第85話
前回の投稿で2000ptを超えることができ、大変嬉しく思っています。
今回の作品はまたまた強引な流れですが、その辺は都合主義と思い読んで下さい。
司馬懿との会談を終えた後、一刀たちは華琳との会談の為、荊州・南陽郊外に来ていた。
一刀に共に来ている将は、紫苑、星、真里、愛紗であった。
何故、曹操を不倶戴天の敵と思っている愛紗を同行させているのか疑問があるところだが、これは司馬懿と会談した後に時はさかのぼる。
晋との会談が終わった三日後、魏から正式な使者がやって来た。
内容は、先に密使が送られたことと同じでお互い君主同士の会談を望んでいた。
そして一刀は正式にこれを受諾、会談場所については双方の不利益にならないよう、双方の中間に近い荊州・南陽郊外で会うことに。
荊州・南陽は漢の領土のため、双方目立たぬ様、兵は30名ずつを連れて行くことになった。会談に臨むに当り、一刀と同行する者の人選に入ったのだが
「私も当然付いて行きますわ」
紫苑もここぞとばかりに正妻の力を発動させて、同行することなり、更に
「ご主人様、私も付いて行く!」
これを見て璃々も付いて行くことを言い出したが、
「駄目。璃々には、何かあった時に備えて貰わないといけないから」
一刀が璃々の申し出を却下、周りも璃々の同行に反対したため、璃々は渋々これを受け入れるしかなかった。
「一刀様、ぜひ私も同行させて下さい」
そんな中、愛紗が名乗り出たが、一刀と紫苑は、愛紗を同行する者の候補に入れていなかった。何せ今回の会談相手が曹操で、愛紗は曹操の策により、桃香と離反する原因を作った仇敵の間柄、そんな場に私怨を持ち込まれたら、交渉に問題が生じる恐れがあった。
「愛紗ちゃん、今回については貴女を連れて行く訳にはいかないわ。理由は分かっているでしょう」
紫苑が今回は諦めるように愛紗を説得するが
「それは分かっています。私が曹操に敵意を抱いていることくらいは」
「じゃどうして」
「会談の邪魔をするつもりはありません。どうしても私の口から曹操に一言言わせて欲しいのです。そして何故私を陥れたのかを。何とぞ私を会談の同行に加えて下さい」
愛紗は一刀たちに懇願するが、流石に頷くことができず悩んでいると
「どうでしょう。一刀様、愛紗さんを同行させてみては」
「どういうつもりなの!」
張任こと涼月が愛紗を同行させることに賛成する意見を出したが、詠は当然反対した。
しかし涼月は詠の反対意見に異を介さず、
「言葉の通りですわ。ただ愛紗さんが曹操殿に一言言うだけでしょう?何か不都合でも」
「ちょっと待ちなさい!もし途中で口論にでもなって刃傷沙汰になったらどうするのよ!」
「あら貴女は、愛紗さんの事をそんなに信用できないのかしら」
「信用という問題じゃないでしょう!」
「あらそうかしら、向こうが一刀さんを見定めつもりなら、言い方が悪いけど、こちらも愛紗さんを使って曹操殿を見極めたらいいのよ」
「それで、こちらも曹操さんがどのような人物を見極めるということですか」
涼月の言葉に朱里は、愛紗を同行させる理由を理解した。
「なるほどね…。主旨は理解できたわ。それでアンタはどうするつもりなの?」
理由が分かると詠も納得したので、一刀に結論を求めると一刀はまだ悩んでいた。すると紫苑は
「理由は分かったけど…でも愛紗ちゃんを連れて行くには条件があるわ」
「その条件とは?」
「ご主人様の指示には必ず従うこと。そしてご主人様が良いと言うまで、会談での発言を一切許しません。と言うのはどうでしょうか、ご主人様」
「そうだね。それだったら同行させてもいいかな。愛紗、その条件守れる?」
「分かりました。同行させて頂けるのであれば、その条件を守ります」
愛紗は紫苑からの約束を遵守することを条件に同行が許されたのであった。
そして、軍師でいざというときに自分の身を守れる真里と魏の軍師である程昱が本物かどうか確認するため、星も同行していた。
一方、魏の方は、華琳、風、そして護衛役として典韋こと流琉に許褚こと季衣が会談に来ていた。
因みに春蘭と桂花の二人は、一刀との会談時に刃を向けたり、暴言を吐く可能性が高いと思った華琳は、早々にこの二人を外したのであった。
そして会談には護衛の兵を連れて来ていたが、兵たちは遠巻きに取り囲んで警護に当たり、会談には将のみが列席していた。そして会談前にお互い顔合わせの挨拶をしたが、星から小声で友人でも程昱本人であることは確認が取れたが、曹操と程昱の顔を見た愛紗は、この二人を睨みつけていた。
「久しぶりね。北郷」
「黄巾賊以来かな、曹操さん元気そうで。それでどういう風の吹き回しかな、態々俺に会いたいとは?」
「そうね、私が貴方を呼び出した理由、予想出来ているのでしょう?」
「まあ予想できているけど、その前に君とどうしても話をしたい人物がいるんだ。まずはその子と話をしてから、その話をしないか」
「いいわよ、大体、その人物は想像できるわ。さっきから貴方の後ろで私たちを睨みつけている。恐らく…関羽でしょう。」
華琳が一刀の話を聞くと、自分たちに話がある人物と言えば、策に嵌まられた愛紗しかいないと華琳は気付いていた。
「さあ愛紗、こっちに来て、話したいことを言えばいいよ」
一刀が愛紗を呼ぶと愛紗の肩に紫苑が手をそっと添え無言で頷いていた。愛紗もそれを見て微笑を浮かべ一刀のところに向った。
「はじめまして曹孟徳殿、私は元劉玄徳の家臣、今は北郷一刀様の家臣の関雲長だ。曹孟徳殿に単刀直入にお聞きしたい。なぜ私を陥れるあのような策など仕掛けたのだ」
「ふふふ、貴女そんなことも分からないの。ただ純粋に貴女が欲しかったのよ。丁度、あの頃貴女は、劉備に謹慎させられていたでしょう。それで貴女と劉備の仲を切り裂けば、貴女は私を頼ってくると思ったけど、残念ながら予想は外れ、蜀に行くとは思わなかったわ。今からでも遅くはないわよ。私に仕える気はない?」
「誰が貴様なぞ仕えるか!貴様のせいで……、私は桃香様、いや劉備様の元に居られなくなってしまったんだぞ!」
「フッ、策ごときで壊れてしまう絆なんて、大したこない絆ね。そんな絆なら、早く壊れた方が良かったんじゃない」
「何、貴様!貴様に私たちの何が分かる!貴様がこのような卑怯な手さえを打たなければ…、私は…」
「愛紗、ここまでだ。これ以上は駄目だ」
愛紗がこのままだともっと逆上して、取り返しのつかない事をする恐れがあったので、一刀は話を遮った。
「さあ愛紗ちゃん、約束よ。此方に戻りなさい」
「クッ…しかし…」
「いいから戻るぞ」
これに不服そうな顔をしていた愛紗は、無理やり紫苑と星に連れられ、一刀の後ろに戻らされた。
「興ざめしたわ。あの関雲長が子供じみた事を言うなんて」
「それはどうかな。親しい人とあのような策で引き裂かれたら誰でも文句の一つ位はでると思うけど」
「あら、貴方も私のやり方に不満でもあるのかしら」
「策について不満を言う気はないよ。弱肉強食の世界だから、曹操さんのした事は間違ってはいないと思う。ただ一つ聞かせて欲しいけど、君には配下ではなく、身の回りに親しい友や愛する人とかはいないのか?」
「王にそのような物は必要かしら?私に従い付いて来てくれる優秀な部下が居れば、私は満足よ」
「そして今は無理だけど、いつか貴方も欲しいものだわ。私は、欲しいと思った物は必ず手に入れる主義なの」
「それは遠慮願いたいね。それに策を否定するわけじゃないけど、そればかりに弄していたら国が成り立つとも思えないけどね」
「ご忠告ありがとうとでも言っておくべきかしら。あまり時間がないから本題に入らせて貰うわ。北郷、貴方が漢に勝ち、私が晋に勝つまで。約定を結ばないかしら」
「約定?」
「ええ、貴方は漢を相手している間、私は晋と戦う。そしてお互い勝利した後、残った呉を交えて天下を競うというのはどうかしら」
一刀は少し考えていた。晋も魏と同じく蜀を敵に回したくないはず、晋に対しても魏と同様に不可侵条約を結べば、その間に漢と決戦を挑むことができる。恐らく魏と晋もその間に決戦を挑むはず。そう結論を出すと一刀は後方にいる紫苑と真里の方を見ると二人は無言で頷いていたが、ただ愛紗は先程の怒りが収まっていないのか不服そうな顔をしていた。
「……いいよ。その申し出を受けるよ」
「そう。受け入れて貰って、正直助かるわ」
「今度は逆に貴方の事を聞かせて貰うわ。貴方はどんな世を目指しているの」
「うん、ごくありきたりもので普通の事だよ。皆が普通に暮らし、普通の人生を送り、普通に恋愛し、そして皆が賊とかに怯えずに安心して暮らせるような世の中にしたいと思っているだけだよ」
「フッ…陳腐ね」
「ああ陳腐かもしれないよ。しかしその陳腐な事が今、できている?」
「そう言われると返す言葉が無いわ。でもそれは私の元でもできないことは無いわよ」
「お互い求めるものが違いすぎて、それは無理だね」
「フフフ、分かったわ。じゃまた逢う日まで壮健でね」
華琳たちは一刀たちに挨拶をして席を離れていった。
「風、貴女には、北郷一刀をどう見えたかしら」
「そうですね~。面白くて掴みどころがない人ですね~。もし華琳様より先に出会っていたら仕えてもおかしくないです~」
風の意見に満足したのか華琳は
「そう。これからもっと楽しくなるわよ。北郷に司馬懿、孫策、劉備、これから先が楽しみでしょうがないわね」
自然と微笑を浮かべていたのであった。
一方、会談が終って、魏との不可侵条約を結んだことに対して、魏に恨みを持つ愛紗が納得していない顔をしていたのを見て、真里と星が
「愛紗、ちょっと来なさい」
愛紗は真里と星に連れられ、一刀と紫苑から離れた場所に来ると、
「愛紗、貴女、今回の事納得していないでしょう」
真里からそう切り出されると愛紗は
「ああ、一刀様がなぜ曹操と手を結ぶ必要があるのだ。納得できん」
「やはりな…。この朴念仁が」
「何だと、星!」
「愛紗、貴女、曹操たちに敵愾心ばかり持っていて周りを全く見えていないけど、魏と盟を結んだのはこちらの都合もあるけど、貴女の事も考えてのことよ」
「魏と約を結ぶことが、どうして私の事を考えての事なのだ」
「まだ気付かぬか…お主は。もし魏と約を結ばず、このままにしてみろ。我々が漢に攻め入った時、もし魏がそれに乗じて攻めて来て、もし先に劉備殿が魏に捕われた場合の時を考えてみろ」
「……ハッ!」
真里が説明するもまだ腑に落ちていなかったので、星が説明すると漸く愛紗も漸く気付いた。
「やっと気付いたか…」
「今回は向こうが不可侵の盟を結んできてくれたから良かったものの、もし同盟の話で共に漢を攻める話だったらどうなるか分かっているの、愛紗」
「……」
「まったくお前は…、これでは主の思いが報われぬぞ」
「あっ……一刀様申し訳ないことをしてしまった…どうすれば良いのだ、星」
「ああ、取り敢えず謝れば問題はないだろう。主の事だ、笑って済ませてくれるさ」
「いやそうではないのだ…。一刀様に嫌われたら…」
「ハハハ。何だ、そんな事気にしていたのか。しかし私が見たところでは主はお前のことも好きなようだ。しかし主は鈍感だから、お前の想いに気付いてはいないかもしれぬが、紫苑あたりはとっくにお前の事を気付いているかもしれぬぞ」
「そ、そのような出任せを言うな!」
「何が出任せなものか。お前に嘘を言ってどうする」
「……そんなことがあるはずがない…」
急に自信を失った感のある愛紗を見て星は
「まぁ、いい。取り敢えず今のお前の気持ちはどうなんだ」
「私の気持ちだと?」
「そうだ。お前の気持ちだ。お前の気持ちを正直に答えてみろ。何時もの様な建前ではなく本音を話せ。主が好きかどうかを」
愛紗は何かと一刀に助けて貰い、感謝の気持ちで一杯であった。そして一刀の様子を色々と見ている内に好きな気持ちになっていたのであった。そして星の真剣な表情を見て愛紗も覚悟を決めたのか、恥ずかしそうに
「……私は一刀様が好きだ…」
「あはははっ」
「何が可笑しい!」
「いや、やけに素直になったものだと思ってな。そこまで素直になっているのに、主にそれが言えないのだ。見ての通り、紫苑を筆頭に璃々、翠、蒲公英、朱里に私、皆、主と情を交わしている。間違いなく主は、気の多いお方だ。正に『英雄、色好む』を地で行くお方だがな。
「もしかしてお主は恐れているのか、主は自分を受け入れてくれるかどうかを」
「………」
「…この臆病者め!」
「誰が臆病者だ!」
「お主以外の誰がいる」
「何だと!」
「主に受け入れて貰えるかどうかが分からないから自分の想いを伝えない。臆病者以外の何者でもないではないか」
「………」
すると黙っている愛紗に星は急に自分の事を話し出した。
「……私は以前、主の元で客将をしていた時、戦いで独断専行をしてことについて主が『周りを顧みず、自分勝手な武は、軍を率いる将として失格だ、軍には必要ない』と叱責されて主に叩かれた時があってな…。あれで私は色んな意味で目が覚めた想いだったよ。」
「私は、そんな主に敬意を抱いただけでなく、一人の女として惚れてしまったのだ。そう、この身と心を捧げても良い位にな。そして私はその時、主に紫苑や璃々、翠がいるにも拘わらず自ら寵愛を求めて行ったのだ」
「愛紗よ、その想いを伝えてみてはどうなのだ。お前は自分の想いを受け入れてくれるから主を好きになったのか?」
「そんなことはない!」
「では、主にどんな事があろうとも、主が好きなのだろう?」
「……ああ」
「じゃあ、その想い伝えたらいい。想いも言わずして気付いて貰おうというのは、それは虫が良すぎる話だ」
「……星、お前に聞きたい」
「なんだ、愛紗」
「紫苑は、一刀様の周りに他の女性が増えることにどう思っているのだ」
「ああ…『主に群がる方は数知れずになる可能性が高いから、焼きもちを焼いて始まらないわ。でも一番は私ですから』の様な事を言っていたよ」
「そうか…」
と言いながら愛紗は、
(「もし一刀様私が受け入れて下さったら……それは嬉しい。本来なら私だけを愛して貰いたいが、この際そこは我慢する」)
そう結論付いた愛紗は、何か吹っ切れた顔をしていた。それを見た星が
「いい顔をするようになったではないか。愛紗よ」
「……礼は言わぬぞ」
「さて、礼を言われるようなことは言った覚えはないのだがな。頭が固くて、素直でない女をからかってやっただけのこと。どうしても感謝するというのなら、後で精々旨い酒でもお前の奢りで飲ませて貰うことにしようか」
「言っていろ」
「あぁ、愉しみにしているさ」
そう言って愛紗は、この場を離れて行った。
「ふうっ、あれ程の筋金入りの頑固者になると、流石に説得させるのも骨が折れるという物だ……」
「でも星、貴女も物好きね。態々、一刀さんの周りの女性を増やす手伝いをしているのだから、あまり私の事言えないわよ」
真里からそう言われると返す言葉がない星であった。
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