第79話
後半、無茶苦茶な話になりました…。
一刀が長安に帰還して、すぐに愛紗が蜀に匿われている情報はまず呉と漢に流れた。
~呉・建業~
「まさか関羽を救いに君主やその奥方まで出てくるとは……とても信じられん」
「でも、そんな男。私、嫌いではないわよ」
蓮華と漢からの報告を知った雪蓮と冥琳であるが、冥琳の立場から考えると一刀達の行為は余りにも無鉄砲過ぎ、雪蓮としたら更に興味が湧いたという感じであった。
「だが雪蓮、蓮華様の失態。このままにしておく訳にはいかん」
冥琳は、蓮華の戦での失態については、流石に他の豪族たちの目もあることから、何らかの罰は必要だと思い雪蓮に進言した。雪蓮も冥琳の立場や言わんとしていることが分かっていたので、敢えて反論はしなかった。
「そうね…それは分かっているわ。でもね、あの子、無理して私になろうとしてらしいのよ」
「どういうことだ、雪蓮?」
「蓮華とは別に送られてきた晶の報告書では、あの子、自分が私に認められていないのと思っているのよ。そして自分が周りから認められるためには、私の様に振る舞って認めて貰おうしているの……。あの子には私と違って良い物持っているのにね……」
今の雪蓮の顔は、王というよりは妹を想う姉の顔になっていた。
「だったら雪蓮。お前から蓮華様にそう言ったらどうだ」
冥琳の意見に雪蓮は首を横に振って
「今、それを言っても、あの子には通じないわ。あの子自身に気付いて欲しいのよ。自分のあるべき姿を」
「だが…気付くか」
「気付いてくれわよ。私の妹だから」
「……分かった。お前のその言葉を信じるしかないか」
冥琳の言葉に雪蓮も黙って頷き、そして蓮華には建業への帰還を認めず、荊州において謹慎処分が命じられた。
~漢・洛陽~
白蓮と焔耶が洛陽に帰還して、今回の一件について報告を聞き終えた桃香は
「そう…愛紗ちゃんが蜀に…」
この一言だけ言って、無言になってしまった。
そして焔耶の失態については
「愛紗のたった一撃で気絶するなんて、だらしないのだ。今から鈴々が鍛えてやるのだ」
一緒に報告を聞いていた鈴々にその場で強制連行され、地獄の特訓を受ける羽目になった。
そして報告の最後に白蓮が愛紗との最後の別れ際の言葉を桃香たちに話した
「なあ桃香、あの頑固な愛紗が蜀に降ったのだ。今からでも遅くはない。呉との同盟を切り蜀と手を結んだらどうだ」
白蓮は、あの頑固な愛紗を配下にした一刀たちの噂はよく聞いていた。袁紹の罠に嵌まり苦境に立っていた董卓を救い、そして民を思いやり政治を行っていることを。
これは桃香自身が自ら行いたかったことを一刀が実践している。ここで桃香自身が自らの今までの行いを改め、再び自分の立ち上げた理想に戻ることができれば二人は手を結ぶことも可能ではないかと白蓮は思っていたが…。
「今更、蜀と手を結ぶ事は出来ないよ!……だって一刀さんに私の理想を否定されてしまった。でもその時は仕方がないと思っていた。私が目指してやろうと難しく出来なかったことを一刀さんはこなしている…。でもね私、何とかして一刀さんに認めて貰うためには力が必要だと思ったの…」
「でも失敗して、その結果愛紗ちゃんまで失い…。そして私が追い出した所為で愛紗ちゃんは命を失いかけ、その愛紗ちゃんまで一刀さんに助けて貰い、そして採られてしまった……」
「今更、私たちから蜀に頭を下げることは出来ない!何としても蜀と戦って勝つしかないの!そうじゃないと、私、わたし……」
桃香は、今まで溜めていた感情は遂に爆発して白蓮に話すと、最後は感情のあまり声にならなかった。
「白蓮さん、貴女の言うことは分かりますが今更、蜀と手を結ぶことはありません。蜀と戦うことは呉との同盟での決定事項です」
(「朱里ちゃんとうとう戦う事になっちゃったね。ごめん、約束破って……」)
雛里は、朱里との約束を忘れてはいなかったが、桃香と歩んだ道を無駄にしたくない為、朱里に負けたくないという嫉妬に心を乱され、そして最悪で、しかし形勢逆転が可能な戦いという方法で事態を打開することを固めていた。
すると背後から白蓮の左肩に誰かの手が置かれたので、白蓮が振り向くと
「白蓮殿、気持ちは分かりますが、ここまで来たら戦いあるのみです」
すでに覚悟を決めたかのような表情をしていた凪が立っていた。
(「すまん、愛紗……。この頑固者たちを説得できるのは、お前らが戦いに勝って目を覚ます以外に方法はなさそうだ…」)
凪の言葉を聞いて白蓮は、溜め息を吐いていた。
丁度、長安に帰還した一刀たちであるが、到着したのが夕暮れに近かったこともあり、今後の事についての話し合いは明日以降にすることとした。
そして取り敢えずの片付けを終え、一刀の部屋に紫苑と璃々がいたが、そこに朱里がやって来た。
「ご主人様、よろしいでしょうか」
「いいよ。こんな夜更けにどうしたの?」
「実は雛里ちゃんの事で相談が…」
朱里は一刀たちが帰還してから、愛紗が改めて配下になったことを聞いた。その後、朱里が愛紗に色々と事情を聴いた際、桃香を捕えた時に助命するという事を聞いて、一刀のところにやって来たのであった。
「実は先程、愛紗さんからお伺いしたのですが、戦いに勝ってもし桃香さんを捕えた時、助命するという話は本当ですか?」
「ああ、そうだよ。その時紫苑や璃々たちも一緒に居たけど…、何か問題でも」
「いいえ、問題ではなく…」
「朱里ちゃん、もしかして雛里ちゃんも桃香ちゃんと同じ様に助命欲しいと言う訳ね」
「はい…」
話を聞いて、紫苑は直ぐに話を察する言葉を告げると朱里は頷いた。
「でも桃香さんの場合、愛紗お姉ちゃんとの約束があるから自決ということはしないと思うけど、雛里の場合、何か責任を感じて私たちが捕える前に間違い起してしまわないかな…」
璃々がそう指摘する、一刀も困った顔になっていた。
「そうだよな…。仮に俺たちが勝ったとして、今の桃香と雛里が素直に降伏するとは思えないよな…。朱里、その辺りの案を持っている?」
「……はい。それについては幾つか案があります」
「そうか…分かった。この件については、今後色々と朱里たちに相談するかもしれないけどよろしく頼むよ。それと朱里には一つ言っておきたい事があるんだ」。
「はい、何でしょう」
「もし桃香や雛里たちと戦った時、雛里を捕える為に強引な策や指示はしないで欲しいんだ。それによってより、敵味方共に多くの犠牲者を出すかもしれないからさ」
「はい。分かりました」
朱里はそう返事しながらも、こんな時でも皆の事を思いやる一刀を見て、軍師として妻として本当に仕えて良かったと心から感じていた。
「さて湿っぽい話はそこまでにして……」
紫苑は笑みを浮かべながら、扉に近付くと急に扉を開いた。すると……
「バタバタバターン!」
けたたましい音と共に二人の人物が現れた。
「いてて……」
「もう、お姉様、早く降りてよ!重いんだからさ!」
「ほら、やっぱり見つかったでしょう」
先に倒れ、重ね餅状態になっているのが翠と蒲公英で、その後から現れたのは黄忠であった。
「璃々、そこの窓にももう一人いるから声を掛けて」
「はーい♪」
一刀と璃々も別の気配に気付いていたのか、窓の外にいる人物にも声を掛けた。
「星お姉ちゃんいるでしょう♪」
「やはりばれたか」
璃々が窓を開けると、その外に星が立っており、そして苦笑しながら、窓を乗り越え部屋に入って来た。
「それでなぜ翠たちは、外で俺たちの話を聞いていたんだ?」
(「蒲公英、お前が言えよ」)
(「何で私なの、最初に見つけたのはお姉様でしょう」)
そこでなぜか翠と蒲公英が、どちらが説明するのか責任の擦り付け合いをしていた。すると黄忠が笑みを浮かべ
「フフフ…実は、この二人、ご主人様の部屋に朱里ちゃんが入っていくのを見て、心配になって見に来たのです」
「へへへ…、実はお姉様、朱里がご主人様の部屋に入って行くのを見て、朱里が抜け駆けするのが心配で見に来たんだよね~」
「は、はわわ!」
「ちょ、ちょっと待てよ!お、お前らも一緒に来てただろう!私だけ売るなんてずるいぞ!」
「私たちは、御主人様に用事があったから来たもんね~」
翠の声を無視して蒲公英が小悪魔な笑顔で答えると
「ねえ、ご主人様。身体が熱くなってきてない?」
「お、おい!?」
「ねえ、黄忠さんに朱里、あれ成功したね♪」
蒲公英からそう言われると、部屋に置いていたお茶を飲んだ後から妙に体が火照っていた一刀。そして説明しながら蒲公英は、一刀の飲み残しのお茶を一気飲みした後、慌てる一刀を他所に、蒲公英が服の上から一刀のある部分を触り感触を確かめ、ある実験の成果に満足していた。
「まさか一服盛ったんじゃ……」
「へへへ…気付くの遅いよ、ご主人様。黄忠さんと朱里と私が開発した特上の媚薬を入れてみました~♪」
この三人は長安で留守役を務めていたが、仕事の合間を見つけては、朱里を中心に薬の開発をしていたのであった。ここに来て漸く、一刀も蒲公英たちの企みに気付いた時はすでに遅かったが、しかしここで蒲公英は大きな事を忘れていた。
そのお茶は、朱里は勿論であるが紫苑と璃々たちも飲んでいたことを…。
「あらあら、ご主人様…あれを苦しそうにして」
「もう…ご主人様は、相変わらずなんだから…」
「わ、私もいいですか…」
蒲公英の企みに気付いた一刀は紫苑と璃々に助けを求めようとしたが、すでに薬の効果が出始めていたのか二人とも官能な顔をしていた。そして朱里も薬の効果が表れたのか、身体をモゾモゾし始め、黄忠もすでに準備万端状態になっていた。
「ちくしょー!こうなったら、ヤケクソだー!!トコトンやってやる!!!」
ここまで来たら、流石に一刀も身体が我慢できなくなったのと同時に自棄っぱちになって皆を相手することを決意した。
「翠、お主はどうする?」
「せ、星!お前何してんだよ!」
「ふむ、元々主の部屋に忍び込み襲うつもりであったが、既に皆があの状態では遠慮していたら回ってこぬからな。まあお主が嫌なら黙って見ておくがいい」
「………あーそんなの黙って見てられる訳ないだろう!」
星が翠を呼ぶと星もすでに臨戦態勢に入っており、翠もこの様子を見て置いてきぼりなりそうだったので、そこで漸く決心が付き、そして遅れて輪の中に飛び込んでいったのであった。
この後、夜が更けるまで、皆で騒いだのであったが一刀は何度したのか覚えていなかった。
取り敢えず、翌朝の太陽は黄色かったということだけは覚えていた……。
ご意見・ご感想あれば喜んで返事させていただきます。(ただし非難・誹謗等は止めて下さいね)