18.頑張ってみる、私
※文章おかしくてすいません。
「お嬢さん、お嬢さんって、案外もぎたての野菜が好きなんだね」
子爵の麦わら帽子を被ったお嬢さんの頭を、ぽんぽんと叩く子爵にお嬢さんはトマトを齧る手を止めてしまいます。
(はしたないのかな、)
清流に浸した冷えた野菜がここまで美味しいとは思わなかったのです。お嬢さんは少し落ち込んだ声で、
「だめですか…?」
そう見上げると、子爵の顔はお日様のせいで眩しくて。
ごつごつした指でお嬢さんの唇の横に付いていたトマトを掬うと、朗らかな声で言いました。
「いや。作り甲斐があるよ。とても、…………」
*
ふ、と目が覚めた時、お嬢さんは寒気を覚えて布団にくるまりました。
今はもう、あの馬車に逃げ込めたときの余韻は途切れてしまって。とても心細くて恐ろしいのです。
(きもちわるい)
昨夜の事ですが、馬車を降りた際に従者が馬を宥めているのを見て、お嬢さんはふとそう思い、
(いたい)
―――走馬灯のように、実家で縛られ散々な運ばれ方で………恐怖が続いて気が触れそうだったのを思い出して。
ひくり、と喉が引きつって、お嬢さんはふらついて尻餅を着いた後に泣き出してしまいました。
夫人が宥めても全然で、お嬢さんは夕飯にも顔を出さずに閉じこもったのです。
もう、このまま部屋のシミにでもなって見えなくなるか、空気に溶けて無くなりたいと思いながら。
(……わたし、なんてよわいの)
どうしても、お嬢さんは弱弱しくて泣き虫で。怖がりでどうしようもない人間です。
いっそ、誰も知らず頼りもない土地でやり直せば、少しは強くなるのでしょうか……?
「……きもちわるいよ。テディさん………」
*
お嬢さんは馬車に揺られながら、漠然と「出て行こう」と思いました。
何せお嬢さんは不義の子。子爵にどんな顔でどんな言葉をかけられるのかなんて想像もしたくないのです。ここまでしてもらって申し訳ないですが、……。
「リーゼさん、」
重たい心臓に苦しんだまま、お嬢さんは首を傾げて振り向きました。
夫人は微笑を浮かべた唇で、
「私の絵、どうなりました?」
―――絵。
どうなったか―――高確率で捨てられているでしょう。
あんなに良い出来だったのに。あの日の想いを振り返っては、何だか苦くなります。
「……出来たんですが、たぶん……」
「あら。じゃあ、描き直してくれますか?」
お嬢さんは「分かりました」と思わず口にしてしまって、少し遅れて「あっ」と思いました。
お嬢さんは迷惑になろうと逃げだしたい、と思いながらも、その根は約束は守る子でしたから。あやふやな心が弾き出した答えは、決して嘘ではなかったけれど―――。
(なんか、首輪を嵌められた気がする)
思えば、夫人は誘導が得意でしたから。
何となく、「適当な計画」が見透かされてしまったような気もするのです。
お嬢さんはオロオロした後、「でも、えっと」と言葉を濁しますが、
「お母様との約束を叶えてくれるのはリーゼさんしかいませんもの」
「」
「楽しみです。ふふ、お父様にも自慢しようっと」
「」
「あ、夫婦の絵も描いてくれるんですよね?じゃあお父様とお兄様と私の絵も頼めます?」
「」
お嬢さん程度の小娘では、夫人に太刀打ちできませんでした……。
眩しすぎる外の世界から目を逸らし、お嬢さんは小さくため息を吐きますと、夫人が穏やかに言うのです。
「……リーゼさんは、ヴェルンハルト様に似ていますね」
「えっ」
「悪い方にばかり考えて、信じてくれないんです」
「信じる……?」
「そう。―――私の、愛を」
酷い人ですよねえ、と夫人は口元を隠しました。
「まあ、悪い方も考えるのはとても大事だけれど、比重がね、あの人もリーゼさんも下手なんです」
「へ、へた…」
「その人の性格を考えてご覧なさい。一度決めたら、例え死体を吊るしてようが気にしやしませんよ。吃驚はしますけど」
「えっ!?」
「…モントノワール子爵だって、あなたの家が大変アレだろうことは分かっていますよ。結婚相手には相応しくないだろうとも、思っていたかもしれません」
―――それでも、あなたに求婚したのでしょう?
「……わかりません。…テディさんは、イリア様が思ってるような方ではないかもしれません」
「あら強情。ふふ、駄目ですよぅ、世の中には決めちゃったら何が何でも突き抜けちゃう負けず嫌いがいるってこと、学ばないと」
「………わたし、は」
「ん?」
「………私は、不義の子だったんです」
夫人の目が見開くのを、お嬢さんは見つめました。
そして間を置いた後、「大変でしたねえ」と口火を切って、
「でも、それだけですよね」
「!」
「怒りました?でもねえ、あなた、そんな人たちの中でもとても恵まれているんですよ。出の綺麗な人で、恋愛結婚が出来る人なんて少ないんです。私だって、最初はお金の為の結婚でしたから。……でも、それを哀れんだことはありません」
「……」
「あなた、自分で幸せを掴もうって気が見えないんです。自暴自棄というか、何かしら理由を付けて逃げてるだけ。―――いい加減になさい」
ここまで言われても、カチンと来ないのが不思議です。
お嬢さんは代わりに泣き出しそうになりながら、痛い言葉を静かに受けました。
「どんな行動をとってもいいですよ。その結果の自分に責任をとれるのなら。……あなたに必要なのは決断力です。そのままだと、おつむ空っぽのお人形ちゃんなだけですよ。その最後に、誰のせいだと思うしか出来ない、汚い人形になって終わるだけです」
「……」
「今がその第一歩。分かれ道なんです。自ら人形になるか、"か弱い女の子"に留まるかのね。―――そして私はね、あなたには幸せになって欲しいと願っているんです」
「…イリア、さま…」
「女は度胸です。だーいじょうぶですよー、私なんて貧乏貴族だの売女だの言われてますがね、気にしなけりゃ良い話ですし。リーゼさんへの悪口なんてたかが知れてますよ。慣れちゃう慣れちゃう」
「……な、れる……ですか」
「ええ!ヴェルンハルト様にそう思われたなら傷つきますけど。所詮家族でもない他人の汚い言葉なんて虫の鳴き声と一緒です。紆余曲折色々あり過ぎましたが、私はヴェルンハルト様との未来を選んで、本当に良かった」
「イリアさま…」
「だから逃げないで。負けないで。……子爵を、信じて。あなたは本当に愛されているのだから」
「……逃げ、なかったら。私は―――テディさんに愛されて、幸せに、なれますか?」
夫人は、そっとお嬢さんの頭を撫でました。
まるで自分の妹を励ますようで、胸が温かくなります。
「幸せにして欲しかったら、幸せにしてあげるんですよ。その強さをどうか、持ってね」
*
イリア姐さん<「絶対逃がさん」
オマケ:
イリア姐さんの戦績↓
敵意丸出しヴェルンハルト君を上手く懐柔する⇒ツンデレからヤンデレにチェンジするヴェルンハルト君を上手く戻す⇒デレデレヴェルンハルト君に進化させる。
ヤンデレマリアさんに引きずられずにお茶出来るメンタル。
メンタルヤバいお嬢さんへ叱咤激励の成功、飼い猫べーちゃんの英才教育などなど。




