第62話
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時間が少しさかのぼって、一刀が葭萌関を出発してから、朱里は、一刀たちが葭萌関を留守にする情報と一刀たちと黄忠が会談する情報をそれとなく敵に知れるように流した。
これは一刀不在をわざと敵に知らせ、そして城外に誘い出す罠であったが、これは城に籠もられると攻略に時間が掛かる恐れもあり、朱里は、一刀が留守という不安はあったが、一刀や紫苑、璃々が不在でも葭萌関に残る星や翠、蒲公英などが居れば、出撃してきた劉璋軍に対処は十分可能だと判断して、情報を流したのであった。
~巴郡~
「ふむ、紫苑はやはり敵に降ってしまったか」
「桔梗様、敵の大将は紫苑様と会談するため、葭萌関を留守にしています。一か八か勝負を賭けて出撃すべきです!」
「馬鹿かお前は!明らかに私たちを釣り出すため罠だと丸分かりだろ!」
「しかし夕霧様、このままだと黄忠様が敵に寝返ると兵の数でといえば敵は我々の倍になります!」
「仮に紫苑が寝返ったとしても敵は葭萌関と紫苑の居城を守る兵も必要だから、ここに攻めてくる兵は5万程度、ここを守っていれば敵は遠征軍、いずれ兵糧不足きたし、撤退する可能性が高い。ここは籠城戦をすべきだ!」
焔耶と夕霧こと法正が、斥候が持ち帰ってきた黄忠の降伏とその黄忠との会談のために葭萌関を出た一刀らが不在という報を聞き、出撃か籠城のどちらか口論をしていたのだが、
「桔梗、ご覧の通り、私たちは意見が割れた。あとはあんたの意見次第だ。あんたどうするの?」
2人の意見が割れ、容易に結論が出ないと判断した夕霧は、結論を桔梗に預けた。そして桔梗は
「夕霧の言うことは分からぬではないが、このまま城に籠もっていても、負けはせぬが勝利の可能性も薄い。だったらここは罠とは分かっていても籠城戦より勝機がある出撃の方を儂は選ぶ」
夕霧は、桔梗が出撃論を取ったことに溜息を付いて
「まああんたならそう答えると思っていたわよ。じゃ取り敢えず、ここは先の戦いで敗れた涼月や冷苞、劉潰の兵たちに守らせて、私たちは全軍、葭萌関に向けて出撃させるわ。恐らく敵は迎撃に出てくると思うから、後はあんた達の力に賭けるわよ」
「フッ、それこそ儂の望むところ」
「今度こそ、あの女には負けません!」
焔耶は前回の攻略戦で璃々に負けたので、その借りを返すのに意気込みを見せていたのであった。
こうして劉璋軍は、全軍葭萌関に向け出撃した。
劉璋軍出陣の報を聞き、翠たちは、関郊外で劉璋軍を待ち構えていたのだが、約1名、不機嫌そうな顔をあからさまに出していた。
「どうしたのだ翠、戦いの前に怒った顔などをして」
「ふん!いいよな、前で戦える奴は。私なんか何が悲しくて後方にいなければならないだよ~」
「だってしょうがないじゃん、ご主人様がお姉様に留守時の大将に指名したんだからさ」
「朱里、お前がわたしの代わりに指揮してくれ!それで私が前に出るからさ」
「は、はわっ、無茶言わないで下さい!」
「翠、何を言っているのだ…。主が言っていただろう、お主は主に嫁いだとは言え、元々は西涼馬家の姫だ。だからいきなり私や朱里が大将になるよりもお主が大将になった方が兵たちも納得すると」
星が説明した通り、一刀や紫苑は、今回、翠を留守の大将を任命したのには、元々は西涼馬家の後継者でもあり、また一刀に嫁いだ順番からいけばここにいる星や蒲公英、朱里よりも早いことから一刀は翠を大将に任命したが、根っからの武人である翠は、任命されてからもストレスが溜まっているのか文句をブチブチ言っていた。
翠の愚痴が一段落し、朱里が説明を始めた。
「敵はこちらから見て右翼に厳顔さん。そして左翼が魏延さん。そして両翼から下がって中央に布陣しているのが法正さんです」
「こちらは右翼に星さん、左翼に蒲公英ちゃん。中央に翠さんと私で行きます。翠さんについては臨機応変に部隊を動いてもらうため遊軍として構えていただきます。兵数からいけば敵は約3万、私たちは約4万なので、力押しで行けば勝てますが、ただ敵の大将である厳顔さんはかなりの武人で、更に変わった弓を使うと璃々さんから聞いておりますので、星さんも十分気を付けて下さい」
「変わった弓か…面白い。相手に取って不足はなさそうだな」
「ねえねえ朱里。私の相手について何か情報ない?」
「そうですね…。魏延さんは、璃々さんの話では武勇にかなりの自信がありそうなのですが、ただ散関の戦いの時は、璃々さんがその方を挑発したら見事に乗ってくれたということらしいですが」
「ふ~ん。つまり単純で脳筋ということだね」
(「ふむ、うちでもそういう人物が1人いて、蒲公英もいつも相手しているから大丈夫だろう」)
星が蒲公英に小声でそう告げると2人は自然と翠の方を見ていたが、2人に見られている翠はその意図に気付かず
「どうしたんだ2人共、私の顔を見て?」
こうして間もなく戦いの火蓋が切られようとしたのであった。
そして葭萌関郊外で一刀不在のまま、劉璋軍と開戦されたのだが、まず先手を取ったのは劉璋軍であった。
「いくぞ!豪天砲最大出力!」
桔梗の掛け声と共に轟天砲から発射されると星の先鋒の兵士たちは吹き飛ばされ
「よし!弓兵、開いたところに集中して弓矢を浴びせぇ!」
桔梗の一撃で先手を取ると追撃とばかりに更に弓矢を浴びせた。
「くっ!開いたところに兵を密集させろ!」
「甘いわ!歩兵!崩れたところに突撃じゃ!」
桔梗は、百戦錬磨の経験を生かして、星の軍勢に対し見事な先制を加えたため、流石の星もまずは防戦を余儀なくされたのであった。
一方、蒲公英の方も
「うらぁぁぁぁぁ!雑魚ども歯応えがないぞ!」
焔耶が先頭に立ちを己の武器である鈍砕骨を振り回しながら、蒲公英の部隊の兵を次々と倒していた。
星と蒲公英の部隊が苦戦している様子を本陣で見ていた翠が
「ったく…、2人とも何してるんだよ」
「まあまあ翠さん。このまま黙っているようなお二方ではないですから、ほら」
朱里が指差すと2人が直接指揮する部隊が動き出していた。
焔耶が周りの雑兵を鈍砕骨でぶん殴りながら
「どうした!北郷軍の力はこんなものか!誰か!私の相手になる奴はおらんのか!」
「ここにいるぞーーー! 隙ありーーー!」
蒲公英が何時もの台詞と共にいきなり焔耶の背後から斬りつけてきた。
焔耶は何とか躱したものの、もし蒲公英が声を上げなかったら、危なかったと思い内心冷や汗を流していた。
「卑怯者!貴様は武人としての矜持はないのか!」
「えっ?戦いの最中に背中を向けているあんたが悪いじゃん」
「そんな卑怯な奴に私の相手が務まるか!あの女を出せ!北郷璃々を!」
「あ~璃々ね。璃々ならここにはいないよ」
「フン、私を恐れて逃げているんだな」
「あんた馬鹿じゃない?ちゃんと私の話を聞いていないの?あんた散関で璃々におちょくられたって負けたと聞いているんだけど」
「誰が馬鹿だ!誰が!」
「あんた以外に誰がいると思っているの?あっ、そうか馬鹿で脳筋だからそんなことも分からないんだ」
「貴様!死ねぇぇぇぇぇい!」
鈍砕骨を蒲公英に目がけて振り下ろしたが、蒲公英はこれを難なく躱し地面に大穴を開いてしまった。
「当たらなければどうと言うことはないだもんねー」
焔耶は蒲公英のこの挑発により完全に頭に血が上ってしまい、鈍砕骨を振り回すも全て蒲公英に躱されてしまい、それどころか
「えい!」
「ほいっ!」
逆に隙を突かれ、蒲公英の変則な攻撃に焔耶は翻弄されてしまっていた。
そして焔耶が鈍砕骨を横に振って、何とか間合いを取ると少し冷静になり、再び構え直すと
(「この女、態度は悪いが強い…」)
焔耶は蒲公英のことを強敵だと判断し
「悔しいが貴様のこと認めてやる。私の名は、魏延。魏文長だ。貴様の名は?」
「蒲公英はね、馬岱って言うだけど、あっ、別に私の名前覚えておかなくても良いからね?もうすぐ私に負けてあんたの人生も終わるから」
「舐めるな!馬鹿に出来るのも今のうちだ!」
焔耶は再び蒲公英の挑発に乗ってしまい、鈍砕骨を振り回すが、全く捉えることが出来ず、鈍砕骨を振るう度に徐々に蒲公英の体に近づいてはいるものの、蒲公英はこれを余裕のある表情で避けていた。
「あんた、それなりの武人だって聞いていたけど、全然大したことないね♪」
「なっ、何!」
「これでお終いっ、死んじゃえ♪」
焔耶は蒲公英の「死んじゃえ」という言葉に反応して、蒲公英が胴を突いてくると思い防御したが、すると蒲公英は影閃で焔耶の足を払うと焔耶は見事に転倒してしまった。
「馬鹿だなぁ~、蒲公英がそんな素直に胴を突く訳ないじゃん」
「うう……無念」
「さてっと、あんたには星お姉様に教えて貰った捕縛術の実験台になってもらうからね♪」
蒲公英は懐から縄を取り出しながら、不気味な笑みを浮かべていた。
「やっ、止めろ!あーーー!」
そして戦場に焔耶の叫び声が鳴り響いていた…。
一方、星の部隊に食い込んでいた桔梗であったが、しばらくすると周りの雰囲気が変わったのを察し、そして周りをよく見ると部隊の中央から星が出て来ていた。
「ほう…。名のある将と見たが、我が名は厳顔。 ただの喧嘩師じゃが、お主の名を聞かせて貰おうか」
「厳顔殿か…私は常山の趙子龍、一つお手合せ願いましょうか」
「ふははっ!儂もそれは望むところ。楽しい喧嘩をしようじゃないか!」
2人は改めて間合いを取るとまず桔梗が先手を放った。
「まずは挨拶代わりじゃ、我が必殺の豪天砲を受け取れぃ!」
桔梗が豪天砲を放つも星はこれを躱すと
「面白い武器ですな」
「減らず口を叩きおって!」
「ドンッ!ドンッ!ドンッ!」
豪天砲から次々と矢の嵐が放たれるが、星はこれも寸前で躱すと
「くっ!ちょこまかと動き回り追って!」
「はぁぁぁぁーーー!」
星がお返しとばかりに接近戦を挑むと
「ふははははー!まだまだひよっこには負けん!豪天砲を甘く見るでない!」
桔梗も待ってましたとばかりにこれに応じた。元々、豪天砲はパイルバンカーであるが、更に接近戦ができるように刀も装着していたのであった。
そして激しく打ち合うこと数十合、そして星が龍牙を、同じく桔梗も豪天砲を構え直し、一呼吸入れると星は
「我は無敵、我が槍は無双!喰らえ!趙子龍の一撃を!」
「うぉぉぉぉーーー!」
星の必殺技とも言える星雲神妙撃を繰り出すと桔梗も気合一閃、これに応じると
「ガキーーーン!」
激しい金属音が鳴り響くと、一方の武器が激突の衝撃により大きく弾かれてしまった。
そして……星の龍牙の矛先が桔梗に向けられていると
「……儂の負けか。ふっ、ふふふ。ふははははっーーー!」
桔梗は負けたにも関わらず、星との戦いに満足したのか盛大に笑っていたのであった。
そして本陣にいた夕霧は桔梗と焔耶の敗退の報を聞くと
「もはやこれまでね……」
「誰かある!敵に降伏の急使を出せ!」
こうして劉璋軍は降伏したのであったが、約1名は戦いの出番が無かったことについて、しばらくご機嫌斜めの状態が続いたのであった……。
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