決戦前・・・それぞれの場合(四)
ヴィンセントくんの悪巧みは密かに進行中。それとは別ルートで主人公たちは、ちょっと、進展しそうな雰囲気。
今回は思いきりラブコメ路線のお話なので、硬派な読者様・・読み飛ばしてくださいな。
「こんばんは。フィンちゃん」
「ようこそ、平八くん」
平八はフィンの宿舎を訪ねていた。フィンの実家はマグナ・カルタにあるので、この首都クロービスでは、国軍の高級将校用の家があてがわれいた。
玄関には護衛の兵士が2名見張っている。宿舎にはフィンとメイド長のアマンダさんが住み、庭の別棟にはパリム&プリムちゃんが住んでいた。カレラさんやミートちゃん、ナセルたちもそれぞれ、国軍の士官用住宅に住んでいる。平八だけがなぜかリメルダの屋敷を宿舎としていた。
高級士官用といっても、若い佐官級の独身者が住む住宅で、提督が住むには小さい家であった。玄関を入るとすぐキッチン兼ダイニングとリビング、個室が2つという作りだ。一応、庭にはプールがある。今晩は何故か、アマンダさんがいない。
フィンちゃんはというと、両手にミトンを付けて、体にはエプロンを着ていて明らかに料理中であった。
「今日は、平八くんに手料理を食べてもらいたくて…」
(て、手料理~っマジですか!フィンちゃん!)
彼女の手料理が食べられるなんて、男として最高の幸せである。作っている料理を見るとオーブンには大きな魚が香草で包まれて焼かれている。鍋にはグツグツと煮込まれたシチューがある。それに焼かれたばかりと思われるパンがテーブルに置かれている。
「う、うまそう!」
台所で仕上げをするフィンちゃんの後ろ姿を見て、平八は思わず声を上げてしまった。香しい料理とエプロン姿の初々しいフィンちゃんもである。結婚したらこの光景が毎日拝めるのだ。
(幸せすぎるう~っ!)
こういう場合、ヒロインの作る料理が破壊的にまずかったり、作っている最中に爆発するのがラノベでは定番であるが、残念ながらそんなパプニングはなかった。フィンの作る料理は魚の香草焼きにしても、シチューにしても驚く程、美味しかった。あまりの美味しさに無我夢中で食べることに集中してしまったくらいである。
「はい、平八くん、お茶です」
トポトポと熱いハーブティが注がれる。フィンちゃんも席に座り、そして、ティーカップを手にとった。カップを両手にはさんだフィンちゃんは、急に黙りこくった。そして、目から涙がポタポタと落ちた。
「ど、どうしたの?フィンちゃん!」
慌てて平八はフィンの両手に手を添える。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「何を謝るの?フィンちゃん」
しばらく、声を押し殺して泣いていたフィンは、やっと顔を上げた。真っ直ぐに平八の顔を見る。
「わたしはとても欲張りです。強欲です」
「ど、どういうこと?」
唐突にそう言われても、平八にはよく分からない。この娘、考えていることが読めないのだ。そこが平八にとってはたまらない魅力なのだが。
「平八くんの昇進をわたしが止めていること…それと引き換えに、軍の要求に屈して私の艦隊にヴィンセント伯爵を入れたこと」
「昇進を止めているって…」
「平八くんは、これまでの戦功で2階級特進、少将にするって言われているの。当然よね。それだけの活躍をしてわたしを支えてくれたから…」
「別に昇進なんかしたくないさ。元々、大佐待遇なんて、この年じゃありえないんだろ?」
「ううん。わたしの大将の方がありえないわ。平八くんが少将になったら、レーヴァテインの艦長じゃなくなっちゃうから」
フィンの言うことは、メイフィア軍に関わらず、最もなことであった。通常、駆逐艦クラスは少佐が艦長を勤め、巡洋艦で中佐、戦列艦は大佐か准将をもって充てるのが普通であった。平八が少将になるということは、分艦隊の提督くらいはやらないと軍の組織上まずいということなのだ。
(そんなしきたり、やめろって!)
「わたしは平八くんに旗艦の艦長をやってもらいたくて、このパンティオン・ジャッジファイナルが終わるまで平八くんを傍に置くことを願い出たの。その代償がヴィンセント伯爵の件を国軍に要求されたの」
「なんだか、変な話だよね。提督がそう言っているのに、いろいろ条件付けるって」
「ううん…。わたしが平八くんと一緒にいたいというワガママが原因なんです。パンティオン・ジャッジに勝利して、この世界をドラゴンから守護する役割があるのに」
「フィンちゃん」
平八はそっと立ち上がり、フィンの後ろに回って抱きしめた。
「いつまでも僕は君のそばにいるよ。昇進なんてクソくらえだよ」
「平八くん…」
フィンもそっと立ち上がり、くるりと平八の方を向いた。もう言葉はいらなかった。そっと重なる唇。(時間よ止まれ!)
平八はマジで思ったが、やはり、いつまでもキスするのはおかしいので、二人はぎこちなく、体を離した。
「フィンちゃん」
「平八くん…ちゃんは止めて。リメルダさんみたいに呼び捨てでいいよ」
「フィンちゃ…フィン!君は僕が守る。ヴィンセント?あんな奴、ボコボコしてやるよ。それでなくても、エヴェリーンさんにボコられると思うけどね」
「フフフ…クソくらえだとか、ボコられるとか、平八くんは少し、言葉がお下品です」
「フィン、平八くんじゃなくて、平八。リメルダはそう呼んでいるよ」
フィンはそう言われて下を向いた。顔が真っ赤で超可愛い。
「へ、平八、平八、平八…」
そう言うと平八の首に手を回して抱きついてきた。
(おーっこれは!行けるのか?行けるのか?行っていいのか?)
ダメに決まっている。
ドンドンと、ドアを激しく叩く音。
「平八、艦長、ここにいるんだろ?警備の兵士から聞いてるんだ!開けてくれよ!出ないと、俺は殺されるううう…」
(あちゃあ~ナセルの声だ!)
フィンがドアを開けるとナセルが転がり込んできた。平八の背中に隠れる。平八はドアの向こうを見た。
(鬼だ!)
鬼がこっちに向かってくる。
「艦長~っ!ナセルをかばうなら、あなたもここで死ぬう~?」
冗談じゃない。ミートちゃんの嫉妬の炎で焼かれるのは、ナセルだけで十分だ。
「ミート?どうしたの?怖い顔して」
フィンが場の空気を読まない発言をする。
「コイツ、わたしを…わたしを押し倒して、変なことをしようとしたのに、ポケットにこんなものを入れていたのよ~!」
ミートちゃんが見せたのは先ほど、平八が入れておいた名刺だ。こう書いてある。
楽しかったです。
また、ケルンを指名してくださいね!
待てます!
「ふざけるなああああああ…。わたしにあんなことしておいて~」
ナセルのやつ、ミートちゃんにどんなことしたんだ?
「いや、これは艦長が、平八のもので、勝手に俺の上着のポケットに…」
(おいおい、ここでそれをバラすな!確かにそうだけど、お前はミルンと書いてある名刺を確かに持ってるはずだ!)
「(-_-)」
フィンの目もじと目になる。
(ヤバイ!こっちまで延焼するじゃないか!)
だが、ナセルのバカも覚悟を決めたみたいだ。平八の背中から飛び出ると、殴りかかるミートちゃんの右手首を掴む。
「バカ!こんなことするのはお前だけだ!」
「うそ!嘘つき!」
「本当だ!そしてこんなこと言うのもお前だけだ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「好きだ!大好きだ~だから、結婚してくれ~俺の可愛い妻になってくれ~!」
ミートちゃん、フィン、平八、ついでに外で聞き耳を立てていた護衛の兵士たちも固まった。
クスクス…とミートちゃんは笑い始めた。
「・・・・・・・・ぷっ・・なに、それ?それがプロポーズ?」
「ああ!ドラゴンが現れ、いつ死んでしまうかもしれないけど、その瞬間に見ていたいのはお前だ!」
「ば、馬鹿ね・・・こんな、嫉妬深い女を妻にしたら、あなた、ドラゴンと戦う前に寿命がなくなるわよ」
「それでもいい」
(はいはい…バカ夫婦、退場してください。結果的にこちらのいいシーンを台無しにしてくれただけなんですけど!)
平八は悔しがったが、ナセルの野郎、見事にミートちゃんのハートを射止めやがった。
翌日には彼女の両親に挨拶に行って気に入られ、セミファイナルが終わったら挙式することになる。ドラゴンが復活して、明日にでも死ぬかもしれない不確かな世の中になるというのに…いや、だからこそ、愛を形にするのだろうか?最近のトリスタンでは、結婚を考えているカップルは、急に結婚式を挙げるものが増えているというのだ。
「うらやましい…ですね」
フィンが平八の背中のシャツを少しだけ引っ張った。
いいところで邪魔され、ミートちゃんは、フィンのところでガールズトークするというので、平八はおとなしく、リメルダの屋敷に帰ることになった。
(ううう…行けるはずだったのに…)
行かせるか!
ナセル、うまいことやりやがった!でも、ミートちゃん意外と簡単に陥落してしまったが、ナセルのこと最初から好きだったみたいですね。
有能な副官も女の子・・ということでしょうかね?




