第40話
今回でようやく「TINAMI」に投稿していた分に追いつきました。
今後は通常の投稿になりますので、更新は遅くなります。
これからもこの駄作の応援よろしくお願いします。
一刀たちが各方面ですでに迎撃態勢を準備しているころ、各進攻軍もそれぞれ攻撃準備等に追われていた。
~漢中~
巴郡から出陣した桔梗たちは、同じく成都から出陣していた張任と合流を果たし、軍議が行われていた。
「物見の話では、陳倉に援軍1万がすでに入り、元々いた兵を含め1万5千程度だけど、でもその援軍の将が天の御遣いの第2夫人であたる北郷璃々が来たらしく、兵の士気はかなり高いらしいわ」
「だろうな」
「フン、そんなもの私が出陣したら余裕で崩してくれるわ」
やや慎重気味に考えている桔梗に対して、楽観的に考えている焔耶に夕霧が
「相変わらず馬鹿だね、アンタは。向こうがそんな簡単に城から出てくる訳がないでしょう、向こうは弓の名手と言われているんだよ。アンタがそんな考えでいたらアンタはどうでもいいけど、兵たちが城壁にたどり着く前に射殺されてしまうわ」
目上の夕霧から辛辣な言葉が言われると、さすがの焔耶も黙るしかなかった。
「夕霧、敵は散関(漢中側から見ると陳倉手前にある関)に出てくるかしら」
「涼月、多分出てくるわ、ただ向こうの兵が私たちの3分の1程度しかいないから、恐らく足止めくらいの兵は出せないと思うけど」
「ただし今回は桔梗と焔耶がいるから、貴女には先陣させないわよ…」
「……分かっているわよ」
夕霧の発言に、一時戸惑いを見せた涼月に桔梗が
「…忘れられないか?旦那のことが…」
「ええ。どんなことがあってもあの人のことは、一生忘れることが出来ないわ……。取り敢えず後のことは貴女たちに任せるわ」
涼月と呼ばれる女性は、そう言いながら部屋を出て行った。
この涼月と呼ばれる女性、今回の大将である名は張任と言い、劉璋軍の名将でもある。しかし2年前に愛する夫が賊の討伐中に流れ矢に当たり落命すると、涼月は、今までの堅実な用兵ぶりが一転し、自ら先陣を切り、まるで夫の後を追うかのような猛烈な戦いをするため、一部の兵士から「死神」と呼ばれるようになり、桔梗や夕霧はそのことを心配していたのである。
そして部屋を出て行く涼月を見て、桔梗が
「ワシの戦好きは、生きるために戦うものだが、あやつの戦い方は死に向かって行くことを目的に戦っておる。このままだと本当に命を落とすぞ!」
「だから私は散関では後方に回したけど、城攻めでは皆、それぞれに門を担当して貰うから、正直面倒は見られないわ」
「だったら、私たちの手で攻め落とすしかないですね桔梗様、夕霧様」
「焔耶その通りじゃ、それで夕霧、北郷軍の他の動きは分かるか?」
「取り敢えずは各地にそれぞれ兵を派遣して、防衛態勢を取っているわ、長安の兵は現在1万にも満たないから、ここを落とせば一気に長安を突けるわよ」
「では、ここにいる元々の守備兵5千ほど残し、我らはこのまま散関に出陣だな」
桔梗が発言するとあとの2人も頷くのであった。
~曹操軍~
現在、函谷関に向かって進軍中である曹操軍は、秋蘭を総大将にして、副将に凛、華琳の従姉妹に当たる曹仁、曹洪を引きつれ出陣していた。
今回は華琳自身の出陣も考えられたが、徐州の劉備軍が軍を起こす動きがあると情報が入り、万が一向背を突かれる可能性も考えられたので、代わりに秋蘭を総大将として出陣したのである。
「稟、函谷関に来る将は分かるか?」
「確か北郷殿の第一夫人の北郷紫苑が来るみたいです。かなりの強敵です」
「ああ、あの人か…、確かに強敵だな。実は姉者の目を射たのも、あの人だからな」
「え…春蘭殿の目を射られた話は聞いていましたが、その方ですか…これは油断出来ませんね。経験不足の明華様(めいか、曹仁の真名)と陽華様(ようか、曹洪の真名)にはよく言い聞かせておきます」
「頼む、今回は兵士たちに経験を積ませるつもりであったが、将があの人ではかなり手強い、皆にはよく言い聞かせておいてくれ」
秋蘭が凛に指示すると、指示された兵士たちにも緊張感が高まったのであった。
~陳倉~
すでに璃々は援軍を引き連れて入城しており、劉璋軍の迎撃に備え、陳倉と陳倉の防衛線である散関の防御態勢を整えていた。
そして璃々は、前線になる散関に兵5千を引き連れていた。
散関はすでに朱里の指示を受け先行した兵たちですでに陣地の構築を仕上がっていたので、璃々は数人の護衛兵と共にその案内を受けていたのだが、そこで案内している男性の将が急に
「これは指示と違っているではないか!ここを担当した責任者を呼んで来い!」
怒鳴っていたので、璃々がその将に
「どうしたのですか?」
「ええ、この場所が指示された方法と違っていたので、ここを担当していた責任者を呼んでくるように指示したのです」
将が説明すると璃々が、
「その指示書を見せていただきますか?」
「どうぞ」
指示書を受け取り確認すると、その指示内容と実際に行われている実物と比較すると実際には手間は掛かるが実物の方が優れていた。
そして兵が責任者と思われる赤い髪をしたショートカットの少女を連れてくると
「何で貴様は勝手なことをしたんだ!」
「え~、こっちの方が手間は掛かるけど、頑丈でいいじゃない」
「何~!」
将が少女に注意しようとするとその少女が反抗的な態度を取ったことで、場が険悪な雰囲気になりそうだったので、璃々が間に入り
「ちょっと待って下さい、ここは私が注意しておきますので、貴男は私の代わりに他の場所の巡視をお願いできますか」
璃々が注意する将の立場も考えて、そう指示すると将も納得して璃々の指示に従った。
そして注意された少女は、璃々のことを少し階級が高い人くらいしか思わずに気軽に
「ありがとう。でもあの人考え方が固いよ、もう少し融通きかせればいいのね」
「まあいいや、説教を食らうのも嫌だったし。それで僕の名前は姜維って言うけど。あなたの名前は?」
璃々は、その名前を聞いて内心驚いたが、その動揺を隠して
「私?私の名前は北郷璃々だよ」
自分の名前を名乗ると姜維という少女は慌てて
「……ええ~~!そ…総大将にな…何て口の聞き方を失礼しました!」
「いいよ、急に喋り方を変えなくても普段の喋り方で話しようよ。それと北郷とかで呼ばれるとご主人様やお姉様も同じ姓でややこしくなるので、私のことを璃々と呼んでね」
璃々が一刀エキスを引き継いだような笑顔を向けると姜維と呼ばれる少女は、見事に心を打ち抜かれてしまい、顔を赤くしながら
「は…はい璃々お姉様!」
いきなりそう呼ばれると流石の璃々も頭の中が?になり
「ち…ちょっと待ってよ、何でお姉様なの?」
「え?私、実は璃々お姉様の噂を聞いていて憧れていたのです。璃々お姉様が普段から旦那様やお姉様から愛され、それを尽くす話を聞いて、ぜひ私も璃々お姉様みたいになりたい、そしてお姉様の妹みたいになりたいと…」
それを聞いた璃々は、頭痛がしたみたいに手で頭を押さえてしまっていた。
そして姜維がキラキラ目を光らせながら、璃々を見つめていたので、璃々はこの手のタイプには何を言っても聞いてくれないと諦め、ため息をつきながら
「ハァ…好きに呼んでいいよ」
「ありがとうございます!璃々お姉様!改めて自己紹介します。僕の名は姜維、字は伯約、真名は菫と言います」
「いきなり私に真名を預けていいの?」
「はい!喜んでお預けします」
2人がようやく落ち着くと、璃々が少し態度を改め
「では一つ聞くけど、今回の件について、指示が出ていたはずだけど、なぜ勝手に変更したの?」
「確かに指示通りにしなかったのは申し訳ありません。しかしこの指示では簡単に作り上げることは可能だけど、少し崩れやすいと思い、例え僅かでも時間を稼ぐためには、こうしたことに手間を惜しんではいないと思って、勝手に変えてしてしまいました…」
菫の説明を聞くと璃々は
「確かに上の人に変更の指示を仰がなかったことは駄目だけど、決して手を抜いたわけでもないよね」
「それに菫がしたことは、決して指示を仰がなかったこと以外は間違っているわけでもない、寧ろいい方に考えてくれていた。では私から一つ聞きたいのだけど、今回の戦い、私たちはどう守ればいい?」
璃々は菫の話を聞いて頭が回る人物であると分かっていた、だから単刀直入に菫に質問をぶつけてみた。今回の戦いは持久戦となり、少なくとも碧か霞のどちらかが敵軍を撃破しないと他に援軍がなく、敵はこちらの3倍以上で最低1月はこの状況を耐えないといけない状態であることを説明すると菫は真剣な顔になり
「まずこの関自体は小さくて守りやすいけど、さすがにここで長期間食い止めることは無理、だからここは10日~15日くらい守れればいいかな」
「手始めにまずは30名の部隊を20組作るよ。この部隊は行軍中の敵軍にある程度接近、そして近くで奇襲と思わせる鐘を鳴らしたりや弓など一、二射を撃って貰い、それを何度もしながら、まずは敵の行軍を遅らせるのと同時に敵の士気低下が狙い」
「敵の将である張任や厳顔、魏延は優秀だけど、但し兵については戦の経験が少ないから戦慣れしていない。だからまずはこうした行為で兵の不安感等を煽るようにする」
「そして関での守りだけど、璃々お姉様やお姉様が引き連れてきた弓騎兵の方に最初に敵の弓兵を確実に仕留めていただきたいのです。普通の弓兵なら無理だけど、璃々お姉様や弓騎兵の方の実力なら問題ないと思う。恐らく弓兵に損害が出るとその防衛のために一部の兵を割くと思うから、これで多少なりとも敵の攻め入る力を減らせられると。」
「そして陳倉を守備している一部の兵の方には、この散関と陳倉の間にできるだけ、荷車が通行しにくいように溝を幾つも作っておくように指示」
「敵は5万の大軍だから、食糧の輸送も荷車を使用しない絶対に大量輸送は不可能でしょう、それを遅れることにより行軍も遅らせることにもなると」
「普通に関や城によって敵を足止めするだけでなく、こうしたやり方で行軍を遅らせたらどうかな?」
菫の出した答えは、徹底した足止め工作であった。こうした徹底した考えは璃々には無く、そして今回の戦いで信頼できる副官や軍師もいない状態で不安であった璃々には菫が一筋の光明に見えた。
そして璃々は菫に
「菫、あなたに今回の戦いの副官兼軍師を命じるからね。これは命令だから拒否権はなしよ」
「えっ!?いいの僕何かが、そんな役について…」
「いいよ、あなたが私に信頼して真名を預けてくれたように私もあなたを信頼するわ。だから私たちと一緒に戦いましょう」
璃々からそう言われると菫も心を打たれ
「分かりました璃々お姉様、絶対この戦い勝ちましょう!」
こうして新たな見習い軍師を加え、璃々たちは劉璋軍を待ち受けるのであった…。