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雪だるまと女の子

作者: ま~ちん

雪だるま視点で雪だるまが子供とお話(?)をしたら……そんな普通のお話

 辺り一面の銀世界。僕を作った子供たちが他の場所に遊びに行くと、また別の子供が遊びに来た。

「ねーねー雪だるまさん。どうして雪だるまさんは雪だるまさんなの?」

 少し大きめに子供たちに作られた僕を幼い女の子は少し見上げるように言う。

 そうだな僕がなぜ雪だるまであるか。それはダルマというモチーフになるものがあって、それを雪で

「えい」

 お腹の辺りを女の子の手が入る。暖かそうな手袋に包まれた手を抜くと僕のお腹には女の子の手形がくっきりとついた。

「あはは」

 女の子は無邪気に笑う。別に痛くはないけれど、思考が中断されるのはいい気がしない。

 僕の顔は笑顔で作られているけど、僕の心は大いに不満だ。

「ねーねー雪だるまさん。雪だるまさんはどうして雪だるまさんなの?」

 また同じ質問をされる。やれやれと思いながらも、僕はなぜ僕であるのかを考える。

 元々僕は雪だった。さらに元をいうなら塵でもあるのだけどそこまでは思い出せない。雪だるまとして雪を集められた際に雪としての意識も記憶もなくなり、僕という雪だるまとしての人格に統一、いや生まれ変わり

「えい」

 背中にズボっと何かが入ったような気がする。ゆっくりと抜けると後ろからさっきと同じ女の子の笑い声が聞こえた。

「あはは、冷たいー」

 そう言いながら女の子は僕の周りを駆け回る。

 まったく、人がせっかく僕という雪だるまの成り立ちを教えようとしているのに。子供とは困ったものだ。おまけにポケットに入っているものが落ちそうで危なっかしい。顔は笑顔なのに僕は冷や冷やしてしまう。

「ねーねー雪だるまさん」

 女の子がまた僕に話しかける。答えないとわかっているのになぜこの子は僕に話しかけるのだろうか。 いやもしかしたら、わかっていないのかもしれない。もしかしたら僕が話しかけてくれるのを待っているのかもしれない。だけどそれは無理なんだよ。

 たとえ口があってもその口から声を出すことはできないんだよ。こうして僕が考えていることも口に出すことは

「えい」

 雪玉を投げられた。ちょうど頭の辺りに当たってたんこぶみたいな形になってしまった。

「あー、いたそう」

 だったら投げないでほしい。顔は笑顔でも心ではこの無邪気な女の子の扱いに困り果てているのだから。僕の顔が困り顔なら、今の僕の気持ちを少しだけ伝えられるのにと、僕の顔を笑顔に作った子供に少しだけ恨んだ。

「ねーねー雪だるまさん」

 今度はなんだい。

「あたし雪が好きなの。どうしたらずっと雪みられるかな」

 ちょっと真剣に言う女の子。女の子には聞こえないけど僕は考えてみた。

 この国は四季がある国だ。春には美しい桜が、夏には暑い太陽の奴が、秋には綺麗な月が、それぞれある。今は僕の季節だけど、季節を越えて雪を残すことはできない。

 美しいものはいくつあってもいいと思うけど、たった一つだからこそ美しいと思えるものもあるんだよ。季節というのはそれぞれに最高の舞台を与えている。今の僕がこんなにも輝けるのも冬という舞台があ

「えいえい」

 雪玉を二個投げられた。作りが甘かったのか、コブにもならずに落ちていく。

「むー」

 不満そうな女の子。なにがしたいのかさっぱりわからない。子供はわからない。顔は笑顔の僕だけど、心は困惑していた。

「ねーねー雪だるまさん。どうしたら雪だるまさんとずっと一緒にいられるの?」

 それはさっきと同じ話をすればいいのだろうか。それは無理だと考えればいいのだろうか。少し考えてみた。雪だるまは季節を越えることはできない。心に残り続けるというけど、記憶や心なんてものもいつか消えてしまう。雪は溶けるもの、人は忘れるものだから。

「あははー」

 女の子はわいわいと僕の周りをまた駆け回っている。邪魔されなかったと思ったら、人が真剣に考えているのに失礼な子だ。と不満に思っても顔は笑顔の僕。

 しかもさっきからポケットから落ちそうだったものが、走り回っているせいでもうすぐポロっと落ちそうだった。危なっかしいと思ったけど、僕はそれを口に出すことはできない。僕の顔は笑顔だけど、僕の心配に気付いてほしい。

 あのはしゃぎ方だと落としたことに気づかないかもしれない。どうしたものか。

「あ」

 女の子が僕を見て声を出した。なんだろうと思ったら僕の腕代わりの木の枝がぽろりと落ちた。

「雪だるまさんの手、落ちちゃたね」

 そう言って駆け寄る女の子。僕の腕を拾ってくっつけていると、ポケットから落ちそうだったものがポロりと落ちた。

「あはは、あたしも落としちゃった」

 無邪気に笑いながら言う女の子は落し物をとるために屈む。気づいたのならよかった。ほっとする僕。

「んー」

 屈んだまま女の子は動かない。どうしたんだろう。

「ねーねー雪だるまさん。一緒にお写真撮ろうよ」

 女の子は立ち上がって無邪気な笑顔で言う。手に持っているのはおもちゃのカメラだった。昔のカメラは知らないけど、今のカメラはおもちゃでも十分にカメラとして働いてくれるらしい。人は忘れるものだけど、形あるものがあるのなら憶え続けることは出来る。そう僕はこの冬が終わればいなくなるだろう。この子も僕の事は忘れるだろう。でも僕がいたという証があれば、ふとした時に思い出すかもしれないし、少し形は違うかもしれないけどこの子が望んだとおり雪だるまと一緒に居ることが出来る。そう、移り行く記憶と季節の

「はいチーズ」

 僕の隣でシャッターを押す女の子。僕と自分が写るように頑張って小さな手を伸ばしていた。

「えへへー、雪だるまさんとお写真撮ったー」

 無邪気に喜ぶ女の子。嬉しそうなところ悪いのだけど、僕はまだ考えごとの途中だったんだ。出来れば写真を撮る時は心の準備をさせてほしいと言うか。

「ねーねー雪だるまさん。あたしと雪だるまさんとお揃いだよー」

 お揃い? なにがだろう。

 ほらとカメラに写った写真を見せる女の子。

 ……なるほど確かにお揃いだ。これは僕を作ってくれた子供達には感謝しないといけないかもしれない。考えごとが多い僕はきっとこの写真の顔は出来ないのだか

「はいチーズ」

 また小さな手を精一杯伸ばしてをシャッターを切る女の子。

 無邪気に喜びながらその写した写真を僕に見せた。




 不意打ちで撮られた二枚の写真、その二つの写真に写る僕たちはお揃いの満面の笑顔だった。




                                              〈終わり〉



企画を知ってふと思いついた作品。オチが弱いかも。

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