最後の戦い~ペルセポネー大空中戦(七)
今回でパンティオン・ジャッジファイナルの覇者が決まります。
どちらが勝つか・・・。いつもの2倍。長いです。
またもや、小夜はガバっとベッドから体を起こした。目は開かれたまま、首をギギギ…
と90°に向けた。
「まずいぞな!吉備津少将の前衛艦隊はどうなった?」
「ただいま、苦戦中とのこと」
「高速巡洋艦は?」
「先程から音信が途絶えています」
「ムムム…どうもゆっくり眠れないと思ったら、我が艦隊が押されているではないか?レーヴァテインの位置は?」
「まもなく、デストリガーの射程距離内に我が艦を捉えます」
「うむ。勝利の方程式にいささか、変更を加えることが必要となったぞな。地獄の門を機動。それに(幽霊の気まぐれ)の回避運動開始。ケケッ!」
地獄の門とは、左回りに回転しながら船を守る霧状のバリアである。妖精族との戦いで使った霊族の切り札である。通常の攻撃を完全に無効化することができる。だが、デストリガーは無効化できず、地獄の門は失われてしまう。そこで、使うのが「幽霊の気まぐれ」。
小夜の指示で3秒おきに消え、右左3つ分の空間に弁財天を移動させることができるのだ。
現れる空間は、小夜が任意で決めることができるが、消えるタイミングは一定であるために、移動場所を読まれると狙われることもあるが、それも確率は6分の1である。
(まず、我の気まぐれを読むことなどできぬぞよ)
「まもなく、敵旗艦弁財天を射程距離内に捉えます」
「敵、地獄の門を展開しつつあります」
プリムちゃんの報告とミート少佐の声が平八の耳に入る。ここまで、霊子弾頭弾をかわしたり、強化された魔法シールドで弾いたりしてきたが、その守勢もここからは攻勢に出られるターニングポイントとなった。敵のアウトレンジ戦法の優位が失われ、ここからは砲撃戦の殴り合いが可能であったからだ。
だが、弁財天は霊族の防御シールドである「地獄の門」を展開しつつあった。濃厚な霊子を完全体にまとわりつかせ、それを左回りに渦を任せて、空中艦の魔力エネルギー弾を吸い込み、弾き、無効化してしまうのだ。
(妖精女王はあれを超強力な魔力エネルギー攻撃で無効化した)
超強力な魔力エネルギーとは、デストリガー並みの攻撃だ。
(ならば、こちらもデストリガーであの地獄の門を吹っ飛ばすしかない)
問題は敵のランダムに消えては現れる謎の行動であろう。今も地獄の門を展開させつつ、艦の位置を変えている。一瞬消えたかと思うとすぐ隣に現れ、また、消えたかと思うと今度は3隻分左に現れるという艦隊運動?をしているのだ。
「あれではデストリガーをどこへ撃って良いか分かりません。ナセルの馬鹿に決めさせるのはダメだわ」
さすがミートちゃん、よくできた嫁だ。でも、自分の夫に運命を委ねる気はないのか?である。また、仮にデストリガーで地獄の門を無効化しても、エネルギー不足になるレーヴァテインは魔力シールドが晴れず、敵艦隊の攻撃になすすべもなくやられてしまうだろう。
現在はフィンの強力な魔力で構築したレインボーのシールドが四方八方から繰り出される霊子弾頭弾の雨を防いでいた。その数、毎分3000発。さすがにシールドも徐々にその防御力を奪われていく。
「デストリガー、準備急げ!」
平八はそう命じた。エネルギーゲージがどんどん上がっていく。平八は迷った。まずは、消えては現れる弁財天をどうやって捉えるかである。横に船六個分の空間を移動する弁財天に命中させないといけないのだ。さらに仮に地獄の門を消し飛ばした後に、トラ吉の奇襲が成功しなければ、勝利することができなかった。
(くそ!仮にデストリガーの準備が出来ても、どこにぶっぱなせばよいのだ?)
平八は悩んだ。ふと気がつくとメイド長のアマンダさんがローザを連れて自分の席の傍に来ていた。そう言えば、ローザはこの船にメイドとして乗り組んでいた。(父親との約束でパンティオン・ジャッジ終了まで)アマンダさんの教育のおかげか、目立たず、騒がず、地味にメイドの仕事をこなしていた。あのゴージャス浪費レディだった頃と比べると別人である。
そのローザが珍しく平八に話があるという。
「わたくし、あの船の次の位置がわかります」
「へ?ローザさん、そんなことが分かるの?」
平八はそう聞き返した。平八としてはローザには何も期待していない。
「簡単ですわ。ギャンブルだと考えれば、こんな分の良いギャンブルありませんわ」
「ギャンブル?」
「はい。ギャンブルです」
ローザはそう言った。彼女は超金持ちのわがままお嬢様であった。パーティ大好き、遊び大好きのお人である。当然、ルーレットを含むギャンブルはやりこんでいた。
「わたしはいつも、64分の1を当てに行ってましたの。ディーラーの癖、過去の傾向、場の流れををつかめば、それを当てるのは難しくはないわ」
「いや、でも、ギャンブルの場合、確率だから考えても一緒かと…」
「艦長、それは違いますわ。カジノならディーラー、今は敵の指揮官。人間が改ざんするとその確率は随分と偏るんです。今回は6分の1を当てるだけですから、私にとっては朝飯前よ」
そうローザが幾分、昔を思い出して喋り始めた。手には横に並べられた6つの正方形が描かれた紙を持っており、戦闘が始ってから弁財天が現れた回数が書いてある。それ元に、ローザは予想をしていく。今回のお仕置きでしゃべる機会を極端に制限され、メイドの仕事に専念していたので、このギャンブルもどきの作業をうれしそうに行っている。
「デストリガーエネルギーフルチャージ!艦長、どこを狙う!」
ナセルの声が響く。ローザがこれまでに出現した場所を6つのエリアに整理し、回数を書き込んだ紙をじっと見る。そして、言い放った!
「ど真ん中!の三番、同じ位置」
最初に弁財天が鎮座していた場所が3番であった。そこから左へ2番、1番。右へ4番5番6番である。平八はローザの勝負師としてのカンにかけた。ローザのラッキー運に賭けたのだ。だてに財閥令嬢として生まれてゴージャスな暮らしをしているだけでない。こういう人物は憎らしいぐらい幸運なのだ。それに平八は賭けた!
「デストリガー、バーニング・ストライク!撃て!」
その声に合わせて、ナセルが思いっきり、トリガーを引く。凄まじい、魔力エネルギーがレーヴァテインから発射された。真ん中の三番にいた弁財天は、ふと消えるとうっすらと幻影を漂わせ、現れた。現れた先は…そう!同じ位置、三番であった。
バーニング・ストライクは熱系の魔法である。渦を巻く高温の炎が地獄の門を粉々に吹き飛ばた。
「くっ!こちらの出現先が読まれるとは!」
小夜は歯ぎしりをして悔しがった。レーヴァテインの一撃が単なるまぐれ当たりでないことを彼女は理解していた。デストリガーが発射された時に、まさか元の位置には戻らないだろうと敵の裏をかいたつもりであった。だが、裏をかく心理を読まれたわけだ。
「だが、地獄の門を無効化しただけ。妖精女王と同じ運命を味あわせてやるぞな!ケケッ」
デストリガーを発射した後、魔力ゲージが貯まるまで、しばらく動けなくなるのが魔力を注入して攻撃する魔法王国メイフィアや妖精族ローエングリーンの艦隊の特徴である。デストリガーをかわせば、絶対的有利になるのは撃たれた方になるのだ。
霊族の代表、怨情寺小夜はこの戦いの最後になるであろう命令を下そうとした。
「霊子弾頭弾の嵐を受けてみるぞな!一万発発射せ…」
その時、弁財天の上空にキラリと光ったものがあった。
「旦那~間に合った!」
キュウウウウウウイイイイン~という急降下でケットシーの乗った3機のF102が弁財天に爆弾を投下した。それがスローモーションのように落ちていき、そして、一瞬、時が止まったようになった。
ドゴーン、ドゴーンと小爆発が連続しておき、それがやがて大きな爆発となって弁財天を包んでいく。
「やった!勝った!」
レーヴァテインの艦橋では乗組員が総立ちでこの光景を見守る。まさに1万発の霊子弾頭弾が放たれる瞬間であったので、それに引火しての大爆発である。巨大な要塞である弁財天もこれにはひとたまりもないだろう。
トラ吉率いるケットシー長靴中隊10機は、急ぎ、準備を整えると燃料を片道だけにして機体をできるだけ軽くし、最大戦速で飛び続けたのだ。途中で7機が脱落したほどの強行軍であったが、3機は見事なタイミングでこの戦場にたどり着くことができたのだ。
爆発して炎に包まれていく弁財天を眺めながら、平八はあの幽霊娘が無事かどうかに関心が移った。だが、それは早計であった。なぜなら、爆発しながら外壁がボロボロと崩れていく弁財天の様子が異様な感じに見えてきたからだ。
「平八くん、あれ、あれを見て!」
フィンが指差す方向に黒い塊が現れ、それはやがて戦艦の形となって姿を現した。
「ケケケケケッケ…最後の切り札というのは、こういうものをいうぞな。猫が乗った小さな飛行機でパンティオン・ジャッジの覇者が決まったなどというのは、今後の歴史にふさわしくないぞな!歴史を決めるのは、この市杵嶋姫命ぞな。ケケッ」
弁財天の中から現れた船(市杵嶋姫命)は、巨大な戦列艦であった。弁財天自身が超巨大なものであったから、この巨大な戦列艦は小さく見えるが、それはメイフィア最大級の戦列艦であるコーデリアⅢ世の3倍はあった。巡洋艦に過ぎないレーヴァテインは、この巨大戦艦の6分の1に過ぎない。
「全主砲、目標、レーヴァテイン。これで消し飛べ!」
市杵嶋姫命の主砲は、全部で10門装備されていた。そこから放たれる霊子砲は、通常の主砲の2倍の破壊力があった。これが1発でも命中すれば、レーヴァテインなど軽く撃沈してしまうだろう。
「うああああ!もうダメだ!」
平八は観念した。どう考えてもジ・エンドである。
だが、諦めない人物がいた。
フィン・アクエリアスである。
フィンの体がまた金色のオーラに包まれた。同時に魔力ゲージが振り切れ、魔力シールドがレインボーに輝き始める。あの前衛艦隊を突破した時のレインボーシールドだ。それは10発の直撃弾を受けたが、すべて弾き飛ばした。
だが、さすがのレインボーシールドもこの主砲の破壊力に大きく耐久力を削られた。
「シールド耐久力、50%低下」
防御担当のパリムちゃんがそう告げる。次に10発直撃されたら、もはや、勝つすべはない。カレラさんが巧みにレーヴァテインを右左に動かし、主砲の砲撃をかわしていくが、それでも2発、3発と受けて、その都度、シールドの耐久力が大きく削りとられる。フィンの魔力で少しずつシールドは回復していくのだが、小夜の攻撃の方がそれを上回っていた。
(このままでは、押し切られる)
平八はフィンの方を見る。フィンは目を閉じて、魔力供給を続けているが、それも限界に達しているように見えた。レーヴァテインの攻撃も圧倒的な霊子バリアに守られた市杵嶋姫命には、一発たりとも通らない。
「平八くん、来て!」
フィンが突然、目を開けてそう平八に手を伸ばした。平八はその手を握る。握った途端に金色の光に包まれたフィンと平八がレインボーの光に変わった。魔力ゲージも振り切れ、そしてレーヴァテインに異変が起こった。
前にナセルとミートちゃんが封印解除したレーヴァテインのメイン制御室でパキンパキンとストッパーが外れる音がした。
ナセルが驚いの表情で自分の目の前のデストリガー発射装置を見ている。
「で、デストリガーゲージいっぱい…いや、青から黄色、緑、赤、金、レインボー色にゲージがチャージされている。デストリガー撃てます!」
「そんな、あと20分は撃てないはずなのに!」
旦那の後ろから、魔力ゲージがすさまじい勢いで六度フルチャージされたのを見て、ミートちゃんは恐ろしいことが起こると感じた。
「バーニング・ストライク6連、てーっ!」
フィンの命令と同時にナセルがトリガーを引いた。
六連射されたデストリガーの光が、市杵嶋姫命を貫いた。
パンティオン・ジャッジの覇者が決まった瞬間であった。
勝った!勝った!結婚??
でも、あのフィンちゃんの覚醒ぶりはどうだ?
なんだか、尋常な力ではありません。




