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青髭攻略してやろうぜ!  作者: ものもらい
本編2:【美少女と熊さん】
20/42

7.青髭伯爵、お嬢さんに熊さんを勧める



お茶会に着て行くドレス弄りながら、お嬢さんはあれこれと弄られる銀の髪を忌まわしく思うのです。


(髪が長いって、本当に面倒だわ)


さっさと髪型を決めて欲しいのと、いっそ適当に括ってやろうか思うあまり、鏡の中のお嬢さんはぶすっとした顔でした。


まあでも、最近子爵もお仕事が立て込んでいるようなので、久しぶりに会えるのは嬉しい―――なんて素直に認めませんが、まあ昔よりかは行く気も出るというものです。


(……でも、ここまで金のかかったドレス……嫌な予感がするわね)


最初こそ嫌々でしたが、だんだん夫人との距離も趣味も分かってきたお嬢さんは割と良好な関係を築けたし、慕って来たのですが。

今日は夫人が手掛けたドレスを着たかったのに―――母と認めたくもない女にこのドレスを押し付けられて。


もう寒いというのにこんな……「子爵では物足りない」だなんて馬鹿な考えからなのでしょうけど。

お嬢さんは急にムカムカしてきて、椅子から立ち上がるとドレスに優しくない脱ぎ方で放り捨てました。女中は大慌てです。


「お、お嬢様……」

「これだと寒くてしょうがないの。夫人から頂いたドレスに変えて頂戴」


―――どうせなら、母と慕いたい方からのドレスを着たい。

お嬢さんは我儘に反省しつつ、温かいドレスにホッとしました。






「―――リーゼ、あのドレスは!?」

「サイズが合わなかったので」

「何を馬鹿な―――」

「はんっ、あの熊の所に通ってれば太るのもしょうがないんじゃなあい、お母様?」

「熊と豚でお似合いよね~」

「これ、お前たち……まあよい、乗れ」



姉妹で御揃いのドレスですが、長女の方が似合っているのは間違いなしです。

母は成金の垣間見えるドレスだし、三女は……お茶会中に釦が飛ばないと良いのですが。


「……そういえばお姉さま、すごい気の入れようね。…目を引くわ」


悪い意味で。


目の前で何故かお嬢さんを睨みつける姉に、気まずさから話を振ると、


「……ええ。伯爵に会うためにボロ臭い服で会えないでしょ…?」

「ああ、うん、そうね」


まだ伯爵狙いなのか、とお嬢さんは自分の姉の粘着ぶりに溜息を吐きました。

後に知りますが、長女は伯爵と会った際に「え?あの……あー、ああ、うん、姉妹だからって似てるわけないか…」と失礼にも面と向かって言ったそうです。


「着いたわよ。お行儀良くなさい」


今回は近場に住んでいる貴族主催のお茶会なので、案外ちゃっちゃと着きました。


お嬢さんはドレスと優雅な殿方からきっと抜きん出て悪目立ちしてるだろう子爵を一生懸命探しますが、なかなか見つかりません…まだ、来てないのでしょうか?


「…ほら、あの銀の髪の。商家の分際で偉そうに」

「厭らしい」

「というかあの豚にリボン付けた娘は何なの…?」


少しだけ家の人間と離れていたら陰口これです。メンタルの弱いお嬢さんはビクビクしながら大人しくうるさい姉の隣に戻りました。


「伯爵はまだなの…!?」

「お母様ぁ~あたしの婚約者はぁ?」



………。やっぱり、離れよう……。


うるさ過ぎて周りの悪口が聞こえない代わりに恥ずかしさで死にたくなります。

お嬢さんは出来るだけ頭の中を空っぽにして木陰を目指しました。―――ら。



「やあ御嬢さん。その月の光のような御髪は噂のヴァレッタの娘さんかな?」



びくっと、お嬢さんが振り向きますと―――「うわあああああ」とお嬢さんは泣きそうになりました。


声をかけてきたのは悪名高きローゲルテ侯爵。父も兄弟も不審死をし、愛人も多いやらなんやらの噂がいっぱいの素敵な殿方です。


それ以外にも、青髭伯爵と呼ばれた前当主の時からグレーフェンベルク伯一派と仲悪く……いや、モントノワール一派?


子爵は父君からとりあえず持っていた爵位の一つである「子爵」を与えられましたが、存命である父君が亡くなられたら「辺境伯」となります。

敵国(と言っても何年も戦争もありませんが)に隣接する領地を持つだけに権威も強いのですが―――モントノワール家はあの巨体に相応しく武に優れた家ですが、政治分野には基本的に無口であるので、何故か代々仲の良いグレーフェンベルク家があれこれと口を出す際の後ろ盾になっているのでした。


まあグレーフェンベルク領は実は芸術分野を奨励したりと商いにも上手く回しているらしいので、そういう意味では両家の力関係は等しいのでしょうが。


(よりにもよって……この狐顔が嫌なのに!)


この呼び止めに考えられることは二つ。

愛人勧誘か忌々しい一派と仲の良い女への嫌味とか……どちらかと言えば後者であって欲しいものです。



「…ご、御機嫌よう、ローゲルテ侯爵……最後にお会いしたのは春の美しい日でございましたね」

「ああ、覚えていてくれたのですか!嬉しいです―――が、どうぞグレットとお呼びください」

「い、いえいえ、私のような卑しい出の者が……」

「貴女が卑しい?ははっ、貴女のような可憐な妖精のどこが卑しいのか!きっと天使が間違って貴女をあの家に運んだのでしょうね」



それってつまり卑しいってか。


お嬢さんは思わず突っ込んだ口の悪さを窘めて、じりじり下がりました。

今ここで「どうです私の家にでも」なんて言われたらお嬢さんのような身分が低すぎる身では何も言い返せません。


「ああ、御嬢さん」


侯爵は手を伸ばし――――。



「おい、そこの……あー、……お前、お前だお前」



ひっ、と後ずさるお嬢さんの肩を、後ろからぐいっと引っ張って。

侯爵の顔が歪むのを見てから振り向くと、大変機嫌の悪そうな青髭伯爵―――ヴェルンハルト・グレーフェンベルク様が居ました。


「あ、あの、え?」

「…お前に注文した絵のことで変更したい点があってな。値段が変わるかもしれないからちょっと来い」

「あ、……あー、はい、アレですね、はい」


伯爵に絵を注文されたことなんてありません。

多分、見るに見かねて助けてくれたのでしょう―――お嬢さんは、あの日置いてけぼりにされた事を許すことにしました。



「…待ちたまえグレーフェンベルク。絵よりも私の話の方が先だろう」

「―――いいのか色男?お前を巡って愛人ブスが恥さらしなことをしてるが?」

「なっ…」

「それに、この女よりも妹の方がいいらしいぞ。気立ての良い娘だと」

「…………ふんっ」



更に何か言おうとしましたが、女性の甲高い罵り声が聞こえたので慌てて侯爵は去っていきました。


遠くなってドレスの向こうに消えると、お嬢さんはホッと息を吐いて、


「……伯爵様、嘘はいけません」

「なんだ、助けてやったのに」

「姉が言うのもアレですが……妹は、うん……」

「俺が言ったのはお前の末の妹のことだ。商談で会いに行った時に何度か会ってな。…夫を立てるのが上手い女だ」

「…妹は、元気でしたか?」

「ああ、あの時は身籠って幾月か……。旦那も努力家だ。駆け落ちした甲斐もあっただろう」



割と、伯爵は気を使った話題を選んでくれています。

……伯爵も置き去りの件に関しては反省しているのでしょうか。


「…そういえば伯爵様、奥方様は?」

「あ?ああ、あー…この前離婚した。もう一年は独り身の予定だ」

「そ、そうですか……確か、お名前は…あ、ア…」

「あー……あ、アンジェリカ…いや、アー…まあいいっ、もうすぐ熊が来るからそれまで俺に付き合え!」

「あ、はい……伯爵様」

「あ?」

「あの日、私を置き去りにしたのって、ワザとですよね」

「……」

「………」

「……しょ、しょうがないだろ、あのテディが気にかけたんだし……嫁を見つける手伝いっていうのもな、両家の仲を良くするのに大切な事なんだよ!」

「…せめて、そう教えてくれればあんな逃げ回らずに済みましたのに」

「しょーがねーだろ、大抵の女はアイツの見かけに驚いて逃げ出すんだ。…上手くいっても"良い人"で終わるし」

「…友達思いなのですね」

「そ、そういうんじゃない!」


なかなかに素直じゃない方です。


お嬢さんはせっかくの機会なのだからともう一度口を開きました。



「私の姉はどうでしたか」

「キツイ」

「…三文字にまとめて頂いてくれてありがとうございます」

「あれは婿養子でもないと駄目だろう。まあ幸い切り盛り上手のようだしな」

「姉はまだまだあなたをお慕い申しておりますよ」

「……姉がお前ならいいが」

「えっ?」

「容姿がお前程度であればまあ目を瞑るがな。あれと俺では分不相応というものだ」

「…世辞をありがとうございます伯爵様。ですが―――そんな伯爵様につり合える女性はいるのでしょうかね?」

「怒るな怒るな。…もう女には期待してないだけだ。中身は気にせん。見かけが良ければいい。……優しいだろう?」

「いえ全然」

「ちっ」



この人本当に結婚できるのかしら、とお嬢さんは他人事ながら心配になりました。


「…ちなみに伯爵様、理想の女性をお教えください」

「俺より年下。これは絶対譲らん」

「…それって少女しゅ…」

「違う!…年上の女は嫌いだ。あれこれと指示出しやがって。俺は支配するのが好きだからな。俺の言うこと全てに頭を垂れて従い、俺の後に従う。自立してないのも嫌だが自立し過ぎた女は嫌いだ。上手くあしらえないからな」

「そこに美女であると条件を加えるのですか……」

「いくらなんでも無理だとは分かっている。まあ、言うならタダだろう。どうせ理想だ」


まあ確かに、伯爵の性格を考えると手弱女な美女が一番上手くいくのかもしれません。

でも、それは最初だけ満足して、それだけって感じもするのですが。



「まあ俺のことはいい。―――いいか、さっきの狐男には気を付けろ」

「え、ああ…そのつもりですけど…」

「あいつは欲しがる女は金でも暴力でも使って手に入れるからな。まともな親にならこんな忠告はしないが、お前の母親は金に弱いだろ」

「はい」

「今はお気に入りに夢中だが、飽きたら多分お前に目がいくぞ。なんせモントノワールとローゲルテは現当主夫人でも争ったからな」

「えっ」

「まあ攫いはされなかったが……危ういところだった。あの夫人は本当に美しかったからな」

「夫人は人気者ですね…」

「ああ。―――んで、お前あの夫人ほど肝も据わって無けりゃあ口も上手くないんだ、綺麗な式挙げたけりゃ気を付けるこった」

「失礼な……って、わ、私は結婚するつもりはありません!」

「じゃあ命令してやる。……お前を逃がしたらあいつ一生独身だろうが。俺の仕事の手間を増やすな」

「か、勝手な―――」

「第一、あんなにテディにべったりだったくせに」

「」

「前に当主に話があって家に行ったら、お前ら呑気にくっついてスイカ割ろうとしてただろうが」



何故か勝ち誇った様子の伯爵に、お嬢さんはぷるぷると震えていました。


(し、子爵が『片手で割れる』っていうからッ本当かどうかちょっと見て見たかっただけだもの!く、くっついた方がよく見えたから……!)


言い訳していると、遠くからガタイの良い子爵が手を振りながらこちらに向かってくるのが見えて、お嬢さんと子爵は同時に「遅い(です)!」と怒り、もう一人は照れ隠しに言い捨てました。


「ごめんごめん、馬が急に具合悪くなって……お嬢さん、べーちゃんと仲良くなれてよかったねえ」

「……仲良くないです」

「暇だっただけだ。―――それよりテディ、おま」


え。


そこから先、伯爵は何て言おうとしたのか―――「グレーフェンベルク様ぁぁぁぁ!」とタックルしに来たお嬢さん方の群れに、埋もれてしまったのです。


子爵はいち早く気付いてお嬢さんを抱き上げて助けてくれたのですが……子爵は苦笑いで、後退しておりました。


お嬢さんはびくびくしながら令嬢の群れの元を見ると―――そこには「ざまぁみろ、」とわざわざ見えないところで話していた伯爵の居場所を教え、けしかけたローゲルテ侯爵がおりました……。



「………貴族って、……子供みたいですね」

「うん?ああ、男はみんないつまでも子供だよ?」






実は仲良いだろお前ら。






補足:


・モントノワールは本来「辺境伯」。当主存命なのでテディさんは数ある爵位の一つ、「子爵」を貰ってる。

ヴェルンハルト様は当主なのでそのまんま「伯爵」。領地は豊かで才能も有るので一目置かれてる感じ。


・熊さん領地と青髭領地はお上が仲良いので交通も商品もゆるゆる。ちょっとここ資料見てないのでそれが本当に可能かは……ふぁ、ファンタジーですから!!

…ちなみに熊さん領地は近隣の領地と仲良いのでお誘いごとも多い。青髭領地は熊さんと違ってそこんとこ微妙。両家はお互い困ったこと(侵攻とか困窮とか)が起きた場合助け合います。

あ、今回お茶会に誘ってくれたのはお隣の辺境伯(地味に危ないところ)。今回は息子と娘の婚活の為に奮発しました。


・お嬢さんと熊さんの「婚約前提お付き合い」はお嬢さん家と熊さん家しか知らない。


・ローゲルテ侯爵は馬鹿。女好き。

しかし今んとこ奥さんが着々と基礎固めするのに励んでいるので侯爵はとんでもなく馬鹿なことが出来る。


・熊さん家の夫人はあっちこちに拉致されかけたり口説かれたりと忙しかった。

後に「大量の吐血(※フェイク)で相手をビビらせる」という手をとったら穏やかな結婚生活を送れるようになりました。夫人は黒くないです悪戯好きなんです……。


・当然ながら伯爵の「理想の嫁」は手に入ることがありませんでした。今回は本編一年前の話です。


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