第32話
前日にほとんどの部隊を撤退させた一刀たちは、現在虎牢関で残っている将は、一刀、紫苑、璃々、翠、星、蒲公英、朱里に霞であった。
そして、城壁で連合軍を待っていた朱里は一刀に
「ご主人様、最初の守備は普通で構いませんが、途中からわざと抵抗を緩めて貰ってもいいですか?」
朱里が提案すると横にいた翠と蒲公英が
「え?何でわざわざ緩める必要があるんだ?」
「そうだよ、そんな敵を片っ端からやっつけたらいいのに」
そう言っていると星と霞が
「翠に蒲公英、朱里が何も策がないのにそんなことは言わないだろ?」
「そうそう、少なくとも朱里はウチらより頭はいいから、最後まで話を聞こうや」
と言われると翠が
「そう言われるとまるで私らがまるで馬鹿な子みたいじゃないか……」
「ちょっと待ってお姉様、私まで馬鹿の仲間に入れないでよ」
翠と蒲公英が漫才をしそうになったので朱里は構わずに話を続け
「それで防御の手を少し緩めて、ある程度、敵の兵を引き寄せます、そしてまず城壁から敵軍の中にあれを投げれ入れます、その後に紫苑さんと璃々さんらに……を使っていただきます。その後に止めに城壁からと投石機を使って、第二段階の策を実行、それで敵が混乱している隙に撤退を開始しますので、特に紫苑さんや璃々さんに無茶な事をやって貰いますが、大丈夫ですか?」
朱里が紫苑と璃々に確認すると
「私は問題ないわよ」
「多分、大丈夫じゃないかな?」
2人が言うと、朱里も
「最初は失敗しても問題はないのですので、安心してやって下さい」
「まあ璃々にとっては、いい訓練になるから助かるわ」
紫苑も気楽な口調で返事をしていたが、璃々は
「うーんあれ、まだ難しいから…」
難しそうな顔をしていると一刀が璃々の頭を撫でながら
「璃々、お前なら大丈夫だから、自信持てよ」
璃々を励ますように言うと
「うん、分かったよ、ご主人様頑張るから見ててね」
一刀が璃々に声を掛けると表情に少し余裕ができ、それを見ていた紫苑が
「相変わらず、ご主人様はお優しいですね…」
「でも…その割には喜んでいるけど?」
「フフフ…、それは2人とも私の大事な者ですから…」
この時の紫苑は、2人を見守る母親の様な顔をしていたのであった。
そして翠が
「ご主人様、紫苑、そろそろ敵が来たぞ」
と声を掛けると一刀が
「ありがとう翠、それじゃ皆、総員戦闘態勢を取れ!」
こうして一刀が命令すると、最後の虎牢関の戦いが始まろうとしていた。
袁紹・袁術両軍はさすがに何度も関を攻めていたので、学習能力を身に付けてきたのか、楯を全面に出しながらじりじりと前に進んできた、それを見ていた蒲公英が
「楯を使うなんて、やっと袁紹たちにも学習能力というのが付いたのかな?」
「いやあれは袁紹や袁術が学習したというよりは顔良や張勲たちが知恵を絞ってやっているという感じだろな」
「それで朱里よ、このまましばらく敵を攻めさせていいんだな?」
星が確認すると、朱里が
「構いません、このまましばらくは好きに攻めさせて下さい、その間にこちらも準備しますので」
朱里は敵が予想通りの動きをしていたので、安心していた、そして袁紹軍は
「おっほほほ~~~敵は私たちに恐れをなして、抵抗が弱くなっていますわ、顔良さん、文醜さん、さっさと関を落としてきなさい」
「はい…(抵抗が弱くなっているって…罠かも、でも城壁に辿り着くには絶好の機会、勝負を掛けます)」
「あらほらさっさ~」
袁紹軍が動き出すと
「うーー、麗羽に負けていられないのじゃ、七乃、関を攻めるのだ」
「はいはいー、皆さん関に攻撃して下さいー」
袁紹軍に続き、横にいた袁術軍も総攻撃を仕掛けて来た。
その動きを見た朱里が
「では兵士さん、順番に箱を敵さんのいる間に投げて下さい」
朱里に言われると投石機に鉄箱を積み、そしてその箱を袁紹軍と袁術軍の兵の間に投げ込んだ。
その鉄箱は正方形で密封状態にされており、大きさは縦横2尺(1尺=約33,3センチ)厚さ5分
(1分=約0,33センチ)で作られ、その中には油と鉄菱と釘を入れていた。
そして鉄箱が投下されると、紫苑と璃々が予め準備されたいた鉄弓矢の先端に油を染み込ませた火矢を2人共放つとそれぞれ投下された鉄箱に見事に命中した。
そしてしばらくすると
「ドカーン!」
「バーン!」
爆音が轟くと同時に鉄箱に入っていた鉄菱や釘なども一緒に飛び散りると箱の周りにいた袁紹・袁術軍の兵士たちを薙ぎ倒していった。
そして鉄箱がどんどん投下され、あちらこちら爆発音が起こる度に敵は混乱していった。
因みにこの鉄箱の名を「爆散箱」と名付けていた。
更に爆散箱の投下が終わると、今度は城壁並びに投石機から木樽が投げ込まれた。
木樽が地面に叩きつけられると見事に割れて中か油が広がり、そして城壁からは更に油を直接敵兵に掛けられていた。
それを見ていた一刀は、悲しい表情しながら無言で火の付いた松明を取出すと、それに気付いた紫苑が
「ご主人様、辛いですか?」
紫苑が心配そうに来たので、一刀は
「…辛くないと言えば嘘になるが、ただ命令を下すだけの方が余計嫌だからな、命令した限りは、自らも実行しないとな」
一刀がそう言うと紫苑は微笑みながら
「やはりご主人様はご主人様ですね」
「でも私はそんなご主人様を大好きですわ、一生離しませんわよ」
「そうだよご主人様、ご主人様だけ苦しむことはないよ、ご主人様の苦しみは私たちと一緒に分かち合おうよ」
「私は何があってもご主人様に付いて行くからな」
「主、私も主が泣こうが嫌がろうが一生付いてまいりますぞ」
「ご主人様、私、ご主人様に誓ったあの言葉忘れていないからね」
「好きな人のためなら、私、何でも出来ますよ」
紫苑に続いて、璃々、翠、星、蒲公英、朱里が一刀を心配して想いを改めて語った。
それを聞いた一刀は勇気を奮い
「皆ありがとう、これより敵に対し火攻めを行う」
と言って一刀が松明を投下すると皆、一斉に松明や火矢を放つと袁紹・袁術の両軍は爆散箱の攻撃に火の海にも包まれしまい、両軍は6割の兵を損害を出してしまった。
一刀たちは、両軍の混乱を見届け、無事虎牢関を撤退することができたのであった。
~曹操軍~
本陣の陣幕内で読書をしていた華琳のところに慌てて姿で春蘭が入ってくると
「華琳様!大変です虎牢関を見て下さい」
戦においては驚くことが少ない春蘭が慌てているので華琳は春蘭と一緒に軍の先頭に来ると爆発音と関の下が火の海に広がっている風景を目にした。
関まで偵察に行っていた秋蘭が帰ってきて、関での戦いを華琳に報告すると、それを聞いた華琳が春蘭と秋蘭に
「2人には正直に言うわ、今回は何も知らずに私たちが関を攻撃をしていたら麗羽たちと同じような目にあったかもしれないわね……」
「でもこれでこそ、この戦乱を統一する楽しみが増えたわ、北郷一刀よこれからが本番よ!春蘭、秋蘭付いて来なさい!」
「「ハッ!」」
華琳は気を取り直し、2人を連れて自軍の本陣に戻って行った。
~孫策軍~
雪蓮と冥琳と祭が虎牢関の様子を見ていると、偵察に出ていた明命が戻り
「袁術軍は約半数以上の兵が損害を受け、袁術様の無事が確認されました」
そう報告すると、雪蓮が
「あ~残念、袁術ちゃん死ななかったの~」
「でも雪蓮よ、袁術軍もこれだけ被害を受けたのだ、私たちが動く時は楽になったと言うものだ」
「そうですぞ策殿、これから休まる暇はないですからな、しっかりとやっていただかないと」
「分かっているわよ、2人とも、まずは袁術を倒すためのお返ししないとね」
「ああ分かっているさ」
「それにはあと蓮華殿や穏、思春たちの力も必要ですぞ」
「そうね、あの子たちの力も必要になってくるわね……でも北郷一刀、あなたは私たち孫呉の味方になるか敵になるか、どちらにしても楽しみだわ……」
雪蓮は袁術から独立を考える一方、一刀についても興味津々になっていたのであった……。
~劉備軍~
袁紹・袁術両軍の混乱を見ていた雛里は
「桃香様、今すぐ虎牢関の占領の兵を出しても宜しいでしょうか?」
桃香に進言したが、一緒にいた愛紗が
「ちょっと待て雛里、まだ前線は混乱しているだろうし、まだ関に兵が居るかもしれないだろ?」
愛紗が待ったを掛けたが雛里は
「愛紗さん、その心配は不要です、今、関の城壁を見たら兵の姿はなく、そして城壁からも煙が見えます。あれは恐らく城壁に備え付けていた投石機を私たちの手に渡らないように燃やされたと思われますので、今、この機に乗じて、虎牢関を占拠すべきです」
雛里が力説すると桃香が雛里の言葉を信じ、迷うことなく
「じゃあ雛里ちゃんの作戦に乗って、愛紗ちゃんに凪ちゃん、危ないけど2人で虎牢関を占拠してきてくれるかな」
桃香からそう言われると愛紗も
「分かりました桃香様、では行ってきます」
「了解しました」
愛紗・凪の部隊は未だ混乱している袁紹・袁術軍を避けて、関に辿り着き、そしてどさくさ紛れて無人の虎牢関を占拠し、劉備軍が更なる飛躍する足掛かりを掴んだのであった。
撤退した一刀たちに追撃する部隊もなく、途中で恋たちと合流、そして函谷関で碧と合流した。
そして将を誰一人欠けるなく、長安近くまで帰還していると長安の城壁に「董」の旗がなびいているのを見て一刀は少し涙目になっていた。
それを見ていた紫苑が
「どうされましたご主人様?」
「…ああ、皆のおかげで月たちが今回は無事で良かったと思ってさと思ったら、思わず嬉しくて涙が出そうになってさ」
「これもご主人様が月ちゃんたちを助けようとしたから出来たことですよ、もっと胸を張って下さい、私の愛するご主人様」
「ありがとう紫苑、もっと紫苑に認めて貰えるよう頑張るよ」
「あらあら、私はもうご主人様の虜になっていますのに」
一刀たちはそう言いながら、軍勢は無事長安に到着し、反董卓連合との戦いもこれで幕を引いたのであった。