は、自分自身のためでもあったのだし。

しかも、ドキドキし続ける心臓がもたないかもしれないと・・・そう思って、遠慮したのだが。


「気にしますっ!絶対に気にして今晩眠れません!」


変な、宣言をされてしまった。


「えーと・・・・。」


どう返していいのか分からず、固まっていたら。



「ミオ、帰ったの?外で何しているの?」


と、店の中からお洒落な美人が出てきた。

が、俺を見るなり、ワッ・・・と、声を上げた。


まあ・・・これが、普通の反応だよな。

だけど、すぐに俺と女子が繋いでいる手に目をやって。

もう一度俺を見た。

そして、何故か俺の顔を見てニヤッ、と笑ったと思ったら。


「あ、お友達なんだ。今お客さんいないから、よかったらお茶飲んで行ってー。」


そう言って、店の洒落た扉を大きく開けた。



え?

何なんだ?






「そっかー、それはそれは、ミオがお世話になって。どうもありがとうね?」


お洒落な美人は、女子の姉で、サチさんと名乗った。

で、女子はミオって言うらしく、サチさんとここで2人で住んでいるらしい。


ミオがジャスミンティーを入れてくれた。

店の中は冷房が効いていて、ホットで飲むジャスミンティーは旨かった。

ナッツの入ったクッキーも出され、旨くて夢中で頬張った。

何故か、ミオがそんな俺をニコニコしながら見ていて。

またまたドキリとしたから、慌ててサチさんに言葉を返した。


「い、いや・・・別に大したことじゃないし・・・親には早く帰ると、もっと友達と遊んで来いって言われるんで・・・時間もあったから、気にしないで下さい。」


「えっ、そうなの?じゃあ、時間があるんだ?」


俺のしどろもどろの言葉に、サチさんが素早く反応した。


「ええ、まぁ・・・そうっす。」


嘘もつけず肯定すると、サチさんは夕飯をごちそうすると言いだした。


遠慮する俺にサチさんは、強引に、決めたっ!と言って、店のドアの外にかけてある札を営業中から、準備中にしてしまった。

そして、いたずらっぽい顔で、髪随分伸びてるから切ってあげる、と無理矢理俺を鏡の前のイスに座らせた。


まあ、確かに・・・綾乃ちゃんへの傷心で、何もする気になれず、タローの家でダラダラしていたので、いつも5分刈りの髪は結構ボサッ、と伸びていて・・・さすがにお袋に今度の週末には床屋へ行けと言われていたので丁度いいことはいいのだが。


これ以上遠慮するなと、サチさんの無言の圧力もあって俺はだまってサチさんに身を任せた。

って、姉妹でかなり正反対のタイプだよな・・・。

ミオは、身長はそこそこあるけど、ほっそりしていて可愛いタイプで。

だけど、サチさんは姉ということもあるのか、綺麗系で背が高くスタイルがよく。

このとおり、押しが強く・・・姉御肌と言えるタイプだ。

はっきり言えば、妙な迫力がある。

いや、ぶっちゃけ・・・元ヤンっていう感じもするし。

ちょっと、恐い・・・。


「あーちょっと、髪いたんでるから、トリートメントしていい?時間あるんだよねぇ?」


もともと5分刈りの髪が痛むのか?と少し疑問に思ったがまあ、1ヶ月以上床屋にいっていなかったからな・・・と思い、俺は目を閉じた。


俺は昔から変な癖があって、髪を触られると眠くなる。

だから、床屋へ行くといつも寝てしまう。

今日もその癖が、うっかり出てしまい・・・・。





――パコンッ!!


気がついた時には、頭を何かで叩かれていた。

何事かと思い目を開けると、目の前にはデカい、見知らぬ男がいた。

でも、どこかで見たことある・・・・?



「もー、爆睡なんだもの。やりにくいったら・・・でも、まあ。おかげで好きにできたけどねー。」


サチさんの声にハッ、とした。


「・・・・・・えええっっっっ!?」


目の前にいたのは、鏡に映った自分だった。


いやっ、だけどっ・・・。


「うわっ、トモ君、格好いい!!」


知らない間に、うすいブルーのミニのストンとしたワンピースに着替えた、ミオが鏡越しに俺を見つめてニコニコしていた。


って、滅茶苦茶可愛い・・・。

いや、そんなことより。

トモ君って・・・確かに旭谷友則って、名前は言ったけれども。

いきなり、トモ君って・・・。

一気に、顔に熱が集中した。

いやいや、それよりも、今は・・・・・。


「でっしょー?見違えたでしょっ!?これね、ソフトモヒカンボウズっていって、トモ君みたいにガタイが良くて、迫力のある男子に似合うのよねー。で、黒じゃちょっとつまらないじゃない?だからー、ちょっとブラウンにカラーリングしたのー。気に入った?まあ湊学園じゃ、これくらいOKでしょー?」


黒じゃつまらないって・・・。

茶髪って・・・。

これくらい、OKって・・・。

あり得ねぇだろっ!?


固まる俺に、本当ににあうでしょう?と、サチさんが同意を求めるが。


俺は、ため息をついて、サチさんを見据えた。


「すみませんが、髪、黒に戻してもらえませんか?それから、全部坊主にしてほしいんですが。」


そう言うと、サチさんの眉間にシワがよった。


「直すなら、代金、100万円取るわよっ!せっかく、似合っているのにっ!」


そんな、無茶苦茶な・・・。

いや、この人ならやりかねない・・・。

そんな気がした。


俺は立ちあがった。


「じゃあ、自分で黒にしますから、良いです。坊主も、駅前行けば床屋があるし・・・これで、失礼します。」


俺は、リュックを手にすると、出口へと歩き出した。

だけど。


「別にいいけどー。定期無くて、電車乗れるの?」


とんでもない言葉に、ギョッとして振り返ると。

サチさんが悪魔のような笑みをたたえて、俺の定期入れをブラブラさせていた。


「困りますっ!」


「じゃあ、なんで、黒に戻したり似合っている髪型坊主にするなんていうか教えて?自分ではここ最近ではダントツ満足な出来なんだけど?あなた素材が良いのに、もっさい髪形で損してるし。」



言いたい事をいうサチさんに俺は、諦めたようにため息をついた。



「親父が・・・警察官なんです・・・で、俺・・・見た目がこんなんで、目つきも悪いから、昔から不良に間違えられて。絡まれて防ごうと抵抗すると力だけはあるから相手が怪我してしまったりで、結局俺が悪い事になって・・・親父が警察官なのにって、責められて・・・迷惑かけどうしだから・・・見た目をこんなんにしたらますます悪いように思われるし・・・だから――「わかった!ミオ、戸締りして!出かけるわよっ!」


人が喋っているのに途中から割り込んでそう言うと、サチさんはテキパキと店の戸締りをし出した。


ゴーイングマイウェイだな・・・。



「あの・・・?」


戸惑う俺にサチさんが、夕飯は鎌倉で食べましょう、お礼よ!と言って、車のキーを手にした。


いや、もう、お礼なんていいし・・・・。


だけど俺には・・・我が道を突き進む強気なサチさんにそんな口応えする勇気はなかった――


その前に、定期券返してもらってないし・・・。






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