表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

6.シュタイン家最後の団欒②

「え?」


 あたしは動揺を隠せなかった。


「心当たりがありそうだね」


 パパは語気を強めるでもなく、自然な調子


であたしに尋ねた。


「どうしたんじゃ、ルナ?アルビィナでなんかあったかの?」


「ああ、今日はアルビィナに行っていたのよね?もしかしてあなた、ルナに追跡探知をつけたのね?」


 ママは眉をひそめてパパを問い詰めた。追


跡探知?聞いてない!一体どこに?


「パパ?」


「あ、ああ。いや、たまたまなんだよ。ルナが今日履いていたアシストブーツ、あれにつけていたのだがね」


 こういうことだった。あのアシストブーツ


は元々ママにあげるはずのものだった。科学


技術開発機構にいると、何かと厄介なことも


起こる。特に魔法界との軋轢から、妨害工作


を受けることもしばしばあるらしい。


 だから何者かに尾けられた時など、警戒を


強めることができるようにと取り付けたのだ。


「それをあたしが貰ったからか…。うん、実は今日こんなことがあったの」


 あたしは隠しても仕方が無いからと、今日


起きた事を全て話した。


「マリーネ?あの子にそんなことが…。それは悪いことをしてしまったな。ふーむ、確かに急に引っ越してしまったから気にはなっていたが、魔法少女になっていたとはね」


「ふん、グレヴィールのとこの娘っ子か。きゃつのオヤジは魔法界の連中の中じゃ、確かにまともな方じゃったわい」


 へえ、おじいちゃんも知っていたのか、マ


リーネがあたしと仲が良かったこと。しかも


彼女の親も知っていたような言い方だ。でな


ければおじいちゃんがこんな事を言うはずが


ない。お互いに知っていて放っておいたとい


うことだろう。


「それで、リュゼという子にマリーネが目を付けられていた、と?」


「う、うん。写真集を先に出されたとか、そんな理由だと思う」


「かーー、くだらん。魔法界の連中はまだそんな事をしとるのか!まだ世の中のことを何も分かっとらんような小娘を使って、私服を肥やしておる」


 あたしも魔法少女が魔法界の経済を支えて


いるらしいことは、なんとなく知ってはいた


。今や大手の魔法少女事務局は、魔法解析学


会をも凌ぐ権力を持っていると。


「まあまあ、お義理父さま。世の中の戦の在り方を覆した功績は認めるべきですわ。確かに年端も行かぬ少女を利用して、私服を肥やすギルドがあるのは否めませんけど」


 戦の在り方を変えた。それはたしかに的を


得た言い方だった。かつて、国家間闘争、権


力争い等、数々戦争が行われてきたが、その


度不必要な血が流されてきた。しかしその頃


、国、機関などあらゆる組織は武力による戦


争を行うなかれ、という声が各地で上がって


いた。そして魔法解析学会が科学界を押し退


け権力を拡大し始めた頃、最初の魔法少女事


務局を立ち上げたシャイン・ホワイトアイズ


が一つの提案書を学会に提出した。


 戦いにおいて最も血が流されるのは、もち


ろん兵士達である。だから彼らに変わり戦場


に立ち、その勝敗を決する運命を魔法少女に


託す。


それがシャイン・ホワイトアイズが提案した魔法少女による無血戦争である。


それが戦の在り方を根本から覆した、誰も


死なない戦争を生み出した。しかし、無血戦


争が、国家間に留まらずさまざまな団体、利


権が絡んだ争いに利用されるようになると、


魔法少女事務局が瞬く間に増えた。それゆえ


今のような大きな力を持つようになったので


ある。それが徐々に歪みを生み出す結果とな


った。




「ともかくそのリュゼという子に、マリーネといっしょにいたのを見られたんだね?」


「うん、でもあたしが科学界の人間だとは、気がつかなかったと思うんだ。向こうはあたしも魔法科出身だと思ったみたいだし」


 あたしは自ら魔法科出身だと言ったことは


、一応伏せておいた。おじいちゃんが何を言


い出すか分かったもんじゃないからだ。


「ルナに魔力がないことに気づいたという事はないかしら?」


「ならば魔法科出身だと思うことはないだろう。まあ魔力感知は比較的簡単な魔法らしいから、可能性はあるだろうがね」


 であれば分かっていて泳がせた⁉︎


 でも、何のために⁈


 わざわざマリーネを虐げる理由をさがして


いるのだろうか?確かにリュゼは性格は悪そ


うではあった。しかし…、ジェニーは…


「ふん、いまや魔法少女事務局同士の足の引っ張り合いじゃからな。利用される娘っ子達が可哀想じゃ。そのリュゼという子も大方事務局に踊らされ、マリーネの足を引っ張れないかと画策しとるのじゃろ。そんな事ばかりさせられて、性格までねじ曲がってしまったんじゃ」


 なるほど、そういうことか。それは考えら


れる。あたしが何かマリーネの綻びに繋がら


ないか、そうリュゼが考えればあたしに尾行


をつけてもおかしくはない。


 しかしーーー、


「みんな随分魔法界のこと詳しいんだね」



 !!ビキッ!!



 あたしのふとした一言に一瞬で空気が固ま


った。強烈な緊張感が漂い、三人にあたしは


見つめられ動けなくなった。


「あ、あ、いや、そ、そんなことはないかな〜、なんて…、ハハ……」


 あたしは絞り出すようにそう言うと、目の


前のパスタをこねくり回した。


「まあ噂はどこからでも入ってくるものさ。それに科学が魔法を超えるためには、魔法のことも知ってはおかないとね」


「そ、そうだよね、あたしも結構知ってるもん。あー、ビックリした。なんか空気変わっちゃうから」


 あたしは何か微妙な違和感を感じたが、そ


れが何なのかは分からなかった。パパもママ


もおじいちゃん程は魔法に対して、感情的に


ならないと思っていたからか。あたしの一言


に全員があたしを凝視してくるとは思わなか


った。でも、違和感はそこに感じたわけでは


ない。何かもっと別の感情が入り混じった、


そんな空気だった。


 なんだろう、急にパパとママが遠い存在に


感じたのだ。ふだんなかなか会えなくても、


そんなこと感じた事は無いのに。


「もう魔法の話題は終わりじゃ、折角のラナの料理がまずくなるわい」


「あら、あたしの料理はそのくらいでまずくなるような代物じゃないわよ」


 ママはそう言って眉を片方つりあげて口を


尖らせると、すぐにプッと吹き出して笑った



「すまん、すまん。とにかく今日は久しぶりの団欒を楽しむんじゃろ?だったらもう魔法の話題は無しじゃ」


 あたしもそうしたかったが、解決してない


ことがある。そして、それは放っておくこと


は絶対に出来ないことだった。


「ゴメン、おじいちゃん。まだ終われない。ねえ、パパ。あたしを尾けてきたのって、やっぱりリュゼなのかな?」






「多分、そうだろうね」

 少しの沈黙のあと、パパは静かにそう言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ