プロローグ -雷鳴-
はじめまして。仮面堂と申します。
この作品は、私の夢と理想と妄想が詰まった趣味の世界です。
きっと、この「小説家になろう」の中にはそんな同志の方がいらっしゃるんじゃないでしょうか?
しかし、趣味は趣味なりに、多くの方に少しでも多くの方に面白いと思って頂ける世界を広げていく所存です。
どうぞ、少しの間この物語にお付き合い頂ければと思います。
仮面堂
『ターゲット3名、人質1名、屋上へ出ます』
「了解。標的を確認した」
4月某日、都内某所。
オフィス街にあるとある政党の本部ビルに3人の魔法使いが侵入。24名を人質に取り約14時間に渡って立て篭もる事件が発生した。
犯人たちの要求は人質の1人であった、とある衆議院議員が不正に隠蔽していた魔法使いに関する事件の証拠の提示と謝罪だった。
警察の交渉にも応じず、23人の人質を手放し、件の議員1人を連れて犯人たちは屋上へと退避。現在に至る。
「警官隊は攻めあぐねているな」
俺は立て篭りのあったビルより4F高い斜め向かいのビルの屋上から双眼鏡で様子を伺っていた。
右耳に着けた小型の通信機を通して抑揚の少ない若い女性の声が応えてくる。
『彼らの標的はあくまであの議員です。捕まることも死ぬことも恐れていないようです』
「犯人の情報は?」
『はい。まず議員を連れている大柄の男は勝山健司。元魔導学園42期生でレスキュー隊員。魔装は鉄の神カナヤマヒコ。地属性の魔法使いで、Bランク。
次に後方に控えている眼鏡の男は松野省吾。元魔導学園42期生。IT系企業の社員で情報及び技術担当だと思われます。魔装はインド神話の神鳥ガルダ。風属性の魔法使いで、Bランク。松野は逃走要員でもあるようです。
最後にリーダー格の男は本郷弾。元魔導学園42期生。自警団横須賀基地の桂馬です。魔装は炎の精霊サラマンダー。炎属性の魔法使いです。ランクはAランク。本郷は今回の主犯と見られています』
「全員同期か」
『彼らの同級生で一昨年殉職した警察官がいます。しかし記録はアクセス制限が設けられており、世間には公表されていません』
「その情報操作の黒幕があの議員だと?それが動機か」
『そのようです』
「……いいんじゃねえか? そんなしょーもない議員1人」
『そうはいきません。上からの命令ですから。しょうもなくても、政界的にはそこそこの影響力を持つ人物です』
「んなことで駆り出されてもな…」
『総理は我々を動かしたと主張することで貸しを作るつもりなのでしょう。それに、貴方は最近任務に顔を出していませんでしたから』
「仕事しろ、ってか?」
『本職でないのは承知ですが、小言が減ると思えば。我々も人出不足ですから』
「仕方ない、大事な予定も控えてることだ。ちゃっちゃと済まそう」
『犯人たちが屋上の端まで下がりました。チャンスです』
「了解。魔装!」
「退がれ!来るんじゃねえ!」
「た、助けてくれぇ!」
「ガタガタ騒ぐな!健司、やれ!」
「オウ!」
屋上で人質の議員−足利愼太郎を盾に本郷、勝山、松野の3人は警官隊を牽制していた。
『ロック!』
魔装した勝山が地面に魔量を送り込むと、地面が隆起し屋上と屋内への入り口が魔法で作り出された岩によって塞がれた。
それにより押し寄せていた警官隊は先頭に立っていた3人を除いて屋上に出られなくなってしまう。
警官隊を率いていた刑事の男が塞がれた入り口に歯嚙みしながらも、本郷たちに銃を向けながら最後の警告を試みる。
「もうやめるんだ!お前たちにこれ以上逃げ場はない!」
「逃げ場だと?笑わせるな!俺たちの目的はこのクソジジイの謝罪と、ロクに葬式もできなかったあいつの遺族への賠償だ!ハナから逃げる気なんざねえ!」
「刑事さん、ロクな装備も人手もないあなたにもう出来る事はない。被害者を増やしたくないのなら、そこで黙って見ていて下さい」
『さあ、そろそろ答えを聞かせてもらおうか』
勝山は魔装のまま足利議員の胸ぐらを掴んで持ち上げると、ビルの外へと突き出した。
「や、やめろぉ!やめてくれぇ!」
「足利!ここで死ぬか、自分の非を認めて遺族に、国民に泣いて土下座するか、二つに一つだ!」
「わ、私は悪くない。私はただ国を守ろうと…」
「国だと?お前が守ったのは支持率と自分の金だろうが!」
「どこまでも呆れた議員だ…」
「もういい。健司」
『馬鹿は本当に死んでも治らないのか、試してこい』
そう言って勝山は掴んでいた手を離し、足利は地上15階から悲鳴と共に地面へと落下していった。
「貴様ら!」
刑事は青ざめた顔で叫ぶが、本郷たちの眼に浮かんでいたのは悲壮だった。
「よお。こんなスッキリしない終わり方になるとは思ってなかったぜ」
本郷はそう言いながら両手に炎を宿して刑事たちの方を向く。
「やっぱりお前ら人間は……!」
まずい。刑事の直感がそう告げるが逃げ場はない。
一か八か、魔装される前に仕留めようと引き金に手をかけたそのとき、
「あああああ!」
ビルから落下したはずの足利議員が、本郷たちの方ではなく刑事たちの後ろから、まるで誰かに放り投げられたかのように手足をバタバタさせながら飛んできた。
「ぐわあ!」
「「「!」」」
全員がその事態に目を丸くする。
『貴様なぜ』
「ぎ、議員、大丈夫ですか?」
「痛い!骨が!クソ、あの男」
見るからに着地に失敗していたせいか、手も足も押さえられずに足利議員はのたうち回る。
『このっ…!』
「待て!」
足利議員の方へ飛び出そうとした勝山を本郷が静止する。
「何かいるぞ…」
3人は辺りを見回すが、周囲に変わった様子は見られない。
(魔力を感じない?そんな馬鹿な、足利は誰かに助けられたはずだ)
足場もない高層ビルの屋上から突き落とされ、しかも反対側から帰ってきたということは空を飛べる魔法使いがいるはずだ。
「省吾、俺たちも…」
魔装を、と言おうとした本郷の言葉を遮るように空が光り、稲妻が魔装ごと勝山を直撃、少し遅れて雷鳴が轟き、そこにいた面々の悲鳴や叫び声を掻き消した。
「健司ぃぃぃ!」
「クソッ、魔装!」
松野はガルダの鎧を纏い、ビルの外へと飛び立つ。
「省吾やめろ!」
本能的に危険を察知した本郷が止めようとするが間に合わず、ビルから乗り出すように下を見る。
「っっ!」
しかし下を見た瞬間、何かが爆音と共に本郷目掛けて打ち上げられ、身体を反らすようにギリギリで躱す。
「っ、省吾!」
打ち上げられてきたのは飛び立ったばかりの松野で、勝山同様、落雷に撃たれたかのように煙を上げていた。
「省吾、しっかりしろ省吾!」
そのまま屋上に墜落した松野に慌てて駆け寄るが松野は既に気を失っており、魔装が解けている。
(バカな、2人とも一撃だと?雷魔法の一撃がそんなに強いはずがない!)
「魔装!」
もはや目的もターゲットに構っている余裕もない。これだけの攻撃を仕掛けてきていながら、攻撃の瞬間以外に魔力が感じられないほど魔法が洗練されているというのは、自警団に所属する本郷にとっても初めての経験だった。
(Sランク、いやSSランクか?)
Sランク以上の魔法使いとは、一騎士団を率いるレベルだ。
魔法使いにとっては雲の上の存在であり、憧れと共に恐るべき化け物である。
「うおぉぉぉ!」
己の恐怖を打ち消すように魔力を解放し、炎を纏う。
炎魔法を駆使すれば空を飛ぶことは不可能ではないが、本郷にとっては焦って不得手な空中戦に持ち込むのは得策ではなかった。
「出て来い!」
魔力を溜めた両腕を前に突き出し、いつでも必殺の一撃を打ち出せる状態で敵を待ち構える。しかし、
「あっ」
その敵を視界に捉えた瞬間、自身の魔法を発動するより早く本郷の視界を雷光が埋め尽くし、意識を失った。
「な、何があったんだ…?」
3回雷鳴が轟き、テロリスト3人が地に伏した。
魔法使いではない刑事にとっては本郷が感じた異常な事態を理解できてはいなかったが、自分たちでは手も足も出なかった魔法使いたちが瞬く間に倒されたことが、簡単なことではないということは理解していた。
周囲を確認すると、部下2人と足利議員は無事なようで、銃を腰にしまうと倒れている本郷に恐る恐る手を伸ばす。
(息はある。他の2人も気絶しているだけか)
「よう。ご苦労様」
「‼︎ 誰だ⁉︎」
いつの間にか目の前に立っていた男に声をかけられ、慌てて銃を構え直す。
「よせ、味方だ」
そこに立っていたのは身長170㎝後半ぐらいで端整な顔立ちの青年だった。
少年と言うには大人びているが、大人と表現するには若々しく見える。
黒いスーツに身を包んでいること以外に特徴を出していない青年は、刑事に向けてバッヂを見せた。
警察よりも上、表向きには存在しないことになっているそのバッヂを目にして、刑事はようやく事の真相を悟る。
「そういう、ことか…」
「議員は無事。犯人たちは逮捕。俺の任務は終了だ」
言いながら青年が魔法で塞がれていた屋上の入り口に向かって右手をかざすと、青年の掌から放たれた雷で岩が粉砕される。
奥にいた部下たちは目を丸くしていたが、すぐに議員の無事と犯人が倒れていることに気がついて屋上へなだれ込んできた。
「……総理か?」
「あぁ、そうだ」
目の前にいる青年を寄越したであろう人物におよそ検討はついていた。
はぐらかされるかとも思ったが、青年は意外にもあっさりと答えた。
「あんたらは、もっと忙しいのかと思ってたよ」
落ち着いてきたのか、刑事は懐から煙草を取り出して火を着けると、目を細めて青年を観察し始める。
「ん、まあ、そうかもな」
青年は刑事に自分の存在がよく思われていないことに勘付き、背を向けて早々に引き上げることにした。
「何処へ行く?」
「行くも何も、俺は最初からここにはいない」
「そうだったな」
彼らはそういう存在だ。
刑事は煙草を離し、ゆっくりと煙を吐いた。
歳の割に昇進の遅いこの刑事は、度々上層部に対する皮肉混じりの正論を突きつけたり、命令を無視して国益よりも人命を優先していることがキャリアの妨げになっていた。
「俺たち警察官にはできない仕事をこなしてくれてありがとうな」
露骨で安い挑発にどう出るか。
現場主義者で市民の安全を何より重んじるこの刑事は、政治家というものが嫌いであり、利益の為に汚い仕事に平然と手を染める存在が国を動かしていることが気に入らなかった。
そして警察の頭を飛び越えてその汚い仕事を秘密裏に実行する、この青年の所属する組織のことも、当然良くは思っていなかった。
どうせ警察官など小馬鹿にし傲慢な本性を見せるだろうと、仕事中にも関わらず私怨でカマをかけてみたのだが、意外にも青年の雰囲気は変わることなく、反論も返って来なかった。
刑事はその反応を少し訝しみ、青年に問いかけた。
「あんた、随分若いな?名前は?」
「鬼城。鬼城焔だ」
答えると、青年は今度こそその場を後にする為屋上から飛び降りていった。
「なっ…!」
数人の警官が慌てて端に駆け寄るが
「ほっとけ。どうせ平気だ」
刑事にはその必要がないことがこの数分で嫌というほどわかっていた。
青年個人のことが気にならないわけではなかったが、余計なことをしてまた呼び出されるよりも、今回の事件の滅茶苦茶な結末をどう報告書にまとめたらいいのか、起きたらきっとまた喚き散らすであろう議員をどう宥めたらいいのか、目先の問題は山積みだった。
改めてまして、仮面堂です。
はじめての執筆、はじめての投稿。
正直顔から火が出そうな想いです。
この『ZIRNITRA -ジルニトラ-』、どこまで私に文章にする力があるかはわかりませんが、構想自体はかなり長いお話になっています。力の限り続けたいと思っております。
読んで下さった皆様に少しでも楽しい時間を提供できていれば幸いです。
どうぞこれからの物語を見守って頂ければ、これに勝る喜びはありません。
仮面堂