23.大団円さ
※拍手文変更しました。
「―――なるほど、これまたひどいな」
そう言うと、ローゲルテ侯爵は読んでいた報告書を机に投げました。
頬杖を突いてそっぽ向くと、「大団円ってか」と不貞腐れます。
「グレーフェンベルクは城の被害の割には妻も無事、大出費だが……モントノワールは目をかけていた女を見事保護、そしてこのごたごたの間にグレーフェンベルクマジで死ね畜生と争っていた件の家は弱小勢力の嫁をちゃっかり迎え、俺もあいつらも何の旨みも無い。
ケッ、"悪役"ってのはとことん嫌われてるな」
幼い頃から仕えてきた執事が置く最後の報告書に目を通そうとすると、小さなノック音が聞こえました。
侯爵は「入れ」と許可を下すと、そろりと彼の妻、マリアが顔を覗かせます。
「……お仕事中、でしたか…?」
「気にするな。どうかしたか?」
手招く侯爵に対し、執事は顔が強張っています。
マリアはそれに気づくと執事にくすりと微笑んで、大好きな彼の前に姿を現しました。
「ああ、仕立て終わったか」
いつもの白黒、ピンポイントに赤を使うだけのドレスたちと違い、今回は侯爵の注文通り「真紅」のドレスです。
白すぎる肌と黒檀の髪が映える出来栄えに、侯爵はよしよしと頷きました。
「今度の夜会はこれだな。たまには赤もいいもんだろ」
「はい」
マリアの微笑に気を良くした侯爵は思わず朱の付いた唇に目がいって、慌てて咳き込んでは報告書に手を伸ばします。
執事はソファに座るマリアに紅茶を淹れていると、主から「ふはあ!?」と変な声が聞こえて静かに手を止めました。
「どういうことだ、え、何この死者数?」
「……私も驚きました」
「俺が手を出したところ全滅じゃないか。まるで俺が死神みた―――」
ぴたり。
報告書を丸め、自分が手を出しては妻を気にして不毛な付き合いをしていた女の家を想います。
不幸が全て降りかかって、喜ぶのは。喜ぶのは…………侯爵はチラッとマリアを見ました。
マリアは我関せずとばかりに指先をカップに当てて温めており、侯爵の視線に気づくと、こてっと首を傾げ、微笑を浮かべ。
「天は全て見ておられますもの」
―――侯爵は数秒の後に意味が分かって、愛する妻から目を逸らすと、異常に出ては止まらぬ汗を垂らしつつ強張った笑みを張り付けました。
*
「……が十点――あ、そこの壺はそこじゃ駄目です。ほらそこの若執事ー、しゃきしゃき運びなさーい。…ふむ、耳飾りは全部無事……あっ、ここ埃が残ってますよ!」
遠くからは城の修理に騒ぐ音がするのに、イリア夫人の指示にあれそれと飛ばされる執事も侍女も気にせず走り回ります。
ここは伯爵曰く「金の鍵の部屋」。夫人からしたら「義父様にごは…お供え物を上げる部屋」ですが、今や鼠一匹いない地下牢にはたくさんの宝が安置されておりました。
「イリア」
「休みをくださいぃぃぃぃ」と泣き言を言う若いのに無茶難題を言っていると、背後から軽装の伯爵がやって来ました。
夫人はにっこりとほほ笑んでドレスの裾を摘まみ上げると、「今日はまた一段と素敵な御髪で」と跳ねた髪を哂います。
「うっせーばあか。…やっと"炙りだし"終了したんだよ…ふあ…」
なお、伯爵の肩には手に怪我を負って安静にしていたはずの猫ちゃんがおり、夫人を見るなり「にゃーん」と包帯の付いた手を伸ばして来ます。
「安静にしてなきゃダメでしょう?」と言いつつ抱きしめてにゃんにゃんするのを呆れた目で見た後、伯爵は夫人から宝物の確認が書かれた紙を広げました。
「…あの爺さんが突き落とされたって聞いた時は驚いたが、まさか急いで投げ入れて隠しといた織物が上手く抱きとめてくれるとはな」
「本来なら私が帰る頃には全て運び終わる手筈でしたのに…まあ、遅い物にも福があってよかったです。執事長の具合は?」
「階段を落ちた時の打撲程度だ。化け物だよな」
ふう、と一旦息を吐くと、伯爵は「城の中身も換えないとな」と呟きました。
「中身も外見も。手がかかってしょうがないな。……だから、その……イリア」
「あ、ヴェルンハルト様、遅れてしまいましたがこれ、修繕費にでも充ててくださいませ」
「えっ……はあ!?何だこれ!!」
情けない話、しばらく質素でいてくれと恥を忍んで言おうとしたら、まさかの金貨。
どう見ても結婚初期にっこっそりしていた内職で貰える額ではありません。…ま、まさか身を売って……!?―――とあり得ない妄想に入りかけた伯爵の頬に、ぬこぱんちが入りました。
「…浮気者!!」
「何を馬鹿なこと言ってんですか。それは前妻様方の持ち物売り払った時のお金ですよ」
「えっ」
「いやー、よく売れました。とくに寝間着と下着が」
「鬼畜!」
「離婚再婚繰り返した人に言われたくありませんー」
「……お前、まさかまだ根に持ってんのか…俺は過去の女なんてもぐもはっ」
「まあそれは置いておいてですね、はいこれ。お父様とお兄様からもお金を頂きました」
「…。イリア…お前ってドライで逞しいな……向こうの家はこんなに出して大丈夫なのか」
「まあ、現在黒字の絶好調ですし。いいんですよ、使えるものは使っちゃいましょう」
「おまっ、自分の親になんつー言い草!?」
「自分の親だからこそです。…これとこれじゃあ足りませんか?」
金貨の袋に顔を突っ込んでふがふがしてる猫ちゃんをスルーして、夫人は伯爵に微笑みます。
伯爵は思わずぱっと顔を逸らして、…少しの後に気まずそうに「ごめん、助かる」と呟きました。
「…これと侵入者に紛れてた賞金首の死体を国に送ってもらう金、あの娘の家の金で何とかなりそうだ」
「…リーゼさんの家……本当に潰されるので?」
「当り前だ。ここで甘い態度とったら舐められるからな。…しかもイリアのドレスを裂きやがって…あろうことか太腿にまで……!!そんな屑雇った家は絶対潰す!」
「あーもー。はいはい……で、家長の母親を処刑したとして、娘さんはどうするのです?」
「あ?ああ…三女は何か死んだらしいからな。長女は修道院で母親の罪を雪ぎたいそうだ」
「じゃあ、リーゼさんは……?」
不安げに伯爵を見上げる夫人に、伯爵はふっと笑って―――ピンと夫人の鼻を弾きました。
「あの小娘はお前の家の養女にしてもらう。男爵位でも釣り合わないが、まあマシだろ」
「まあふふふ、ごめんなさいねえ釣り合わない家の娘で。実家に帰らせて、」
「そ、そういう意味じゃねーし!……ごめん」
「別にいいですケドー…ああでも、私の義妹かあ……ふふふ、今度『お姉さま♥』って呼んでもらおーっと!」
「……なんだろ……お前が言うと厭らしいな…」
まあ頑張るか、と二人は互いの背をぽんと叩きました。
*
「お嬢さん」
伯爵の城のある一室で、お嬢さんはその声にぴくりと反応しました。
重たい瞼を上げ、深く被っていたシーツから鼻先だけ覗かせます。
「お嬢さん、」
ぱたん、と扉を閉じて、子爵は薬の匂いがするお嬢さんに近づいては膝を着き。
目と目を合わせると、にかっと笑って黄桃のコンポートを差し出しました。
「これなら食べれる?」
お嬢さんはぱくぱくと口を動かした後、やや口を噤んで頷きます。
食べさせようと手を動かす子爵にびくりと肩を揺らすも、「どうぞ、」と差し出されたその手に、
「………」
そっと、触れると。
小さな口で、生きるために一生懸命、吐き気をこらえて齧ったのでした。
22話から一日二日くらい置いた後の話でした。
(分かり辛い皆の動き)補足:
マリア:お城壊したり内部の裏切りが見つかったらしばらくは顔を出さずにいてくれるかしら?⇒えへへ部下を使って工作して爆発させちゃった★
「自分を出す」のって慣れると楽しいですね、グレット様!←
イリア:マリアは絶対何かやらかすな。一応金品は安全な地下行きにしていらない物売っとこう。⇒指示出すからちゃんと動いてよね☆
お金かき集めたからしみったれたこと言うんじゃないですよ、ヴェルンハルト様!
グレットさん:嫁が根に持ってて怖い。でも今の嫁なんか可愛いぞ←手遅れ
ヴェルンハルト様:やだ…嫁がこんなに頼りになるなんて…!…だけど仕事は終わらない…。
テディさん:お嬢さーん!と笑顔でいる、剛腕に物言わせてべしゃってして斧で惨殺した人。現在とても甲斐甲斐しいです。
お嬢さん:メンタルガタガタだけど体があちこち痛いけど声が出ないけど男の人怖いけど、熊さんが好きなので頑張ってみる。でも外怖い。
猫ちゃん:賞金首一名を殺害後何人かの足を使えなくなさせる。が、手を負傷。
お母さん(※イリア姐さん)、ボク頑張ったよー!




