第4話
武威城の一室~
机の上に両肘を置き、両手を組んで、自分の顎をおいている女性が、
「はぁ~」
大きなため息をついていた。
そして横で仕事をしている女性が
「そんな大きなため息などつかれて、どうされましたか?碧様」
「ああ渚か…、いやあのバカ娘のことを考えていたんだよ…」
碧という女性がそう言うと心当たりがあったのか渚が「…申し訳ありません、姫をあのように育ててしまって…」
「いいや、あんたのせいではないよ、元々男に負けないよう強く育ててくれと言ってきた私が悪いんだが、まさかあそこまでなるとはな…」
そう言いながら嘆いていた。
碧と呼ばれた茶色のロングの髪をした女性は、西涼の太守である馬騰と言い、勿論翠の母親でもある。渚と呼ばれていた赤色セミロングの髪をした女性は馬騰の家臣で龐徳と呼ばれ、翠の教育係であった。
実はこの2人、翠の結婚相手について悩んでいた。
以前から、翠には家のために早く結婚するように言ってきたが、翠が
「私より強い者でないと結婚しない」
豪語していたため、母親である馬騰は翠のために強い男性を探してはきたのだが、翠が一騎打ちをしてことごとく相手をぶちのめしたため、最近ではこの周りでは翠に似合う男性が居ないようになり、相手に翠の名前を出すとすぐに会うことを拒否するようになってしまっていた。
碧はこんな状況であったので
「もし翠を押さえことができる強い男がいたら、この西涼を任せてもいいかもね…」
碧がぼやいていると、馬休が部屋に入って来て、
「母上、只今、戻りましたが、現在こちらに天の御遣いの家族を姉貴と一緒に連れてきています」
いきなりそう報告すると碧と渚は驚き、そして馬休が一刀たちと出会った状況や話した内容について、碧らに語った。
それを聞いた碧は、
「もし休の言っていることが事実であったら、いろんな意味においても、我ら一族の命運を掛ける時かもしれないわ…」
2人にそう話すと、少し考え
「来たら謁見するので、2人は準備に取り掛かりなさい、そして休、翠に城へ入るのにあまり目立たないように入れと伝えておくれ」
碧は命を出すと2人はさっそく準備に取り掛かった。
そして部屋に残った碧は、
「もしかしたら、私らの救世主になってくれるかも…」
笑みを浮かべていた。
一刀たちは、夕方頃に城に到着すると周りにあまり気付かれないよう城内に案内された。
そして謁見の間に案内されると、女性の2人しか居らず、翠が主と思われる女性に
「お母様、只今戻った。そして天の御遣いと言われている人たちを連れてきたぜ」
翠が報告しているのを聞いていると、一刀と紫苑は、
(「「あれが馬騰か…」」)
2人はそう思っていた。歴史上でも前回でも馬騰は曹操に殺されており、前回は曹操の敵討ちするため、翠は一刀の仲間になった経緯がある。
そして馬騰と思われる女性が一刀に
「はじめまして御遣い様、私は西涼の太守の馬騰と言います」
と穏やかに挨拶をすると、
「丁寧な挨拶ありがとうございます、私は北郷一刀でこちらが妻の紫苑、その横が妻の妹の璃々です」
と紹介すると共に会釈した。
そして碧が一刀に
「さてに御遣い様とやら、ここにいる子供たちから話を伺いましたが、なぜこちらに来たのでしょうか…」
探るように一刀に聞くと一刀は
「正直、俺らにもなぜここに来たかは分かりません、そして今は何の力もありません。しかし、俺らがここに来たということは、何らかの天命があって、ここに来たということでしょう、恐らく今は、世が乱れ、民など苦しんでいることと思います、だったら俺らは、皆が普通に暮らし、普通な人生、普通な恋愛などができるような普通な世の中にするために戦うつもりです」
一刀が言うと
「理想は素晴らしいわ。しかし今、全く何もないあなたらに何ができるのかしら」
碧が挑発的な発言をするも一刀は
「確かに今の俺らにも何も力はないけど、しかし横にいる紫苑や璃々がいたら何も怖くない。3人で力を合わしたら、何とかなりますよ」
前回に比べたら、最初から紫苑や璃々がいて、そして今回はそれなりの知識や武も持っていることに自信もあったので、そんな笑顔で答えると2人は一刀の発言に
「「ご主人様…」」
一刀から信頼している発言をされると2人は照れてしまっていた。そしてそれを聞いていた碧は、このやり取りだけであるが、碧の地位に頼ったり、媚びたりするわけでもなく、そして天の御遣いという名称に対しても傲慢でもない、そんな自然体な一刀を見て碧は、一目惚れみたいな感じで
(ただ者ではないわ!これこそ私たちが待ち望んでいた人、何としてもここに留めておかなければ…、しかし正直独身だったらよかったのだが、でもこの計画は必ず実行して成功させるわよ)
何か胸に秘めている碧であった。
そして碧が
「もしできることなら、あなた方家族がここに私に仕えて欲しい…いや御遣い様を家臣するなど恐れおおいわ、政治等にも権限を与えるので、ぜひ我が国の客将になっていただけません?」
そう言うと逆に一刀はこの待遇に驚き
「なぜ初対面の人物にここまでの待遇をしてくれるのですか?そしてあなたの目的というか理想を教えて貰えますか?」
「私もこう見えて一国の主で、人の目もあるつもりよ、そしてあなたの理想と私の目的が合致したいうのが大きいわ」
「私はね、漢の征西将軍の地位を貰っているけど、昔、民のために思い反乱を起こしたこともあるわ、結果、当時の改革派に諭され、鋒を収め、一時期それでこの国も少し良くなったわ、しかし再びそれが悪い方向に流れてきている…、だから私は、まず民を守りたい、そして子供たちも守りたい…それが答えよ」
碧が答えると、一刀も少し考え
「分かりました、今の話を聞いて馬騰さんが悪い人ではないと分かりました。喜んで仕えさせて貰えます」
「いいえ、それは駄目よ。あくまでも私と同等の立場を取って貰わないと困るわ、御遣い様の価値を高めるために必要なの、だから対等の同盟者という形で、客将で権限も与え、そしてこの国のために力を貸して欲しいのよ」
そこまで言われ一刀も折れて
「分かりました、俺の知識等教えてこの国の発展に力を尽くしましょう。しかし御遣い様というのは堅苦しいので、せめて北郷か一刀で読んで貰えませんか?」
一刀が承諾すると碧は
「分かった。私は一刀さんと呼ばせて貰うわよ。そして皆に私の真名を預けるわ」
一刀は真名については確認する意味で
「真名とは?」
「真名というのはその人物の本質を現す真の名で、本人の許しがなければ決して呼んではならない大切な名のことですよ、一刀さん。では改めて紹介を私の姓は「馬」、名「騰」、字が「寿成」、真名「碧」(みどり)と言います」
碧が言うと一刀も
「私も改めて、姓「北郷」、名は「一刀」と言います。真名というものはないけど、この場合「一刀」が真名になるかな。よろしくお願いします、碧さん」
「妻の北郷紫苑と言います。私は「紫苑」が真名に当たります。ご主人様共々よろしくお願いします」
「・・妻の妹の北郷璃々です。「璃々」呼んでくれたらいいよ。よろしくお願いします。」
璃々が少し言いにくそうに言ったが、特に周りから気付かれることはなかった。
一刀たちの自己紹介が終わると碧が
「翠、あんたも自己紹介くらいしな!」
「分かった~よ、じゃあ改めて言うが、あたしの名は馬超。姓は「馬」、名は「超」、字は「孟起」、真名は「翠」だ、よろしく頼むぜ、一刀」
「私は馬超の弟の馬休です、よろしくお願いします一刀さん」
「同じく弟の馬鉄です、よろしくお願いします兄貴」
「従姉妹の馬岱で、真名は「蒲公英」だよ~、よろしくねお兄さん♪」
「碧様の家臣で、姓は「龐」、名は「徳」、字を「令明」、真名を「渚」と申します、よろしくお願いします一刀様」
それぞれ紹介し、こうして一刀らは馬一族と共に戦乱の世に立ち向かうことになった。
そして紹介のあと皆で食事をし、一刀らは、城の一室にそれぞれ部屋が与えられ、今、一刀の部屋には一刀と紫苑が休憩していた。
「なあ紫苑、俺の判断でここに世話になることにしたがこれでよかったかな…」
「あらご主人様、どうしたのですか?」
「ここに世話にならず、愛紗や鈴々を探すという手もあったかな…と思ってさ」
「でもここの世界に愛紗ちゃんや鈴々ちゃんが、ご主人様のことを覚えているとは限らないでしょう、だったら心機一転この世界で頑張りましょうよ、私や璃々もいるのですから」
「…そうだな、明日は明日の風が吹くか…、明日から頑張っていこうか、さあ今日は疲れたし寝ようか、紫苑って、何してるの服を脱いで?」
「え、ご主人様、せっかく若返ったのですから、味見をして欲しくて…せっかくご主人様も若返ったのですからね♪」
ベットで寝ている紫苑に誘いを受けると、一刀は抵抗できずに陥落した…。
こうして波乱の1日を終えたのである…。