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アドミラル~魔法艦隊の艦長に転職したら、彼女(提督)ができました~  作者: 九重七六八
第2章 パンティオン・ジャッジ~トリスタン編
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ドラゴン教団(弐)

パンティオン・ジャッジの決勝戦、早く始まれ~という声を無視しつつ、

全然、関係なさそうな新興宗教の話です。メイフィアタイムスのラピス記者の潜入取材ですが・・・何やら、巨悪のしっぽがあるようで・・。

 ドラゴン教と称するその宗教団体は、トリスタンの古代から信じられている宗教であった。ドラゴンを崇め、その出現を人類の創世だとする教えである。ただ、神と崇めるドラゴンが実物として現れるのと、250年前にそれによって人類が滅びかけたこともあって、トリスタンでは主要な宗教ではなかった。


 だが、それゆえ、信者の中には狂信的な者もいた。また、ドラゴンのもたらす世紀末の審判から信者は救済されるという教えも手伝って、ここ最近、その勢力を伸ばしているのであった。


 信者はドラゴンの歯で作られた小さなペンダントを首にかけ、ドラゴンをイメージした赤いフード付きのマントを着ているのですぐわかる。信者は老若男女を問わずであるが、ドラゴン教の総本山が魔法王国メイフィアの第2都市サザンプトンの山中にあるためにメイフィアの民が多い。


信者は3年に1度は総本山の寺院にお参りするのが義務付けられているので、サザンプトンの港にはトリスタン各地から集まった信者を目にすることができる。信者はサザンプトンの街から、100キロ離れた総本山へ歩いて巡礼することが義務付けられていた。途中に設けてあるドラゴン教団の祭殿を7つ回り、それぞれ祈りを捧げてから、本殿に向かうことになる。


「さあ、みなさん、祈りなさい。ドラゴンの大いなる力を信じ、その力に身を委ねなさい。信じるものは来る人類粛清でも、生き残り再生の礎になることができるのです」


 ドラゴン教の司教はそう信者に語りかける。彼らの教義の中では、ドラゴンを殺してはいけないというものがあり、当然ながらパトロール艦隊や打撃艦隊には、それなりの妨害行動をするのもこの教団の信者の日常であった。


 妨害といっても、大半は軍港入口でデモ行動をしたり、座り込みでアピールするぐらいであったが、中には過激グループによるテロ行為もあった。2年前にはパトロール艦に不法侵入した信者が、爆弾を抱いて自爆するという事件もあった。


 そういうこともあって、メイフィアの警察当局や国軍は、この教団には警戒していた。ならばドラゴンを倒す英雄を選抜するパンティオン・ジャッジは妨害しないのかというと、彼らの教義では、パンティオン・ジャッジは、ドラゴンを呼び覚ます儀式みたいなものであり、選ばれた英雄は「ドラゴンに捧げる生贄」とされていた。よって、信者はパンティオン・ジャッジの邪魔はしないし、戦いの行く末を他の観戦者とは違う意味で注目していたのだった。

 

 そんな教団の総本山へメイフィアタイムスも記者、ラピス・ラズリは潜入していた。ドラゴン教徒が着る赤いフード付きマントを着て港から100キロの行程を歩き、怪しまれないように7つの祭壇への祈りも捧げた。旅の途中で、フィン艦隊がタウルンの潜空艦艦隊に勝ったというニュースを聞いたが、ラピスの関心はフィン艦隊にヴィンセント伯爵が同行しているか否かということであった。


「それは確か?間違いなく、ヴィンセント伯爵はオベリスクの戦いに参戦したの?」


ラピスはニューヨークタイムスの編集長に問い合わせていた。


「ああ、間違いない。ヴィンセント伯爵は戦列艦マクベスにてオベリスクの戦いに参加している。出航の際にも記者が何人も目撃しているし、公式の戦況発表でもヴィンセント伯爵の活躍ぶりが記録されている。どんなガセネタを掴んだか知らんが、早く帰って来い。いくら、マリー様からの指示とはいえ、お前は記者なんだ。王家のスパイでもあるまいに」


「いえ。私の独自ルートによる情報も兼ね合わせての取材です。スクープをものにしますから、もうしばらく取材させてください」


「ラピス、そこまで行って何だが、あの教団の取材はやめておけ。ヴィンセント伯爵がらみのスクープは出せないし、あの教団はヤバイにおいがする」


「編集長、ヤバイにおいって?なんです?いつもの長い経験から来るジャーナリストのカンてやつですか?」


「君には分からないかもしれないが、ジャーナリストは危険な場所に出向くときには、ヤバイと感じたら引く勇気も持たねばならまい。死んでしまっては意味がないからな」


「編集長、真実を国民に知らせることに比べれば、命など小さなものです」


「ラピス、それは違うぞ。死んでしまっては真実に迫れる報道はできない。もう帰ってくるんだ。パンティオン・ジャッジもいよいよファイナル。世界を救う英雄が決まる瞬間を取材した方がよほど国民のためだ。そんなちっぽけな教団など、報道する意味はない」


「編集長、あと3日ください。どうしても確かめたいことがありますから…」


 編集長が何か言う前にラピスは通信を切った。ドラゴン教団の中には確かに武闘派グループがいて、テロを画策するものもいるが、大半の信者はごく普通の市民である。老人や女性、子供もいるのだ。教団の中枢は穏健派が占めており、大っぴらに取材をしなければ、自分の身分もわかるまいと思った。


(しかし、おかしいわね。ヴィンセント伯爵が戦場にいるということは、ここにいるのは別人ということ?)


 ラピスはここ数日間の情報からヴィンセント伯爵がドラゴン教団の幹部として活動しているということを掴んだ。突拍子もない情報で最初はラピスも信じなかった。だが、調べるに連れて、その情報がだんだん真実味を帯びてきたのだ。


(ヴィンセント伯爵とドラゴン教団…なんの接点もないと思う。だけど、彼のフィン・アクエリアスに示す異常な執着心、最初は単なる女好きの軽い男の気まぐれと思っていたけれど、何だか裏がありそうだわ)



「ラピスさん、いよいよ第2司祭様がお目見えされるわ」


 ラピスが寺院の中庭で通信を終えて、本堂に戻ってくると、ここまで一緒に巡礼をしてきたおばあさんがそうラピスを見つけて手招いた。このおばあさんは、二つ目の祭壇への行脚の途中で弱っていたところをラピスが助け、ここまで一緒に旅をしてきた人だ。


 お婆さんの名前はアンと言った。夫と最近、死に別れ、3人いた子供も独立したところで、暇な人生どうすればいいの?と思っていたら、布教に来たドラゴン教の司祭の辻説法に感動し、ドラゴン教の教えにはまったそうだ。今回、初参加の巡礼だということ。ちょうど、ラピスぐらいの年齢の息子がいるので、ラピスをお嫁さんにしたいとお節介を焼いていたのだった。


 アン婆さんが手招いた場所は、祭壇がよく見える席であったので、ラピスにとっては好都合であった。


「どこ行ってたの?司祭様の祈りの時間が始まったら、本堂に入ることもできないわよ」

「ありがとうございます。ちょっと、お手洗いに…。で、それで例のイケメン司祭様は?」


 ラピスが正面の祭壇を見るとちょうど、右手から赤い司祭服をまとった金髪の背の高い男が登場してくる途中であった。


(確かに背格好、髪の色…似ているけれど…)

「なんで、仮面を被っているのよ!」


 思わず、そう言ってしまった。周りの信者がラピスをぎょっとして見る。慌てて、


「第2司祭様のご尊顔を直接見たかったのに~どんなイケメンかしら~」


と言ってごまかした。司祭の男はちょうど目だけを覆う仮面をつけており、これによって、ヴィンセント伯爵かどうか判別がつかなくなっていた。


「司祭様は、祈りの時にはあの仮面を身につけなくてはいけないから、顔を見ることはできないわ。でも、祈りの後の信者へのお言葉を下されるときに仮面を取ることもあるそうよ」


 そうアン婆さんが囁いた。この婆さん、信者初心者なのに情報通である。

(じゃあ、顔はそのときに確認できるわね)


 そうラピスは思い、司祭の祈りの儀式を眺める。時折、信者も一緒に頭を垂れて祈り、経典の一部を一緒に暗唱した。1時間もそんなことをしていると、やがて祈りの時が終わり、司祭が信者の前に歩み出てきた。


「信者のみなさん。ようこそ、総本山へ。みなさんの敬虔な祈りが神に通じました。今、まさにドラゴンが一体復活し、このトリスタンの大地を飛び立ちました。もうすぐ、審判の時が来ます。その時には、ここにいる信者のみなさんだけが、この地上に選ばれ、再生の時を過ごすのです」


(ちっ!仮面取らないじゃない!)


 ラピスは心の中で舌打ちをした。確認しなくても、この男がヴィンセント伯爵でないことは間違いないとはいえ、顔を見て確認したいと思った。


(まあいいか。ヴィンセント伯爵がここにいなくても、彼につながる情報を得られれば)

と考えていると、顔が見れなくて落胆していると思ったアン婆さんが、


「ラピスさん、まだ、諦めるのは早いですよ。第2司祭様は、説諭の終わりに今日、身の回りの世話をする女性信者をご指名なさるとのことよ。私のような年寄りは無理だけど、ラピスさんなら選ばれるかも。そうすれば、ご尊顔を見ることができるわ」


「ええっ!そんなことがあるの?」

「ええ。儀式の一部と聞いています」


(おいおい、それじゃあ、怪しい教祖が女性信者を片っ端から食っているのと同じじゃない?とんだ、エロ教団ね!)


「はあ~っ」


とラピスはタメ息をついた。こんなエセ宗教に世界をひっくり返す陰謀などに絡んでいるわけがない。第一、ヴィンセント伯爵は今頃、戦勝してクロービスに帰投途中だ。こんなところにいるわけがない。


(無駄足だったわ…)


 そうラピスが思って頭を上げた瞬間、第2司祭が自分の方を指差している姿を見た。


「そこのお嬢さん、あなたを今宵のパートナーに指名します」


「おおっ…」

「きゃあああ…」


 どよめきと小さな悲鳴が聞こえる。選ばれなかった女性信者のため息とラピスに向けられる賞賛と妬みの声である。


「え?私?え、遠慮します…」


といったが、その意見は黙殺され、教団の衛士に手を掴まれて、祭壇の司教のところまで引きずり出された。金髪の第2司教がうやうやしくラピスの右手を取り、そこに接吻をする。


(この男…)

ラピスのジャーナリストの第六感がひらめいた。


(パーティで見ただけだけど、この男、間違いない。でも、なぜ?戦場にいる男が?)


 司祭はラピスの手を取り、祭壇を静々と退場していく。信者の歌がホールいっぱいに響いている。



ラピスは司祭の私室に連れ込まれた。


(相変わらず、この男は軽い。クロービスでも貴族令嬢から女性士官、メイドから、街で見かけた花売り娘まで、毒牙にかけたという好色漢。ここでも女性信者とお楽しみとは)


 ラピスは、この司祭の素顔を見たら、さっさと逃げようと思った。ここで逃げると、今後の取材活動に響くが、情報を得るために体を使うのはラピスの信義に反した。


だが、第2司祭は部屋に入ると


「ククク…」


と笑い始めた。そして、ゆっくりと顔につけた仮面を外した。


「ラピス・ラズリ。メイフィアタイムスの記者だな。こんなところにまで来るとは…」


 仮面を机にコトリと置き、ゆっくりと振り返った。金髪のさらさらヘアが眩しいその顔。


ラピスの目に予想通りの顔が映った。


「ヴィンセント伯爵…」

どうして?なぜ、ヴィンセント伯爵がいるんだ!お前は戦列艦に乗ってるんじゃないのか!勘弁してよ~お前のわけのわからない行動で、どれだけ読者が呆れて去っていたのか!って、懲りない作者を責めないで・・。

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