第94話
今回は、この話を始めてからこの方をこの物語ではこういう道を歩ませようと考えていました。
色々と賛否両論はあると思いますが…
桃香たちの降伏を受け入れた一刀は、桃香たちへの処遇について話し合われていた。
「そうか。二人はどうしても今回の責任を取ると主張するのか…」
「はい……。説得したのですが、桃香様は『私が播いた種だから、私自ら責任を取らないといけないの、だから皆の命を助けて欲しい』と言って……」
「私の方も説得したのですが、雛里ちゃんは『ごめんなさい。私が全て悪いの、私の命で桃香様や皆を助けて欲しい』と言って、説得に応じてくれなくて……」
一刀は会談する前に降伏した桃香たちを助命することを内々で愛紗や朱里に伝えたのだが、二人は今回の責任を取って死刑を望んでいた。
「困ったわね」
紫苑が呟くと兵の一人が入って来て、月が来たことを告げた。
そして月は、呉軍が撤退したことを報告したのだが、しかし勝ち戦にも関わらず、場の雰囲気が暗い様に感じたので気になり
「一体どうされたのですか?」
「ああ、実は…」
一刀は月に桃香たちが助命するにも関わらず、責任を感じ死刑されることを望んでいることを説明した。
「確かに困りましたね…。まずは一度、劉備さんと会って話をしてみないと」
「そうだね。まずは会って、話をしてみよう」
一刀たちは、まず桃香と会談することとなり、雛里については、後で一刀が行くまで引き続き朱里が説得続けることとなった。
「久しぶりだね。桃香」
「……お久しぶりです。一刀さん」
「もう戦は終わった。君たちが責任を取って死ぬ必要はないんだ」
「そうです!桃香様、私と鈴々との誓いをお忘れですか!」
「ううん、忘れた訳じゃないよ、愛紗ちゃん」
「では何故、処罰されることを望むのですか!」
「これはね、私が今までやって来たことを全て精算するためだよ、愛紗ちゃん」
「精算?」
「そうです、一刀さん」
「私は貴方に自分の理想を否定され、貴方を見返すため、今まで私なりに頑張ってきたつもりです。でも雛里ちゃんや愛紗ちゃん、鈴々ちゃんたち皆には苦労を掛け、貴方に追い付きたい一心で色んな無理をしました。そして勢力拡大の為、徐州では降伏を拒絶した将兵を殺してしまい、そんなことした私を皆は恨んでいることでしょう。そして漢という国を正式に滅亡させるには、私の首が必要不可欠だと思うの。一刀さん、私の命を差し出します、その代わり他の皆の命を救って下さい」
そして桃香の覚悟を聞いて、場は静まりかえっていた。
「では劉備さん、貴女の理想はそんな柔な物で、そしてそのような事で私の命を奪おうとしたのですか?」
皆が声を上げた方に顔を向けると発言したのは月であった。月の事を知らない桃香は、怪訝そうな顔をしていたが、
「えっと…」
「失礼しました。私の名は董仲穎と言います」
「えっ!?」
桃香は月の名前を聞いて大変驚いた。以前自分たちが討伐しようしていた人物がこのような可愛い少女だとは思ってもいなかった。
「この戦乱の世です。私は貴女に攻められて、復讐に来たというわけではありません。ただ一つ聞かせて下さい。どうして貴女は、この戦乱を立とうと思い、そしてこの国をどうしようと考えていたのですか?」
「最初は…全員が笑顔で暮らせるようにしたかった…」
「しかし、貴女はそれを一刀さんに指摘され理想を貫くことができなかった」
桃香は途中で月に指摘されると黙って頷くしかなかった。
「でも、先程の貴女のお話を聞いて分かりました。一刀さんへの嫉妬から兵を上げていたことに。今更貴女に謝罪とか求めるつもりはありません。しかし一つだけ言わせて下さい。いくら素晴らしい理想を掲げてもそれを貫く強い意志が無ければ、ただの夢物語だと言うことを。そして貴女の理想や嫉妬に振り回された民や兵たちの事、また貴女を信じて戦ってきた方の事も考えて下さい」
「そして一刀さんから再び生きる好機を戴いたのです。貴女は一刀さんの行為を無駄にするのですか?」
「董卓さんの仰っていることは分かります。でも……私、生きていてもいいのでしょうか?」
「何を言っているのですか、桃香様!」
「一刀さんの好意は分かります。でも、私の我が儘で国を混乱させた責任から逃れることはできません。だから…」
「だから死を選ぶ?ふざけるな!死んで償える罪なんてありはしない!!」
「どうして死んだらいけないのですか!私はここで死んで、今まで苦しめてきた皆に償いをしなくてはいけないのです!!」
「皆に償いたいのなら尚更生きろ!」
涙目になりながら、死ぬことで謝罪できると思い込んでいる桃香に一刀は叱りつけた。
「…それに桃香が死んだら、残された愛紗や鈴々をどうするの?」
「そうです、桃香様!我々を残して、死ぬなんて言わないでください!!」
「分かっているけどでも…ダメなの。私は…」
愛紗は涙を流しながら桃香に訴えかけるが、桃香も頭では理解しているが、混乱して愛紗の言葉に耳を傾けようとしない。
それを見た紫苑が一刀の元に近付き、皆に聞こえない様に話をする。一刀は紫苑の話を聞いて無意識に一瞬、月の方を見たが、月には気付かれず、直ぐに視線を桃香の方に向けた。そして紫苑の説明を聞いて一刀は紫苑の意見に同意し、この場を紫苑に任せることにした。ただ一刀から離れる際に一瞬だけ見せた紫苑の微笑は気になったが…
「では桃香ちゃんは、死んだら責任が取れると言うのね」
「は…はい」
「ち…ちょっと待ってくれ紫苑!」
「ちょっと愛紗ちゃんは黙っていてくれるかしら」
紫苑の迫力に流石の愛紗も黙るしかなかった。
「桃香ちゃん、では貴女の望み通り貴女にはここで死んで貰います」
「紫苑、待ってくれ!」
「初雪(馬忠)ちゃん、初霜(張翼)ちゃん、ちょっと愛紗ちゃんを押さえといてちょうだい」
「ええい!離せ!!」
「少し我慢して!」
「紫苑殿の命でござる、しばらく辛抱を!」
紫苑の副官である二人は返事をすると同時に愛紗の背後に回り、二人掛りで愛紗の両腕を押さえ付けて、桃香の死刑を邪魔しないようにする。
「では、桃香ちゃん、準備はいいかしら…」
「紫苑さん、できれば痛くないようにして下さいね…。そして愛紗ちゃん、ごめんね。こんな頼りにならない義姉で、あと鈴々ちゃんや皆にごめんねって言っておいて…」
桃香は残される者に対し、最期の言葉を愛紗に託す。
「では、行くわよ…」
紫苑は手にした剣を桃香に向ける。
「はい…」
「桃香様―――!!!」
愛紗は二人に押さえつけられた状態で悲痛な叫びを上げ
そして紫苑の剣が振り下ろされた―――。
しかし痛みが来ると目をつむっていた桃香は、予想していた痛みが来ないので、恐る恐る目を開けてみた。
「フフフ…桃香ちゃん。これ貰うわよ」
紫苑は微笑みながら、目を開けた桃香の髪の毛の一部を切った。
「えっ…どういうことなの?」
「………」
桃香と愛紗は紫苑の取った行為が分からず呆然し、愛紗にあっては既に両腕が解放されているのも気付いていない状態であった。
「フフフ…これで劉玄徳は死んだわよ」
まだ唖然としている二人に一刀が
「愛紗、騙してごめんね」
「えっと…どういうことか説明して貰えますか」
漸く言葉が出た愛紗は一刀に説明を求めた。
先程、紫苑が一刀に話したのは前の世界で月が逆賊になったため、名前を捨てて、真名だけで生きることになったことを、紫苑は今回、桃香に生を全うさせる為、敢えてここで桃香を討ち取ったことにして、劉備の名を消すことを説明した。一刀は紫苑の説明を聞いて、すぐにその意図が分かったので、これに同意した。ただ一刀は、桃香に前世の月と同じ道に歩ませることに不憫に思い、先程、月の方を見たのはその為であった。
勿論、前世の事を省いて一刀は説明を始めた。
「ああ…このままじゃ桃香は納得しないと思うし、こっちも桃香には世間的には死んで貰ったということにして漢王朝を滅ぼしたということにしたいんだ。でも実際に死んで貰うわけじゃないんだけど。そして死体の代わりに桃香の髪の毛を使って、死んだという体を取らせて貰うけど」
一刀の説明を聞いて、桃香は涙を浮かべながら
「わ…私、生きてもいいのですか…」
「ああ、桃香をここまで追い込んだ責任は俺にもある。その責任、俺たちにも取らせて欲しい」
「でも…どうして?」
「俺や紫苑、璃々、そして桃香や愛紗、皆やっていることは一緒だよ。命令一つで皆を戦場向かわせ、そして皆、戦場に出て命を奪っている」
「でもね。俺の理想で死んで逝った人たちの為にも俺は生きていかないといけないんだ。その人たちの分まで幸せになる為にもね」
「それは辛くないですか…?」
「ああ。辛くても……それが償いになるのなら俺は甘んじてその苦しみを受けるよ」
「そして桃香、君も色んな失敗をして、これから償いをしなければならない。でもそれは俺にも言えること。そしてその償いを一緒になって探していこう」
一刀はそう告げると桃香は
「わ、私、生きてもいいですね…」
一刀が無言で頷くと
「う……うあああああーーーん!」
桃香は今まで背負ってきた重圧が、涙と共に流れ落ちた瞬間でもあった…。
そして漸く落ち着きを取り戻した桃香に紫苑が
「それで桃香ちゃんのこれからだけど…、公には死んでいるから、表には顔を出さないということで、ご主人様の世話をして貰おうと思っているんだけど…」
「それは嬉しいけど…」
「何か言いましたか?桃香様」
「ううん、何も言ってないよ。愛紗ちゃん」
「なあ紫苑、桃香を俺の傍に付けるというのは…」
「あらあらご主人様、皆が働いているのに桃香ちゃんを遊ばせるのは勿体ないでしょう。それにご主人様は、色々と忙しい身ですので身の回りの手助けをしていただけると助かると思うの」
紫苑は桃香を一刀の侍女に付けるという理由をはっきりと言われると返す言葉が無かった。
「それで皆にお願いがあるんだけど…」
「どうした、桃香?」
「私、公には死んだ事になっている以上、もう『劉備玄徳』という名前を使えない。真名だけで生きていくしかない。だから『桃香』という名前を皆さんに預けたいの」
「桃香、それでいいの?」
「はい」
一刀は桃香の決意を聞いて、再度確認をしたが、桃香は笑顔で頷いた。
「桃香さん。貴女の新たな決意を見て、私も貴女に真名を預けます。名は董卓、真名は『月』です。これからよろしくお願いします」
月は桃香とのわだかまりを捨て、お互い真名を預けあったことを見て一刀と紫苑はお互い声を出さなかったが内心では喜んでいたのであった。
雛里の処遇については次回となります。