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第一話「すべて始まりは些細な事から」

〈...チェック完了。おかえりなさいスイーパー1。貴方の帰還を歓迎します。〉

無機質な機械音声のチェックを済ませるとゲートがゆっくりと開き中で武装していた兵士が敬礼で自分の車を見送る。

旧トウキョウエリアで最も大きなビルに自分たちの拠点は存在する。

戦前は観光スポット件テレビ塔として使われていたらしいが戦後はメディアはすべて統一された為シャドウカンパニーが結成されるまではボロボロの朽ちた建物だったそうだ。

見た目はカモフラージュのため変わってはいないが地下には30階にも及ぶエリアと例えこの地区にありったけの核弾頭が降り注いでも崩壊しないような耐久性を持つ。

...いっそそんな事をやってもらったほうがすぐにクリエイターの制裁を受けるからこの仕事もやらずには済むのだが。

車を指定されたエリアに駐車するとすぐに武装した兵士が数名駆けつけトランクの中に入った獲物を確認する。

「これ程の数を仕留めるとは...さすがですね。」

報酬の会計を終えその事について書かれた電子メモを自分のPDAに送信してきた兵士が羨望の眼差しでこちらを見てくる。

「複数の相手の行動パターンを監視、見抜いた所でチェッカーシステムを設置。...後は結果を待つだけだ。」

アンドロイドは骨や血まで人間そっくりに作られる。その為識別するには拠点の通信施設にあるプロファイルシステムを使うのだが時間がかかる上、同僚に手柄を奪われる可能性がある。

その為自分たちはほとんど独自に調査、抹殺を行っている。

最初は微弱な電波等を街で細かく調べ目星をつける。このプロファイルシステムは車両に搭載する事の出来る小型版だ。

勿論その電波が携帯だったり臓器の代わりに動いている人工物だったりするのが大抵だが電波の流れの違いを見つけてそこから識別する。

しかしここで殺してしまっては違う可能性もある。あくまでのその違いは微弱、たまたまアンドロイドの発する電波に近かったという可能性もある。そこでこの設置型チェッカーシステムを使う訳だ。

こいつは施設のシステムよりも素早く見分けをつけることが出来るが大きな問題が一つ、相手の半径10m以内までに設置する必要がある。

この設置型はドロイドとして遠隔操作が可能だがそれでも忍ばせるのは難しい。そして何より自分たちシャドウカンパニーはアンドロイドかどうか判断がつかぬまま相手に発見された場合、頭に埋め込まれたチップが爆破。頭を吹き飛ばされた後に流れる薬品によってドロドロに体を溶かされ存在を抹消される。

その為念入りな監視と作戦が求められる仕事でもあるのだ。

...抹消するかされるか、死神が自分の釜で命を刈り取られるなど笑い話でしかない。

「ではメインセンターのカウンターにてこちらを提出、報酬をお受け取りください。」

「おう...ありがとう。」

今回は1000万円。まぁまぁな報酬だ。

駐車場を後にし、エレベーターで地下一階に向かう。到着のアナウンスが鳴り扉が開くととても地下とは思えない程の明るい光が目に突き刺さる。

何度も見慣れた光景だがそれでもこの技術は凄いと思う。全面白で統一された清潔感あふれる巨大なメインエリアは夜且つ地下とは思えないくらいに明るく常に昼間のような状態だ。

さらに食事をするスペースに仮眠室、娯楽ルームにバーと至れり尽くせり。最もここまでしてもらってもこの仕事の危険度や精神的負荷は癒せないのだが。

さっさと報酬を貰って帰ろうと一目散にカウンターに向かおうとすると聞きなれた声で呼び止められる。

「おい、空蝉。仕事終わりか?」

コーヒー缶を片手に高身長で体つきの良い男がこちらに向かってくる。

スキンヘッドに猛獣のような目、絵に描いたような軍人や殺し屋といったイメージを抱かせる。

「...なんだ時任、お前もか。」

彼の名は時任和義、同じ部隊所属のコールサイン「スイーパー2」。

最も先ほどの説明通り自分たちは自由に動くため彼と共に仕事をしたのは数回程しかないが自分が入隊した時からの数少ない同期でもある。

「この調子じゃ、今回も良かったみたいだな?...おごれよ?」

高笑いしながら自分の肩を組んでくる時任。彼はアンドロイドを抹消する事に喜びを見出しているらしく常に様々な抹消方法を試している。その為仕留める人数は少ないが抹消方法に一目置かれている存在だ。

「ああ...いいよ、なら先にバーで待っててくれ。」

高笑いに微笑で返しその場では別れる。ファントム・スイーパーである時は完全に感情を抑え自分自身...空蝉正也としての全てを消し去る。そのお陰で自分は感情を読み取られることなく同僚達とは接触する事が出来る。

正直に話すと喜々としてこの職に取り組んでいる人間とはあまり絡みたくはない。自らの殺しを正当化し殺しを楽しむ...異常者だ。

でもこの仕事はそれが当たり前で逆に自分の方が否定しながら殺し続ける異常者なのだが。

道行く知り合いと軽い挨拶を交わしながら依頼の受注や報酬の管理を行うカウンターへと付く。

制服を着た女性たちがテキパキと仕事をしていたが連絡が来ていたのか自分が来ると一人が駆け寄りPCのコネクターをPDFに繋ぐと情報の確認や報酬の振り込みが行われた。

「...これで以上です。お疲れさま。」

社交辞令と言えども美人に言われるのは悪くない。



「おう、遅かったじゃねーか。」

バーに向かうと時任が一人で飲み始めており自分が来るのを待っていたようだ。

他の部屋と同じく綺麗すぎるほど真っ白な壁と天井、壁に置いてある酒で何となくどういう場所か解るが世間一般的な酒場とはほど遠い。

「ところでお前の方はどうだったんだい?」

「ん、俺か?...今日は全然駄目だった。つまらねぇ...。」

と時任は呟くとグラスに注がれたウイスキーを一気飲みする。

折角来たのだからと店員を捕まえ同じくウイスキーを注文する。

「それにくらべてお前は凄いよな。毎日二体は必ず仕留める!惚れ直すぜ。」

「ハハ...残念だが男には興味はないんでね。」

「俺だってそうだ!...やっぱお前も獲物が女型だったら『楽しむ』タイプか?」

「......。」

表情には出さなかったつもりだったがやはり少し嫌な顔をしたのだろう。

時任はすぐに「お前は真面目な奴だったな。」と謝罪を入れる。少なくとも熱心に仕事に取り組まない事に嫌悪感を覚えたと取られたのだろう。

アンドロイドは自身も気づかない程ほとんど人間と違いがないぐらいに作りあげられている。

唯一脳にあたる部分にはいつでも命令通りに動けるようにと複雑な機械が仕込んでおりそれが随時電波を発しているからこちらも機械による判別が可能だ。

つまり陰部含めて人間と全く同じのため場合によっては女性型は死なない程度に痛めつけ強姦する奴もいる。

一応アンドロイドと確認が取れ発見された場合はこちらも抹殺はされないので好き勝手できる訳だ。

勿論、自分は何度もそんな光景を目にしてきた。うつろな目でどこかを見上げそれに覆いかぶさる男。

満足すればその場で頭を撃ち抜き殺す。...自分が仕留める時よりかはないがそれでも凄まじい嫌悪感が心に食い込む。

「...そこで隙を突かれて殺されるケースもある。溜まってる物は妻か恋人か風俗で出して来い。」

「了解、了解。...お前は顔形整ってるからそんな事言えるんだよ!」

丁度自分が頼んだ酒が来たのでチビチビと飲みながら時任と最近の事を話す。

一応同期なのか彼は自分によく話しかけてくる。怖い顔をした奴だが人間に対しては優しいらしい。自分の事を友人と思っているらしい...こちらがそう思わなくてもだ。




一時間ぐらいだろうか雑談と共に酒を嗜んでいるとお互いのPDFに緊急連絡が同時に入る。

緊急連絡が来るという事、これは部隊による強行抹殺が行われるという事だ。

日ごろ影から抹殺していくのが自分たちの仕事だが中には堂々と殺人や人間の拉致を行うタイプの奴もいる。そしてそういう奴は「コマンダータイプ」と呼ばれ近辺のアンドロイドに指示を出す事が出来る厄介なタイプだ。

こいつ等はいつも通りの手は効かない。常に何かの策を取っており近くには頼れる護衛を大量に引き連れているのがいつものパターン、一人でやるには荷が重すぎる。

だからここは軍隊らしく武装をし部隊を組んで抹殺にかかる。

相手も完全に敵意を向けてこちらに来るのでいつもの仕事よりかは断然楽なのは間違いないのだが。

「久々の部隊出撃か...後ろは頼むぜ空蝉。」

「了解だ。」

バーでの支払いを素早く済ませ基地の地上階を目指すそこで武装の準備をした後に依頼の説明が行われ出撃という訳だ。

数か月ぶりだが手慣れた仕事だ、手短に終わるだろうと楽観視する。

.......その考えは全く間違いだったのはこの任務が終わる寸前の事だった。






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