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第8章 -反撃の狼煙-

職員室では、未だ障壁を全て破れず攻撃が続いていた。

流石の教員勢にも疲労が見られる中、悠の攻撃は一人激しさを増していた。

残る障壁は3枚。これなら一人でも十分と判断した悠は、魔装を発動する。

「魔装‼︎」

悠の全身を激しい炎が包み、その熱が内側に凝縮されていく。

紅と金色に染まるその鎧は、鳥の仮面と女性らしいシルエットを強調するデザインだ。

『ぜあっ‼︎』

悠の拳の一撃が、あれほど手こずっていた障壁にあっさりとヒビを入れる。

だが、その強烈な一撃の反動で、悠の腕にもまた亀裂が生じた。

しかし、金色の炎が腕を包み、まるで傷などなかったかのように元の姿に修復した。


【魔装・フェニックス】

不死鳥の力を持つ悠は、その驚異的な再生能力に任せて反動を考慮しない常識外れの戦法を取る。

傷を瞬時に癒し、致命傷を負っても灰の中から復活する。

さらに炎魔法でブーストされた一撃の破壊力は想像を絶するもので、魔力の尽きぬ限り無限に常に必殺の一撃を繰り出し続ける。

教員の中でも数少ないSランクを誇る悠は、かつてこの能力でトーナメントの1位の座にまで昇りつめた。


怒りに震える悠の拳が、残りの障壁を破壊し尽くすまでそう時間はかからなかった。




「来るぞ!」

生徒会室を目指す焔たちは、触手の群を真っ向から倒しながら進んでいた。

焔のアドバイスに従い、ミラが効率良く触手の動きを奪い、ハークと燿子で斬り刻んでいく。

焔は瑛里華に付き添い大きな動きは見せないが、的確な指示と目を見張るような身体能力で後をついていく。

生徒会室は校舎の東側の4Fにあり、中央棟を隔てて普通科の校舎が対になっている。

焔たちの教室からは遠く、辿り着くのは少々厄介だ。

ちなみに、中央棟の2Fには職員室があり、先ほどから振動が絶えず響いてくる。恐らく障壁を突破しようとしているのだろう。

「そもそもなんで生徒会室なんだ⁉︎生徒会の人たちと共闘するってことか⁉︎」

余裕が生まれてきたのだろう。ハークが戦いながら尋ねてくる。

「そうだ!教員が動けない今、この学園の一番の戦力だろう?」

「しかし、だとしたら生徒会室にはいないのではないか⁉︎とっくに生徒たちを逃しにかかっているだろう!」

「フェリシアには万が一の時の対処法と、連絡が取れないときに落ち合う場所を記しておくよう伝えてある!生徒会室には、どこに生徒を非難させるかの指示が残っているはずだ!」

「え?フェリシア先輩と知り合いなのか⁉︎ていうか呼び捨て⁉︎」

「どこに反応してんだ!前見ろ前!」

「魔力探知で探せないのか?焔得意なんだろ?」

「今は無理だ!あちこちで魔力反応がある上に、職員室でデカい反応がありすぎてわかりづらい!第一、グリードの気配だらけでそんな悠長なことはしてられない!」

「それもそうか!」

と、生徒会室の扉が見えてくる。

「クソ、着いたはいいけど、中でゆっくり探し物してる暇はなさそうだぞ!」

「仕方ない…」

もはや自分の力がバレるのも時間の問題だ。ここらで敵を一掃してやろうかと構えた瞬間、目の前の触手が後ろから飛んできた何かに射抜かれ、爆散した。

「うお!」

触手の向こうには、弓矢を構えた刀那がいた。

「焔!こっちよ!」

焔たちの後ろからも触手が迫るが、廊下一面が真っ黒に染まったかと思うと、影から伸びた無数の鎌の形の刃が触手を切り刻む。

と、焔の影から刹那が現れた。

「…無事?」

「もちろん!」

「みんな伏せて!」

焔たちが伏せると、刀那が高速で矢を連射する。

弾丸の速度で飛ぶその矢は、刀那の得意とする大地属性の魔法で作られており、ダイヤモンド並の硬度と着弾時に内側から爆散するという特性を持つ。

それが一気に放たれたのだ。迫っていた触手の群れは、あっという間に肉片と化した。

「す、すげえ…」

「流石フェリシア先輩の側近にして、学園3位と4位…」

「刀那、刹那、ありがとう。流石だ」

「フェリシア様が、まだ焔の魔力を感じないって言ってた。控えてるの?」

「この後大事な用があるんだ」

「…一度落ち着いたから、フェリシア様たちに防衛を任せて貴方を迎えにきたの」

「時間がない。行こう!」

一行は現在の避難場所、普通科校舎側の第二体育館へと移動した。




「焔、来たか」

「フェリシア。無事か?」

「私は問題ないが、既に多くの生徒が…」

体育館では、普通科の生徒が避難している中にまばらに魔法科の生徒がいた。

ここまで戦い通しだった4人は流石にへたり込み、刀那と刹那が出してくれた水を煽っている。

「焔の指示通りだ。奴らは魔法を持たない普通の人間は襲わない。魔法科の生徒たちには魔力抑制剤を投与して、普通科の生徒の中に紛れ込ませている。おかげで、探知されずに済んでいるが…」

「魔力抑制剤も数に限りがある。ここを守っているのは?」

「生徒会のメンバーと、ランキング上位の生徒に声をかけている。極力魔力は抑えてもらって、障壁の内部は概ね探索済だ」

「職員室の障壁が薄くなっているのを感じる。教員が脱出したら反撃に出るぞ」

「本体のアテは?」

「そこそこのサイズに成長しているはずだ。他に広い場所は……」

「あ、あの、生徒会長」

「ん?どうした?」

恐る恐る、一人の女子生徒が声をかけてきた。

「私、反対側の第一体育館から逃げてきたんです。そこで、えと、誰かは知らないんですけど、壁であいつらを足止めしてくれた人がいて…」

「壁?」

「壁っていうか、迷路?私、トーナメントに出てないからよくわからないんですけど、魔装の能力で、たぶん…」

「確か、去年のトーナメントでそんな能力を使う生徒がいたな。男子だった」

「その男子には心当たりがあるな。なんだ、思ったより男じゃねえか」

「あ、はい。男子でした。それで、私最後の方だったんですけど、最後に体育館の中に一際大きいのが入ってくるのをチラッと見て…。ほ、本当に一瞬で、ちゃんと確認はしてないんですけど、でも他のと違って丸っこくて…」

「そうか。よく教えてくれたな。その男子生徒は?」

女子生徒は俯いて首をふるふると横に振る。

「わかった。ありがとう。もう休んでいてくれ」

フェリシアは優しくその子の頭を撫で、戻るように促した。

「反対側の体育館か」

「うむ。まあその辺りだろうとは思ったが。どうする?」

「もちろん倒しに行くさ。ただ、ちょっと問題があってな」

「問題?」

「俺と一緒に逃げてきた瑛里華、ほら、あのお下げの子。あの子、伊織の彼女なんだ。瑛里華を伊織のところまで連れていく約束をしてるんだ」

「大丈夫なのか?辿り着いて手遅れだったら…」

「まあ普通は助からない。でも、今回は可能性があると思ってる」

「…お前がそう言うんだ、何か根拠があるんだろう。わかった、ならばグズグズしてはいられない。刀那!刹那!」

「「はい!」」

「悪いがもうひと仕事頼みたい。職員室の障壁がそろそろ破れてもおかしくない頃だ。先生方を連れてきてくれ」

「了解!」

「…任せて」

2人は体育館を飛び出していく。

「ここの防衛は教師たちに任せる。俺は瑛里華を連れて行くが、人手がほしい」

「もちろん私たちも共に行こう」

「頼もしいな」

「焔!」

方針が決まり、話が纏まろうとしたところでミラたちが額に皺を寄せて近づいてきた。

「お前たち…」

「なに勝手に話を進めてんのよ。私たちも行くからね」

「あのな、本当は瑛里華1人でも十分危険なんだ。お前たちを守る余裕はない」

「ここに辿り着くまで戦ってたのは私たちよ!それに、伊織は私たちの友達でもあるの」

「ここまで来ては引けないな。やられっぱなしで終わる気はない」

「自分の身は自分で守る。美味しいとこだけ持っていこうったってそうはいかないぞ」

「あぁ、もう、これだから若い連中は……」

「同い年だろ!」

「私は構わんぞ」

「フェリシア!勘弁してくれ……」

「だから、焔と会長ってどういう関係なのよ……」

「どうせ引かないんだ。背中を守ってもらえる仲間がいて損はない」

「わかった。わかった。刀那と刹那が戻り次第出発だ」

「わかったわ」

「うむ」

「任せろ!」

(さあ、もう一踏ん張りしてくれよ…)

若き騎士たちは、友のために最後の決戦の覚悟を決める。


15分ほどして、刀那と刹那が教師たちを引き連れて戻ってきた。

焔とフェリシアはグリードの本体を討伐しにいく旨を伝えるが、

「絶対に駄目だ‼︎」

悠の怒号が飛ぶ。

「ちょ、近衛先生落ち着いて…」

「行くというなら私が行く!これ以上生徒を危険な目に合わせてたまるか!」

「目立つ目立つ!こっちへ…」

焔とフェリシアは悠を引っ張って倉庫の中へ入る。

「教師に動いてもらうわけにはいかない」

「私に生徒が死地に赴くのを見送れというのか!」

「死んでたまるか。友達を助けに行くだけだ」

「私たちは間抜けにも、生徒を守るという責務を果たせなかった!鬼城、お前が普通の生徒でないことは気づいているが、それでもこれは私たちの仕事だ」

「学園の内部に今回の犯人がいる。瑞乃さんから聞いてるだろ?」

「‼︎ 何故そのことを…」

「対処が甘くてグリードの復活を許したのは俺の責任だ。始末は俺がつける」

「⁉︎ お前は一体何者なんだ…?」

「俺は陽ノ森の家の出身。書類上は星宮夫妻の息子だ」

「まさか、お前が瑞乃先輩の…?」

「瑞乃さんには話していないが、裏切り者は教員の中にいる」

「そんな…!」

「教員を伊織の下に向かわせるわけにはいかない。これは俺の仕事だ」

「鬼城……」

「近衛先生、私は焔の昔からの知り合いです。グリードによるテロが起こる可能性も、万が一の時の対処法も、私は全て焔からの指示に従って動いていました」

「通信は妨害されているが、俺の仲間がこの学園を監視している。既に事態は終息に向けて動いているんだ。今一番重要なのは、生存者を助け出し、裏切り者をあぶり出すことだ」

「近衛先生、私たちに任せて下さい。必ず全員戻ってきてみせます」

「……信じていいのか?」

悠は顔を覆い、溢れる涙を拭っている。

「私は何もできなかった。尊敬する先輩が、私を信じて危険を伝えてくれたのに…。生徒目の前で苦しんでいたのに…」

「悔しいのはみんな同じだ。もうこれ以上、好きにはさせない」

「……頼む」

悠は消え入りそうな声で、生徒に希望を託した。




焔、ミラ、ハーク、燿子、瑛里華、フェリシア、刀那、刹那の8人は、グリードの本体がいる第一体育館を目指して歩みを進めていた。

先頭は焔と刹那、殿はフェリシアと刀那が務めている。

直線で最短距離を進みたいところだが、囲まれて身動きが取れなくなるのを防ぐために魔法科の校舎から渡り廊下を通って体育館へ入るルートを選択していた。

「ねえ焔、魔方陣の生け贄にされると、普通はどうなるの?」

「最初の養分だな。骨も残らない」

「っ!じゃ、じゃあ、やっぱり…」

「生き残った例はあると言っただろう?ちゃんと理由はある」

「どんな?」

「ふむ。話すより見せた方が早い」

廊下の先にある教室から3本の触手が姿を現し、こちらに狙いを定めていた。

刹那が影に潜ろうとするが、焔は1人で十分だと、それを手で制する。

向かって左側の触手が勢いよく飛び出してくると同時に焔も地面を蹴り、廊下の中央でぶつかる瞬間、思い切り左腕を振り下ろして触手を床に叩きつける。

ぐちゅ、という音がして、潰れた触手からは体液が滲み出るが、それでもまだ苦しそうに蠢いている。

「うそ⁉︎」

「はあ⁉︎」

人間離れしたパワーに、はじめて焔の戦闘を目にするミラたちは驚きの声を上げる。

残りの2本が怒ったように奇声を上げて迫って来るが、焔は左腕で1本を押さえつけたまま右手を前にかざした。

「やかましい」

カッ!と焔の右手に魔力が集中し、眩い光と共に雷が放たれる。

『ギャアアアアアアアアアア‼︎』

廊下を埋め尽くすほどの質量の雷が、一瞬で触手を裂き、焦がし、跡形もなく消し去っていく。

触手に直撃しても止まらない雷は、遅れて響いた雷鳴と共に後ろの教室を突き破り、校舎の一角が跡形もなく消滅した。

「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」

フェリシアは顎に手を当てて「ほう」と眺めていたが、ミラたちは目の前の光景が信じられず、顎が外れそうなほど口を開け、飛び出そうなほど目を見開いている。刀那と刹那も流石に引いていた。

焔が押さえつけていた触手も半ばから消滅していたが、まだ僅かにピクピクと痙攣している。

焔は無言でそのまま拳を振り上げ、今度こそ止めを刺した。

そのままズルズルと触手の先端を引きずりながら戻ってくる。

「焔、流石にやりすぎだぞ」

「加減を間違えたな」

攻撃の威力にも衝撃を受けたが、あれだけの魔法を使っても尚平然としている焔を見て、ミラたちは驚きを通り越して戦慄する。

「おい、おいって!凄い顔してるぞお前ら…。ほら、これを見ろ」

持ち帰った触手の口をガバっと左腕で開き、中に右手を突っ込んで電撃を流す。すると、ビクッと跳ねた後、口内に隠れていた牙がゆっくりと現れた。

「牙?」

「そうだ」

「喰われたらひとたまりもないな…」

「そこだよ」

「え?」

「こいつには牙がある。当然、獲物を細かくして魔力の吸収効率を上げるためだ。それと……」

今度は千切れた胴体部分を軽く潰す。中から体液が滲み出し、床を濡らした。

「これは何だと思う?」

「は、はあ?」

「なんてことない、ただの汚い体液だ」

と、瑛里華が違和感に気が付いた。

「消化液じゃないの?」

「そう。その通り。本来なら腹からは消化液が出てくるはずだ。たが、これにはほとんど酸性がない」

「食べてるのに、消化してないってこと?」

「え?どういうことだ?」

「ミラが言った通りさ。飲み込むが、噛んでないし溶かしてない。それじゃあ栄養にはならない。食べるしか能のない魔獣の機能を果たしてない」

「誰かがグリードをコントロールして、その機能を妨害していると?」

「その通り。牙を隠し、消化液を中和し、この化け物を抑え込んでる」

「それを、伊織が?」

「他には考えられない。あいつは、この数週間できっと魔方陣の構造を知り尽くしてるはずだ」

瑛里華は涙を堪え、ハークとミラは強く拳を握る。燿子も瞑目していた。

「あ、てことは、もしかして今まで食べられたみんなは…?」

「血の痕がどこにも見当たらない。まだ生きてる可能性が高い」

「そっか……生きてたんだ……」

「おい、ここで気を抜くのは早いぞ。今は生きていても、いつ手遅れになるかわからない」

「ああ、その通りだ。我々が助け出すんだ」

「ああ!」

「オウ!」

「ええ!」

希望の光はより一層強くなる。


第一体育館。中からは得体の知れない唸り声が響いてくる。

触手の発する奇声とは違い、獣のそれに近い低い声だった。

「伊織、今行くからね」

瑛里華が扉を開き、一向は決戦の場へと足を踏み入れた。

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