第60話
今回は非常に自分の文才の無さを痛感しました…
黄忠の屋敷に連れられた璃々たちは、黄忠、子供璃々と交えて、一緒に夕食を食べたながら色々と話をしたが、やはりこの世界でも父親を早くから亡くなり、そして黄忠が仕事をしながら子供璃々を育てていることが分かった。
そして子供璃々が、夕食後、璃々たちが泊まるので、普段遊べない分、ここぞとばかりに甘えん坊となり、色々と遊んで貰ったが、夜が深まってきたので、黄忠が
「璃々夜遅いし、もう寝なさい」
「いや~、もっとお姉ちゃんたちと遊ぶの~」
黄忠が子供璃々に注意するも、子供璃々は駄々を捏ねていたが、
「璃々ちゃん、今日は夜が遅いからもう寝ようね。明日もお姉ちゃんと一緒に遊んであげるから」
璃々が、子供璃々に約束すると
「うんわかった!約束だよ!じゃお母さんお休みなさい!」
子供璃々は手のひらを返すかのように素直に璃々の言う事を聞いて、寝室に行った。
これを見て黄忠が
「ごめんなさいね。黄叔さんのこのような事をさせて、でも本当にいいの?」
「別にいいですよ。私たち急ぐ旅ではありませんので1日くらいは。それに私も小さい時はお母さんが仕事でいない時が多かったので、璃々ちゃんの気持ちが分かりますから」
(「でも私の場合、ずいぶんご主人様に甘えて遊んで貰ったけど、今から考えてみると実はご主人様…私と遊ぶのを口実にして、お母さんと色んな意味で遊んでいたのかな…」)
璃々は子供璃々を見て、前史の自分の境遇を重ね合わせていたが、途中から一刀と紫苑がよく会っていた時のことを思い出していたが、今や一人前の女性となっている璃々は今更ながら一刀と紫苑がよく会っていたのは自分を出汁にしていたのではと勘ぐっていたのであった。
「ではお言葉に甘えさせて明日はよろしくお願いしますね」
「それと今から貴女たちと一杯やりたいのだけど、どうかしら?」
黄忠が璃々と蒲公英を晩酌に誘うと2人は了承。そして3人は他愛ない雑談をしていると、急に黄忠は表情を真剣な顔つきに変え
「ねえ一つ聞いていいかしら」
「はい、何でしょうか?」
「何?」
黄忠が先程までの母親の顔と違い、一人の将の顔となり
「貴女たちは…、一体何を目的にこの地にやってきたのかしら?」
「目的って?蒲公英たちは単なる旅の武芸者で、私の腕を買ってくれるご主人様を探しているのだけど」
蒲公英が予め考えていた回答を答えるも黄忠は、納得した様子ではなく
「旅の武芸者ね…貴女たちは旅の武芸者と言っているけど、私にはそうは見えないの」
「普通、旅の武芸者となるとあちらこちら旅をするから、旅の汚れなどはあるけど、貴女たちにはあまりそれが見受けられないし、それに……」
「貴女たち、私と初対面のはずなのに、さっき私と出会った時、何か驚いた顔をしていたわね。いったい何に驚いたのか教えてくるかしら?」
「「!?」」
黄忠は子供璃々を救出した時に2人の驚いた顔を見逃してはいなかった。そして百戦錬磨の強者らしく、いい加減な返事は、私には通用しないという顔をしていた。
「……」
「……」
「……」
そしてしばらくの間、部屋は沈黙が続き、そして璃々が意を決して
「黄忠さん申し訳ありません。まずは順に追ってお話します。実は旅の武芸者というのは、ここへ来るまでの仮の姿で、実は私たちは、現在劉璋軍と敵対している北郷一刀の使者なのです。それで私は黄叔と名乗っているのですが、実は…本当の名を北郷璃々と言います」
「それと私は、本当の名は馬岱と言うの、よろしくね」
黄忠は2人の名前を聞くと少々驚いていた。更に璃々は言葉を続け、
「あのような人目のある状況だったので、私たちの正体を知られる訳にはいかず、また黄忠さんにご迷惑をお掛けしたくなかったので、不本意ながらこのような形になり、この通りお詫びします」
璃々と蒲公英は頭を下げるのを見ると黄忠は
「2人とも頭を上げてちょうだい、確かに周りの目もあったから、あの場合は仕方がなかったわよ」
2人が頭を上げると今度は黄忠が言葉を続け
「それで貴女たちが使者ということは、私に北郷軍に付いて欲しいと言うことかしら…」
「はい、私たちは黄忠さんと戦いたくありません。何卒私たちの仲間になって欲しいのです」
璃々がここぞとばかりに力説したが、黄忠は簡単には応じず
「話は分かりましたわ。私自身は民の事を考えると北郷軍に下ることは吝かではありません、しかし幾つかお聞きしたいことがあるけどいいかしら」
2人は無言で頷くと
「まず一つ目だけど、貴女たちのご主人様である北郷一刀さんは、一体どういう理想を立てているのかしら?」
「私たちの理想は、皆が普通に暮らし、普通な人生、普通な恋愛などができるような普通な世の中にするために戦っています。決して私利私欲のためではありません」
璃々が答えると紫苑はやや挑発するような感じで
「平凡ね」
「確かに平凡ですけど、その平凡なことができている上の方って、どれくらいいますか?そして黄忠さんのところの劉璋さんはそれができていますか?」
璃々がその挑発に乗らずに切り返すと黄忠は内心、璃々を褒めながら
(「この子、まだ若いのにやるわね…」)
「確かにそんな当たり前のことが出来る君主は少ないし、残念ながら劉璋様もそれができているとは言い難いわ」
「だから私たちは、皆を幸せという難しいことは出来ないけど、しかし出来ることをしたいと思っているの」
「理想は立派だけど、貴女たちはそれを貫き通す覚悟はあるのかしら」
「私一人だったら無理だと思うけど、ご主人様や皆がいたら出来ると信じているよ」
璃々は相手の目を逸らさずに見つめていたが、すると黄忠は笑みを洩らし
「フフフ、若いっていいわね。私も若い時は何でも出来ると思っていたけど、しかし結婚をして、子供が出来るとどうしても全てにおいて守りに入ってしまうのよ…」
「だからそんな理想を語れる貴女たちがうらやましいわ……」
「黄忠さん……」
「取り敢えず、一つの目の質問はこれで終わり。次に聞きたいことがあるけどいいかしら?」
璃々が頷くと
「貴女たちは、さっき私の顔を見て驚いていたけど、これは一体どういうことか教えて欲しいの」
黄忠から言われると2人は、いつの間に気付かれたのかと驚いた表情でお互いの顔を見合せたが、璃々は覚悟する時が来たと思い、そして再び蒲公英の方を見ると蒲公英は無言で頷いた。
そして璃々は覚悟を決めると最初にこう切り出した。
「黄忠さん、今から私がお話しすることは、黄忠さんが聞いたら、私は気が触れたと思うかもしれませんが、私自身は正気で、誓って嘘を言うつもりはありませんので」
「分かったわよ。ここまで来て貴女が嘘の話をするとは思えないから、この際じっくりと聞かせて貰うわ」
「黄忠さん、まずは私の姉と言われている北郷紫苑はご存知でしょうか?」
「ええ知っているわ。確か噂話では、貴女方の主である北郷一刀殿とその方と貴女の3人で天の遣使いと言われているみたいだけど、それがどうかしたの?」
「はい、天の世界では北郷紫苑と呼ばれていますが、ですが別の世界では、黄漢升と呼ばれておりました。そしてその姿が黄忠さんと外見上全くの同一なのです」
璃々からついに真相が語られたが、黄忠は余りにも予想外の話が出てきたため、流石に混乱して
「えっと……、ごめんなさいね。どういうことかもう一つ分からないの、もう少し詳しく教えてくれるかしら」
「はい」
璃々は生い立ちから今までに至る間のことを一通り語ったが、但し一刀の女性関係についての説明は大幅に省かれた。というのは璃々が、変に一刀の種馬振りを説明して印象を悪くしてはいけないのと同時に黄忠が一刀に興味を持って、一刀争奪戦に参入する可能性があると思い、その可能性を少しでも低くするため省略したのであった。
それを聞き終えて黄忠は難しい顔をして
「流石にすぐには信じられない話だけど、でもこの話を聞いて葭萌関で私と似た人物が現れたということについて漸く納得がいったわ…」
「申し訳ありません、黄忠さん」
「いいえ謝らなくて結構よ。戦で油断していた私たちが悪いだけ。あと張任がどうなったのかしら?」
「張任さんは私たちの仲間になるのを断り、御主人さんの供養に回るのと見聞を広めるため、葭萌関から旅に出ました」
黄忠は張任が捕らわれていたことに心配になっていたが、璃々の口から無事であることを聞いて安堵していた。
「もう一つ気になるのだけど、なぜ貴女たちは、以前使っていた名前を使わないの?」
そして話を変えるように黄忠は、素朴な疑問をぶつけると璃々は
「お母さんもそうだけど、私も北郷璃々と言う名前に愛着もあるの。だから黄忠さん、私たちはこの世界では元の名は使わないから安心して下さい」
璃々は紫苑の様に大胆に一刀のことが好きな事を流石に初対面の黄忠に言うのは恥ずかしかったので、その辺は少し暈かして話をした。
「そうなの…。これが最後の質問、なぜ貴女たちは、本当は親子なのに姉妹と周りには説明しているの?」
「あ~、これはどう説明したらいいのかな…。私やご主人様やお母さんも詳しい説明は出来ないのだけど、私たちが何故かこの世界に来た時にご主人様とお母さんが若返ってしまったの、それが見た目、私と親子というよりは、姉妹に近い関係になってしまったから、そうしているんです。だから今のお母さんは、見た目黄忠さんとそんなに変わらないかも…」
「フフフ、そうなの…」
「(うっ…な、何か嫌な予感がする。あの目、お母さんがご主人様と何する時と一緒の目だ…」)
璃々の説明を聞くと黄忠の目が怪しく光ったのを見えて、璃々は違う意味での悪感を感じていた。
「それで黄忠さん、これからどうするの?」
今まで沈黙していた蒲公英が、質問ばかりする黄忠に痺れを切らし、結論を促すように尋ねると
「そうね…。今の話を聞いて、別の世界の私と争いたくはないわ。それに貴女たちの策のお蔭で私は孤立無援の状態、しかしここには民もいますし、攻めてくる貴女たちの風評は、この街には届いてはいますが、やはり城主としてそればかりを鵜呑みにするわけにはいきません。でも民を護るため貴女たちに降るつもりだけど、名目上、貴女たちのご主人様と会見してからにしたいの」
黄忠は璃々の話を聞いて、別の世界の自分や娘と戦う気を失せていたが、流石に璃々の話を聞いて唐突的に降るというのも周りの目もあることから、黄忠は今後の政治的配慮も含め、一刀と会見してから降伏する形を提案したのであった。
これを聞いて璃々は一応降伏という形で戦いを避けることができたので安堵していたが、最終的に一刀と黄忠の会見をするためには更に黄忠の信用を高める必要を認めた璃々は、
「分かりました。ではご主人様と会見するまでの間、私がここに残ります。色々と黄忠さんと話がしたいですし、それに璃々ちゃんと遊ぶ約束していますから」
璃々は一刀並の笑顔を出すと流石に黄忠もこれに中てられたのか素直にこれを承諾した。
そして3人で話し合いをした結果、2週間後に葭萌関と巴州との中間にある村で隠密で一刀と黄忠と会談することを決め、そして蒲公英が一刀に今回の結果を報告するための使者になることが決まったのであった。
そして黄忠が、話し合いの最後に
「それじゃ貴女たちは、このような状況だから私の真名である紫苑ということは分かっているわよね…」
2人が無言で頷くと、黄忠は笑みを浮かべて
「では2人には璃々を助けて貰ったお礼と私への信頼の証として、私の真名を預けるわ」
「分かりました。ただ流石に紫苑や紫苑さんと呼ぶには、私の立場から呼び難いので、申し訳ないですが、今まで通り黄忠さんと呼んでいいですか。あと私の事は璃々と呼び捨てにしてもいいですよ」
「うん、そうだね。私も2人とも紫苑が居たら言い難いから、私も黄忠さんと呼ぶね。それと私は蒲公英と言うからよろしくね」
「でも黄忠さんの場合、私たちの前では名乗りにくい真名になるけれど、でも本当の意味で、心を許した者だけが呼べる真名になりますね」
璃々がそう言うと黄忠はこの言葉を聞いて安心したのか、
「ありがとうね。璃々さん、今晩はもっと貴女たちの事を色々聞きたいから飲み明かしましょう」
宣言すると3人は親睦を深めるため、無礼講の飲み会に突入した。
そして黄忠が何度目か分からないが、璃々に酌をしてそれを杯で飲み干していると不意に
「璃々さん。貴女、もうそのご主人様に女にして貰ったの?」
「ぶーーっ!」
璃々は黄忠の発言を聞いて、口に含んでいた酒を盛大に噴き出していた。
「あら~見事にばれているね、璃々」
まだ咳き込んでいる璃々を横目に黄忠は蒲公英に一刀の女性関係について聞くと蒲公英は酔った勢いで、あっさりと紫苑や璃々それに蒲公英自身を含め6人の妻を娶っていることを説明した。
「でも何でこんなこと聞くの?」
蒲公英が疑問の声を上げると黄忠は
「フフフ、貴女たちをこれだけ虜にしている殿方がどのような方か興味が湧きまして、ぜひ今度お会いして、もし良き殿方でしたら、私もそのお仲間に加えていただこうか思いまして」
黄忠が笑みを浮かべながら、2人に告げると
「「えーーっ!?」」
2人が驚いていると黄忠は更に言葉を続け
「あらそんなに驚くのかしら、貴女方もそうでしょう?好きな殿方に抱かれ、子供を望むのは、女性としては当たり前のことですわよ。それに貴女たちのご主人様はそのような小さいことは言わないでしょう?」
黄忠が意地悪な笑みを浮かべながらそう告げると璃々は呆れながら
「なぜそんなことが言えるのですか?」
「それに……私がこう思っているのでしたら、別の世界の私もきっと同じようなことを考えていると思うわ。良き男性に女性が群がるのは世の常、もしそれで我慢がならないのであれば、自分無しでは居られないほど夢中にさせたら良いのですから」
(「やはり黄忠さんもお母さんと一緒の発想だ…。それにお母さん、黄忠さんも加わると言ったら喜んで許可しそうだよ…」)
璃々の頭の中には、黄忠が一刀争奪戦に参戦すると紫苑は喜んで許可することが想像できた。何せ前史では幼かった璃々を早くから一刀の元に差し出そうと考え、現代では璃々の誘惑を制止しようとせず、そして今回は早くも一刀に嫁を6人も抱えてさせている状態で、これくらいのことも動じるような性格ではないのだから…。
(「だったら、これからは嫉妬心を剥き出しにするよりは、ご主人様に自分を売り込むことを考えた方が余程いいよね」)
璃々は黄忠の言葉を聞いて頭を抱え込んでいたが、しかし僅か短時間の間でこのような結論を出したのは内緒である。
翌朝には少し二日酔い気味の蒲公英が、葭萌関に向けて出発し、そして今度は一刀・紫苑と黄忠の運命の会談が刻一刻と迫ろうとしていたのである。
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