第98話
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一方、呉では蓮華が捕らわれ、その対応策に追われていたが、意見は二つに分かれていた。
「蓮華様も呉の姫としての覚悟は持っていよう。ここは敢えて荊州に攻め入り、敵の将を捕え、蓮華様との交換に持ち込むべきじゃ」
「雪蓮様、どうか私に蓮華様の救出の許可を下さい!若しくは敵の北郷を暗殺、拉致する許可を!!」
こう主張するのが、呉の宿将である祭、そして更に蓮華の奪還や一刀の暗殺を主張するのが思春であった。これに先の戦いで敗れた明命も祭の意見に同調していた。
「思春!お前、何、考えている!!敵は蓮華様の奪還を恐れ、警戒を厳重にしている。もし失敗すれば逆に蓮華様の身に危険が及ぶ事が分からぬのか!!!」
「それに祭殿、それをすれば我らに従っている豪族たちは離反する恐れがあります。蓮華様を見捨てて、どうして私たちが助けてくれようかと、まずは蓮華様を助けることを第一にすべきです」
思春の無謀な策を聞いて太史慈こと晶は一喝していた。
そして一方で蓮華の返還を第一に主張しているのが、晶、そして発言はしていないものの穏や亞莎は晶の主張に同調していた。
「では敵に頭を下げよと申すのか」
「蓮華様を救うためには、敵の頭を下げることの一つや二つどうと言うことはありますまい。あの袁術の元に居た頃に比べれば」
「だがそんな弱腰では、蜀は勿論、配下の豪族たちにも侮られる恐れがあるぞ」
祭と晶のお互いの言い分にも一理あったので、中々結論が出なかった。
そんな中、雪蓮と冥琳はひたすら沈黙を守っていた。
冥琳自身は内心、祭の意見に賛同していたが、ただ雪蓮が家族の絆と取るのか又は国を優先させるのか自分自身で決断する事が重要であったので、冥琳は敢えて何も言わず、会議が始まる前、雪蓮にただ一言
「どんな事になろうと私はお前に付いて行く。だから勘で考えずここはじっくり考えてくれ。ここが私たちの正念場だ」
と。そう言われ雪蓮は会議が始まってから一言も発していなかった。
「このままでは結論が出ぬわ。策殿の考えを聞かせて下さらぬか?」
祭の問いに雪蓮は答えをすぐに出さず
「穏」
「はいー何でしょう?」
「もし蜀との戦いとなれば、私に従う者はどれほどいるかしら?」
雪蓮の問いに、穏は少し考え、意味ありげに首を傾げて言った。
「んー。指示に従う人は、七、八割くらいですかねー」
「そう。冥琳」
「何だ」
「この兵力で蜀に勝つ可能性は?」
「そうだな…普通に考えて二割あるかどうかだな。だが雪蓮、戦いを百回やれば二十は勝てるということだ」
「でも二割の確率に10万の兵士たちの命を賭けろと言うの?」
「お前が戦えと命令すれば、我々は命を賭けて戦う。そして二割の可能性に全てを賭ける」
「祭」
「何ですかな、策殿」
「孫呉の誇りとは?」
「例えどんなことがあろうともこの江東の地を守り抜くことですな」
「分かったわ」
雪蓮が祭の意見を聞くと決断を下す。
「祭、穏、思春、明命!貴女たちは、いつでも軍を動かせる準備を!」
四人が了解の返事をすると雪蓮は更に矢継早に命令を下す
「晶、亞莎!」
「おう!」 「はい!」
「貴女たちは蜀への使者として行き、国王同士直接面談したいと伝えなさい!」
そして最後に冥琳に
「戦うことは何時でもできる。まずは北郷一刀を会うことにするわ」
雪蓮の言葉を聞いて、冥琳は黙って頷いていた。
そして雪蓮は立ち上がり、皆に聞こえるように
「全てを賭けるかどうかは、北郷一刀に会ってから決める」
と、いつもの飄々した姿では無く、決然と言い放っていた。
~魏~
「……これは拙いわね」
桂花から報告を聞いた華琳は最初にこう呟いた。
華琳は蜀が漢をたった一度の決戦で滅亡することを想定しておらず、現在も冀州で曹仁たちが晋の味方をしている豪族を討ち取っているところであった。
一応、蜀とはお互いの敵であった漢と晋を滅ぼすまでお互い不可侵条約を結んではいるが、漢を滅ぼしたことにより蜀の方が一歩前進する形となり、魏としては蜀と一刻も早く並び立つためには早急に晋と決戦する必要が出てきた。
だが援軍に出ていた呉の孫権も捕えられたという話を聞いて、桂花からこんな意見も出た
「呉の孫権が捕えられたということはきっと国元は動揺しているはず、この隙に徐州南部、寿春、合肥を奪取して、呉の脅威を排除しましょう」
「お待ち下さい、桂花殿。それは晋と呉の二正面作戦になり、兵力分散の愚を犯すことになります。まずはこのまま晋に当るべきです」
「それくらい分かっているわ。でも呉が動揺している絶好の好機なのよ。ここで攻めなければいつ攻めるの!」
「桂花、落ち着きなさい。風、貴女の考えは?」
「そうですね~。二人の言っていることは分かりますが、基本は稟ちゃんの考えでいいと思います。ただ桂花ちゃんの言うとおり呉の勢力も削ぐ必要はありますが、ただもう一つ何か切っ掛けが欲しいですね~」
「と言うと?」
「華琳様にはこのまま、晋に当っていただいて、呉には誰か別の将に一軍を付けて攻め入って貰おうと考えています。ただその一軍で攻め入るのでは少々骨が折れると思いますので、できれば何か切っ掛けが欲しい訳で…」
風の説明を聞いて、華琳は
「そう…。その切っ掛けにはどれ位の時間が必要かしら」
「そうですね…しばらく時間をいただければ」
「分かったわ!風、貴女はそれを推し進めなさい」
「華琳様は、それは…」
華琳は諫言する稟の言葉に手を出して遮って
「稟、貴女の言うことは一理あるわ。でもここは勝負の別れ目、私が大きく飛躍する為の正念場だわ。蜀が反董卓連合や漢に対して勝利を手にし、大きく飛躍する契機を掴んだの、私も司馬懿を相手に勝利を収めて大きく飛躍してみせないといけない。そして蜀を相手にするには少しでも勢力を拡大する必要があるの。だからこれくらいの危険を冒さないと北郷一刀には勝てないわ」
「分かりました。華琳様が危険と分かって、敢えて賭けに出るのであれば私はその危険を少しでも避けれる様、努力いたしましょう」
「フフフ…嬉しいわ。稟、貴女がそこまで私の事を思ってくれて」
華琳が稟に優しく言うと、そこから妄想した稟が大量の鼻血を出したのは言うまでも無かった…。
~晋~
陽炎こと司馬懿が、作戦の段取りをしている白雪こと蒋済と話し合っていた。
「ねえ、白雪。例の件はどうなっているかしら」
「ああ、あいつとは連絡が付いて、向こうからも接触があったからそろそろ行動に移すと言っていたぞ。それでお前の方は?」
「ええ、向こうは既に準備は出来ているわよ。あとは私の合図で動ける様にしているわ」
「冀州の連中の旗色が悪くなってきているんだ。そろそろ私たちが動かねぇと若竹あたりが文句を言い出すぞ」
「そうね…でもまだ私たち自身が動く時期ではないの、貴女から若竹に説明しておいて」
作戦の全容を知っている白雪は溜め息を吐きながら、「分かった」と一言言って部屋から出て行った。
「さてこれが成功するかどうかは……に掛かっているわね…」
陽炎は誰もいない部屋でそう呟いていた。
~蜀・洛陽~
一方、洛陽の紫苑の部屋では紫苑と蓮華が執務を行っていたが、蓮華は紫苑の仕事ぶりを見て
「はぁ…」
溜め息を吐いていた。
蓮華から見て、紫苑は武に優れ、そして政務は、知識が豊富で完璧にこなし、そして性格は皆に優しく抱擁力もあり、そして身体も自分と比較してスタイル抜群。正に理想の女性と言っていいほどである。そして同じ女性なのに紫苑や姉の雪蓮と自分を比較して、どうして全てにおいてこれだけ差が生まれるのかと恨み事の一つでも言いたくなっていたが、そんな事もできず溜め息しか出なかった。
「あら、どうしたの孫権さん。溜め息なんか出して」
蓮華の様子が少しおかしかったので紫苑が筆を休め、声を掛けてみた。
蓮華はこんな素晴らしい女性がなぜ一刀なんか結婚し、仕えているのか疑問に思い、敢えて聞いてみることにした。
「ごめんなさい。どうして貴女は文武両道に優れ、私から見ても素晴らしく美しい女性なのにあのような男性と結婚して仕えているの?」
蓮華は紫苑の事を称えているものの、一刀に対して失礼な事を言っていたが、敢えて紫苑はそれを咎めず
「あらあら孫権さん、凄く私を買い被っているわね。私は一軍の将に成れるとしてもご主人様の様に皆を率いる事なんて出来はしないわよ。私はご主人様に付いて行くのがやっとだから」
「えっ?」
蓮華は驚いていた。蓮華から見れば紫苑は素晴らしい人物なのにその紫苑が付いて行くのが「やっと」と言わしめる一刀がどういう人物なのかと。
「そうね…。ご主人様と私が初めて会った時は、武はそんなに強くはなかったけど、誰にも優しくて機転が効いて皆から慕われて、私もご主人様を好きになったわ。でもね、ある事情があって皆と離れ離れになってから、ご主人様は勉学や武術に一生懸命励むようになったの」
紫苑は以前の外史での事を上手に暈かしながら一刀の事を説明する。
「それでね。ご主人様が皆と離れ離れになってから、必死になって勉学や剣術に励む姿を見て、私聞いてみたわ。どうして、そこまで無理をするのですかと」
「それで、何て答えたの」
「そしたらご主人様、屈託のない笑顔でこう答えたの。以前、言っただろう。今よりずっといい男になるって。私との誓いの言葉を絶対に後悔させないようにするって、その言葉を実践しているだけだよ」
「その言葉を聞いて、私はこの人に付いて来て良かったと。そして私や璃々もご主人様に甘えるだけではなく、一緒になってやっていこうと三人でそう誓ったの。だから今の私たちがあるのよ」
「そうなの…。何も知らずに貴女の夫に対して失礼な事を言って申し訳ない」
蓮華は一刀の一面を聞いて素直に謝罪すると共にどういう人物か興味を持ち始めた。
「いいのよ、孫権さん。元々私はそんな大した事ないわよ。それに貴女もお姉さんに負けないくらいの素晴らしい才能を持っているわ」
「えっ、私が!?敵に捕えられた私がお姉様に負けないくらい才能があるって…そんな言葉信じられないわよ」
「確かに今の孫権さんではお姉さんと並び立つことは無理ですわ」
「ではどうすればいいのよ?」
「そうね…まずはご主人様とお話することを勧めるわ。今の貴女は、何かに拘っている様に見えるの」
「それで話をすれば、私の拘りとやら解消してくれるかしら?」
「それは分かりません。ただご主人様は貴女の悩みを真剣になって聞いて、何とか解決するように考えて下さるわ」
一刀と話を勧めることに怪訝そうな蓮華で紫苑は笑顔でこう告げる。
「大丈夫ですよ、孫権さん。たとえ王族や武威に溢れた将軍、そして智謀に長けた軍師であってもご主人様は、皆、ただの女の子にしか見てないわ。どうしても心配なら話し合いの時に私が傍にいますよ」
「……分かったわ。そこまで言うならで貴女の“ご主人様”とやら話をさせて貰うことにするわ」
「ありがとうございます」
紫苑はまず蓮華が一刀に興味を持ち始め、一刀との会談を承諾したことについて、蓮華の見えないところでこっそり微笑を浮かべていたのであった。
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