日常の一日
町の外側には薬屋がある。
そこで店番をしているのは、二年ぐらい前にこの薬屋の主人に連れられてきた、狐のような耳と尻尾をもった小さな女の子だ。
最初は見た事も無い容姿で魔物かとも思ったが、今ではジュージンという種族だとも分かっている、それに良い子だ。
狩りから帰る夕暮れ前に寄るといつも眠そうにしていて、見ていると何と言うかなごむ。
いつだったか耳か尻尾を触らせてくれと言ったら断られてしまった、いつかあの毛並みを撫でるのが目的で通い詰めている。
子供を見て疲れが飛ぶとか言ってる隣の家の父親さんの気分はこんなものなのかもしれないな。
皆も待ってるだろうし、そろそろ帰るか。
/^ヾ /^ヾ
「……ジュル」
今日の夕飯の献立を考えながら店の肉を見ているとついよだれが……いかんいかん、今日は贅沢出来ない。
「ユノリちゃんかい、さっきからうちの肉を睨んでるのは」
「おばさん、すいません店の前に居座って」
話しかけてきたのはこの精肉店?の店主、では無くその妻で、よくお世話になっている。
「いいのよ別に、どうだいこれなんかお得だよ?」
「ちょっと、金欠……で」
薬屋も二年前に比べればだいぶ繁盛しているが、この町の人達は健康であまり薬は要らないから儲けは少ないのだ。
その分ノエンがどこからかお金を手に入れてくるからやっていけるけど
「でも食べたいんだろ?肉」
「はい、そうです……でもお金無いんで」
「はあ、あのガキ、稼ぐ気はあるのかね。ユノリちゃん、この間うちの主人に薬貰っただろ?そのお礼だよ」
おばさんがスグ肉を渡してくる。
「え、でもこの間も……」
「いいから受け取っときな、今度買ってくれりゃあいいから」
「ありがとうございます!お金入ったらちゃんと買いますから」
ぺこり、と頭を下げる。いつもこうやってお肉を貰っていて頭が上がらない。
「お礼だって言ってるだろ、気ぃつけて帰りなあ」
「はーい」
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薬屋の奥の方で肉を調理する。
「よし出来た、香草焼きになるのかな?」
この時期生えてる野草を使った香草焼き、と言っても材料順番に突っ込んで焼いただけのものである。
「残りは燻製か干し肉にすればいいか」
冷蔵庫なんて物は無いので保存にも気をつけなければいけない、もう慣れた物だけど。
「ただいま〜。お、今日は肉か」
この店、薬屋の店主が薬草などの採取から帰って来た。きちんと手を洗ってから席につく、がその前に言っておく事がある。
「ノエン?これは金欠で困っているところに肉屋のおばさんがくれた物なんですけど?」
「それはおばさんに感謝だな、冷める前に食べた方が良いと思うんだが」
ノエンのすかした態度にカチンときた。
「話よりも飯ですか、今の薬屋の経済状況を知ってその態度を貫いてるのなら殴るよ?」
金槌を取り出しながら駄店主に説教する、ただ貧乏な訳では無いのがひどい。
「この間もどっかの貴族の使いを追い返しましたよね、たかがハゲ治療なら受けろ、あの報酬貰ってたらちゃんとこの肉も買ってたんだよ?」
「でもハゲ治療は一度やると続けないといけないからさあ……」
「なおさら受けとけよ!治療の間は金に困らないじゃん」
「え、面倒いし。肉が冷めてるぞ?」
仕方ない、説教は食べてからにしよう。あぁ肉汁がしたたる、ちょっと臭いがブロイラーには比べられない。
「旨いな、でもこの草って」
「ヌラだよ?丁度庭に生えてたから使った」
「ぬぉぁぁぁ、注文の薬があ……まあ、旨いしいいか」
ちなみにヌラとはニラに似た野草で普通の人達は食べない。まあ、見た目雑草だし。
食べ終わって食器、といっても大皿一枚を洗うだけだ。
ノエンは自室に戻って何かをしている。
特に何もする事は無いので濡らした布で体を拭いて寝る。
風呂が無いのにも随分慣れたものだなあ、明日は水浴びでもするかな。
そこまで暖かくなっていない時期なので毛布をかぶる……?
何か忘れてるような。まあ明日も色々あるし、寝ようか