第58話
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葭萌関を陥落させてから3日後、ようやく戦いの後始末にも一段落付いたので、一刀と紫苑、璃々それに朱里は涼月の今後の身の振り方について確認した。
「張任さん、これからの事は決まりましたか?」
一刀が尋ねると涼月は
「北郷一刀殿、失礼ながら再度聞かせて戴きたいのですが、先に言われていた劉璋様への扱い、これに変わりはありませんか?」
「ええ、一度言った言葉を反故にする気はありませんよ。それと名前を言われると堅苦しく感じてしまうので、できれば一刀と呼んでいただけたら助かるのですが…」
「分かりました。お言葉に甘えて一刀殿と呼ばせていただきますわ。あと劉璋様への扱いは、確かに貴男の今までの行動や言葉を見れば信頼できますわね…」
「では、一刀殿の言葉を信じて我が儘を聞いていただいてもよろしいでしょうか…」
涼月が居ずまいを正して一刀たちに話始めた。
「……捕えられている間いろいろ考えましたが、やはり劉璋様を裏切ってまで北郷殿に仕えることはできませんし、かと言って、命を助けて戴いた一刀殿と再び戦うことはできませぬ。勝手な申し分でありますが、一刀殿が許して戴けるのであれば、私は益州を離れ、放浪の旅に出ようと思っています」
「旅に…ですか?それはまたどうして…」
紫苑が涼月に理由について尋ねてみると
「実は私、生まれてこの方、益州から出たことが無いのです。先日、北郷紫苑殿の話を聞いて、今までの私は、井の中の蛙と言いますか、狭い世間しか知らなかったと思い知らされましてね、何と世の中には色々な事があるもんだなと…」
「まあ…俺たちの参考にしない方がいいよ」
「そうですね…私たちの場合少し変わっていますから…」
「それを含めても、今までの私は視野や考え方も狭かったですし、ですのでこの際旅に出て見聞を広げると同時に亡き夫は色んな所を回るのが好きでしたので、供養を兼ねて色んな処を廻ろうかと思っています」
「話の趣旨は分かりましたが、でも張任さんがここを出て再び劉璋軍に舞い戻ってしまう可能性は十分あり得ますよね…」
「心配する気持ちは分かるけど、流石にそれは無いと思うよ朱里」
「えっ?どうしてそんなことが言えるのですか璃々さん?」
「そうね…。張任さんは人としての矜持を持った人。私たちを騙すような腹芸はできないわよ」
「紫苑さん…」
「朱里心配する気持ちは十分分かるが、一応俺や紫苑も人の見る目はあるつもりだよ。張任さんが言っていることは本当の事だと思うよ」
「もしこれで張任さんに騙されて裏切られたとしても、それは俺や紫苑、璃々に見る目が無かっただけで、朱里の責任ではないから」
涼月の言い分に反対しようとした朱里であったが、璃々や紫苑それに一刀までに指摘されると返す言葉が無かった。
「このような降将の私にここまで言って戴けるとは…、大変嬉しく思います。今の私には今すぐその信頼をお返しすることは難しいので、信頼の証として私の真名である涼月を貴方方にお預けしたいと思いますわ」
「分かりました涼月さん、真名を預からせて戴きます。俺たちに真名はありませんから一刀に紫苑、璃々とそれぞれ呼んで貰っていいですよ」
一刀が涼月の真名を預かると朱里も真名を交換した。
そして一刀は涼月の申し出を了解したので、最後に涼月は
「確約はできませんが、もし私がこの旅で何も無くこの夫の眠る益州に戻り、そして劉璋様を無事保護して、一刀殿が治めて戴けているのであれば、その時はお仕えしたいと思っております」
「そう言って貰えると光栄です涼月さん、その時はぜひよろしくお願いします」
「私もその日が来ることを心からお待ちしていますわ」
「ありがとうございます。あと劉璋様の事よろしくお願いします…」
涼月はそう言いながら一刀たちに礼を述べ、そして周りの目もあることから内密に葭萌関から漢中方面に旅立ったのであった。
~益州・巴郡~
葭萌関陥落の報は巴郡を守備する厳顔こと桔梗の元にも情報が入り
「桔梗様!葭萌関が陥落したという知らせが入りました!」
魏延こと焔耶が、葭萌関から敗走してきた兵から陥落の知らせを聞き、慌てて桔梗に報告したのであった。
桔梗はすでに腹を括っていたのか知らせを聞いても差して驚きもせず
「そうか…、それで涼月とか冷苞や劉潰はどうなったのじゃ?」
「はい、涼月様は捕えられ、冷苞や劉潰は討ち死にしたそうです」
桔梗は涼月が捕えられた知らせを聞いて、恐らく涼月の性格上、すでに生きていないことを思っていた、それが表情に出ていたため焔耶が
「桔梗様…」
「ああすまぬ焔耶、武人が戦で命を落とすのは当然の話じゃ。あやつも早く夫の処に行きたいと言っていたから本望じゃろう」
桔梗は心で冥福を祈りつつも、主将自らから動揺する訳にも行かなったことから、敢えて動じない姿を示した。
それを見て安心したのか焔耶が更に報告を続けようとしたのだが、次に報告する内容を知ってかその表情は冴えず
「どうしたのじゃ焔耶」
「えっ…いえ…それが…真実は定かではないのですが、葭萌関から敗走してきた兵たちの話によりますと紫苑様が裏切って北郷軍に寝返ったという話が出ていまして…、何でも葭萌関で北郷一刀と一緒に寄り添う姿を見たということらしいのですが…」
「何じゃと!それは真か!」
「あっ…それが真実でどうかまだ分かりませんので…」
焔耶が恐る恐る報告すると、桔梗は(黄忠)紫苑が寝返った上に敵の将と寄り添うことなど想像も付かなかったので、疑念を抱いていると丁度、部屋に夕霧こと法正が入って来て桔梗が、先程焔が報告した内容を告げると少し考えて
「紫苑が敵の大将に寄り添っていたという話は誇張があるかもしれんが、しかし(黄忠)紫苑も元々は劉璋様の方針に反対していたはずだ。言い方は悪いがこの機を狙って寝返る可能性は否定できんぞ」
「うむ…確かに紫苑の奴も劉璋様のやり方には反対していた口だが、しかし紫苑の性格上、この様にあからさまな寝返りを打つとは考えられんがのう…」
「それは確かに…、けど兵たちは紫苑の姿を見たことについてはどうなの?」
「もしかして北郷軍の誰かが紫苑様の姿を似せて、そのようなことをしたのでは」
「焔耶、その発想は面白いけど。北郷軍が完全に紫苑の姿を真似るって、絵でも見ない限り幾ら何でも無理があるわよ」
焔耶が少し正解に近い答えを出したものの、普通で考えると白昼堂々と紫苑の真似した姿を見せることは無理があり、夕霧が否定すると焔も流石にその答えに無理があると思いその考えを引っ込めた。
取り敢えず、夕霧は今後の作戦について(黄忠)紫苑が守る巴州と連携する必要もあり、合わせて紫苑の後背を確認するため使者を出したのだが…この使者が巴州に辿りつくことは無かった。
一方、一刀たちはで葭萌関で休養を兼ねている間に軍の再編成を行い、そして捕虜にしていた劉璋軍の兵士について、このまま従軍を希望する者を数に加え、そして加わることを良としない一部の者については、解き放ちをしていた。
更に朱里は一刀の許可を得て、葭萌関陥落後、間髪入れずに姜維こと菫が指揮する3千の兵を出兵させ、桔梗が守る巴郡と(黄忠)紫苑が守る巴州と繋がる街道を寸断する作戦を取っていた。
これは朱里が解き放ちした兵士に、葭萌関の戦いの時に紫苑の取った行動をありのまま報告させた上、黄忠謀反の噂を立てるように仕向けたのである。
桔梗あたりはこの噂を信じないだろうが、指揮下の将の足並みが乱れる可能性があり、同時に両城の連携を寸断させる作戦を取ったのであった。
その為、夕霧が出した使者はすでに捕えられていたのであった。
一刀たちはそれを踏まえて、巴郡・巴州の攻略の為の軍議が開かれていた。
「次に攻略を考えている巴郡は厳顔さんを中心に約3万、巴州は黄忠さんを中心に約2万の兵でそれぞれ守られています」
「一方、我々ですが、兵を再編成して、負傷者を治療の為に休養させ、代わりに劉璋軍の降兵を加え、現状約6万の兵を維持しています。そして菫ちゃんが3千の兵を出し、両城の通信を分断させ連携を取らせないようにしています」
朱里が現状について説明すると、
「両方で5万か…こちらは6万だが単純に兵を分けて攻める訳にはいかないけどな…」
「そうだな、いずれも攻撃する場合、最悪城攻めになるから、どちらかに1つに絞らないといけないが、早急に攻略しないと挟撃される恐れがあるがな…」
翠と星は攻撃について考えているものの、兵の数が互角で、更に巴州に噂の黄忠がいるので、一刀や紫苑の顔もあるので流石に攻撃することに躊躇いを見せていたのであった。
そんな中璃々が
「ねえご主人様、私に巴州に行かせて欲しいのだけど」
「貴女、巴州に何しに行くつもりなの?」
「うん…幾らお母さんとは別人とは言え、流石にお母さんと同じ顔をした黄忠さんを攻撃するのは私も躊躇うからさ。1度私が使者になって、降伏して貰えるよう交渉したいのだけど…」
璃々が以前一刀や紫苑たちと話をしていた(黄忠)紫苑との戦いを回避するための交渉を主張した。
それを聞いた一刀が
「分かった璃々、俺も紫苑も黄忠さんとの戦いを望むところではない。だから黄忠さんとの交渉を成功させて欲しい」
「そうね…本来なら私が行きたいところだけど、ただ私が行くと同じ顔をした人物が2人もいて向こうが混乱するかもしれないからね。ここは璃々、貴女に任せるわ」
一刀と紫苑は璃々の交渉に賛成する姿勢を示し
「そうですね。まずは交渉して降伏していただけたら後々楽になりますから」
「流石に私も璃々の話を聞いてよ、紫苑と同じお顔をした人間と戦うなんて気乗りしないからさ、戦いを避けれるものなら避けたいしな」
「そうだな戦うことはいつでもできることだからな。まずは璃々、お主が遣りたいようにすればいい」
「璃々が交渉に行くのだったら、私も付いて行っていい?」
そして朱里、翠、星が交渉に賛同を示し、そして蒲公英が今までこういう交渉に参加したことが無かったので、交渉の随行に立候補すると一刀は
「そうだな、本来朱里を連れて行きたいところだけど、交渉で兵を連れて行くことはできないし、それに万が一変な事に巻き込まれた場合、璃々1人で朱里を守る事は難しいから…蒲公英すまないが、随行の副使兼護衛役として璃々に付いてやってくれるかい」
「りょ~かい♪」
こうして蒲公英が喜んで璃々と一緒に(黄忠)紫苑との交渉に同行することとなった。
璃々と蒲公英は軍議の翌日には巴州に向けて出発したのであった。
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