また、一つ
「一体どういうことですか?!」
酒場に、悲鳴のような声が響き渡る。
「ワンッ!ワンッ!」
「ジュン!しっかりしてください!
何があったんですか?!」
闘いを終え、もっと強くなるという意思を固めた勇人に、現実は容赦無く突きつけられる。
勇人が目にしたものは
首輪とリールをつけられ、まるで人の言葉を忘れたかの様に振る舞う
情報屋の姿だった
「こんな姿を見て、誰も変だと思わなかったんですか?!
これが勇者のやることですか!」
ともすれば、勇人は勇者と闘ってる時よりも断然熱くなっていた。
許せなかった。
こんな人を人とも思わない様な行動をとる勇者も
それを見て見ぬ振りをする、周りも
しかし、熱くなっている勇人を一瞬で冷ます様な冷や水がかけられる。
「何を言っているんだ?
勇者様のペットになれるなんて光栄なことじゃないか」
「そうだぞ。
勇人、お前何かあったのか?
まるで勇者様が何か悪い事をしているかの様な物言いじゃないか!」
「あぁ、、、
いつ見ても、勇者様は麗しかったなぁ」
「何でこの町に来てたんだろうな?
まあいいか。そんな事より、また一目でいいからお会いしたいな」
「そうか、そうですよね。
貴方達が彼女のやることに疑問を持てるはずがないですよね。
ましてや彼女を止めることなんて、
できるわけが無かったですね」
誰もがまるで勇者は正しい事をしていたかの様に讃美する。
これは勇者の能力ではない。
勇者の存在の力が強すぎるのである。
弱い民衆は、一種の洗脳を受けた様な状態になる。
そのため、勇者がリールに人を繋いで歩いていても、欠片たりとも疑念を抱く事はない。
当然の事。
むしろいいアクセサリーですね、と声をかける位である。
「ジュン、行きましょう!
もう大丈夫です。勇者はここにはいません」
「ぐるるるるぅぅぅ」
「ここじゃ嫌ですか。
そうですね、一度離れましょう」
勇人が拠点としている宿屋に向かっている時、情報屋は一度も人間らしい行動を取らなかった。
一体、勇者からどれほどこっぴどくやられたのか。
躾と称して徹底的に痛めつけられたことは想像に難くない。
宿屋に着いても、首輪を外そうとする様子はない。
床におすわりの状態だ。
「今、魔道具で結界を展開しました。
もう、普通にしても大丈夫ですよ」
勇人が結界を展開し、声をかけても暫くは動こうとしなかった。
「何があったのか分かりませんが、勇者に貴方の事がバレたんですね?」
「わん、、、わ、、ぅぐ
ぅあ、う、うああああああ」
「違う!ちがうんだ!
バレたんじゃない、俺は元々、お前を裏切っていたんだ」
「それは、、、
どういう事ですか
勇者に情報を渡していたという事ですか?」
「そうだ、そうしなきゃ、そうするしか、、無かったんだよ!
そうでもしなきゃどうなっていたか、お前も分かってくれるだろ!?」
話を聞いてみたら、簡単な事だった
情報屋は、こう見えて優秀だ
早い話が、勇人よりも先に目をつけられていたという、ただそれだけの事だったのだ
「貴方を責める事はしません。
でも、一つだけ聞かせてください。
貴方とは、友人だと思っていました。
貴方はそう思ってくれていましたか?」
「あ、あぁ、思っていた!
思っていたさ!
、、でも、逆らえなかったんだ、、、」
「そうですか。
ですが、これで絶交です。
これからは俺の事は敵だと思ってください。」
「何を、、ごふっ!!」
分かっていた筈だった
勇者と戦うためには、友人など作ってはいけない
弱みになるだけだ、と
「、、、貴方の無事を、祈っています。」
一発。
一発殴る事でケジメをつけた。
それ位しか、勇人にはできなかった。
「また、一つ憎む理由が増えてしまいました。」
逆恨み。
所詮自分の落ち度であるという事は自覚している。
しかし納得できるかどうかは話は別だ。
「やることは、変わらない
変えられないんだ」