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真・恋姫無双 〜新外史伝〜  作者: 殴って退場
第7章 蜀侵攻
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第56話

一刀たちが葭萌関に到着して翌日、すぐに攻撃に掛からなかったので、葭萌関の大将である張任こと涼月は、関の守りを冷苞たちに一旦任せ、用事のため関の執務室に戻っていた。


そしてしばらくすると、張任の副官が慌てて執務室に飛び込んで来たのを見て、涼月も苦笑して、


「そんなに慌ててどうしたの?落ち着いて話をしなさい」


一旦落ち着いて話をするように言うと、副官は深呼吸して落ち着くと


「は…はい!実は冷苞様と劉潰様が、敵からの挑発を受けて、無断で関から出撃なされました!」


「ど…どういうことなの!」


これを聞いて、流石に涼月は両手を机に叩きつけながら叫んでいた。副官は、それを見て普段そこまで動揺しない涼月を見て驚いたが、更に言葉を繋げた。


「そ…それが、巴州を守っているはずの黄忠様が裏切って、敵軍の大将である北郷一刀と思われる人物と一緒に門前にいたのです…」


「えっ?嘘でしょう…?何で彼女が北郷軍にいるのよ…?」


「それは分かりません。ですが…、あの姿は黄忠様に間違いありません…」


その副官も黄忠が裏切ったことに衝撃を受けたのか、最後には言葉が小さくなっていた。


これを聞いて涼月は無言で城門の方に駆けて行くのであった。


一方少し時間を遡って、葭萌関の城門前に一刀、紫苑そして星が来ていたが…何故か3人は城門前で敵を挑発するように酒盛りをしていたのである。


なぜ3人が酒盛りをしていたのかは、昨日紫苑が説明した作戦の一環であった。


紫苑の説明は、以前言っていた璃々からの情報で益州に紫苑と同じ姿をした黄忠がいる可能性が高い。もし紫苑が一刀と一緒に現れれば、事情を全く知らない劉璋軍は重鎮の黄忠が敵に下ったのかと疑心暗鬼となり少なくとも動揺するだろう。


そして紫苑が一刀に酒盛りしながら仲睦ましく寄り添う姿を見せれば、紫苑と黄忠が別人物であるという事情を知らない敵は、黄忠が身も心も一刀に売り渡したと勘違いして、その裏切り行為できっと怒り狂い、関から出てくる可能性が高くなるが、念の為、口の悪さにかけては天下一品の星と一緒に挑発行為をさせれば、敵は必ず我慢出来ずに出てくると紫苑は考えていたのである。


そして紫苑は、一刀と星を連れて、門前で酒盛りをしていたのだが…


「さあ、どうぞ。ご主人様」


「あ…ありがとう、紫苑」


一刀は緊張しながら紫苑から盃に酒を受け取ったが、紫苑はそんな一刀を見て


「どうかされましたか、ご主人様」


「い…いや、敵兵を目の前にして紫苑と星の2人に囲まれて酒を飲むのが、こんなに恥ずかしいとは思わなかったよ」


一刀は恥ずかしそうな顔をしながら言うと


「嫌ですわ、ご主人様。もっと普段通り、堂々となされたら宜しいのに」


「ハハハ!そうですぞ、主。こんな美人2人に囲まれて、酌をして貰えるなど主は、果報者ですな!」


「それに主、敵と言いますが、何処に敵はおります?」


「星、目の前にいるだろう?」


「えっ?あれですか、あれが敵だとは…。すっかり我らの羨ましいところを見ている出歯亀がいるかと思いましたぞ」


星はわざと恍けた振りをして、敵に聞こえるように小馬鹿にしていたが、関では紫苑の姿を見て


「お…おい、あれ黄忠将軍ではないのか?」


「ああ…あの姿間違いない。では黄忠将軍の横にいる男は、あれは敵の総大将か?」


「それじゃ将軍は自ら敵に下り、ここに出向いに来たのか?」


兵士たちは明らかに動揺し始め


「クッ!お…己、黄忠め。あのようにあからさまに我らを裏切るとは…」


「舐めやがって!おい弓兵ども、奴らを射殺せ!」


その様子を見ていた敵将の劉潰が一刀たちの射殺命令を放ったが


「フッ…これしきの弓矢が私たちを殺せると思ったか」


城壁にいる弓兵が一刀たちに射かけるが、これを星が龍牙を風車の様に旋回させ、これを見事に叩き落としていた。


「おやおや、劉璋軍の弓は小雨の様に軟弱ですな」


「しかし無粋な攻撃ですわね…ご主人様」


そう言いながら紫苑は笑顔で身体を寄せて一刀の方に近付き、そして


「では私たち2人にキ…接吻をしていただきましょうか♪」


紫苑からとんでもない台詞を聞かされると、一刀は驚きの声を上げて


「え~!これは何かの公開お仕置きなの!紫苑!」


「あらあら、せっかく私たちのいいところを見せて、敵を挑発させるだけですのに…お仕置きだなんて…寂しいですわ」


「おや主は、私たちを愛していないから接吻をするのが嫌だと?」


「2人ともそう言いながら顔は笑っているぞ…」


「あらあら♪」


「主、もう少し私にも良い目をさせて下され、では…」


星は一刀の言葉を半ば無視して、自らから先手必勝とばかりに熱い抱擁を交わした後、そして唇を重ねた。


それを見ていた紫苑は、


「情熱的ね、星ちゃんは♪」


紫苑は落ち着き払っていたが、それを遠くから見ていた4人の恋姫は…


「う~今晩、私の番だからね!」


「な…何やってるんだよ!星の奴は!」


「うわ~星お姉様、大胆~」


「は…はわわ…、あんなことするなんて、は…恥ずかしいでしゅ」


様々な反応を示していたが、すると星との行為が終った一刀を見て紫苑が


「さてご主人様…、次は私の番ですね」


「ああ…星のおかげで、もう恥ずかしいのを通り越したよ」


星の大胆な行為のお蔭で一刀は、逆に開き直り、今度は一刀自ら紫苑に抱き寄せると紫苑は


「フフ…こういう強引なご主人様も偶にはいいですわ」


「今回は特別だよ」


「嬉しいですわ。毎日が特別でも構いませんが♪」


「皆から攻められるのが怖いから遠慮しておくよ」


そう言いながら一刀は紫苑と唇を重ねあったが、それを城壁の上で見ていた冷苞は、一刀たちの行為を見て、完全に冷静さ無くして怒り狂い、そして紫苑と黄忠が同一人物と完全に思い込み、そして


「あ…あの売女ばいため!我々を裏切っただけでなく、あのような男に寄り添うとは…許せん!劉潰!出撃して、あの3人を血祭りに上げるぞ!」


「おう!あのような女を許すわけにはいかん!討って出るぞ!」


こうして冷苞と劉潰は紫苑の罠に嵌まり、関から出撃したのである。


出撃する姿を見て紫苑は、ほくそ笑んで


「やはり出て来てくれたわね」


「紫苑…それは戦いに来て、目の前であんなことしたら、誰だって怒って出てくるだろう…」


「まあまあ主、いい思いをしたのですから、取り敢えずは予定通りの行動を…」


星が告げると一刀たちも了解して、すぐさま背を向け逃走を開始した。


頭に血が上っている冷苞と劉潰は一刀たちに追い付けば、たった3人であるので殲滅できると思いひたすら追撃をしていたが


本陣で待ち受けている朱里は一刀たちが逃げてくる様子を見て、合図の鐘を鳴らすと


敵から死角になっていた場所から


「オラーーー、今日の私は機嫌が悪いからよ。邪魔する奴は片っ端からぶっ飛ばしてやるからな!」


「素直じゃないね、お姉様は♪紫苑や星お姉様が接吻していたのを腹が立っていると言えばいいのに」


「う…うるせぇーー蒲公英!お前もとっとと敵を叩けばいいんだよ!」


伏兵として隠れていた翠と蒲公英が出てくると、冷苞と劉潰は慌てて迎撃を図ろうとしたものの、追撃して軍勢が伸びきっていたため、翠たちの横撃が見事に決まってしまった。


そして乱戦状態に陥ったが、元々戦慣れした西涼兵を中心とした一刀の軍と戦慣れしていない蜀の兵では兵士の自力の差が大きく、徐々に崩れて行くと、やがて乱戦の内に冷苞と劉潰は流れ矢と雑兵にそれぞれ討ち取られてしまった。


一方、冷苞と劉潰が出撃し葭萌関に残っていた涼月は、


「私たちも出陣する!」


(「ここが死に場のようね…」)


と残った手勢で関を守ることが厳しいと判断し乾坤一擲の賭けに出たのである。涼月に先の一刀包囲網戦で失敗しているため、これ以上の失態は許されず、死を覚悟して出陣したのであった。


そして先に出陣していた冷苞と劉潰を追うように出撃したが、すると璃々が涼月の前に立ち塞がり


「へへ~ん、これ以上行かせないよ」


涼月の軍勢を遮るように璃々の軍勢が待ち構えていた。


しかし涼月は歴戦の強者らしく、璃々の登場にも驚きもせず


「貴女が私の相手ね…、ちょっと私の相手をするのに2、3年早いわね。顔を洗って出直してきなさい」


逆に挑発されると


「ふん!相手になるかどうかやってみないと分からないよ!」


怒りに任せ飛び出そうとした璃々に背後から


「待ちなさい璃々。この方の相手は私がするわ」


背後から聞き慣れた声がしたので、璃々は振り返ると背後に紫苑と一刀が来ていた。


因みにさっきまで一緒にいた星は本陣に戻り、本陣の兵を指揮していた。


すると紫苑の姿を見て、涼月は先程までの余裕を無くし、そして


「紫苑…否、黄忠!貴女、なぜ裏切ったの!」


憤怒の顔をして怒鳴るも、紫苑は予めこのことを言われるのを予測していたかのように


「さて…貴女は私を誰か知り合いの方と勘違いされていますわ。私も紫苑と呼ばれてはいますが、名前を北郷紫苑と申します。以後お見知り置きを…」


紫苑が澱みなく答えると涼月は紫苑の目を見ると、全く動揺している姿は無く、自分の事を初めて見るような顔をしていたので、涼月はようやくここに来て別人だと気付き


「すまない、北郷紫苑殿…。私の名は張任と申す。どうやら私は、貴女を私の友人と似た顔をしていたのでつい勘違いしていたみたいだ…」


涼月は間違いについて素直に謝罪した。


「いいえ、誰にも間違いはあります。気にしなくても宜しいですわ」


(「しかし今の張任さんの様子では、この世界の私がいることは間違いないわね…」)


紫苑は涼月からの謝罪を受け取ったが、紫苑はこれまでの遣り取りの中で、やはりこの世界の黄忠がいることを改めて確信したのであった。


「では張任さん、もうこの戦いの勝敗は間もなく決着が付きそうですので、できれば降伏していただきたいのですが…」


一刀が涼月に降伏の勧告をしたが、涼月は


「……それは出来ないわ。私は、劉璋様が配下。主の命を果たさずして、一合も交えることなく降ることは、武人としての誇りが許さない」


「そして亡き夫に会わす顔がないわ…」


涼月は、一刀たちに構えを向け戦闘態勢を取った。


それを見て紫苑が前に出て


「分かりました…。では貴女の相手、私が務めましょう」


「紫苑!」


「分かっていますわ…ご主人様」


(「ご主人様も気付いたように、ここで死ぬ気ね、彼女は…。その命を賭けて、主への忠義と亡き夫への愛を貫く覚悟で…」)


(「彼女は死ぬことにより、それが全て肯定されるということは決して許されるものではないわ」)


紫苑はそう考えながら構えを取った。


「北郷紫苑、参りますわ…」


「貴女の腕、本物かどうか見させてもらうわよ!」


2人は接近して、お互い鋭い一撃を放ちそして火花が散った。


そして涼月の刀による鋭い攻撃を紫苑は刀でこれを見事に捌いていた。


涼月は紫苑の見事な捌きを見て


(「彼女は接近戦では、恐らく(黄忠)紫苑より上だわ…」)


と思い、更に攻撃を続け、そして刃を合わせること、実に50合に達しようとしたが、お互い決着付かなかった。


すると焦りから段々、涼月の攻撃が荒くなり始めたところに、冷苞と劉潰の軍勢を打ち破った翠と蒲公英の兵が葭萌関に向っているのが、涼月の目に入ってしまった。


涼月の動揺が太刀筋に表れたのを紫苑は見逃さなかった。これを機に紫苑が逆に攻勢に出ると涼月は受け身になり徐々に後退を始めた。


そして紫苑が


「これで終わりですわ」


静かにそう言うと、涼月の刀を弾き飛ばして、刀を涼月の目の前に突き付けていた。


そして涼月は刀を突き付けられると


「情けはいらないわ…。早くこの首取りなさいよ」


紫苑に早く介錯して貰おうとしたが、


「そうも行かないわよ。まず貴女も一軍の将ならまずは自軍の兵の事を考えなさい」


「はっ!……」


紫苑から指摘されると涼月は内心、武においても兵を思いやる心においても紫苑に負けたことを痛感したのであった。


涼月が捕えられたことにより、劉璋軍はなす術もなく瓦解して、残された兵は一刀たちに降伏、こうして葭萌関に北郷軍の旗が掲げられたのであった。



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