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恐怖!夜中の城主様!


※サブタイがネタバレ。


※ホラーとブラックと少しの艶注意。



さっき久々に見たらお気に入り数百を超えていましたので、その記念に。

お気に入り登録してくれた皆様、誠にありがとうございます!






「奥様大変です!ヴェルンハルト様が―――!!」

「……え?」





「―――――…睡眠不足、ですか……」

「ええ、しばらくは休ませてあげてください。…無理をさせないようにね」

「分かりました。ありがとうございます」



ぺこりと頭を下げたお嬢さんは、ベッドでぐったりとしている城主様の隣に腰掛けます。


ベッドが軋んだのにふと目を覚ました城主様は、掠れた声で「…お前か」と。


「ええ、イリアですよヴェルンハルト様。先程色んな意味で『無理をさせないでね』と言われて苛々してるイリアです」

「何だそれ……今何時だ」

「お昼前です。お腹空きましたか?」

「………いや」

「じゃあ喉乾きましたか?」


枕に顔を埋める城主様の髪を撫でながら聞けば、城主様はこくりと頷きます。


「少し待っていてくださいね」とお嬢さんはこの部屋に来る前に頼んでおいた、ライム果汁と水を混ぜた水差しから、コポリと音を立ててコップに移します。


「さあ、ヴェルンハルト様」


頬をぷにぷにと突っついてから、お嬢さんは城主様を起こす補助をします。

城主様は起き上がるとすぐにお嬢さんの肩に頭を乗せて、全く違う方向に手を伸ばしました。


「ふふ、こっちこっち」


コップを両の手で握らせると、お嬢さんは「ゆっくり飲むんですよ」と頭を撫でます。

城主様は珍しく噛みつかないまま、お嬢さんの言う通りゆっくりゆっくりと飲み干しました。



「さあ、もう寝ましょうね。一応ご飯時には起こしに来ますから」

「………添い寝、してくれないのか」

「して欲しいので?」

「………べつに」

「ムッキーお貸ししましょうか?」

「やめろ。余計に怖くなるだ―――…あ、」

「あら、"怖くなる"?…それまた、どうしたのですかヴェルンハルト様。何かあったのですか?悪夢でも?」

「………」

「ヴェルンハルト様。黙られてはイリアは何もお助け出来ません。…ねえ、何があったのです?」

「……………ぶんだ」

「え?」

「……呼ぶんだ…誰かが。俺を」











―――それは、いつだったのかも覚えてない。


ただ元気いっぱいで、俺はいつも通りイリアの部屋に行こうと思っていた。きっと「こんな遅くまで人を寝させないなんて鬼畜め」とか何とか言って、きっと出迎えて俺の我儘を聞いてくれる、そう思って急いで部屋から出ようとしてた。


それを引き裂くように嫌な風の唸り―――そう、この部屋って、風が唸る時の音が耳に障ってな、俺はたまに嫌になって客室で寝たりする。だけどもうその必要も無い。イリアの部屋で寝ればいいだけの話だ。


だけど気分は多少害された。幾らか落ちた心持ちのまま、部屋を出ようとしたんだ。そしたら、



――――かりかりかりかり。



まるで子供が引っ掻いて遊んでるような音だ。それが廊下に繋がる扉から聞こえていた。


俺は思わず昔酷いことをした弟を思い出して、不快どころかトラウマが出そうで。この部屋を開けた瞬間、何かがいるんじゃないかって、幸せな俺を怨んで祟りに来たんじゃないかって……。


「…お、俺は悪くない……」


―――だってそうだろ、元はといえばあいつの母親が悪いんだ。


俺はそう言い捨てて、朝方まで続いたその音から逃げるように寝室に入ったのさ。一日目はそれだけで、もう何も聞こえなかった…。



―――――かりかりかりかり。



だけど二日目。その日も風の煩い夜だった。

あいつは性懲りもなく俺に恨みを突きつけに来たんだ。俺はな、流石にキレて、


「うるさいっ!後妻の子供が前妻の子である俺をからかいに来ていいと思ってるのか!!」


扉を蹴った。

そしたら不快な音は止んだ。俺はほっとして、イリアの部屋にかけ込もうと―――



かりかりかりかりかりがりがりがりがりがりがり。



「……え?」


かりかり                      かりっ

       がりがりがり

                     ぽた。

ぱたぱた

                               がりがりがりがり。


ごん、ごんごん      かりかり          どん、とん。とんとんとん。




――――気付いたら、朝だった。


これはきっと、呪いなんだと、祟られてるんだと思った。


だけど領主がそんなこと、誰に言えよう。……イリア、ああそうさ、俺はお前に相談して、お前の部屋に駆け込みたかった。だけどな、




「アレがお前の部屋にまで追いかけてきたら……俺は本当に、狂ってしまうんじゃないかって…」




――――城主様はそんな薄暗い話を、お嬢さんに聞かせました。


本来ならこんなこと、墓まで持って行こうと思っていたのに、弱り切った城主様には我慢できませんでした。


お嬢さんは隈の出来た城主様の額から頬を優しく指先でなぞると、「大変でしたね」と布団を肩までしっかりと掛けてあげます。



「ヴェルンハルト様。大丈夫です。私が何とかします。…だから、あなたはもう休みましょう」

「…うそじゃないんだ」

「ええ。ヴェルンハルト様が弱みを曝すような嘘、おつきにならない子だって、分かっていますよ」

「………」

「ヴェルンハルト様、大丈夫、イリアはあなたの隣に居ます。何人にも、誰にも。ヴェルンハルト様を虐めさせたりはしません」

「…イリア……」

「だからもう、お休みしましょうね」

「うん……添い寝…」

「ふふ、はいはい」



割と早く眠りに落ちた城主様の髪をしばらく優しく撫でていたお嬢さんは、ゆっくりと扉に目を向けました―――。











風が酷い唸りを上げる頃。


結局城主様はそのまま眠りから覚めませんでしたが、不快そうに眉を寄せています。それを人差し指で揉んでいると、かたんと音がしました。



かりかりかり…かり…かり。かり…



「―――どなたでしょう?」



そっと寝室の扉を閉めて、お嬢さんは廊下に続く扉を睨みつけます。


当然返事はなく、……いえ、返事の代わりなのか、引っ掻く音が悪化しました。



がりがりがりがっ           がりんっ


                                 かりかりかんっ

     がりがりがりがり


ああ     ぁぁあああ

あああん                       ぁあぁあああああぁぁぅぅう




「……ヴェルンハルト様。これはだいぶヤバいの呼んじゃったんじゃないですか……」


風の唸りに混じって、嘆きの声が聞こえます。


お嬢さんは冷や汗の落ちるのを無視して、昼間に持って来てもらった抱き枕―――の背のボタンを外して、先の長い銃を取り出しました。


これは城主様には教えられませんが、お嬢さんのお兄さんが借金の中、何とも物騒な花嫁道具として贈ったものです。

女性用のは高いし、最新の物でもないけれど、銃に詳しくないお嬢さんでも金はかかったものだと思います。


使い方は何度も教え込まれましたから、お嬢さんは震える手で狙いを定めたまま、厳しい声で言いました。



「ここは城主様のお部屋です。城主様の眠りどころか健康も妨げるような不届き者は、妻であるこの私が排除いたします」



告げて、十秒待ちました。……気配は、まだ扉の向こうで蹲っています。



「死んだ者よりも生きている者の方が尊いのです。…あなたの不敬を罰して差し上げます」



―――まあ、そうは言っても、幽霊に当たるかどうか。


けれど"こういうこと"は気合いと脅しが大事だと言いますし、扉の前には教会で頂いた聖水を撒いてあります。十字架だって、お嬢さんの足下に転がっています。



がりがりがりがり……。



しかしお嬢さんの警告も虚しく、扉を引っ掻く音は絶えません。

寝室から城主様が呻く声が微かに聞こえて、お嬢さんはきゅっと唇を噛むと、引き金を引きました。











城主様は、つんざくような音で目を覚ましました。


慌てて周囲を見渡し、枕もとに隠した剣を引き抜きます。「イリア、」と痛む心臓を押さえながら呼べば、寝室の扉の向こうで、彼女の悲鳴が聞こえました―――



「イリア!?どうした、何があった!?」



部屋をざっと見渡すと、お嬢さんは居ません。開け放たれた扉に綿の飛び出た抱き枕と、城主様の為の替えの服、振り返ればベッドの近くに城主様が勧めた本も、転がっていました。


「いり、あ……?」


もう一度、二三歩部屋の真ん中に進めば、ソファの陰で見えなかっただけで、開け放たれた扉の前で、お嬢さんが蹲っています。


お嬢さんは城主様に気付かず、「ふふふ、」と笑っています……城主様は、"憑かれた"のではないかと、ぞっとして、だけどその肩に手を―――…







「ふふふ、きゃーわーいーいー!!ぬこたんぬこたんこんばんはー☆こんなお時間にどうしたんでちゅかー?」

「みゃーん」

「え?お腹すいちゃったんでちゅかー?困りまちた………いやあああああヴェルンハルト様!?なんで起きてるんです!?」

「…………」

「ちょ、やめてくださいその気持ち悪い物を見るような目!今のは……こ、子供が出来た時の練習をしてたんです!ぬこたんは居ません!…あっ」

「みゃー」

「…………色々、言いたい事がある…そこに転がってる銃とか、何でお前の胸に雑巾絞ったような子猫が押し潰されそうになっているのかとか。…だけどまあいい。イリア、」

「は、はい……?」


「扉の弁償と、お前が水浸しにしたカーペット代、添い寝の約束反故。……お前の身体で、払ってくれるよな?」




――――まあ、その後の事を書くのは野暮ですので、後日のことをお教えしましょう。


結局原因はお腹を空かせた食料番の猫の子供で、帰り道も分からず、いつも美味しい匂い(夜食とかホットミルクとか)がする、明りの漏れる城主様の部屋に、暖と食事を求めてみゃーみゃー泣いていた、というのが真相です。


ぼろぼろのお嬢さんはしばらく不機嫌だったのですが、あの件以来夜でも城主様の部屋に夜食を持って行ったり、仲睦まじく……。


「……あら、"べーちゃん"どうしたのです?」

「みゃーん」


不貞腐れていた割には猫に「べーちゃん」(モントノワール子爵による城主様のあだ名です)と名付ける辺り、新婚さんなお二人です。

「今すぐ倉庫にブチ込んで来い」と子猫にお嬢さんを取られて不機嫌だった城主様も、何だかんだで首輪を買ったり、足下をうろついててもお嬢さんが毎日ご飯をあげていても黙認してくれるようになりました。…嫁に甘いのですね。



ごん、ごん、ごん。



「……あら?この音ってあなたが体当たりしていた音では無いの?」

「みゃー?」



実は城主様の部屋がある所は風が酷い場所で、洗濯干しにも食料置きにも不向きなものですから、城主様の部屋付近は何とも寂れていて、対するお嬢さんの部屋は庭に面していて温かいのです。


だからお嬢さんも城主様も、城主様に用のある使用人も、じめっとした嫌な雰囲気と寒さから逃げるように部屋に入ります。一階の場合でも、使用人たちも似たようなものでそうそう通らないのです。


だから―――この音は、何なのか、よく分かりません。


お嬢さんはべーちゃんを抱いたまま、音がはっきりと聞こえる、城主様の部屋の向こうの角を曲がりました。



「……あれ、気のせいだったかな?」



向こうはまったく何もない―――お嬢さんは気味が悪くなって、急いで踵を反そうとしました。間違っても城主様には言えません。



そしたら、今度は「ごん」の代わりに「ひゅん」と、風を切る音がして。それが―――横に、止まって。


手摺の向こう、風に煽られながら、城主様に似た、歳をとった男の首が、お嬢さんを見てにやりと笑います。


「人殺し城に嫁いで、どんな気分だ?」










その問いの後、お嬢さんはべーちゃんを放してスカートの中に仕込んでいた銃で頭を撃ちました。

それでも効かなかったので、近くにあった雨水入れのバケツを投げて、親指を下に向けて言い捨てました。



「義父様。こんな所で夜遊びしてないで永眠してください。嫁の手を煩わせずに地獄に行ってくださいませ」



おまえ一人だけでな。……そう言って、お嬢さんは最後の一発を撃ちました。






でも、あなたが地獄に堕ちる時は、私も一緒なのです。


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