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7.旅立ち

「やっぱり…………、そうだよね。どうしよう、あたし、またマリーネを大変な目に合わせちゃう」


「なぜルナが責任を感じる必要があるんじゃ?悪いのは魔法界の歪が生んだ闇のせいじゃろう。気にする必要はありゃせんわ」


 たしかにそうかもしれない。あたしとマリ


ーネがアルビィナで再会したのはただの偶然


だった。魔法界と科学界に軋轢があるのは確


かだが、リュゼがマリーネを貶める理由とは


もはや関係がない。むしろあたしも立場を利


用されるのだから、どちらかと言うと被害者


側と言ってもいい。


「でも、だからってあたしが関わった事で友達が不幸な目に合うのは放ってはおけない」


 そこなのだ。もう関わってしまったのに、


放って置いていいのか。相手が友達なのに。


あたしは未熟でも科学者として、これを見過


ごしたら永遠に魔法には勝てないと思うのだ。


「じゃあ、ルナはどうしたいんだい?」


「う、うーん………。あたしは……、マリーネを助けたい!」


 両親は顔を見合わせて頷いた。


「だったら行きなさい。科学者が魔法少女を救う、これは何かが変わるキッカケになるかもしれないよ」


「な、何を考えておるのじゃ、ヴァイス?事が性急すぎやせんか⁈第一クレヴィールのとこの娘に何かが起きているかも分からんというのに」


 これにはあたしも驚いた。まさかいきなり


マリーネの元に向かうように言われるとは思


わなかったのだ。


「何もありませんよ、お父さん。ただマリーネはすでに事務局所属の魔法少女です。学院生のいじめとは次元が違ってくるでしょう。何もなければそれでいいじゃないですか。ただ確かめるのは早い方がいい、そう思ったのです」


 それに私たちは機構を離れることができな


いからね、とパパはいつもの乾いた笑みを浮


かべた。感情が出やすいママと違って、パパ


は何を考えているのかわかりづらい。でも正


論を言っているのは間違いなかった。


「じゃあ、あたし一人でファイアーフロートに行ってもいいってこと?でも、もしマリーネに何かあったとしてだよ、あたしに何か出来るかな?」


 それが一番の問題だ。おじいちゃんもこれ


が言いたかったハズである。横を見るとまさ


しくそれだという顔で、おじいちゃんがパパ


を睨んでいた。


「それはマリーネちゃんがどういう状況になっているかで変わってくるんじゃないかしら?それは私たちには多分想像できないわ。そこまでは魔法界に関して情報があるわけじゃないから」


 この話題になって、初めてママが口を開い


た。それもそうか、マリーネがはたしてどう


いう状況に置かれているか、それで出来るこ


とは変わってくる。もちろんあたしなんかに


なにも出来ないかもしれないが、じっとして


いられる性格ではない。


「分かった。とにかく準備ができたら直ぐにファイアーフロートに行ってみるよ」


「い、いかんぞ、ルナ。まだまだヒヨッコのお前が行って何になる?それよりも科学の発展に向けた研究の方がよっぽど大事じゃ!やることは山ほどあるんじゃぞ!」


「あたしは友達を見捨ててまで、科学が発展して欲しいなんて思わないよ、おじいちゃん。それになにもなければ帰ってまた研究は続けるよ。ただ友達に会いに行く、そう思って送り出してよ」


 あたしは少し目を潤ませ、真摯におじいち


ゃんを見つめた。これはおこづかいが欲しか


った時に使った手じゃない。心から説得した


かっただけ。あたしは絶対にマリーネを二度


も悲しませない。だって、最初の借りだって


まだちゃんと返せてないんだから。


「ふー、分かったわい。わしは何も起きとらんことを祈っとるよ」


「あ、ありがとう、おじいちゃん!まあこれが今生の別れって訳でもないし、気楽に報告を待っててよ」


 あたしは軽い気持ちでそう言った。


しかしーーー、


たしかにこれで家族と今生の別れとはなら


なかった。


だが、シュタイン家の一家団欒の場が、こ


の後永遠に訪れることはなかったのだ。それ


をこの時のあたしは、もちろん想像すらして


いなかった。





 翌日、あたしは早速ファイアーフロートに


向かう準備を始めた。持って歩ける発明品は


そう多くはない。工具と動力石だけは持てる


だけ持って、後は必要な時に作るか既製品を


買うしかない。まあ、そんなに何かが必要な


事態になるかは分からないが、相手は魔法少


女と事務局だ。


用心するに越したことはない。


「おはよう、ルナ。早速行くのかい?だったらこれを持って行きなさい」


 地下の研究所に姿を現したのは、かなり眠


そうな顔をしたパパだった。この様子だとあ


のあと遅くまでママやおじいちゃんと話した


のかもしれない。それでもあたしが出る前に


は起きてきた。


「ありがとう、パパ。これは?」


 パパが持ってきたものは、一つは500オー


ロほどのお金だった。ファイアーフロートで


もこれならしばらくはしのげるだろう。それ


と他に初めて見るものが二つあった。


「ああ、丁度パパとママの研究が一区切りついたことは話したね。これが今度の発明品のオリジナルなんだ。きっと今度の旅で役に立つと思うよ」


 そう言うとパパは新たな発明品の説明を始


めた。一つは武器、一つは防具ということだ


った。それを聞いてあたしはかなり驚いた。


なぜなら、これは発明品ではかなり珍しい


ものだからだ。どちらかといえば日常に必要


なものを、より便利にする研究が多い。魔法


で出来る事を科学で再現しても、結局オリジ


ナルには勝てないからだ。それともう一つ、


動力になっている精霊力は、どれほどの動力


石であろうと人間という器には敵わない。だ


から武器を作っても、動力石から放たれる精


霊力では人間の魔力には及ばないのである。


「それぞれエレメント・ガンとシルフ・ウィンドと名付けたが、使い方は説明した通りだよ。まあこんなものを使う事態にならないほうがいいんだがね」


「う、うん。ありがと。大事に使うね」


 その時、ママとおじいちゃんも地下の研究


所に降りてきた。


「あら、もう行くの?」


「うん。今パパにお金と発明品をもらったところ。荷作りは終わってるから、そろそろ行くよ」


「分かったわ。無理しないで、何かあったらすぐに連絡してね。ファイアーフロートにも機構の支部はあるから」


「大丈夫。それじゃあ、おじいちゃんも元気でね」


 しかしおじいちゃんはパパからもらった発


明品をじっと見ているだけで、返事をしなか


った。まだ納得したわけではないのか、それ


とも何か考えているのか。結局おじいちゃん


はあたしが家を出るまで一言も喋らなった。


(何を考えている、ヴァイスの奴め、武器と防具なぞ持たせて、ルナになにをさせようと言うのじゃ)

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