少し非日常な四日
長らく放置してすいませんでした
町外れの寂れた一軒家
その家は潮風により朽ち始めている
中には二人の子供が居る
一人は少年、一人は少女
袋を漁る姿を見る者は居ない
INN
「え! 賄いですか!」
「あんたらまだ飯食べてないんやろ?」
『キュウ!』
今僕は宿屋にて労働しています、ノエンが財布を無くしたからです。
部屋はキャンセルしたけどそのキャンセル代すら払えないこの状況、なのでノエンが財布を探しに行っている間僕がただ働きをすることに。
「まさかあの男が親父の叔父の親友さんやったなんてな」
「そのよしみとかなんかでまけてくれません? キャンセル料」
「それとこれとは話が別やからな。気張って働き」
「うぐぐ……はっ! この香りは」
値引き交渉に敗北したところに漂ってくるこのにほひ、これは魚を焼いて出る煙の匂い!
「魚か〜、久しぶりだなぁ」
『キュウ?』
おっとヨダレ垂らすとこだった、でも街の近くには川くらいしかなくて魚なんて手に入らないし。
「魚料理はここの名産やゆう事になっとるからな」
「名産じゃないの? 水都なのに」
「ここも海にそれほど近いわけやないしの、わざわざ漁師町から取り寄せてるんよ」
なんかガッカリする話を聞いた気がする、運送の手間もかかってそうだから刺身は無理かなあ。
「でもうちは活きたまま魚を飼ってるからな、新鮮で旨いで」
「活きたまま! 本当に!?」
「本真や、無理言って海水ごと運んでもらっとる。そんで下の仕切りの中で放しとるんよ。その分高いけどな」
「やった!」
賄い料理最高、ノエンに食べさせてあげれないのが残念だなぁ。
調理場まで行くと本当に床の下に魚が居た、魚を食べるといえば猫だけど狐だって食べたいっ!
「どぞ、ズグメの塩焼きだよ」
「う、ん? いただきます……」
『キュウゥ……』
なんか生臭い、下処理あんまりやってないのかな。ハクも臭いで避けてるし。
「別に魚食べるの初めてやないんやろ?」
「そうだけど……下処理はどうしてるの?」
「内臓でも残ってたん?」
「んー、ワタは残ってないけどエラがあるし。臭みを消すのは? 塩振って少し置いとくとか、あと真水で洗ってる? 血が中に残ってたけど」
「え、ええ?」
「この賄いを作ったのは誰だあっ!!」
ラサでは話にならない、調理場に突撃して片っ端から問い詰める。
「なんだ、お前さんはノエンの連れか?」
「その通りですっ、この賄いを作ったのは貴方ですか?」
「ああ、何か不満でもあるのか?」
イブルと同じ強面のおじさんに捕まってしまった、でも魚料理には拘りがあるから毅然と応えよう。
嗅覚がいいと日々の食事にもこだわらないといけないからね。
「大ありです、これだと初めて食べた人には逃げられますよ」
「おいユノリっ、親父にかみついたら……」
「ちょうど良かった、魚の臭いをなんとかしたいと思っていたところだ。キャンセル料はまけてやるから言ってみろ」
「分かりました、まず魚の種類からです……」
/^ヾ/^ヾ
「疲れた……」
『キュウキュッ!』
あのあとは臭いを抑える下処理や調理を教えてた、途中から臭いが苦手な人でも食べられる様なメニュー開発までやらされたし。
今までは生きたままで活きの良い魚しか使わない分他より人気だったらしいね。
油とか香料があったら揚げ物も教えれたんだけどな……。
「でも刺身を許可してもらったので嬉しいです」
『キュ?』
真水の用意には手間取ったけどね、ハクって意外と美食家だから。
「でも醤油が無いんだよね……美味しいけど」
ノエンの財布が見つかったら魚買って魚醤でも作ろうかな、少なくとも塩だけは欲しいし。
あ、あと干物も作りたいな。
「ひうっ!?」
「あ、ごめんごめん、つい尻尾掴んでもうた」
「うぅ、せめて一言言ってよ」
「パタパタ振っとるのが悪い、それにしても触り心地ええな」
「ふふん、毎日梳いてるからね。まだ誰にもモフらせた事はないよ」
「ほほう……」
水都に来てからは服の中に隠してた尻尾(と耳)、ここの従業員の人達には見せても大丈夫だったから今は出してる、やっぱり窮屈だからね。
ハクを見ても驚かないから大した事ないんじゃない?
「いや待て、今はその時じゃない、堪えるんだ……」
「何言ってるのラサ?」
「いやいや、なんでもあらへんよ。それにしてもノエンとかいうの遅いね」
「うん……」
ノエンが探しに行った時よりもだいぶ陽が昇って、むしろ傾いてきたし。
「もしかして水路に落としたのかな……」
「だったら諦めてあんたが稼ぐしかないね、看板娘二号とか言って」
「せっかく旅行に来たのに働きたくない……」
さっき料理教室開いたけどさ。
ああうぅ、ノエンが拉致ったのが悪いんだ! いきなり旅行とか絶対なんかあるって。
「おっと、休憩はもう終わりや」
「はーい。ハクは大人しくしててよ」
『キュ、キュウ』
「次は買い出しにでも行こうか、上客も来るしな。ついでにノエンでも探す?」
「うん!」