帰る場所
勇人はまだ、神都にいた。
神殿に顔を出すためである。
確かに、勇者によって勇人は逆賊扱いを受けている。
しかし、世話になった人、心を砕いてくれた人、というのは多くはないが、いる。
魔族領に行くとなれば、簡単には戻ってはこれない。
挨拶の一つもせぬままに出る事は流石にできなかった。
「こんばんわ」
「貴様!
ここは天の巫女の寝所だぞ!
何処から入ってきた!」
「マコに、挨拶をしにきました
話だけでも通して貰えませんか?」
「認められるわけがないだろう!
何処の馬の骨とも知らぬ奴に、巫女様がお会いする訳がない!」
「そう、ですか、、
では、、勇人と名乗るものが挨拶に来たとだけお伝えください」
「ユウト、、、
何処かで聞いた名前だな
怪しい奴め、詰め所まで来てもらおうか」
取りつく島もない。
それはそうだ。
相手は高貴な身分の巫女である。
正規の手順を踏まず、更には侵入してきた勇人に、会わす道理がない。
ここで詰め所まで連れていかれるのはマズい。
勇人の事を知っている人間がいた場合は間違いなく、牢屋に捕まる。
「おとなしく帰ります
ですから、怪我をしたくなければ、追わない事ですね」
「貴様!やはり「勇人さん!!」
「巫女様!?
危険です!お下がりください!」
「やあ、マコ
久しぶりですね」
「勇人さん、、、
生きていたのですね、、」
「お知り合い、なのですか?」
「貴女は下がりなさい
それと、暫くここから人払いを」
「いけません!危険です!
たとえ知り合いであっても、素性の知れない男と二人きりなど、どんな噂が立つか!」
「構いません!
噂など捨て置きなさい!」
「しかし、、、」
「下がりなさいと言っているのです
私の事を、信じなさい」
「、、、はい」
「見苦しい所をお見せしてしまいましたね
部下が失礼な事をしてしまいました」
「いえ、ここなら、マコは守られているんだと、安心できました」
「ええ、しかし、少しばかり過保護が過ぎる子達でして」
「ははっ、愛されているんですね」
天の巫女、人間の治めている地域において3人しかいない、神との対話ができる人物である。
そのため、人の世における重要性は極めて高い。
以前、魔族に襲われている所を助けてから、それなりに深い仲を築いていた。
また、逆賊として扱われるようになってからも、勇人の事を心配してくれる数少ない人である。
「それより勇人さん、無事、でしたのね」
「ええ、そう簡単に死にはしませんよ
まだ、あの人との決着もついて無いですから
死んでも、ゾンビになって帰ってきますよ」
「まあ!ゾンビになってしまっては神殿には近づけませんね」
遠く離れる前に少しでも会話をしておきたかった。
勇人も、寂しいのだ。
たとえ一人に慣れたとしても、人恋しさは消えない。
強い力を持っていたとしても、ただの、人なのだから。
「勇人さん、また、冒険のお話しを聞かせていただけますか?」
「もちろん!
あっ、そういえば、これあげるよ」
「これは、、、?」
「鬼神から取れる魔石です
結構な魔力を含んでるし、きっと高く売れるはずです」
「そんなものを、、、?」
「しばらく、顔は出せないですからね
、、、遠くに、行かなくちゃいけないんだ」
「え、そんな、、」
「大丈夫!
死にはしませんから」
「そういう問題ではありません!
帰って、これないほどの、所なのですか?」
「ふふ、ありがとう」
「何を笑っているのですか!
心配しているというのに」
「いや、貴女が、マコが、心配してくれるだけで」
「俺には、ここが帰る場所になるんだなと思ってね」
「え、、」
「少し、話し過ぎましたね
きっと帰ってきますので!
また、いつか」
「勇人さん!」
少し、長居をしすぎたかもしれない。
しかし、帰ってきても良いのだと、言われた気がして
勇人は、奥歯を噛みしめた。