第74話
都合主義全開となっていますが…それでも良ければ読んで下さい
一刀たちの登場は璃々だけでは無く、無言を貫いていた流石の愛紗も驚いていた。一刀たちは漢や呉に気付かれない様、長安から上庸経由で麦城にやって来たのであった。
因みに護衛を務めていた翠は、城外でおいて敵兵が来た場合に備え、敵に見えない場所において伏兵の役割をしていたのであった。
そして思わぬ二人の登場に愛紗も驚きの声を上げ
「ど、どうしてお二人は、こんなところに来たのですか!」
「あら、人助けに態々理由がいるかしら?愛紗ちゃん♪」
「そうだな。確かに紫苑の言う通りだけど…」
一刀は一旦言葉を切り、そして次に出た言葉は辛辣な物であった。
「俺だって愛紗、君を助けたいと思う……でも正直言って、今の君の考えでは助けようとは思わないよ」
「なぁ…」
一刀の唐突な言葉に愛紗は息を呑む。
「さっきここに来るまで出迎えに来た、せ…趙雲や関平さんから粗方のことを聞いたよ。君が俺たちの助けを断ったことまでね」
「どうせ君の事だ、責任を感じて桃香を元に戻すことは私しかできない。若しくは桃香の傍にいるのは私でないといけないと思っているんだろう」
「そ、そんなことない!」
「じゃあ聞くけど、本当に桃香を救いたいのであれば、なぜ俺とかに頼らずに全て一人で抱えこもうとする!そしてこんな困難なこと一人でできると思って込んでいるだけじゃないのか!」
「う、うるさい!私の何が分かる!私は桃香様に出会うまで唯の武侠でしかなかった。そして鈴々と共に桃香様の理想に共鳴して、桃香様の理想を叶えるため我ら三姉妹は誓いを立てた。それなのに………」
~愛紗視点~
私もあの汜水関の戦いで、紫苑殿に言われた様に正義と言うものに色々考えた。
そしてこれからという矢先に桃香様が、変わられてしまった。
桃香様や雛里は、あの場に一緒にいたにも関わらず、力が欲しいという事に囚われてしまい、自らの理想を捨ててしまった。
桃香様には自分の信念を最後まで信じて欲しかった……。
桃香様…自分を信じなければ、誰が信じて付いてきますか?自分の信念を最後まで信じられた者がこの戦乱では最後まで生き残ることができるのです…。
そして例え、勢力が弱くても自分たちと同じ夢を持っている皆が集まれば、きっとその夢が花を咲かせることができると思っていた…。
でも、歯車が狂い始め、桃香様から離反する際、他の人に仕えるように言われても、桃香様のことを思いどこにも行かなかった…
……否、違う、私は恐れていた…
私が他の人に仕えてしまうと、本当に桃香様を見捨てたと思われるのが怖くてどこにも行けなかった…。
私が死ぬ覚悟でいたら、ひょっとして桃香様が迎えに来てくれると心の何処でそう思っていた。
私は桃香様を支えているつもりでいた…でも桃香様と離れ、初めて人の上になって、目の前で困っている人々を助けられてもそれ以上の事はできなかった…。
そう、私は気付いていたのだ…桃香様の理想に寄り添い、そしてそれに甘えていたことに…。
愛紗視点終了
愛紗が途中で言葉を切らせると、その時愛紗の両目からは感極まったのか涙がぽろぽろと零れ落ちていた。そして泣きながら一刀にこう訴えかけた。
「では私はどうすれば良かったのですか……」
これを見て一刀が
「愛紗、君の気持ちは分からない訳ではない。でもね、誰も人のことを完全に理解することはできないんだよ。人は生まれた時からそれぞれ違う人生を生きてきた、そして同じ道を歩くと思えば、何れは違う道を歩んでいくかもしれない。でもその逆のこともありうるんだ」
「………」
「愛紗、今の君は一つの事に拘り過ぎている、もっと心を大きく持って欲しい。例え、一時の屈辱に塗れようとも、桃香の為に生き延びることも。命はたった一つしか無い。何かを守る為に命を投げ出すのは悪いとは言わないよ。けれど自分の命も守れない者に他人の命を守れるかい?そして『勇気と無謀を履き違えるな』と」
一刀が言うと愛紗は、少しは落ち着いたのか涙を拭い、
「…では、貴方は私に一時の屈辱を被ってでも生き延びろと…」
「ああ、その通りだ。もし俺が君の立場だったら、そうする。紫苑や璃々、それに星…趙雲たちに二度と会えないというのは御免だからね」
笑いながら一刀がそう言い切ると星と一緒に部屋に戻っていた愛香が
「でもどうして、北郷さんは、数回しか会っていない義姉の為に自分の命を賭けてそこまでして下さるのですか?」
と素直に疑問の声を上げると
「そりゃあ、女の子が困ってるんなら、多少の無理をしてでも助けるのが男だからかな」
一刀が屈託も無く説明すると
「あらあら、ご主人様、私たちがいるのにさっそく口説くお積りですか?」
「まぁ、ご主人様なんだから…それにここまでお人好しなのも仕方ないと思うよ」
「私としたら、主に早くこの女を口説き、閨で調教して貰った方が良いと思うがな、フフフ…」
紫苑や璃々、それに星がとんでもない発言をしていた。特に星の発言を聞いて、愛紗は顔を赤くなり無言になってしまっていたが。
すると紫苑が慈母の様な微笑みを見せて
「愛紗ちゃん…貴女一人でよく頑張って来たわ。でもね、もういいのよ。私たちもできるだけ貴女の事に協力するから」
そして紫苑は愛紗の身体を優しく抱きしめ
「今まで本当に辛かったでしょう…。今は我慢しないで、私の胸で思いきり泣きなさい」
紫苑が優しく告げた言葉は、今まで張り詰めていた愛紗の心の壁を打ち壊した。
「うわあああああんーーーーー!」
それはいつの間かずっと言って欲しかった言葉。一生懸命やってきたにも関わらず誰にも認められず「頑張って来た」という言葉を…。更に愛紗は幼い時に両親を亡くしており、今まで親に甘えることが出来なかった思いを、紫苑という優しく包みこんでくれる存在に出会い、その涙は今まで秘めていた想いと共に流し続けた…。
しばらくして愛紗は漸く落ち着きを取り戻し
「………お見苦しいところを見せて申し訳ない」
「いいんだよ愛紗。誰にだって泣きたいこともあるさ」
一刀は愛紗の事を思い、話を変え
「じゃあ改めて聞くけど愛紗、俺たちに力を貸してくれないか?」
「一つだけお聞きしたいことがあります。貴方たちはこの国をどうしようと考えていますか?」
愛紗は今まで一刀の人柄や噂などで蜀という国については概ね好意的に受け取っていたが、ただ一刀の理想を直接聞いたことが無かったので、敢えて聞いてみた。
「俺たちの理想は、皆が普通に暮らし、普通な人生、普通な恋愛などができるような普通な世の中にするために戦っていくつもりだよ」
「そうですか…」
愛紗は一刀の理想がもっと高いものが出てくると思い、少々残念そうな顔をしていた。
「愛紗、少し不満そうだね。じゃあ聞くけど、愛紗が今、思っている普通の暮らすということが皆ができていると思う?」
一刀の質問に、愛紗は少し考えると無言で首を横に振ると一刀は言葉を続けた。
「愛紗、考えてみてくれ。今まで普通に暮らしてきた人たちや君や璃々、星、関平さんたちの様な可愛い女の子が武器を持って戦場に行くような光景、俺は見たくない。俺は目指しているのは、好きな人と何事もなく暮らす生活して、そして皆も盗賊等に怯えることがない普通の生活というものを送って欲しいんだ。ただそれだけだよ」
(「この人の本質は桃香様と一緒なんだ…。ただ桃香様との違いは、理想について現実を見据えているかいないのかの差だけど…、これまでの私はそれすら見抜けず、ただ夢のような理想をひたすら追い続けているだけだったんだ…」)
愛紗は一刀の言葉を聞くと、今までの自分の浅はかさを感じて、そして愛紗はあることを思い出し、そして決断した。
「一刀様、紫苑様、お二人にお願いがあります」
二人は愛紗を見て何か決意した様に感じ、そのまま話を聞くことにした。
「今まで私は桃香様の事を想い、そして桃香様の理想を叶えるため戦ってきました。今でも桃香様の事を義姉として思っています。でも今、桃香様は私と同じく自分の理想を見失い迷っています。何卒、私が貴方にお仕えする代わりにどうか桃香様の目を覚まして戴き、そして桃香様たちの命を助けていただけないでしょうか」
愛紗の決断に一刀は戸惑い、
「愛紗ちゃん、貴女の言うことは分かるわ。でも桃香ちゃんと戦うことになった場合、貴女、桃香ちゃんに刃を向けることできるの?別に無理しなくてもいいのよ。もし戦いに勝ったとしても桃香ちゃんの命は奪わないわ。だから貴女は桃香ちゃんの事を思っているなら、無理して私たちに仲間にならなくても、しばらくは客将の扱いで事の成り行きを見てから判断しても遅くはないわよ」
紫苑が説得するが、愛紗は
「いいえ紫苑様に言われて、漸く思い出しました…。桃香様と別れる時に約束したことを…」
愛紗が桃香と別れる時に約束した事とは、桃香の代わりに理想を叶えてくれそうな人に仕え、その人の元で理想を叶えること。そして桃香・愛紗・鈴々が離れ離れになっても再び三人が会うまではお互いどんなことがあって生き抜くことを一刀や紫苑に言われ、愛紗は漸く思い出し、その事を一刀たちに説明したのであった。
それを聞いて、一刀は腹を括り
「分かったよ愛紗…。君の命、俺が預かる。そして何時になるか分からないけど、必ず君の為に桃香の目を覚ますことを約束するよ」
一刀がそう告げると愛紗は深く頭を下げたのであった…。
そしてその横で紫苑や璃々に星、愛香や周倉などは漸く安堵の表情を見せたのであった。
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