第8話
強引な話ですが、温かく見て下さい。
~翠の部屋~
私は討伐から帰ると、お母様の報告は渚に任せ、自分の部屋に閉じこもった。
なぜ私は、逃げるようなことをしている?
紫苑と璃々が実は親子同士で抱いて軽蔑している?
一刀が璃々を抱いて嫉妬している?
璃々を愛していると言われて、負けたと思い逃げた?
別の世界で私らは愛し合っていた?
私の思いはいったいどうなの?
頭がぐちゃぐちゃで訳が分からないよ・・・
こうして翠は、一人で自問自答を繰り返していた・・・。
~執務室~
部屋には碧と馬休が仕事をしていたが、戦から帰ってきた渚から報告を受けていた。
報告を受けると碧が渚に
「賊将を討ち取り、こちらの被害は大したことは無かったのは良かったけど、翠の体調は大丈夫かい?」
「正直、体調というよりは、何か人に言えない問題を抱えているみたいですが…、憶測ですが恐らくは一刀様が絡んでいるような気がしますが…」
「それは何故?」
碧が更に渚に聞こうとしたところ
「失礼します」
と丁度、そこで紫苑が入室してきた。
碧が紫苑を見ると
「ちょうど良かった、紫苑さんに聞きたいことがあってね」
と言うと紫苑も
「はい、私も皆様方と大切なお話があって参りました」
「大切な話?」
「はい…」
ただならぬ紫苑の様子に察知したのか、碧は先に話をするように勧めると紫苑は
「ありがとうございます。こちらには長い間、大変お世話になり、大したご恩を返すことができず申し訳ありませんが、非常に身勝手なお話ですが、近い内に我々家族、涼州から退去したいと存じ上げます」
紫苑の話を聞くと3人は呆然とし、いち早く気を取り戻した碧が
「それは待遇面が悪いってというお話?」
「待遇面については何の不満もないですわ」
「ではなぜ…?」
「碧様、休様、渚さん、今から私がお話する内容を信じるか信じないかは、お任せしますが、私自身は嘘を言うつもりは一切ありませんので、しばらく拝聴願いますでしょうか?」
紫苑がそう切り出すと、3人は承諾し、紫苑は事の発端になった一刀と璃々のことから説明を始め、そしてこれを翠に見られ、翠が一刀を追及、そして一刀が自分達の正体を全て翠に発覚した等を、碧たちに説明した。
それを聞き終えた碧たちが
「やれやれ正直、こんな話を聞いたら信じられないだろうが、わざわざ嘘を言いに来ても仕方がないから、信じるしかないだろうよ」
「しかし姉貴が、別の世界で一刀さんを愛していたというのも驚きだよ」
「でも紫苑さん、璃々ちゃんが本当は親子だったとは…、そっちも信じられないですわ」
碧や馬休、渚は、それぞれ驚きの言葉を口にしていた。
すると碧が紫苑に
「では、なぜ翠があそこまで落ち込んでしまったのかい?」
「憶測でありますが、翠さんはご主人様に男として興味を持っていましたが、璃々の方に先に愛され、それが、最初は2人が血縁関係がある親子でそういう関係を持ったことに精神的衝撃を受けたのでしょう、しかし実際の血縁関係がないと分かっていても璃々を愛する発言等もありましたし、更に過去の世界でご主人様と翠さんが愛し合っていたというのを聞いて、更に頭が混乱してしまい、心の整理が全くつけられないのが原因かもしれないですが…」
紫苑の説明を聞くと碧も納得したのか
「その考え間違っていないかもしれないね…」
「でも、それで涼州からわざわざ出なくてもいいのでは?」
碧は引き留めようとしたが、
「ご主人様と璃々は翠さんをこれ以上悲しい思いにさせたくないということからここから離れる決意をしています。私もご主人様と一緒について行こうと思っています」
「ちょっとその話は待って貰えないかしら?」
「休、渚、悪いが2人は翠の部屋に行って、あいつを呼び出して来てくれ」
紫苑は意思を変えずに断ろうとしたが、碧は何らかの込み入った話をするため、部屋にいた2人を翠を呼び出すために部屋から追い出した。
そして碧は、紫苑に一刀がこちらに来てからずっと考えていた自分の考えを述べた
「ここからは私の本音の話だが、聞いてくれるかい」
碧の表情が先ほどよりも更に固い表情に変わったことに気付いた紫苑は、碧の申し出を了承した。
「紫苑さんも知っているとは思うけど、翠にはずっと結婚相手を探していたたんだが、あいつの合う相手が全くいなかった。しかし一刀さんや紫苑さんらがこの地に来て、特に一刀さんの人間的の強さが本物に感じたので、翠も何とか気になっていたようだし、私は翠を何とか一刀さんと結婚させようと考えていたのさ、もちろん紫苑さんの承諾を得てね」
碧はそう説明したが、紫苑は微笑を浮かべながら、
「それではご主人様を馬家に嫁ぐという形ですか?」
「そういうことになるね?」
「うふふ、それでは正直私らが不服ですね。その様な扱いでは、ご主人様は別として、私らの立場がありませんわ」
紫苑はその提案をやんわりと否定し、
「では、どうすればいいのかしら?」
「それでしたら、逆に翠さんが、ご主人様に嫁ぐというのはどうでしょうか?そして私たち3人は同等の正妻という形で、そして碧様のあとにご主人様を主になっていただくという形では…」
紫苑は自分の提案を述べた。碧が何らかの考えを持っていたのは分かっていたが、一刀を馬家に嫁ぐというのは、妻の立場として、さすがに許容範囲を越えていた。
逆に紫苑の考えは、やはり一刀を再度主として再び抱き、自分や民のために天下を握って欲しい。しかしここを出て一から勢力を作るのは、大変な事は分かっている。それなら翠が一刀を愛しているのならば、思いを遂げるようにして、逆に一刀に嫁ぐようにして、そして一刀を主にして、一刀と馬家を一体化させようと考えていた。
紫苑の考えに碧は流石に驚き
「・・ちょっと考えさせてくれないか」
その場で長考に入った。
執務室を出た馬休と渚は、翠の部屋前に来て、渚が
「姫様、入りますよ」
部屋に入ると、寝台に仰向けで考えて込んでいる翠がいた。
それを見て、渚が碧が呼んでいることを伝えたが、
「悪いけど、一人にしてくれないか」
「いいのですが、この一刀様がここから去っても…」
渚が一刀が西涼から去ることを伝えると、翠は飛び起きて
「それはどういうことだよ!」
翠が言い放つと渚はさっきほど紫苑が言った内容を伝え、更に一刀と紫苑らの関係についても分かっている内容を語った。
それを聞くと翠は
「何だよ、それ・・」
ショックを受けて項垂れていると、馬休が
「姉貴、このままでいいのかよ?」
「良いわけないだろ!」
「じゃ、なぜぐずぐずしてるんだよ!このまま泣き寝入りするのかよ!」
「だって…よ、すでに向こうは結婚していて、それに璃々もいて、愛しているって言われたのだぞ…」
「じゃ姉貴は、一刀さんに好きって伝えたのかよ」
「!」
翠の驚く顔を見て馬休が思いを伝えていないと悟り
「思いを伝えないで、すでに璃々ちゃんに負けているのがおかしいだろ、姉貴」
馬休が言うと、引き続き渚が
「姫様、姫がこのまま思い伝えずに、一刀様が立ち去ってしまったら、必ず後悔するでしょう」
「姫のいいところは、気持ちが真っ直ぐなところでしょう。部屋で悩んでいても何も解決出来ません。そしてこのままおめおめ引き下がったら、錦馬超の名が泣きますよ」
2人から言われると、翠は吹っ切れた顔になり
「2人ともありがとうよ、確かにこのまま引き下がったら、私の名が泣くよな」
「よし分かった、お母様のところに行くよ」
翠はそう言って、翠らは執務室に向かった。
そして長考していた碧が紫苑に
「では、勝負といかない?」
「勝負とは?」
「一刀さんと翠を一騎打ちで勝負させる。一刀さんが勝てば、紫苑さん、あなたの言う通りにする。翠が勝てば、あなた方は私らの言うことを聞いて貰うという勝負よ」
碧が説明すると、外から勢いよく扉が開けられ、翠が今の内容を聞いていたのか
「お母様、その勝負乗った!一刀と一騎打ちさせてくれ!負けたら、前からの約束を果たすよ」
翠が一騎打ちの申し出を受け入れた。
これを見て紫苑も
「分かりました、この勝負をお受けしますわ」
一刀と翠の一騎打ちの承諾をした。
そして碧が馬休に、一刀と璃々を呼び出すように命令し、その際に何も言わずに連れて来るよう指示した。
一刀と璃々が馬休に連れられて、執務室にやって来たが、皆が揃っていたおり、碧が
「話は紫苑さんから聞いたわ、でもね一刀さん、一度翠と一騎打ちの勝負して欲しいのよ、理由は紫苑さんに説明して承諾して貰っているわ、この勝負受けて貰えるかしら…」
碧が一刀に説明すると、一刀は翠を見ると翠は
「一刀頼む、私のためにもこの勝負受けてくれ」
普段の翠から考えられない、懇願するかの様に言ってきたので、あえて理由は聞かず、一刀は翠からの一騎打ちの申し出をを承諾した。
一刀は、準備のため、一度部屋に戻り、勝負の場所となる城の中庭に行くと、先程居なかった馬鉄や蒲公英もやって来て、全員で観戦する状態であった。
そして一刀は、すでに準備が出来ている翠を見て
「待たせたな翠」
「こっちもさっき来て準備が終わったばかりだ、良いかい始めても」
と言うと、立会人の渚が頷き2人を見て
「では始め!」
勝負を開始した。
翠は左足を前にして半身の構えに対し、一刀は中段の構えでいた。
すると翠が
「うぉぉーーーー」
掛け声と共に鋭く槍を突いていくと一刀も
「はぁぁーーーー」
気合を入れながら、翠の鋭い連続攻撃を交わし、翠が槍を引いたところ、一刀が素早く翠の懐に入り込み、カウンターで刀を入れて翠が交わしていく展開が数回続いた。
戦いの途中で翠が息を切らしながら、一刀に
「ハアハア、なあ一刀、もし私が好きなら、私に勝って、私を一刀のモノにしてくれよ」
突然の翠の爆弾発言に一刀は驚きつつ、
「分かったよ。翠、お前に勝って、俺のモノにしてやるよ!」
「フン!そう簡単に勝たせやしないぜ」
翠が槍を突く方法から、上下左右に振り回す方法に変えた。
すると一刀は、翠の激しい攻撃に防戦一方の展開に持ち込まれしまった。
(「くそ~、相変わらず力強い攻撃だな」)
一刀が考えていると、一刀は間合いを取り、構えを変え、
(「一か八か、これで勝負!」)
刀を下ろして、そして翠を誘いを掛けるように下段に構えた。
翠は一刀の構えを見て、
(「見たことのない構えだな…、でも迷っても仕方がないこれで止めだ!」)
一撃必殺のように鋭い突きを胸に突いてきた。
一刀は予想していた通りに槍を突いてきたので
(「やはり来たか!」)
翠の攻撃を下から力一杯にかち上げると、この一撃で
「あ!」
翠は槍を手放してしまい、一刀は翠の顔に刀を突き付けた。
そして翠はがっかりした顔で
「私の負けだよ…」
ションボリした表情をして負けを認めた。
そして一刀が、ショックを受けている翠に声を掛けると
「翠、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ・・」
と言うものの先ほどの会話を思い出し、お互い無言になってしまった。それを見て碧が
「一刀さん」
「何ですか、碧さん」
「あなたが勝ったから、約束通り、翠を一刀さんに嫁がせ、そして私の後継者にあなたにお願いするわ」
と聞くと一刀は慌てて
「ど、どういうことですか?」
一刀が聞くと、碧は紫苑との勝負内容を説明した。
それを聞いて、一刀は呆れた表情をして
「紫苑……、また無茶苦茶な事を…、しかしいいのか、翠を迎え入れても」
一刀が紫苑に確認すると
「ふふふ構いませんよ、またこの世界に来たら、ご主人様に群がる方は数知れずになる可能性が高いのですから、愛紗ちゃんみたいに焼きもちを焼いて始まらないですわ。でも一番はわ・た・しですからね」
紫苑は妻としての理解のあることを言っていたが、横にいた璃々が
「ダメだよ、これ以上ご主人様の周りに女の人増やしたら~」
「あら、でも璃々、翠ちゃんには反対しなかったじゃないの」
紫苑はさりげなく、翠の呼び方を以前の様に変え、璃々を宥めていたが
「う~ん、翠お姉ちゃんだから、反対はしなかったけど、これ以上増えたら、困るよ~」
複雑な表情をしている璃々であった。
すると翠が
「あ~あ、私もとんでもない男に惚れてしまったよ」
ぼやいていると一刀が
「いいのか?こんな俺で、断るなら今ならまだ間に合うぞ」
「え…嫌じゃないよ。でもぎゃ…逆にいいのか、こんながさつな私で」
「何に言っているんだ、翠みたいな、こんなかわいい子に言い寄られて、嫌という男がどこにいるんだよ」
「か、かわいい~!?★■※@▼●!?」
一刀から今まで自分の容姿について聞いたこと台詞を言われると目を白黒しながら、驚いている翠であった。
これを見て碧が翠の様子を見て
「これが一番良かったかもしれないね」
母親の顔になって呟くと横にいた馬休、馬鉄、蒲公英が
「やれやれ、姉貴もようやく幸せを掴んでくれたか、これから一刀さんから義兄さんと呼ばないとダメだな」
「それもそうだが、姉貴、兄貴のことを一刀と呼び捨てにしていたから変えないとな~」
「それじゃ、紫苑さんみたいにご主人様と呼ばせようか~」
イタズラぽい顔をしている蒲公英を見て、渚が
「あら、それいいですわね、蒲公英様」
そう言いながら、翠の元に近付き
「姫様、結婚おめでとうございます。ではこれから一刀さんのことを呼び捨てするのではなく、姫様のご主人様となるのですから、一刀さんのことをご主人様と呼んでみて下さい」
渚から言われると翠が驚いて
「こ、ここでか!?」
「はい、そうです」
「う~~」
恥ずかしそうにしていると碧が
「翠!しっかりしな!そんなことで恥ずかしがっていると一刀さんを璃々ちゃんに取られてしまうぞ!」
ハッパを掛けられると翠は顔を赤くしながら
「ご、ご主人様、こんな私だけど、よろしくお願いします」
翠が照れながら言うと一刀も
「ああ、こんな俺だけど、俺も翠のことが大好きだから、よろしく頼む」
そう言って、一刀は翠の体を抱き締めた。
翠は一刀から抱き締められると、嬉し泣きしていた…。
それを見て、蒲公英は
「いいな~お姉様、次は私の番だね♪」
ドサクサに紛れて、さりげなく爆弾発言をしていた。
翠の姿を見て、璃々が拗ねていたが、紫苑は、今日は翠の記念日だからと言って、璃々を宥めた。
この後、全員で2人の簡単な祝い討伐の慰労会をした後、気を利かせて、一刀と翠の2人きりにさせた。
~一刀の部屋~
部屋は一刀と翠の2人きりになっていた。
翠が一刀に
「なあご主人様、前の世界でも私はご主人様を好きになっていたというけど、実際どうだった?」
「何だ翠、気になるか?」
「う~ん、やっぱり気にはなるよ」
「あ~確かにな、でもな翠、俺は以前いた翠も好きだし、今の翠も大好きだよ」
一刀から言われると翠は
「★■※@▼●!?」
と顔を赤らめていた。
「でも翠、俺が碧さんの後継ぎになっていいのかよ、そっちの方が大事なことだろう?」
「ああご主人様がなってくれた方が私は助かるよ、私も皆の幸せは願っているが、実際は武を奮う以外、頭を使うのは苦手なんだ。だからご主人様が主になってくれた方が、私も安心して武を奮えるから、そっちの方が助かるし嬉しいよ」
屈託のない笑顔で答えた。
「そうか・・、それだったら何としても、皆の期待に応えていかないといけないな」
一刀が応えると、翠は
「…ご主人様、こんな私だけど愛してくれよな」
「勿論さ、翠…」
2人はキスをして、それから寝台に行き結ばれたのであった…。