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真・恋姫無双 〜新外史伝〜  作者: 殴って退場
第10章 波乱
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第96話

桃香たちの説得を終えた後、今度は翠が捕えた蓮華との謁見を迎えた。因みに愛紗にあっては桃香と雛里を連れて、鈴々たちの説得に当っていた。


蓮華が一刀の前に連れられてきたが、縄とか縛られずにいた。


そして一刀は蓮華が、翠と戦ったと聞いていたので心配で声を掛けたのだが…


「孫権さん、怪我は大丈夫?」


「ふん…貴様に心配される筋合いではないわ!」


「てめぇ!まだやられ足りねえみたいだな!」


「いや~無礼ですな~主が心配して声を掛けただけなのに、その態度とは…孫呉の次期当主は礼儀を知らんと見えますな」


蓮華の態度に翠は怒り、星が嫌味を飛ばす。


蓮華は翠と星を睨みつけるものの、それを軽くあしらうかのように受け止める翠と星であるが臨戦態勢は崩していなかった。


蒲公英や朱里も蓮華を不信感ありありという目で見ていた。


「ほらほら、二人とも止めなさい」


穏やかな声が天幕に響いたが、この場を止めたのは紫苑であった。


「しかし紫苑よ、こいつのふざけた態度は勘弁できねえぜ!」


「そうだ紫苑、捕らわれの身でありながら、我々を舐めた態度など取らせていては…」


「いいから二人とも引きなさい」


紫苑が二人を注意すると渋々、引き下がった。


「ごめんなさいね、孫権さん。でもね…貴女の態度にも問題があるわ。戦は水物で、勇敢に戦えば負けても決して恥ではないわよ。それに貴女は勇敢に戦ったと聞いているわ。それに対して私たちも尊重しているつもりよ。でも貴女は、先程ご主人様が貴女の事を心配して声を掛けただけなのにあのような態度を取ることは孫呉では当たり前の事なのかしら。それが事実なら、孫呉は礼儀を知らぬものの国だと評価されるわよ。孫権殿も一軍の将であり、孫家の次期当主なら公の場での自分の立ち振る舞いに責任を持った方がいいと思うわ」


「それにその振舞いがお姉さんの孫策さんの顔に泥を塗る事になるわよ」


流石に姉、雪蓮や孫呉の事を持ち出され、理を持って紫苑に諭されると蓮華も謝罪するしかなかった。


「失礼した…北郷夫人大変申し訳ない事をした」


「あら、謝る相手が違うわ。私ではなく、一刀様に謝るのが筋では?」


紫苑からそう言われると、蓮華は更にバツが悪そうに謝罪する。


「……北郷殿、申し訳ない…」


「いや、礼儀なんて俺もあってないような物だから気にしないで、紫苑も君の為を思って助言してくれたから」


「う、うむ。その事については感謝する。だが、我が孫呉は決して蜀には屈しないし、私も降る気はない」


蓮華は一刀たちに話の主導権を持って行かれない様に、先に自分の決意を述べ一刀たちに対し釘を刺したのであった。


「確かに降ってくれたらありがたいけど、君を捕らえただけでは、それは無いでしょう。ただ一つだけ聞かせて欲しいのだけど、君たち孫呉はどのような国を目指しているの?」


一刀の質問に蓮華は別に機密にしている訳でも無かったので、この質問には素直に答えた。


「そうだな…。私達は家族の絆を大切している。それは国としても同じ事だ。だから、その絆を断ち切ろうとする者に対しては断固たる決意を持って戦う」


「そうか…では孫呉は、天下についてどう思っているの?」


「それは私の口から答えられる話ではない。それを決めるのは姉上だけだ」


蓮華はきっぱりと言い切ると一刀もそれ以上の事は問わなかった。


「分かった。また君への処置については改めて言い渡すよ。取り敢えず死罪とかするつもりはないから」


「まさか貴様、私に対して不埒な事を…」


蓮華は血相を変えて、ある事を想像したが、


「あら、孫権さん。何を考えているのか分からないけど、貴女が考えていることはしないわよ」


紫苑が微笑を浮かべながら蓮華に告げると、蓮華は顔を赤くしながらも虚勢を崩さず


「ふ、ふん。そ、それはどうだか。まあ好きにするがいい、今の私は所詮、捕らわれの身だ。しかし私を使って呉を降伏させるという考えはせぬことだな」


一刀はこの場ではこれ以上、蓮華と話をしても益がないと見て下がらせた。


蓮華が下がってから翠や蒲公英あたりは文句を言っていたが、


「いっそのこと、あのような女、殺したらどうですかな?」


「はいはい、星ちゃん物騒な事言わないの。でもご主人様、これからどうするおつもりですか?」


星の物騒な言い方に紫苑は苦笑しながら宥め、一刀に尋ねてみた。


「うーん。正直、呉とは戦わない方がいいと思うな」


「ほう。戦わないとは…主、臆しましたか?」


星が主戦を主張するような言い方をするが、一刀はその挑発には乗らず


「星、そんな挑発には乗らないよ。それに別に臆した訳でもない。ただ呉には長江という天然の堀に強力な水軍がある。向こうから攻めてきたら別だけど、こちらから攻めるには水軍を整備しなければならない。しかし残念ながら、こちらは水軍を調練できる将はいないのが実状。そう簡単に呉を攻めることはできないよ」


「ご主人様の言うとおりです。もし呉を攻めるにしても建業までは遠過ぎます。その間に魏や晋が攻めてくる可能性は否定できません。ですので、この段階での呉攻略はお勧めできません」


「…ふむ。そう言われると確かに厳しいですな」


一刀や朱里の話を聞いて、星は納得したが、翠はまだ納得いかないような顔をしながら朱里に尋ねる。


「じゃ、これからどうするつもりだよ?」


「言い方は悪いですが、こちらには孫権さんという人質がいます。あくまでも私の考えですが、孫権さんを無傷で返す代わりに何かしらの条件を引き出して、呉と条約を結ぶことも考えています」


「でも、そう簡単に向こうがこっちの話を飲むかな?」


この質問は蒲公英で、


「こちらが無傷で孫権さんを返すとなれば、向こうもこちらの話をある程度、受け入れないといけないと思いますよ」


「どうして?」


「さっき孫権さんが言っていたとおり、呉は家族の絆を大切にしている国です。もしここで私たちの交渉を簡単に断って孫権さんを見放せば、その誇りを捨てたと同然です。そうなれば呉は内部から崩壊する恐れがありますから、まずは話し合いの席には着くとは思いますよ。ただ向こうが戦いを望むのであれば話は別ですが…」


朱里の説明を受けると漸く翠と蒲公英は納得した。


「取り敢えず、呉の事は後に置いといて、まずは洛陽に進軍しよう。そして璃々には、これ以上深入りせずに、今の状態を現状維持するように伝えておかないと」


一刀は現在、呉を牽制するために荊州にいる璃々の軍を呉を刺激しないために、これ以上進軍しない方針を告げる。


「分かりました、ご主人様。璃々に伝えておきますわ。そして一つお願いがあるのですが…」


「どうしたの?紫苑、お願いって」


「孫権さんの身柄を私に預けて欲しいのですが」


「紫苑さん、またどうして…」


朱里の疑問は当然である。敵将の身柄をなぜ紫苑が預かるのかと。


「そうね…。あの子をあのまましたらもったいないと思ってね」


「もったいないですか…?」


「そう、あの子は見てのとおりまだ未熟だわ。でもね、素質は良い物を持っているの、だからこそあの子の才能を開花させて、やがては別の形でもいいから私たちの力になって欲しいのよ」


「ご主人様はそれでいいのですか?」


「ああ、一度紫苑に預けてみようと思う。孫権さんがあのような頑な態度のままだったら、仮に呉と約を結んでもやがて拗れる恐れがある。だったらそのまま放置するよりも少しでも懐柔しておいた方がいいと思ってさ」


「なるほど、今後への布石ですか」


朱里は納得し、他にも意見が出なかったことから軍は洛陽に向けて進軍を開始したのであった。


一方、時間が少し遡り、荊州では南郡を押さえた璃々たちは、現在南郡の東にある華容にいた。


現在、呉の主力がいる江夏から南郡の間に堅固な城が無いので、璃々はその点が気になったので黄忠(紫苑)や桔梗、姜維こと菫に相談した結果、南郡を護るためここ華容に陣城を築き、呉と対峙していた。


そして現在、陣城には璃々に黄忠、桔梗に菫がいた。


「敵、攻めてこないね」


「それはそうだろう、璃々。敵は我々が攻めてくると思って江夏で待ち受けているのを逆に攻めずに守りを固めているのじゃ。恐らく呉も面喰っているわ」


「でも璃々お姉様、なぜここに城を築こうと思ったすか?」


「一つはご主人様の言うとおり、今回は呉を牽制するためこれ以上深入りしたくなかったのと、もう一つは、南郡は東から攻められると周りにほとんど城がないから万が一攻められると一気に突かれるでしょう。だからそれを防ぐためにもここに築いたの」


そして南郡には霞、華雄、そして法正こと夕霧と兵を分けていたが、これは敵が華容を攻めて来た場合、すぐさま敵軍の横背を付ける様にという事で遊軍として霞たちを南郡に留めていた。


事実、呉は陣城を崩そうと考えたが、しかしこれを崩すには相当な犠牲を覚悟する必要と見て、容易には仕掛けてようとはしなかった。


そして今回、璃々の教育係兼副将として付いている黄忠は、こうした才を少しずつ開花しよう璃々を見て、我が子の璃々もこのように成長してくれたらと思っていたのであった。


一方、江夏にいる呉軍は璃々が築いた陣城が、戦線を膠着状態に陥れるに足る存在と知った冥琳は渋い表情を浮かべていた。


「北郷璃々か…。天の御遣いの第三の存在で印象が薄いから大した事ないと思っていたが、甘く見ていたな。陣城に南郡の城、二つの城を構えられては厄介だな」


「そうじゃのう。ああ二つの城に腰を据えて守りに入られては、攻め落とすのは難儀じゃ」


横にいる祭も顎に手をやりながら思案する。


「チィ、これでは埒が開きません。船を使って一気に南郡を襲いますか」


「無茶を言うな。向こうは守りを固めているところに、水軍だけ攻めても効果は薄い」


横で聞いていた思春が憤懣やるかたない表情をしながら案を提示するが、これは流石に乱暴な提案として太史慈こと晶が却下する。


意見が纏まらない中、雪蓮はずっと沈黙を守っていた。そんな雪蓮を見て冥琳が声を掛ける。


「珍しいな。戦となれば三度の食事や酒より大好きなお前がずっと黙っているなんて」


「あのね…冥琳。貴女、私をどういう風に見ているのよ」


「そうだな…我が儘、気分屋、風来坊それに…」


「もう!それ以上言わなくいいの!」


冥琳が見事に雪蓮の特徴を言い当てたものだから、雪蓮は一気に不機嫌になった。


「冗談だ、雪蓮。しかしどうした、お前が何も意見を言わないとは」


「うーん。私の勘では、今回何か動いたら駄目というのを感じているんだよね」


「勘か…相変わらずお前は思考を突き抜けていきなり結論を出すな…」


「しかし、策殿の勘はほぼ当たるからのう」


「それも常人の域を超えているからな」


「貴女たち、酷い事を言うわね」


雪蓮が冥琳・祭・晶から見事な攻撃を受けていると、取次の兵士が入って来た。


「失礼します!建業にいる陸遜様から緊急の手紙を持って参りました!」


建業を守っている穏こと陸遜が雪蓮に手紙を届けたことに周りは一気に緊張が走った。そして手紙を見て雪蓮は厳しい表情となり、そして無言で冥琳に手紙を渡した。


受け取った冥琳も渋い表情を浮かべた。


書かれた内容には、蜀対漢の決戦の結果が書かれており、そして蓮華が捕らわれの身となり、そして明命たちが辛うじて呉に落ち延びたことが書かれていた。


そしてこの知らせを聞いて、呉は江夏を固め、善後策を講じるため建業に引き上げたのであった。






ご意見・ご感想あれば喜んで返事させていただきます。(ただし誹謗中傷等は止めて下さいね)

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