第72話
荊州派遣の劉備軍は、一路襄陽に向かっていた。
襄陽において、呉軍の南郡攻略における援助及び牽制を兼ねているものであった。
その大将に公孫賛こと白蓮がなり、そしてその副将に何と魏延こと焔耶が付いていたのであった。
これは焔耶が先日、桃香の元に仕官に訪れ、面談した結果、採用されたのであるが、採用された時に
「北郷を倒したい」
と言う焔耶の言葉に桃香や雛里らは、採用を決めた。
そして焔耶の持ち前の武力や将不足もあり、将と扱うことにして今回の遠征において白蓮の副将として配属したのであるが…
「なあ白蓮、関羽という奴がここに来たらとっ捕まえていいだよな」
白蓮は周りに誰もいないことを確認して、小声ながらも怒鳴るように
「お前…桃香の話を何聞いていたんだよ!もし愛…関羽がここに来たら保護して、呉にばれないよう匿うんだよ!」
桃香は、やはり愛紗のことを見捨てることができず、雛里に相談すると話が紛糾する可能性があったため、桃香は雛里に内緒で愛紗が万が一襄陽に逃れて来た場合、こっそり保護をして、ほとぼりが冷めて頃合を見て逃がすことを白蓮と焔耶に頼んでいたのであった。しかし焔耶は桃香の真意を理解しておらずに
「……桃香様を裏切った者にそこまでする必要があるのか?」
「ハァ…焔耶、今の話を聞かなかったことにしておくが、それを桃香や鈴々の前で話してみろ…お前間違いなく首が飛ぶぞ」
白蓮がそう告げると焔耶は後に出てくる言葉が無く、そして
(「なぜ桃香様は、自分を裏切った関羽の事を想っているのだろうか…」)
桃香と愛紗の事情をあまり知らない焔耶は、心の中で首を捻りながら思案していたのであった。
一方、白帝城を出発した璃々たちは、すでに麦城に到着していた。
そして到着前に付近を探らせたところ、呉軍の姿はまだ無かった。
だが、いきなり僅か500騎といえども行き成り、兵を連れて行けば驚いてしまうので、兵を城から少し離れた所で待機させ、璃々と涼月、星、そして僅かな供を連れ、麦城の城門に向った。
城門が閉じられていたので、涼月は
「私は、張任だ!関羽殿に会いたい客人を連れてきた!ぜひ開門願いたい!」
すると、門から将と思われる男が出て来て
「これは涼月様、またこちらに戻って、いったいどうしたのですか?」
「おう周倉か、関羽殿を会いに客人を連れてきた。開門して貰えぬか?」
この周倉、愛紗の部隊の古参の一人で、徐州における乱闘騒ぎを起こし桃香から離反する決定的な原因を作ってしまった張本人であり、そして騒ぎの責任を感じ、それ以後愛紗に忠誠を尽くしているのであった。
「開門はいいのですが…、そちらの御人は?」
周倉が璃々を見ると、璃々はそれに気付き
「私は蜀の北郷璃々です。関羽さんに用があり会いに来ました。ぜひ会わせて貰えませんでしょうか?」
これには周倉も驚いた。自分の目の前に天の御遣い人と呼ばれている人物が態々愛紗に会いに来たのだから。
「だから周倉、早く門を開けて貰えないかしら、あと護衛の兵500ほども近くにいるから一緒に入れて貰えれば助かるのだけど」
涼月が説明すると、どうもそわそわして周倉の様子がおかしかったので、涼月が
「いったい、どうした?」
「えっ…ええ開門はいいのですが…、しかし今…関羽様は不在なのですよ…」
周倉の回答に三人はお互い当てが外れたような顔をしていたのであった。
ちょうどその頃、愛紗と愛香は4千の兵を引き連れていた。
目的は呉軍の食糧輸送部隊を襲撃することであった。元々兵の数で差がある上に、愛紗は領土を持たない義賊であり、手持ちの兵糧にも不安があったため、敵に先制を掛け、士気を挫くと共に兵糧を奪取しようと目論み奇襲を掛けたのであった。
「全軍天佑を信じ、突撃しろーーー!」
「呉の軍勢など蹴散らせなさい!」
二人の号令一下、奇襲は見事に成功し、呉の輸送部隊は、形での抵抗を示したものの、あっさり兵を引き、これを見て
「ふん。呉の部隊も意気地がない」
「……」
自慢げに愛紗がそう言うも愛香は無言であった。そしてそれに気付いた愛紗は気になったのか
「愛香どうした?」
「えっ?いや…あまりにも敵が引くのが早いと思いまして…」
「何、敵は私たちを恐れ、さっさと逃げたのだろう。皆、食糧を持って、すぐに引き上げるぞ!」
愛香の心配を余所に愛紗は、城に引き上げようとしたのだが、愛香の心配はすぐさま的中してしまった。
この愛紗の作戦は……すでに呂蒙こと亞莎に読まれていたのであった。
今回、冥琳は若手の将に経験を積ませるためと雪蓮に進言すると、雪蓮は蓮華に兵5万を預け、軍師に亞莎、将に思春、明命、そして目付役に太史慈こと昌が付いていたのであった。
亞莎は愛紗の軍が食糧不足に悩んでおり、更に何処にも属していないため援軍の見込みが無いことが分かっていたため、ただ籠城されて時間を掛けるのも厄介であったことから早期に決着を付けるよう囮の食糧輸送部隊を出して、愛紗の軍勢を誘き寄せようとしていたのであった。
そして愛紗と愛香はその罠に気付かずに奇襲を掛け、特に愛紗は意気揚々と城に引き上げていたのであったが、その途中
「ジャーン、ジャーン、ジャーン!!!」
銅鑼が一斉に鳴り響く音が聞こえると、今まで姿を現せていなかった呉の軍勢が、一斉愛紗の軍勢に襲い掛かった。
そして全軍ではないものの、数では愛紗の軍勢の5倍の2万の兵で包囲されていた。
「クッ!読まれていたか!愛香、お前は兵と共に撤退しろ!私は一か八か敵の大将に切り込み掛ける!」
流石に大軍相手に切り込みしても本陣すら届かない状態が分かっていたので、愛香は
「義姉上、何を言っているのですか!そんなの無理です!一旦ここは引いて下さい!皆、
義姉上を連れて行くのを手伝って!」
愛香は撤退を渋る愛紗を無理やり撤退させると、何とか掌握できた手勢を引き連れ戦場から離脱したのであった。
戦場全体を見ていた蓮華は
「フフフ…我が軍の圧倒かしら、賊相手にお姉様や冥琳も心配し過ぎよ」
「そうですね。ただ、今回使った偽の兵糧の小道具を整理するのが大変です…」
と言って亞莎は笑っていた。
「敵はもはや死に体だ!追撃して城を落とせ!」
と蓮華の命により、思春と晶が追撃に出たのであった。
そしてこの敗戦の報は愛香から託され兵士から城を護っている周倉に伝えられた。
「ほ、報告します!!」
「お前は、愛香様に付いていた兵じゃねぇか!いったい何があった!」
周倉が慌ててその伝令を問い質すと伝令は
「は…はい!関羽様と関平様の部隊は、一度奇襲に成功しましたが、その後、呉の軍勢の待ち伏せに会い部隊は壊滅状態!二人は乱戦を切り抜けられましたが、その後の行方は不明!そして呉の一部の軍勢がこちらに向かっています!」
その知らせを聞いて、周倉や城に残っていた兵たちは絶望感に陥った様であった。
そして横で聞いていた璃々たちは
「まずいね…」
「まさか愛紗さんが行方不明になるとは…」
「何、あ奴はそんな簡単に死ぬようなタマではないよ。さてこれから一仕事するとしようか璃々」
星のこの言葉の意味が分かったのか
「そうですわね。私も勿論手伝わせて貰いますわよ」
涼月も承諾したので、璃々は愛紗の心配もしながら、留守役である周倉に城の守備の手伝いを申し出たのであった。
周倉はその申し出は有難かったが、しかし懸念もあった。
「その申し出はありがたいのですが…なぜ私たちを助けて戴けるのですか?それに貴女たちが戦いに加わっていることが露見したら、呉は貴女たちを捕えるため、全力でこちらに攻めてくると思いますが?」
「簡単な事だよ。目の前に困っている人がいるのにそれを見捨てて逃げることができないだけ」
「それに私たち、今回はあくまで手伝いをするだけだから、自分達の旗とかは持たずに参加します」
「そうよ周倉、そんなこと貴方が心配することではないわよ」
「フッ…では、今回は名も無き一介の武者として一暴れいたそうか」
三人がそういうと周倉は
「ありがとうございます」
と言って深く頭を下げていたのであった。
そして四人は呉軍に一泡吹かせようと城の防備に努め始めたのであった。
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