少し非日常な三日
水都、そこは都市の大半が水没しており、人々は建物に沿う形の足場や水路を用いて生活している
過去、まだ大地に根を張る木々があった頃。突然の浸水により新たな土地への移住を強いられる事になった住民達は、帰郷の誓いを残していった
現在、住民だった者達は、誓いを果たしに水没した故郷に戻り生活を始める
人の生活圏にまで侵入してきた水は人に不便を強いる、しかしある種の幻想的な景観から、都市は有名な観光地となり栄えている
以上水都観光案内より
「うぅ……」
水都に到着したけど潮風が鼻にクる、べたつくししょっぱいし。おまけにハクは袋詰めにされてるし。
「僕は尻尾とか隠さないとだし」
狐っぽい尻尾とかってモコモコして着ぶくれするし窮屈だし、とにかく動き辛い。
ここ水都では水上で物を売ったりもしてるみたいだ。その多くが海産物、日用品の類は流石に建物内で販売してるけど。
「ユノリ?どうしたんだ急に立ち止まって」
少し先の足場を危な気無く進んでたノエンが立ち止まった僕に声をかける。正直言うと帰りたくなってきたけど。
「なんでもないよ、ただ水路に落ちたらどうなるのかなあって」
「そりゃあ濡れるだろう」
「やっぱり、足付かないよね」
「場所によっては底なしになってるとか聞いた事もあるな」
それは流石に無いと思うよ? 元は地面だし。
「っと、ここだ。ここが今日泊まる宿だ」
そう言ってノエンが腕を伸ばした方には、大きめのホテルがあった。何か高そう。
「ここ高くないの?」
「心配無用、金ならある。それにあそこは俺の知り合いの知り合いが経営してる」
「殆ど他人じゃ……」
内心ノエンの交友関係に疑問をもったが最後まで口に出す事が出来なかった。
「すいません!」
「どいて下さい!」
「え……きゃあっ」
「と……ユノリっ」
路地裏(みたいな暗い所)から、いきなり飛び出して来た二人の少年がぶつかってきて、水路近くまで押し退けられる。
「わ、わ、わ……あ、無理」
ドボン
態勢を整える事が出来ず、バランスを崩して水路に落ちた。でも慌てず慌てず、先ずは目を開いて。
「ゴボガッ(目が!)ブガバブガボコ!(うぎゃがうぁぁ!)」
潮水が目に沁みてパニックになった僕は、そのまま水をガブガブ飲みながら溺れそうになった。そういえば尻尾とかも水を吸って体が重いかも。
「ゴボボ……ゴボ……」
ああっ! 空気が、上、上に行かないと。息が苦しい、水が入ってくる! 兎に角急いで上がらないと、出鱈目に手脚を動かして何とか浮いてる。
「……リ! 暴れ……!」
何かが僕を抱き込んだ!手脚を封じられ、何も出来なくなるかもしれない。
「そこの兄ちゃん!そいつ離してっ!」
男が水路で溺れている少女を助けようとしていたが、逆にパニックで暴れる少女のおかげで二人共溺れかけていた。
「プハッ、離したら沈むだろ!」
「良いから一旦離して!わたしが助ける」
青年を先ず引き離してから背後に周り完璧に動きを止める、既にぐったりしている少女をそのまま水上まで引っぱり、大人に足場まで上げてもらう。
/^ヾ/^ヾ
「……ぅ……」
「気がついたか?」
「ここ、は……?……そう、ノェ……ン、僕はもうだ……め痛い!」
いきなり頭をぶたれた、犯人は見知らぬよく日焼けした少女だった。睨みつけたら逆に睨み返された。
「あのな、この人本気で心配しとったのに、なんやその態度は」
「あぅ……ゴメンねノエン。心配してくれてたのに」
「……大丈夫だ、無事なら問題は無い」
ぅぅぅ……ノエンが怖い。
「ほら水だ、たらふく飲め」
「う、ん」
ノエンが水を渡してきた、喉が塩辛かったので洗い流す様に一気に飲む。
「ほら、二杯目」
「ええ!?」
二杯目を無理矢理押し付けられたので渋々飲む。頭痛いし気持ち悪いのに水っ腹にまでなった。
「はい三杯目」
「次四杯目」
「ごめんなさい、もう巫山戯ないから許してえぇ!」
水を大量に飲まされ続ける拷問を思い出して土下座して謝る。う、お腹が圧迫されてる。
「駄目だ、塩水を大量に飲んだんだ、下手すると脱水症状がでる」
「本当なん?」
「そうだ、俺は薬師だからな。さあ、五杯目だ」
「ぅぅ、うあぁぁん! 飲んでやるよぉぉ、ンク、ンク、ンク、ンク」
泣きながら水を煽る、く、苦しい。
「泣くな! 泣いたら水分が無くなる。罰としてあと五杯!」
「うあああぁぁぁぁぁぁんんっ!?!!」
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あの水責めの後、現状を説明してもらった。
要は溺れる前に目指していた宿、ホテルのベッドに寝かされている、と。日焼け少女はラサと言って命の恩人らしい、この時期に水に浸かったのでシャワー(!)を使っていたらしい。
「それにしてもあんたら金持ちやんな、ここ結構かかるで」
「いや貯金をな、少し奮発すればこのくらいは」
「それやが、あんたちゃんと金持っとるか?」
「当たり前だろ、この通り上着のポケット、に……は!? 無い、無い! まさか落とした?」
「ええぇ!? それ本当ノエン!」
「あ、ああ。確かにこのポケットに」
そう言いながら上着のポケットに手を入れるが、既に無い事は分かっている。
「ノ、ノエン……この宿の料金って、払ってるよね」
恐る恐る尋ねる、町に帰るだけなら最悪お金は必要は無いが。
「……払ってない」