決戦!第4魔法艦隊~エアズロック空戦(弐)
今回は当面のライバル、第4魔法艦隊のリリムちゃんが登場します。メイフィアの歌姫らしいのですが・・・。
「お兄ちゃん?」
平八はふいに話しかけられた。港を出港する手続きの書類が認可されるまで、待っている待合室だ。振り返ると赤い髪をツインテールにした小柄な女の子がいた。身長は150センチ以下って感じである。愛くるしい大きな瞳と発展途上のボディはともかく、この娘は一目見ただけで只者ではないオーラを放っている。
それもそのはず、第4魔法艦隊提督リリム・アスターシャであった。昨晩、パーティで遠目で見ただけだったが、直に見るといっそう幼い感じを受ける。年齢はファン御用達雑誌によると16歳(待合室にあったからちょっと読んだだけ)とのことだが、どう見ても中学生か下手したら小学生という姿だ。だが、やはりメイフィアで一番の歌姫と呼ばれるだけあって、幼くても芸能人のオーラが出まくっている。
その有名人が平八をつかまえて、
「お兄ちゃん」
などと呼んでくるのだ。非日常的な…いや、この世界に来て毎日が非日常的ではあるが、生まれてこのかた。芸能人などというものに出会ったことがない平八は何て答えていいのか迷ってしまった。
「いや、僕は君のお兄ちゃんじゃないし…」
「だって、リリムより年上でしょ。呼び方はお兄ちゃんじゃダメ?先輩にします?」
「いや、先輩も…」
実のところ、こんな美少女に「お兄ちゃん」とか「先輩」と言われて嬉しくない男がいるはずがない。平八はスマホのゲーム以外からこんなセリフで呼ばれたことは一度もなかった。(中学、高校、大学と異性と接する時間をほぼ自分の殻にこもって過ごした平八はともかく、普通の男子でも状況的に妹や後輩がいても美少女じゃなかったりするケースも多かろう)
「で、そのアイドルの君が僕になんのようですか?」
「リリムに敬語なんて使っちゃダメ」
「だって、君は第4魔法艦隊提督でもあるでしょ?」
「それを言うなら、お兄ちゃんも第5魔法艦隊旗艦艦長。異世界から来た救世主でしょ?」
「あまり注目されていないけどね」
「それは第5魔法艦隊だからですよ。他の艦隊だったら、今頃は人気者でマスコミの取材がすごいでしょうけどね。この国のマスコミはちょっと観点がズレているのよね」
「ひょっとして、リリムちゃんはマスコミ嫌い?」
「嫌いよ。アイツ等、本当に人のプライバシー無視だから。第4魔法艦隊の提督に選ばれて良かったのは、軍事機密ってことでマスコミをシャットアウトできることね。この場所にもマスコミ関係者は入って来れないし」
「はあ、そうなの?」
クロービスの軍港の警備はそこそこ厳しいらしい。
「お兄ちゃんとこんなことしてるところを写真雑誌の奴らに見つかったら、明日の新聞にスクープ!衝撃、リリムちゃんに恋人発覚!なんて見出しが踊っているわ」
(そりゃそうだ。自分の元いた世界でもアイドルが男二人っきりで話しているところを写真撮られたら、それが全然関係ない相手であってもスキャンダルにされてしまうだろう)
平八は納得したが、そんなことよりどうして当面の敵であるこの娘が自分に話しかけてきたかである。
「で、リリムちゃんはどうして僕に話しかけてくるの?リメルダみたいにスカウト?」
「へえ、やっぱりリメルダさん、お兄ちゃんのことをスカウトしたんだ。噂は本当だったようね。まあ、お兄ちゃんの魔力を見ればスカウトするわけも分かるけれど」
「その口ぶりだと、スカウトってわけじゃないね」
「ええ。お兄ちゃんの艦隊とは初戦で戦うので、その宣戦布告よ。本当はフィン提督に言うべきでしょうけれど」
そう言ってリリムちゃんは右手を差し出した。握手ということらしい。平八は右手を差し出し、そっと手を握った。この国で最高の歌姫の手はやわらかかった。
「マネージャー、出航時間は変わりないでしょうね?」
「はい。リリム様」
魔法艦隊の制服を身にまとった女性が手帳をペラペラめくりながら答える。彼女はリリム・アスターシャが所属している芸能プロダクションのマネージャーで、彼女がデビューした時からの担当であった。気が利くのでリリムはこの30代のキャリア女性をずっと自分のそばに置いていた。
「クロービスを出航後、アーセナルに到着は予定通りでしょうね」
「はい。全て予定通りです」
そう言ってマネージャーは消毒されたウェットティッシュを取り出し、リリムが差し出した右手を拭いていく。先ほど平八と握手した右手だ。
「全く、戦いがなければ、あんな異世界の男と握手なんてしないわ」
先ほどのお兄ちゃんと微笑んでいた顔とは全然違う表情でそう言った。リリムはファンとの握手会でも表では笑顔だが、仕事が終わるとこうやってマネージャー女史に消毒させているのだ。ついでにあのファンはキモかったとか、手の汗かきやがってとか、暴言をはきまくるのが常であったから、平八があまり悪態をつかれなかったことは幸いであった。
「あの男にいくら魔力があっても、所詮は魔力の媒体となる戦艦が貧弱では私の敵ではなわ。順当に第5艦隊を撃破して、第3艦隊を倒せば、リリムの人気は上がるかしら?」
「それはもう、間違いないですわ。このパンティオン・ジャッジのイメージソングもヒットしつつありますし、リリム様がそこそこ活躍すれば、ますます売上は伸びますわ」
リリム・アスターシャは、年少ながら厳しい芸能界で生きてきたために、とても強かな性格の持ち主であった。公女に選ばれたことを自分の人生の最大限に生かすことを考えていた。自分も所詮は第4魔法艦隊提督に過ぎず、また、仮に勝ち抜いても世界を守るためにドラゴンと戦うなんてまっぴらごめんであった。第5魔法艦隊を破り、新聞紙上を賑わせ、第3魔法艦隊に勝てなくても善戦すればそれで十分であった。
リリムは右手のひらを撫でると中指にはめられた魔法の指輪が彼女の魔力と反応して、スマートフォンのように情報画面が映された。それをいじって世の中のニュースをチェックする。この戦いに第4公女として参加することになってから、ネットでは自分に大して好意的な意見が多かったが、少なからず批判する連中もいた。メディアも多くは人気者のリリムに好意的であったが、中には痛烈にバッシングし、それで売上を伸ばそうとするところもある。そういう情報を集めて対策することも人気者の重要な仕事であった。
(三日後、お兄ちゃんの船、沈めさせていたただきますわ。ククク)
黒い・・・この娘、黒いわ・・・。腹黒!




