即答彼女
「あのっ……もしよろしければ、僕とお付き合いしてくれませんか!」
「いやだ」
人生初の告白がこんなにも傷跡を深く残すとは、あの頃の自分は想像もできなかった。特に彼女に関しては。
―即答彼女―
彼女とは高校で知り合った。クラスが同じで、向こうから話しかけてくれた。「おはよう」の一言だったけれども、横目で見える彼女の姿は美しく、一目惚れをしてしまったのだ。
隣の席で毎日挨拶をしてくれる彼女。僕は片時も目が離せなくなり、彼女の仕草、声、表情……何もかもに見入っていた。なので当然の事ながら妄想は膨らんでいく。
僕と彼女が付き合い、デートに出かけ、カフェで話す。遊園地に行って、観覧車の頂上でキスをする。頬を赤らめ照れ隠しをする彼女の頭を撫で、抱き寄せる。
数々の妄想を繰り返した結果……何も起こらない。そう、これは夢のまた夢。彼女いない暦イコール年齢の僕からしてみれば、ハードルは高い事なんて重々承知のはず。だが今、告白してしまっているのだ。彼女の返答は『No』の割合が高いだろう。いや、もしかすると困ったりするのだろうか。いや待て、冷静になれ、僕の頭!!
――このやり取り、約0.5秒。
彼女からの返答。
「いやだ」
「……え?」
耳を疑った。ある程度の答えの準備は出来ていた。だが余りにも……余りにも早かった事に驚きを隠せないでいた。真顔の彼女は僕の目をしっかりと見つめ、離さない。蛇に睨まれた蛙のごとく、僕はその場から動けないでいた。
「呼んだのはこれだけ? じゃあ私帰る」
ひらりとスカートをひるがえし、水色のリュックを揺らしながら歩いていこうとした彼女に向かって待ったをかけた。彼女は出しかけた足をくるりとこちらへ向け、気をつけの姿勢をとった。
「なに?」
「あの、えっと……」
待ったをかけたはいいが、何を話そうかと考えていなかった。冷や汗に近いものが垂れる感覚を感じる中、焦りと緊張の入り混じった感情でめまいを起こしかけた。
何か話さなければ。だが思い出すのは彼女と僕の妄想のみ。楽しそうな彼女の顔。僕が幸せにしている彼女の顔。
「ど、どうしたら……どうすれば僕と付き合ってもらえますか」
口をついて出てきた彼女を困らせてしまうだろう言葉。言ってから後悔した。だが彼女は真面目な顔をふっと緩めて、いたずらっ子のように口元がニヤリと笑った。
「そういう素直なところ、私は好きだよ」
それだけを言うと軽やかな足取りで彼女は帰っていった。一人残された僕は先ほど貰った言葉を噛み締めていた。まだまだいけるかもしれない。完全に破れた訳じゃあなかったんだ。
どくどくと心臓が波打っている。顔もほころんでいるのが分かる。凄く、嬉しかった。
彼女のそういうところも、僕は好きだ。