10.第二都市ファイアーフロートへ②
あたしが事の経緯を話していくうち、マリーネの顔色はどんどんと青白くなっていった。
それも当然だ。自分の知らないうちに人生をめちゃくちゃに壊された感じだろう。
「……………………」
2人してしばし沈黙が続いた。
なんとも言えない空気感が漂うーーー。
「「で、でも!……」」
2人の声が見事にハモった。
「あ、どうぞ」
「い、いいよ。マリーネからいいなよ」
「う、うん。………でもルナは悪くないよね。だって、だって、何もしてないもの!」
それはまさにあたしが言おうとしていた事だった。もちろんあたしではなく、マリーネはと言い換えてだが。
そう、あたし達は何も悪くないのだ。それだけは絶対の自信がある。
「あたしは悪いなんて思った事ない。悪いのは世の中の方だよ。それも、やっぱり魔法界の方がどちらかと言うと責任は重いんじゃないかな」
「うん、シャイニーズ……、というかギルドだよ。わたしの所属してるメルキュールも、多少は似たような事をしてるし」
そういった後マリーネは、もう所属になってないかもしれないんだよね、と大きくため息をついた。
あたしは魔法少女事務局が諸悪の根源と言いたいわけではない。ギルドはまだ十代の魔法少女達を上級職として管理監督している代わりに、収入源として利用しているだけだ。
確かに政治や経済を大きく動かす無血戦争に魔法少女を利用することが、倫理的にどうかという問題はある。しかしママも言っていたが、そのおかげで多くの兵士が無駄な血を流さなくて済むようになった。しかも多くの少女たちが魔法少女という『職』を手にすることが出来るようになってもいるのだ。
しかし魔法少女になりたい女の子や、娘を魔法少女にしたい親が続出し、一気に市場が大きくなり過ぎたことで、このような闇が生まれた。
「うーん、リュゼが一体なにをしたかってことなんだよね。ウォーターミルからここまでの間は何もなかった?」
あたしの質問にマリーネはクビを振った。
「ねえ、ルナ。このまま一緒にファイアーフロートまで行ってくれる?私一人で帰るの怖いよ」
「当たり前だよ、マリーネ。あたしはあんたに何が起きたのか確かめに来たんだから、見届けなきゃトレドに帰れないもん」
マリーネは良かった、と胸を撫で下ろした。
「よし、じゃあ景気づけに、パーっとやろうか?落ち込んでたって仕方ないし」
あたしの言葉にマリーネはようやく笑顔を見せた。
「院生時代と変わらないね、ルナは。私、ルナと友達になって良かった」
「マリーネ…」
あんたこそ変わらないよ、とあたしの方は苦笑いになってしまった。やっぱりマリーネは優し過ぎるのだ。確かにあたしは今回のことを悪いとは思ってない。だがそれは自分でそう思っているだけだ。他人から見たらどう思われるかといえば、やはり怒りをぶつけられても仕方ない気がする。少なくともあたしなら厄介な事になったとは思っても、友達になって良かったとは思わないだろう。
「あ、そうだ。昨日アルビィナの大通りで会ったジェニーだけどさ、今日無血戦争に出たみたいよ」
あたしは昼の出来事をふと思い出し、好物のソーセージにかじりつきながらマリーネに話して聞かせた。
「え、ジェニーが?もしかしてまた一人で戦うのかな?」
「うん、そうそう。確かにリュゼがそう言ってたよ。彼女は出ないで観戦だって言うからなんでって聞いたんだけどさ」
そのついでにマリーネが引退とか言い出したのだ。結局詳しい話は聞けなかったが、マリーネは何か知っていそうだ。
「また一人でって、ジェニーはよく一人で戦うの?良ければ無血戦争がどんなものか、詳しく教えてくれない?」
あたしが促すと、分かったとマリーネは詳細を話し始めた。無血戦争がなぜ血を流すことなく、その争いに決着をつけることが出来るのか。話を聞くとなるほど、と感心させられた。
無血戦争とは、まず対立する二つ以上の組織が出た場合、その組織のトップや重鎮たちが会談の場を設ける。そこには第三者として、魔法解析学会の人間が同席するのだそうだ。そして話を聞いた学会の者が一旦持ち帰り、無血戦争での解決に向けた指標を提示するのだという。その取り決めは細かく分類されており、お互いが納得し争いが収束するよう出来る限り精査される。そこが決まればあとはルールに則って魔法少女達が戦うだけだ。
「それで魔法少女達は本来五人一組でチームを組むんだけど……」
内訳は二人が攻撃タイプ、あとの二人は防御・回復タイプ、学院なら主に黒、白の魔法科出身者達が属する。あと一人が召喚タイプでもちろんマリーネのように召喚魔法科出身者が勤めることになる。基本ルールはお互いのチームが呼び出した召喚獣を先に倒された方が負けだ。その間、魔法少女を傷つけることは許されない。決着がつくまでお互いに召喚獣を護り、攻撃するのだ。実力が接近していると五人のチームバランスや、戦略が大きく結果を左右する。だから魔法少女たちの戦いは白熱しその見た目の華やかさも手伝って、瞬く間にショービジネスとしての価値も高めたのだ。
「でも、ジェニーには余りにも魔法の才能があり過ぎたの」
それはもちろん悪いことではない。しかし、ショービジネスとしては、いささか不都合な点も出て来てしまうのだ。相手側の魔法少女が精神的なダメージや評価が傷つくことを恐れ、マッチメイクできなくなったのだ。またシャイニーズの他の魔法少女たちも、彼女とはチームを組み辛くなったという。
「だから、今でこそジェニー様なんて呼ばれて崇められてるけど、一時期は彼女孤立していたんだよ」
なるほど、だから彼女はリュゼがマリーネに対して取った態度を咎めたのだ。おそらく過去の自分と重なる部分があったに違いない。
「それで一人で戦うようになったのね?」
「うん、もちろんギルドの意向もあったんだろうけど、彼女、そうなることを望んでたんじゃないかな」
新人の中で一歩抜け出したマリーネだから、ほんの少し彼女の気持ちが理解できたのだ。
「なるほどねー、魔法少女の世界も色々大変だね。科学が下に見られるのもなんか仕方なく思えてくるよ」
あたしははーっと大きく溜め息をついた。
「でもルナは諦めてないんだよね?科学の力を認めさせること」
「うーん、なんだかそういう考えじゃ魔法界と変わらない気がしてきたよ。どっちかというと、今は魔法界の歪みを科学の力でどうにかしたいって感じかな」
それが科学が認められることに繋がっていくはずだ。
「でもとにかく今はマリーネを助けたい。それが一番だよ」
「ルナ………」
「さ、今日はしっかり食べて、しっかり寝て、明日に備えよ。ファイアーフロートに行けば何か分かるはずだから」
まだその瞳の奥には大きな不安が見てとれたがーー、あたしの言葉にマリーネは笑顔で頷いた。
ファイアーフロートに向かう中継地、簡易宿舎のレストランで話すあたしとマリーネをジッと見つめている男がいた。フードを深く被っていたが、その奥に光る双眸は鋭くあたしたちを捉えていた。あたしもマリーネも全く気がついていなかったが、間違いなく彼はあたし達の会話を盗み聞いていた。
あたし達がレストランを後にし、部屋に引き上げると、その男もまた何処かへと姿を消したのである。
「ええ、順調です。マリーネと合流しましたね。明日にはファイアーフロートに着くでしょう」
声の主はフードの男だ。部屋に戻った彼は鞄から何かを取り出すと、それに向かってそう話し始めたのだ。この男はあたしたちの行動を監視している。一体なんの目的で?しかしあたしたちは彼の存在自体に気がついていなかった。




