第66話
話が一気に急展開を見せます。
都合主義かもしれませんが、ご容赦願います。
しばらくすると、益州南部を鎮撫に出ていた紫苑たちが成都に帰ってきたが、一刀から黄忠と結ばれたことを聞くこと、紫苑は予定通りになってしまったことに苦笑し、璃々は、また一刀の嫁が増えたかと頭を抱え込み、そして星は良き好敵手が増えたことに笑っていた。
その結果、一刀がこの帰ってきた3人に色々と奉仕したことは言うまでもなかったが…。
そして、再び成都で一刀たちが政務に励んでいたところに、漢中から長安に戻っていた真里から知らせが来た。
その内容とは、河北で袁紹軍と曹操軍が激突、結果袁紹軍は、官渡と白馬の戦いの両方で大敗したとのことであった。
~冀州・南皮~
「ちょっーーと、とおーーしさんっ!!兵はもっーーと、集まりませんのぉーー!?」
南皮城の玉座の間に、麗羽の悲鳴にも似た叫びが木霊していたが、それは当然であった。袁紹軍は、曹操軍との戦いの前に約20万の兵を引き連れ出兵したが、官渡と白馬で大敗、そして麗羽たちは敗残兵約5千を何とか連れ、散々な程で、この地に戻ってきた。
そしてすぐさま、南皮に迫り来る曹操軍に対し、麗羽は、顔良こと斗詩と文醜こと猪々子に、兵を何としてもかき集めるように命じたが、それは幾ら何でも無理な相談であった。
「麗羽さま~、もうこれ以上兵を集めるのは無理ですよ~。人が居なさ過ぎます~」
それは、戦いの前に目一杯に徴兵を行った後で、更に袁紹軍大敗の報を聞いた領民などは、これ以上、麗羽のために戦に巻き込まれるのを恐れ、城や村から逃散や避難していたのであった。
斗詩と猪々子は、そんな麗羽を無視して、取り敢えず別室で防戦の準備を進めていると、袁術の家臣、張勲こと七乃が2人の元にやって来たのであった。
袁術と張勲の両名は孫策軍との戦いの後、袁紹の元に身を寄せていたが、今回の戦いには参加していなかったのであった。
「七乃さん、どうしたのですか?」
「いいえ、ちょっとお話がありまして」
「お話とは…袁術さんに何かあったのですか?」
「いい~え、美羽様は、今、自分の部屋で大人しく蜂蜜を飲んでいます」
「そうかい、今、こっちは見ての通り忙しいんだ。用があるんだったら、とっと言ってくれよ」
猪々子は、七乃に仕事の邪魔だというような迷惑そうな言葉を出すと、七乃が
「あのですね。相談というのは、この際、曹操さんに降伏しませんか」
「え!?」
「はぁ~!?」
七乃の言葉に2人は驚きの声を上げ、
「なっ、七乃さん。何でそんな事言うのですか!」
逸早く我に返った斗詩がそう言うと七乃が構わず、話を続け
「このままだったら、ここが曹操軍に攻められて、私たち全員殺されてしまうかもしれないですよね。だったら先に降伏して、そして私たちの命と引き換え美羽様と麗羽様を助けるのです」
七乃が説明したが、流石に猪々子は七乃の意見に疑問の声を上げた。
「あの曹操が、アタイたちが降伏して麗羽様の命を助けてくる保障はあるのかよ」
「う~ん、保障はありませんが、勝算はありますけど」
「それはどういうことですか、七乃さん」
「曹操さんは、優秀な人材を集めることに余念がありませんよね。そこで袁家の二枚看板と言われている御二方とこの私が行けば優秀な人材として曹操軍に登用され、そして美羽様と麗羽様の命も助かるということですよ~」
(このまま美羽様と逃げても捕まる可能性が高いから、まだこっちの方が助かる可能性がある方に賭けた方がいいと思いますから)
七乃は内心でそう思い、
(私たちを優秀と褒めてくれるのは嬉しいけど…七乃さんって、自分で優秀と言うかな…)
斗詩の方は内心そう思いつつも、七乃の楽観的な意見を聞くと、2人はお互いの顔を見合わせ
「文ちゃん、どうしよう…?」
「アタイは難しいことは分かんないけどさ。取り敢えず麗羽様を死なせたくないし、一度話し合いに行って、七乃の言う通りになれば御の字だし、もし失敗しても、ここで最後のイチかバチかの勝負をしたらいいんだよ」
猪々子の意見を聞いて、斗詩も腹を括ったのか
「分かりました。では今から私と七乃さんで降伏の使者として曹操さんのところ行きましょう。使者に行っている間、文ちゃんは麗羽様を見ておいて」
「斗詩、それはいいけどよ。麗羽様に言わなくてもいいのかよ」
「文ちゃん、今から麗羽様を説得に行くから一緒に付いて来て」
そして城では、最後の戦いで準備していたものの、守備の兵たちが徐々に持ち場を離れ逃亡し、更に一緒に戻ってきた敗残兵もこの混乱に乗じて、逃げ出す者も出てくる状態で、それを見た麗羽は
「ち、ちょっと、兵が次々と逃げているじゃあないですの!」
騒いでいるそんな中、斗詩と猪々子が部屋に入ると、麗羽に降伏することを勧めると
「何、言ってますの、貴女は!もう少し頑張って、并州の司馬懿さんに援軍を要請すれば、まだまだやれますわ!」
「それが…、今、知らせでその并州にすでに曹操軍は軍を進め、更に曹操軍の先鋒の夏候惇さんの部隊の一部がまもなく城に到着します。それに今、残っている兵では、勝ち目は勿論、籠城しても3日持つかどうかです…」
「それでしたら、今すぐ逃げますわ!」
「麗羽様~、今更逃げ出すと言っても幼い袁術様もいるのですよ。逃げきれる訳ないじゃないですか」
猪々子が呆れて言うと、
「何、言っていますの。そんなの美羽さんを見捨てて行くに決まっているじゃないですか」
麗羽の無慈悲なこの一言に斗詩が切れてしまった。
「何言っているのですか!麗羽様!仮にここを逃げて、もし袁家を再興するにしても身内を見捨てて逃げ出す人に誰が協力してくれますか!そしてこのまま、この名門袁家を麗羽様が滅亡させる気ですか!」
この斗詩の一言に麗羽は表情を変え
「袁家を、滅亡させる……?」
「……そうです。このままだと確実に麗羽様が袁家を滅亡させます」
普段大人しい斗詩からそのように言われた麗羽は、わなわなと体を震わせ
「わ、私が、袁家を滅亡させる……」
「……ご先祖様から代々伝わってきた由緒ある袁家が、麗羽様や私たちのせいで…」
「そ、そんな……私は、どうすれば……」
麗羽はそう呟いた後、あまりの衝撃に虚脱な状態になってしまっていた。
「麗羽様失礼な事を言って申し訳ありません。ですが、私や文ちゃん、そして七乃さんの命と引き換えに麗羽様と袁術様の助命を致します。もしそれで助命されない時は、その時こそ普段、麗羽様が言っている「華麗」な最後を曹操軍に見せましょう。その時は、私は最後まで麗羽様にお供します」
「水臭いな斗詩は、アタイも最後まで斗詩に付いて行くに決まってんだろう」
側近の二人から最後まで麗羽に付き従う言葉を貰い、麗羽は少し落ち着いたのか
「……分かりました。全て、貴女達に任せます。何とか袁家の血筋を絶えないようよろしくお願いしますわ。そして斗詩さん…、貴女が死んでまで私は助かりたいと思いませんから…」
「ありがとうございます、麗羽様。では私と七乃さんで今から曹操軍との交渉に行ってきます。文ちゃんが傍にいますので」
そう言って斗詩たちは曹操軍の交渉に向ったのであった。
一方、曹操軍では、斗詩と七乃が降伏の使者としてやって来たが、まずは稟が交渉役として話し合った。
そして条件は、袁紹軍の条件は、麗羽と美羽の助命であったが、稟はこれに難色を示したが、これに斗詩や七乃が華琳の裁断を仰ぐことを懇願したため、一度交渉を中断、そして現在、軍議に図られていた。
それを聞いて開口一番、桂花が
「何、甘えたこと言っているの。そんなの無視して、総攻撃を加えて殺してしまえばいいのよ!」
「それは感心出来ませんね~。せっかく敵が降伏しているのに、それを追い返して、討つことはどうかと思いますが~」
「何でよ!」
「もし今後、別の敵が降伏しようにも皆殺しに遭うと考えたら、誰が頭を下げますかね~。桂花ちゃんがその立場でしたら、降伏しますか?」
「くっ…」
桂花が麗羽の処断を主張したが、風に正論を吐かれると返す言葉が無かった。
「確かに風の言うことは一理ありますね。もしあの袁家を取り込めば、冀州平定を楽になりますし、他への影響力は大きいです」
「だが稟、その理由は分かる。そして顔良や文醜、張勲は使い物になると思うが、問題はあの袁紹と袁術だ。あの2人に使い道があると思うか」
「秋蘭、そんなの簡単ではないか」
「珍しいな、姉者がそう言うなんて、で、どんな案なのだ」
「うむ、あの2人に侍女か雑用係をやらせておけばよいのだ。命があるだけ良いではないか」
春蘭がそう告げると周りは春蘭の意外なまともな意見に静まりかえり、
「秋蘭、私、何か変な事を言ったか?」
「いいや、姉者の良い意見に皆が驚いているだけさ」
「フフフ、春蘭も偶には良い事を言うのね。今晩は貴女にご褒美に上げるわ」
「華琳様~」
華琳が夜のお誘いを言うと春蘭は喜んで声を出していた。
「では、袁家の家臣の方にはこのまま配下に加わり、袁紹殿については春蘭様の言う通りに侍女にする方向で、そして私の意見ですが、袁術殿については、まだ侍女をすることが難しいと思いますので、まずは再教育する方向で話を進めて宜しいですか」
稟の提案に反対する者は無く、このことを斗詩たちに伝えられると、斗詩たちはこの提案を受け入れ降伏したのであったが、ただし華琳から麗羽と美羽に対し、降伏の追加の条件が突き付けられ、麗羽にはトレードマークでもある天然パーマの長髪を切ること、更にあの高笑いの使用禁止を命じ、そして美羽には蜂蜜飲食制限が付け加えられ、2人はこれを渋々従うしかなかったのであった。
~并州~
「…以上の通り、報告します」
陽炎こと司馬懿は、曹操軍に潜伏していた梅香こと郭淮が、袁紹軍敗退とそして降伏の情報をいち早く聞き付け并州に戻ってきていた。
「やっぱり貴女では無理でしたわね…。せっかく大人しく過ごそうと思っていたのですけど…」
元々、陽炎は、世を斜に構えて見ている厭世的な人物で、華琳に出仕を求められるまでは、一生隠遁生活でもよいつもりであったが、しかし華琳への出仕については、華琳の思想や嗜好に疑問を感じたためこれを拒否、更に華琳の従姉妹の曹洪こと陽華の求愛も拒否したため、仕方なく同じ漢の名門である麗羽に出仕し、あまり目立たないようにして、麗羽を表に出しながら力を尽くして来た。
だがここに来て麗羽が敗れ、袁紹軍の残党として曹操軍の矛先がこちらに向けてきたことから、遂に陽炎自ら立ち上がることを決意したのであった。
「それで、こちらに向かってくるのは曹操軍の将は、曹仁と曹洪の軍に間違いないのね」
「はい、陽炎様!私が曹操軍の陣にいる時は、出陣準備中でしたので、少なくとももう出撃していると思います」
「フフフ…では軍を持って曹操軍のお出迎えをしますわ。今回は曹洪さんに私の思いを自ら伝えるため私も出ます。そして若竹(張郃)と梅香はこのまま私と一緒に出陣。そして松香(徐晃)は、別に一軍を率いて洛陽に行ってくれるかしら」
「洛陽…にですか?」
「ええ曹操軍は今回の戦いで冀州を押さえてしまうわ。だからそれに対抗するため洛陽を押さえておきたいの」
陽炎から説明を受けると松香はこれを承諾、更に幽州を治めている蒋済こと白雪に幽州と冀州との州境に兵を展開するように指示をした。
「さて曹猛徳…、貴女の実力を測らせて貰うわよ…フフフ」
そして皆が準備で去った後、陽炎の顔には妖しい笑みを浮かべていたのであった。
~某所~
こちらは少々時間が遡って、袁紹軍と曹操軍が官渡で戦いの火蓋が切られたころ
「と、桃香様、今、入った知らせで、官渡で袁紹さんと曹操さんとの間で戦いが始まりました!」
「じゃあ雛里ちゃん、私たちも立ち上がる時だね」
桃香がそう言うと雛里は無言でコクリと頷き
「では皆さん、予定通りの行動を取って下さい」
「分かったのだー」
「承知」
「さてやりましょか」
「分かったのー」
雛里の指示で鈴々や凪たち三羽烏は、行動を開始したのであった。
~成都~
一方、一刀たちは曹操軍が袁紹軍に勝利した報を聞き、今後のことについて会議が開かれていた。
「これで曹操軍が袁紹軍に勝ったと言うことは華北を制したことになりましたね…」
「そうだな…。益州の方はようやく一段落付いたが、しかし今後に備えて俺たちは長安に戻った方がいいと思うが、朱里の意見はどうかな?」
「はい、ご主人様の意見は、問題はありませんが、ただ…まだ益州も完全に落ち着いた訳ではありませんので、ご主人様の代行として紫苑さんか璃々さんのどちらか残って戴きたいのですが…」
「う~ん。じゃあ、し…」
「待ってご主人様、私がここに残るから」
「「璃々?」」
一刀が益州の留守に紫苑に頼もうとしていたところ、その言葉を遮るように璃々が留守役を買って出て来たので、一刀と紫苑は驚いた。更に璃々は言葉を続け
「ご主人様にお母さん、これからの戦いってどうなるか分からないでしょう、だから色んなことを経験しているお母さんの知識とかが生きてくると思うの、今回は私よりお母さんがご主人様の傍にいた方と思うの」
「璃々、いいのか?」
「うん、この場合はそうした方がいいと思うの、お母さんはどう思う?」
「そうね…今回は璃々の言う通りかもしれないわね」
「では璃々を成都に残るということで…」
一刀が話を進めようしたところに
「も、申し上げます!ただ今、長安から龐徳様が早馬で参りました!」
「はぁ!?渚が来た?どういうことだ」
翠が驚きの声を上げていると、龐徳こと渚が部屋に入って来て、一刀の挨拶をそこそこに
「私が説明するより、月様と真里から手紙を預かっていますので、まずはこちらをご覧下さい」
とそう言って書状を一刀に手渡した。
そして一刀がその書状を読んでいると、徐々に顔色が強張っているのが明らかであった。
紫苑が強張った一刀の顔を見て
「ご主人様大丈夫ですか…手紙には何と…?」
「ああ…大丈夫」
そう言って一刀は持っていた書状を無言で紫苑に渡すと紫苑がそれを読み始めると
「こ、これは…」
「どうしたのだ紫苑!」
「どうしたのですか紫苑さん!」
紫苑は一刀と同じく無言で2つの書状を星と朱里に手渡すと朱里は兎も角、心臓に毛が生えていると言われている星ですら驚きの余りに言葉を失ってしまった。
そこに書かれていた内容は、司馬懿が袁紹軍から離反して并州と幽州を制圧、そして并州を攻略してきた曹操軍を打ち破った。更に司馬懿軍が洛陽を攻略しようとしたところ、突如として漢の旗を掲げた軍勢がこれを迎撃して打ち破ったのであった。
更に話が続き、漢軍が司馬懿軍を打ち破って間もなく、時の皇帝である劉協は退位を告げ、そしてその後継者になったのが、何と桃香であった……。
ご意見・ご感想あれば喜んで返事させていただきます。(ただし非難・誹謗等は止めて下さいね)